特級残虐行為が君を待つ
特級残虐行為が君を待つ
血とクソと臓器の混合物を放り投げ、マスクをこすってぬぐってようやくみえたのは……
狂ったように青い鬼が振り回している、メタルの塊みたいに巨大な対物チェーンソー!
回転する無数の刃がギラギラ光り、チェーンソーを濡らす大量の血液が血煙となって立ちのぼり、邪悪な赤いオーラをまとったようにみえる。
しかも、回転する刃はご丁寧にもヒートブレードをONにしていない……
金属さえ溶解させるヒートブレードだったなら……、全身を焼かれて一瞬で燃え尽き、苦しみを感じる時間も少なく済んで、すみやかに死ねたかもしれないのに……
対物チェーンソーで生きたまま引き裂かれるなんて、不必要な痛みを徹底的に知的生命体に与えつつ、簡単には死ねないようにする特級残虐行為仕様じゃないか!
殺戮の雄叫びがごとき駆動音をあげ、血煙まとった巨大な対物チェーンソーが、僕様に告げる。
もう許してくださいと懇願しても、泣きわめきながら逝かせてくださいと頼んでも、じっくりじらして優しくたっぷり殺してあげるから、地獄の苦悶を嫌でもゆっくりしていってね。
つまりこれは、残・虐・行・為・デ・お・も・て・な・死……
僕様の中枢神経細胞に直接届いた、特級残業行為仕様の対物チェーンソーからのメッセージに、全身がブルブルと震えだす!
嘘だ! 嘘だ!! 嘘だ!!!
こっちは安価軽量がご自慢の高分子連鎖素材のピーステクト・ギアさえ支給されていない、みためだけは勇ましくてカッコいい愛国平隊アベンジャーズの平隊服姿なんだ!
平和力装備だって、9mm 平和拳筒すら持たされないで出てきてるんだぞッ!
平和力は自己責任で現場調達だなんて言ったって、まともに使える平和装備なんてどこにも転がっちゃいない!
さっき拾った突撃平和杖だって、こびりついた血糊でガビガビで、使い物になるかすら怪しいんだ!
こんなのが戦争だなんて、僕様はなにひとつ聞いていない!
戦争するにしたって、こんな残虐な殺し方、まったくもって必要ない!
重機関砲じゃなくてもいいんですよ! せめて機関銃で撃ってくれれば、僕様は苦しまないでハイ終わり! そうやって、Space Synthesis Systemが推奨する安楽死ができるのに!
なぜ! 巨大な対物チェーンソーを知的生命体にふるい、肉体がいちじるしく損壊される苦しみを、じっくりと味わわせるような残虐行為をするんだ?!
なぜ! メタルネイル付きの履帯で、知的生命体を生きたまま轢き潰し、バラバラ遺体にしていく必要があるんだ?!
なぜ! ドクロの紋章がついた厨二病的な巨大な盾の先端にあるデッカいペンチで、生きたまま知的生命体を潰す必要があるんだ?!
なぜ! 盾の先端のペンチで潰して砕いて滅茶苦茶になった半殺しの権畜を振り回し、臓器と流血を周囲にまきちらす必要があるんだ!?
なぜ! 盾に刻まれた紋章に過ぎないはずのドクロがゲラゲラと笑うギミックなんか必要なんだ?!
そんなこと、なにひとつする必要ないじゃないか!
戦争主義者なら、もっと現実的なことを考えろ!
高性能の兵器でもって痛みのひとつも感じさせずに、きれいさっぱり僕様を殺して楽にするのが、戦争主義者ってものだろうが!
パンッ! と撃たれて、苦しむ間もなくハイ終わり! それが頭のいい現実主義者の考える戦争ってものだろうがぁぁぁぁぁ!
どんなに心の中で叫んでも、現実は邪悪なまでに残酷だ。
残虐行為が吹き荒れる嵐となって暴れ狂う青い鬼が、僕様の目の前に迫ってくる。
蛮族のモヒカンみたいに頭部に逆立つブレードアンテナ。もとは青い機体だったのに、浴び続けた赤い体液でまだらの紫色になっている巨体。そして、機体のあちこちにこびりついている、かつては同僚だった権畜たちから引きずり出された臓器の断片。
巨大な盾をうごかすたびに、巨大な対物チェーンソーをふるたびに、付着していた体液と臓器の残骸が横殴りの血の雨となって、僕様に降り注ぐ。
永遠に治ることのない厨二病丸出しの、絶叫するドクロが刻まれた巨大な盾。盾の先でグィングィン動いてグッチャグチャに潰して、いちじるしく損壊した半殺し状態の権畜を放り投げていく巨大なペンチ。そして、右手に持つのは、生きたまま知的生命体を赤いジュースと肉片骨片に変えていく、巨大な対物チェーンソー。
「積極的に平和を作り出すのだと! てめえらがはじめた戦争の現実を、おナマでおナカのオクまで突っ込まれ、死に果てるまで味わいつくせぇぇぇ!」
常時オープンが義務付けられている公開通信チャンネルに、ガンガン響くイカれきった暴力男の大音声!
あああ……、モー、無理……
積極的平和活動なんて、美しい言葉の響きと全然違う。こんなのはただの地獄だ。
ゆっくりじっくりたっぷり行われる残虐行為の犠牲者となって、ただひたすらに苦しんで、そのあげく無駄に犬死にするだけの、無意味に無惨で残酷な狂気行動でしかない。
もう後戻りできない現実までたどりついてしまったこの瞬間に、高偏差値で高学歴という高い高い知性を持った僕様は気づいてしまう。
積極的平和主義がたどりついたのは、冷血きわまるマジモンのイカれ野郎が暴れまわる残虐行為という、最前線に立ちはだかる死の壁なのだと……
でも、そんなことを今この段階で気がついたって、もう遅い。
僕様の背後には、痛みを感じることなく死ぬ前提で大行進してくる大隊が続いているんだ。
押される! 押される! 僕様が足を止めても、背後から押し寄せる大群衆にガンガン押されて押し出される!
圧倒的多数に押され流され、地獄にたどり着くしか僕様に道はない!
全身に血みどろあびた残虐王が発狂モードで暴れまわり、血煙あげる殺戮の炉心にむかって、僕様はどんどん近づいていく。
横薙ぎの巨大対物チェーンソーに捕らえられ、10列ほど前の権畜達が肉片と骨片とぶちまかれた臓器の残骸となって散り、赤いジュースを撒き散らす。
次のひと振りでは、9列前の権畜が肉片と骨片に赤いジュースと引きずり出された臓器へと変わる。
つまりは、あと八回、青い鬼の残虐王が巨大対物チェーンソーを振るえば、僕様もただの肉片と骨片になって、いちじるしく損壊した臓器から赤いジュースをドバドバとしぼりだされることになる。
だけど、かなりの高確率で楽には死ねないことを、高偏差値で高学歴という高い高い知能を持つ僕様は、もうわからされている。
通信機に響き続ける、肉体をいちじるしく損壊した状態で死ねずにいる、権畜達が悶絶する悲鳴が、僕様をこれでもかとわからせてしまっている。
僕様は簡単には死ねない。
不必要な苦痛などを与えることなく、知的生命体をすみやかに殺害するように、対物チェーンソーは設計されていない。
巨大な対物チェーンソーの回転する刃に捕らえられた瞬間、僕様の肉体は引き裂かれる。そのまま最後までキレイに殺してくれればいいのに、対物チェーンソーの回転刃に肉体が触れた直後に、遠心力でもって僕様は宙に放り出されるだろう。
腹を裂かれた状態で内臓をブチまけながら宙をくるくるとまわっている自分の姿が、はっきりと僕様にはみえる。あるいは上半身と下半身に分断されているのに、すぐに死ぬことはできない状態で、死の回廊にぶちまかれているドログチャ臓器をかきあつめている僕様の姿が……
僕様をこれから待っているのは、飛び出た自分の臓器をみながら、大量失血による死がやってくるまで、徹底的に苦痛を味わうことになる長い長い時間……。こういう時に、知的生命体が死ぬ時に約束されている、スーパースローの死亡確定演出があまりにも不必要で残酷な、神が与えた理不尽なお約束に思えてくる……
9割がた殺された状態で、それでもまだ死ぬことはできない僕様は……
いったいどんな痛みをどれだけ感じることになるのだろう?
死という記念すべき初体験に向かう僕様は、暴力によってお腹の奥まで引き裂かれる時にやってくる激痛のことを思って、心の底から恐怖する。
これから滅茶苦茶にかきまわされて引きずり出される、腹の中身がグルグル鳴って、ガクガクと膝が震える。僕様は恐怖に気が遠くなって、このまま倒れてしまうはずなのに、圧倒的多数を作り出す集団の中にいる僕様は、周囲の存在に支えられてしまって倒れることはすらできやしない……
僕様は後悔していた。
積極的平和主義という美しい言葉に流されるまま、やってきてしまったマジモンの戦場に。
積極的に平和力を行使する現場には、勇ましく誇り高いなんてことはなく、ただひたすらに無意味な苦痛と無駄に無惨な殺戮だけがあることを、先生も学校も社会もシステムも、何ひとつ教えてはくれなかった。
そして、僕様もそんなことはただの一度も考えたことがなかったのだ……
遥か彼方の昔、この大宇宙を吹き荒れたという大宇宙戦争という歴史に、僕様はただの一度も興味なんてもったことはない……
もしも、大宇宙戦争時代の兵士が書いた、手記のひとつでも読んでいたなら……
本当の戦争がどんなものか、戦場にやってくる前に僕様は知ることができたのかもしれない……
戦争がこんな恐ろしいものだと知っていたら、僕様は積極的平和主義者になんかならなかったかもしれない……
後悔してもしきれない。でも、ここまできてしまったら、いまさらもうどうしようもない。
あとほんのちょっとで、モームリなこのシステムから僕様は消えるのだ。
死亡確定演出による超絶スローの中で、自分の腹から引きずり出された臓器をみつめながら、文字通り死ぬほどの苦痛をじっくりたっぷりゆっくりと味わう地獄の時間を、これから僕様は無理やり初体験させられる……
すさまじい暴力をおナマでおナカのオクまで突っ込まれてかきまわされて、僕様の大事な臓器をドッログッチャの滅茶苦茶にされてしまうのだ……




