頭がお花畑の左翼暴力革命テロリストにブッ殺されて転生したら、後は何もかもが無双だった件
頭がお花畑の左翼暴力革命テロリストにブッ殺されて転生したら、後は何もかもが無双だった件
ピース・ブーツの音高く進む僕の両足が、まるで自分の足じゃないみたいに自動駆動で前へと進む。
総員右向け右で前にならって雁首並べ、集団の和を乱さないように、僕は死へと進んで行く。
このさきに立ちはだかる絶体絶命の死に、これから僕はGO TO しないといけない。
真っ黒い高分子連鎖装甲に身を包んだ積極的平和活動推進部隊(せっきょくてきへいわかつどうすいしんぶたい)、ディスポーザブル・エクスペンタブルズ23番隊が、総員右向け右で前にならって雁首並べてうなだれて、エアロックにむかってデスマーチしている待機場に、怒声が満ちる。
「貴様ァァァッ! 積極的平和行動を拒否するとは! 平和に挑戦する左翼暴力革命、セカンド・政権交代を目論む、危険思想の持ち主だなぁ?!」
メッキ仕様の金ピカピーステクト・ギアに身を包んだ指揮官様の怒鳴り声が、待機場を満たす平和感のかけらもない循環空気をガンガンに震わせる。
次に待機場の循環空気を震わせたのは、平和杖が平和力を発射するかわいた音だった。
ピーステクト・ギアを引き剥がされて、頭部に平和力を叩き込まれて平定されて、もう戦争をできなくなった体が引きずられて片付けられていく。
「私は積極的平和貢献を否定した戦争主義者で、つまりは非システム民です」
自らの血で書かれた看板を首からぶら下げられて、待機場の天井から吊るされてぶらぶらと揺れている、積極的平和行動拒否者の亡骸。
積極的平和行動拒否者はこうなるのだという、みせしめ。
「積極的平和行動への不参加という、集団の和を乱す戦争主義者を平定したぞッ!」
メッキ仕様の金ピカピーステクト・ギアに身を包んだ指揮官様が、赤黒く光るレーザー・ジャポン刀を高く突き上げてわめきだす。
 
ナンバーズ・コロイシバスキー9870は、積極的平和行動を拒否したことで、積極的平和主義に挑戦する戦争主義者であることを表明した!
Space Synthesis Systemは、平和への挑戦者をどこまでも絶対に許さないッ!
コロイシバスキー9870は、家族構成、親類縁者、恋人友人同僚、学生時代の教師同級生までもが、戦争主義者である可能性が考えられる!
ただちに公厳警察に徹底思想調査を実行させるのだ!
親類縁者と性的接触者及び交友関係その他もろもろすべてに思想調査を実行!
首都平定治安維持特別高等警察隊(しゅとへいていちあんいじとくべつこうとうけいさつ)に検挙させ、積極的平和主義思想を叩き込めッ!
ガンガンがなる指揮官様の怒声が、ナティーヌ・ドイシダー式デザインのシュタールヘルムの中にわんわん響く。
積極的平和行動からの逃亡は、即時戦争主義者判定で裁判なしの平和力行使刑。
家族親類縁者、恋人はおろか交友関係、同僚同級生までもが思想調査され、そのほとんどが捜査対象になった時点で、社会的に殺される。
……ああ、いまここから逃げ出したら、ああなるんだ。
僕が逃げ出すという選択肢が、銀河臣民の身をけずってつくられた粉みたいになって、同調圧力という風に吹き飛ばされて消えていく。
目の前に迫った積極的平和貢献活動から、僕は絶対に逃げ出せない。
「第23番隊! エアロックに進めぇぇぇぇ!」
ついに、僕の隊がエアロックに入れと命令される時がきた。
積極的平和行動を拒否すれば、僕は生物学的にBANされて、身内親類縁者交友関係含(みうちしんるいえんじゃこうゆうかんけいふく)めて社会的に全員BAN!
何もかもを人質にとられている僕には、積極的平和行動を拒否する道なんてひとつもない。
その冷たい恐怖に背中を押されて、全身を高分子連鎖装甲で包んだ黒い隊列が、ピース・ブーツの音高く前へと進み、地獄へと続くエアロックの中に入っていく。
僕の履くピース・ブーツのカカトが鳴る音が、破滅へのカウントダウンを刻んでる。
エアロック第一隔壁通過。サヨウナラ、もう二度とは戻れない、戦場ではない場所。
背後でしまる隔壁の音を聞きながら、僕はどうしてこんなところにきてしまったのか考える。
モッキンバードタウンで過ごした日々が、二度とは戻れない過去になり、地獄の最前線に立つ今現在に至った理由を考える。
僕は量産型のかわいい彼女と、政治のことなんてなにひとつ考えず、モッキンバードタウンでただ普通に暮らしているだけだったのに……
何も悪いことをしていない僕が、積極的平和主義に流されるままにたどりついたのは、目の前にある本物の地獄との間にあるたった一枚の耐圧扉。
この先に待っているのは、恐ろしい戦争主義者である左翼暴力革命テロリストが、好き放題に暴力をふるいまくる戦場なんだ……
小惑星級に巨大な宇宙移動要塞は、圧倒的な抑止力を持っているはずなんだ。
境界知能で頭がお花畑の左翼暴力革命テロリストどもは、そういう抑止力の存在がわからないのだろうか?
一般的な知能があったら、圧倒的な抑止力におびえてすくんで、無条件に平和賛同するんじゃないのか?
境界知能というのは、そういう思考ができない、救いようのないバカなのだろうか?
だから、超自民要塞フミア・ザヤカに突入するなんて、戦争主義者が大好きな蛮行が実行できるのだろうか?
超自民要塞フミア・ザヤカに突入して、セントラル・ドツボへの暴力挿入。セカンド・政権交代を目論む左翼暴力革命テロリストは、いったいどれだけの武力を持っているのだろう?
もしかしたら……
巨大な宇宙移動要塞、フミア・ザヤカを圧倒する武力を持っているから、突撃してきたのだろうか?
様々な思考がぐるぐるまわる。
でも、いま一番大事なことは……
22番隊は、いったいどれくらい持ちこたえられるのだろう?
僕がいる23番隊は、いったいどれぐらい持ちこたえられるのだろう?
僕がいる隊が全滅するということは、僕がこの宇宙からサヨウナラすることを意味する。
僕がいなくなっても宇宙は続く。
僕がいる23番隊が全滅したら、次は24番隊が積極的平和行動を開始して、24番隊が全滅したら25番隊が積極的平和行動を開始する……
永遠に続く積極的平和行動の先に、いったいなにが待っているのだろう?
大自民統一教会党が喧伝する、大宇宙をたったひとつにまとめた大平和共栄圏が、本当に誕生するのだろうか?
大平和共栄圏が誕生したその日には、安い国神社に祀られた僕は、平和神としてあがめてまつられるのだろうか?
僕がいなくなった後の宇宙なんかより、今現在のことのほうが大事だ。
赤黒く光るレーザー・ジャポン刀を振り回し、イケイケどんどんと言っている指揮官様。
積極的平和行動開始命令をくだす指揮官様は、メッキ仕様の金ピカピーステクト・ギアに身を包んで、最高に安全な最後尾に陣取って、俺も後から行くんだと言っている。
お前たちだけ行かすわけじゃない。俺も後から必ず行くんだ。そして俺達は、アベンシゾー総統陛下のために戦って死ぬだのだと。俺も後から必ず逝くぞ! そして安い国神社に神としてまつられてまた会おう!
メッキ仕様の金ピカピーステクト・ギアで身を包んだ指揮官様はそう言っている。
本当に行くのだろうか? 本当に積極的平和行動に行くのなら、あんなみてくれだけの金ピカ・ピーステクト・ギアなんか着ないんじゃないだろうか?
だいたい、要塞内部に突入してきた宇宙戦艦から吐き出された重機動兵器に対して、生身にまとった装甲服とレーザー・ジャポン刀でどうにかなるの?
いろんなことを言いたいけれど、もしも僕がそんなことを言ったなら、集団行動の和を乱す不穏分子、非システム民とみなされて即時排除されるだろう。
「みんなで一糸乱れず疑問を持たず、和を尊しと成す。システム全体の流れに疑問を持ってしまった僕は、危険思想に血迷った非システム民です」
自分の血で書かれた看板を首からぶらさげられて、待機場の天井から吊るされてブラブラ揺れている自分の姿が目に浮かぶ。
そういうことになったなら、僕の両親や彼女は社会的にどうなってしまうのだろう?
首都平定治安維持特別高等警察隊(しゅとへいていちあんいじとくべつこうとうけいさつ)に突入された家を、僕はもう何軒も知っている。
モッキンバードタウンに残してきた僕の量産型かわいい彼女が、首都平定治安維持特別高等警察隊(しゅとへいていちあんいじとくべつこうとうけいさつ)に殴られ蹴られ、性的暴行を加えられて蹂躙されて、指の爪を剥がされ、指を折られ、ドリルで歯をえぐられていく光景。
「おまえの彼氏は戦争主義者だったんだ。なあ、おまえもそうなんだろう? 私は戦争主義者です。そう白状すれば、システム秩序維持のために行っている拷問をやめてやる」
首都平定治安維持特別高等警察隊(しゅとへいていちあんいじとくべつこうとうけいさつ)に、そうささやかれながら、僕の量産型かわいい彼女が滅茶苦茶にされていくおそろしい光景。
アベンシゾー総統陛下が悲願として成したシン・憲法では、拷問は絶対に禁止されていないんだ……
ぞっとするような思考がさまいだす……
人質にとられた親兄弟親類縁者、恋人友人のために、僕は死なないといけないんだ……
迫りくる恐怖だけが、冷たく鋭利に知覚をえぐってくる。
壱番隊から22番隊まで、みんな死んだ。これは邪悪過ぎるくらいに真実だ。
みん死んでいったんだ。なのに、責任者である金ピカピーステクト・ギア姿のあなたは、なぜまだ生きているのか?
いったい何番隊まで全滅したら、金ピカピーステクト・ギア姿の指揮官様は、赤黒く光るレーザージャポン刀を握って前線に立つのだろう?
いったい何番隊まで全滅したら?
僕、今、いいこと言いました。
そうだ、侵入してきた左翼暴力革命テロリストどもは、もうこんなにも殺している。
これだけ殺しまっくているんだ。いつかテロリストどもの弾が尽きるはずなんだ。
だったら……僕が積極的平和行動を開始するまでに、左翼暴力革命テロリスト達の弾が尽きる可能性だってあるんじゃないか?
22番隊を殺しまくったら、銃身は過熱して焼き付いて、弾まで切れてもうお終い。
そんな、万がイチのもしかしてだけど、起こり得る幸運が僕を待っていたっていいんじゃないのか?
僕、今、いいこと考えました。
そうだ、こんな絶対的な絶望の中に必要なのは、希望なんだ。
もっと明るい未来的なポジティブエネルギーに満ちた思考をしよう。
考えろ考えろ、徹底的に考えろ!
明るい未来のポジティブエネルギーに満ちたことを考えろ!
僕の思考がぐるぐる回る。僕の前に立ちはだかる、絶対超えられない死の壁を乗り越えるために、今日ついに僕の中枢神経細胞は本気をだした!
もしかしたら……、もしかしたら……
僕が気がついていないだけで……
ここは、どこかのネットに転がっているWeb小説の中にある、架空の世界かもしれないじゃないか?
もしもそうだったら、今現在主人公である僕が死ぬわけがない。
左翼暴力革命テロリストが持ち込んだ重機関砲の弾が飛び交う最前線の現場に、主人公である僕が出て、あっさり殺されることになるなんて……
どう考えてもWeb小説として話がおかしい。
どう考えても、そんな物語を書く作者は頭がおかしい。間違いない、そんな物語を書く作者は、正真正銘に狂っているとしか言いようがない。
だってそうじゃないか、そんな夢も希望もない話を読みたいと思う読者がどこにいる?
そんな夢も希望もない、クソ過酷な現実みたいな小説を書く阿呆な物書きが、この世界に本当にいるだろうか?
仮にもしも、序盤から最悪の展開で読者をびっくりさせるために、僕が死んでも大丈夫。
すぐに僕は異世界に転生して、グッドなルックスと特別な力を得て、何もかもを無双しだすんだ!
そして、異世界にいるかわいい女の子達に囲まれて、僕様ぁ〜♡と呼ばれる素敵な未来が待っているんだ!
そうだ。きっとそうだ。この世界は幻だ!
この世界が幻ではないと証明することは、いままでどんな哲学者だって、どんな科学者だってできたことがないんだ!
つまり、僕が今現在生きているのは……
「頭がお花畑の左翼暴力革命テロリストに殺されて転生したら、後は何もかもが無双だった件」
そういうタイトルのWeb小説の中なんだ!
大宇宙は無限の可能性に満ちている!
だから、今現在が架空の小説の中にある世界だって可能性だって当然ある。そしてそれを否定する証拠は何も無い……
僕、今、いい想像できました。
なんでだろう?
どうして僕は、マジモンの地獄を前にして、異世界転生物のことなんて考えているんだろう?
Web小説のことはおいといて、現実のことを考えよう。
Space Synthesis System中枢閣は、圧倒的平和力による抑止力の前に、すべての戦争はひれ伏すと閣議決定していたのだから、現実は平和じゃないとおかしいんだ。
今まで生きていけてるんだ、いろんなことに政治を持ち込むな!
長い間みんながそう言っていたんだ。
アニメもジャンク・ポップもジャンク・ロックもスポーツもだ。
政治のことを考えよう、選挙に行って投票しよう、政治に参加しよう、投票している党を疑えなんて、学校の先生も一言も言ってこなかったじゃないか!
僕はみんなの言うことを聞いて、総員右向け右で前にならって雁首並べて同調していく、イッツア! Space Synthesis System! という世界に染まって生きてきたんだ!
僕は今まで、現状になんの疑問も持たなかった理想的な銀河臣民じゃないか!
だから……、だから、だからッ!
圧倒的多数のど真ん中にブッ込んできた、境界知能の頭がお花畑な左翼暴力革命テロリストさん! 圧倒的平和力の前にさっさっと屈してくださいませんか?
ダメだ! ここはWeb小説の中にある世界だって考えていた方が、百万倍マシだった……
現実的なことを考えたら、絶対的な絶望と立ちはだかる死の壁を、越えられないことをわからされる……
僕はどうしたらいいのだろう? こういう絶対的な死が、巨大な壁となって立ちはだかる危機に、僕はいったいどうしたらいいのだろう?
いまここまで追い込まれた状態ではじめて、僕一人が何をしても絶対に世界は変えられないんだ……
それはあまりにも明白な事実。
だから僕は祈った。大自民統一教会に。
この世界を作った、全知全能で絶対間違えることのない、無謬の神様に。
だっておかしいじゃないか? 左翼暴力革命テロリストに殺されて、僕はこの世界からさようなら。
そんなの全然、神聖だなんて思えない!
全知全能の神様! 森羅万象を司るアベンシゾー総統陛下様ッ!
父なる太陽フミア・ザヤカ様ッ! 母なる月カンツ・ルッコ様!
僕だけは、僕だけは! お願いします! 見逃していただけませんか?!
だって今まで、何にも考えずに信じてきたじゃないですかッ!
何の疑いもなく、あなた達が真実なんだって、信じ切ってきたじゃないですかッ!
ものすごいご利益があると言われた、高い高い怪しい壺だって買いました!
奨学金ローンだって献金したじゃないですか!
卒業後に晴れて権畜となった後も、収入のほとんどを献金しました!
いつもシステムが言うように、総員右向け右で前にならって雁首並べて、足並みそろえてみんなとずっと、同じ道をこうして僕は従順に歩いてきたじゃないですか!
僕は理想的な銀河臣民じゃないですか!
緊急事態条項と国会機能維持条項の発動で、もう選挙があることはないと言われているけれど……
もしも次の選挙があるのなら、電痛TVが言うままに白票を投じて、大自民統一教会に無条件賛同する意を表せば、僕を救ってくれるのですか?
僕はみんなが言うままに、圧倒的多数の権力様にずーっと仕えてきた権畜なんです!
こんな純粋な心であなた達を信じてきた僕を、使い捨てのマスクみたいにテロリスト共の前に差し出して、めっちゃクチャにさせるんですかッ!?
そんなことないですよね? そんなことできるわけないって言ってくださいよッ!




