臨時暫定指揮官の決断
臨時暫定指揮官の決断
頭の中でバンソロ弾いて、冷たい方程式に挑んで出した答えを、タッヤの心が噛みしめる。
あまりにも残酷な答えに、タッヤの頭上で揺れている、臨時暫定指揮官を示す猫耳がくにゃんと曲がる。
できない……
私にはできない……
主砲操作桿を握るイチバチさんに、自民愚を撃ってくれと、私は言うことができない。
イービル・トゥルース号と私達の冒険を終わらせてでも、カルト・スターを破壊して一般知的生命体達を守ってくれと、臨時暫定指揮官として、私は決断することができない。
万がイチのもしかして、わずかな可能性だけど、本当にできるかもしれない大穴に、私達はすべてを賭けた。
たった一隻の宇宙戦艦でもって、異次元級の異様に巨大な宇宙移動要塞を制圧するという、嘘みたいだけど本当に実行する作戦。
博打は自分の生涯にしか賭けないと言う、通常の二倍以上に常軌を逸した男の賭けは、当たらないのだという事実が今確定したのだ。
私達とイービル・トゥルース号に残された道は、なんとか生きてこの戦争から撤退することしかない。
主砲を撃ったら、何もかもサヨウナラ。私達の死が確定してしまう。
だけど……
イービル・トゥルース号が撤退する選択肢の先には、まだ私達が生存する時間がわずかながら残されているのだから。
私達には生存の可能性が残される。でも……
この宙域を逃げ惑っている一般知的生命体は、ただの一体も残されることなく、間違いなく全員虐殺されるだろう……
この宙域に残された痕跡はすべて、synthetic streamに徹底的に揉みつぶされて、名簿の破棄までされてから、捏造改ざんによる歴史修正されて、synthetic streamはずっと美しいシステムでしたにされてしまう。
この宙域で死んだ、すさまじい数の知的生命体は、歴史から消されてしまうのだ……
大宇宙のクソの素、国賊売国虚言癖と呼ばれた、万回死んでも償い切れない罪を背負ったアベンシゾーが、この大宇宙の中心で毒ん毒んと脈打つ暗部の心臓として生存し続ける……
ぞっとするような現実を私達は突きつけられる。
「積極的平和主義者達が始めた平和行動を、消極的戦争主義者であるおまえ達は、終わらせることができなかった。我が平和に、無条件賛同せよ」
頭の中でビカビカ光る電痛TVの中で、アベンシゾーが両手を広げて宇宙を我が物にする意志を示しながら、ゲラゲラと笑っている。
大宇宙をひとつにしようと渦巻く不可解な潮流、synthetic streamは存続し、あらゆる知的生命体を畜生にして搾り上げた甘い汁を、アベンシゾーと不正の仲間達が宇宙の中心でチューチューし続ける……
このあまりにも邪悪な真実が、生涯、私達の心に突き刺さった鉄杭のように、いつまでもいつまでも残るだろう。
でも……
私達が生きのびる選択肢は、今現在、この戦争から撤退することしか残されていないのだ。
これが、いま私が選択できる最善であり、この選択肢をとることを、私は心の底から嫌悪する。
私達は、あまりにも多くの一般知的生命体の大事な生命を、アベンシゾーに差し出して、自分たちだけは生きることを選択して、この戦争からケツをまくってバックレるのだ。
許されざる罪だ。
あまりにも多くの生命を見殺しにして、私達だけはこれからも生きるよと、この宙域からサヨウナラするしかないのだ。
もう二度と、安らかに眠る夜は私に訪れない。
私達が見捨てることで虐殺された一般知的生命体が、なぜ私を見捨てたの? と毎夜夢に現れて、私に問うのだろう。
それでも……
臨時暫定指揮官である私は、最善の選択をすることでしか、自分の責任を果たすことができない。
ここまでタッヤ、イチ銀河標準ミリ秒の長考を終了。
結論を心がかみしめ、くちばしがギリギリときしむ。
それでもタッヤは、臨時暫定指揮官としての気持ちを心の中でふるいたたせ、クニャンとうなだれてしまった頭上の猫耳をピンと立ち上がらせる。
臨時暫定指揮官を示す猫耳付きヘッドセットマイクに、冷たい方程式を解いた結論をタッヤが話し出す。
こちらはイービル・トゥルース号。臨時暫定指揮官タッヤです。
最前線に出撃中の急襲突撃中枢破壊死隊に、臨時暫定指揮官である私から、話さなくてはならないことがあります。
今現在、私達が保有している武装をもって、自民愚及びカルト・スターを破壊することが可能ではあります。
ですが……、それはつまり……
私達もろともカルト・スターを大爆発させる。そういう結果となることが邪悪なまでの真実です。
異次元級に異様な巨大さを持つ宇宙移動要塞に凸して中枢を制圧し、大宇宙のクソの素アベンシゾーを殺処分。
大宇宙に渦巻くsynthetic streamの中心で毒ん毒んと脈打つ、暗部の心臓を心停止させることで、どいつもこいつも皆殺しを回避して、大宇宙は公衆衛生を大回復して大団円。
万がイチのもしかして級の大穴だけれども、実現できるかもしれないハッピーエンドの可能性に、私達はすべてを賭けました。
ですが、その賭けの結果はいま、残酷なまでに邪悪な結末となって出た。
最高執行責任者キャプテン・パンダーロックより全権限を貸与された、臨時暫定指揮官として急襲突撃中枢破壊死隊に命令します。
大至急イービル・トゥルース号に帰還してください。
繰り返します。大至急イービル・トゥルース号に帰還してください。
隊の帰還を確認後、イービル・トゥルース号は撤退を開始します。
前方より接近してくる超重機動兵器、自民愚に船が取りつかれたら、特殊聖壁格闘触手でガンギマリ絡めにされてしまいます。
ウヨウヨしている触手をあらゆる開口部に突っ込まれ、ネトネトに粘着質に絡みつかれたら……
我々がカルト・スターから脱出する可能性は、完全に尽きてしまいます……
そうなってしまう前に、イービル・トゥルース号は後退し、主砲でブチ開けたこの大穴から脱出し、この戦争から撤退をはかります。
ですが、それで私達が助かることが確定したわけではない。
超巨大異次元異様要塞カルト・スターは、小惑星規模の宇宙移動要塞であり、あまりにも多くの砲を搭載している。
イービル・トゥルース号はカルト・スターの斉射限界点の内側にとどまり、ありったけの砲をブッ放して、ひとつでも多くカルト・スターの砲を破壊しつつ、この宙域から脱出する機会を狙うことになります……
私達にはもうできることはないのだから、一般知的生命体はこの宙域にきてしまった自己責任でもって、全員死ね。
そういうことを、私は一言も言っていません。
私達は、やれる限りのことをやります。
カルト・スターの砲を、イービル・トゥルース号は可能な限り破壊する。
それでも……
一般知的生命体の乗る船を、たったの一隻すら、助けることすらできないのかもしれません……
synthetic streamお得意の、大事な生命を揉み潰し、捏造改ざん名簿破棄まで行う、美しいシステムを取り戻す歴史修正ウォッシュから、ただの一隻すら逃れさせることができないかもしれない……
ですが、私達の命運についても同様です……
この大穴から脱出できたら、このドンパチからサヨウナラでは済みません……
なんとかして、異次元級に異様なこの要塞から逃れるすべを、これから探らないといけない……
そのためには、一刻も早く、この大穴から脱出する必要があります。
急襲突撃中枢破壊死隊に、臨時暫定指揮官が命じます。
撤退は苦渋の決断であり、このような選択を選ばざるを得なかったことを、私は心の底から憎みます……
ですが、これがいま、私達にできる最善の……




