野蛮人の宙域で野蛮な行為を
野蛮人の宙域で野蛮な行為を
「モッキンバード星領宙域から脱出します」
ミーマが告げる、まだ誰のものでもない野蛮人の宙域への突入。
「サディ。野蛮人の時間だぜ」
左隣りにいるサディの、真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳をみつめて、アークがニヤリと笑う。
「こっちは準備万端だよッ!」
サディが武器管制操作盤にかじりつき、リボルバーカノンを模した主砲操作桿を握って笑う。
アークがヘッドセットマイクのスイッチをいれる。
「機関長、コタヌーン殿。メインエンジン出力を一気に落としてくれ!」
「あー、あれですか、あれやりますかぁ。了解ですわ」
コタヌーンがすべて承知でございます。という雰囲気でアークに答える。
「ちょっとちょっとちょっと、この船の財布が空っぽにならない程度にしてくださいよぉ〜」
タッヤが青い顔をして言う。
「モクロミショト、リョウシュウショヲダシヤガレッ!」
ロボット乗組員イクトの、ロボットらしくない発言が、いかにもロボットな声で艦橋に響く。
「SSS戦艦、モッキンバード星領宙域離脱します」
イービル・トゥルース号を示すレーダー盤の中心点が、まだ誰のものでもない野蛮人の宙域に突入したことをAXEが告げる。
「クソがぁぁ……」
ネガは操縦桿を握りしめ、これからやるいつものヤツに歯ぎしりする。
「所属不明の宇宙戦艦二番艦ッ! 主砲塔が旋回を開始ッ!」
SSS主力森羅万象宇宙戦艦アベンシゾー級弐番艦、ガース・ヒーデの純白と鮮烈な赤二色に彩られる、ドブラックな壺鉤十字の戦闘指揮所に緊張が走る。
「追い詰められたポンコツ艦の最後のあがきかッ! 本艦の鉄壁の防御力の前にはいかなる攻撃も届かぬよッ!」
司令艦長のヘル・オトス親衛隊大将が笑う。
「主砲塔4基のうち2基がそれぞれ反対の方角に向かって旋回を停止……。残された2基は旋回すらせず逃走方向のま正面を向いたまま。どの砲も本艦を狙っていません……」
同志キシダイスキー3346の報告に、オトスの脳内がハテナマークでいっぱいになる。
???主砲がこちらを狙わない???
???2基は旋回すらせず、他の2基がそれぞれ反対の方角に向かってる???
純白と鮮烈な赤二色の戦闘指揮所になんだそれ? という空気が流れた瞬間ッ!
モッキンバード星の領宙域を離れた、暗い宇宙に閃光が走るッ!
「敵艦発砲ッ!!」
???なんだそれ???
当然、ガース・ヒーデに向かってくるものはなにもない。
何事も起きないガース・ヒーデ戦闘指揮所のメインモニタには、閃光が消えたあとに宇宙に広がる巨大な爆煙だけが映る。
「え? これ、暴発? 自爆?」
同志スガガスキー2378が呆然と言う。
「レーダーには……敵艦いまだとらえていますし、レーダーで観る限り、敵艦に損害はみられません」
同志アベガスキー1113の報告。
ということは? 少なくとも主砲の暴発や自爆ではない?
戦闘指揮所の全員が口をぽかーんとあけて、モニターの中を漂うすさまじい爆煙を見つめる。
「まさか……実体弾……?」
と、同志アベガスキー6675
暴発でも自爆でもないとするのなら、宇宙空間に広がる爆煙は、発砲されたものが爆薬によって打ち出される物理的な弾頭であることを意味する。
「宇宙空間で実体弾……」
同志スガガスキー2235
「しかも、明後日の方向に……」
同志キシダイスキー1167
「あは……あは……あははははは!」
純白と鮮烈な赤二色で彩られる、ドブラックな壺鉤十字の戦闘指揮所に大爆笑が満ちる。
「実体弾……。この極大威力のビーム兵器が当たり前の時代に……」
同志アベガスキー5673
「科学考証激アマの……、ドレトロな未来感が漂うドポンコツデザインだとは思っていたが……」
同志スガガスキー6773
「本当に本物のポンコツ宇宙戦艦だったとは!」
同志キシダイスキー7634
ガース・ヒーデの戦闘指揮所に嘲笑が満ちる。
ゲラゲラ笑う者達の前で、メインモニターの薄れていく爆煙の中から、禍々しいドクロが現れる。真っ黒くぽっかりとあいたふたつの眼が、SSS主力森羅万象宇宙戦艦アベンシゾー級弐番艦ガース・ヒーデを、艦首からじっと見つめていた。




