バカップルにミニガンを
バカップルにミニガンを
「こちら、アーク! タッヤ臨時暫定指揮官殿に緊急要請! 俺のガレージに転がってるミニガンとその他もろもろ、とにかく今ブッ放せるブツをかき集めて、前線までもってこれるか!?」
アークが助けを求める声が、猫耳付きヘッドセットにガンガン響く。
「え? え? ミニガンにその他もろもろですか? 火力が足りないならわかりますけど、20mmよりも遥かに小型のミニガンをなぜ?」
すさまじい連射で加熱していく銃身という、危機的状況を把握しきれていないタッヤは、おっとりとアークに質問。
「ザコどもが多すぎて、殺しが全然追いついてねえんだよ! いまはとにかくありったけの危ないブツを現場に届けてくれ!」
アークの緊迫した声が、臨時暫定指揮官を示すタッヤの猫耳付きヘッドセットでがなってる。
臨時暫定指揮官を示す猫耳付きヘッドセットに響くアークの声は、マジでヤヴァイ空気を感じさせる。
あのバカップルは、持っていけるだけの重装備で出撃したはず……
火力が足りない! もっとデカイ砲をモッテコイ!!
ではなくて、もっと小さい銃をモッテコイ?!
現場でいったい何が起きているのか??
ゼニ勘定とはまったく違うドンパチの世界は、なにがなんだかまったくもってわからない……
タッヤの思考が迷走しだし、理解不能の状況をバンソロ弾いて計算しようにも……
思考の迷路に入り込んだタッヤが頭を抱えようとした時、頭上に揺れる猫耳が両の羽先に触れる。
今の私はこの艦橋に残された最先任乗組員であり、このラスト・ドンパチに船を守る責任を持っている、臨時暫定指揮官!
自分の専門分野ではない件について、細かいことを考えて、貴重な時間をムダにしている!
タッヤはすぐに思考を切り替え、アークの要請に応える行動を開始する。
「ジュウゾウさん! アークのガレージに行ってありったけの銃砲と、船内弾薬工場から弾をかき集めてください! おふたりきりでドログチャに殺りまくり中の、危険な暴威とお嬢様からルームサービスのご注文です! いけますか!?」
タッヤの問いに、ジュウゾウのメタルヘッドに格納されている回路を、思考電流が駆け巡る。
 
危険な暴威とお嬢様の殺りまくりのご旅行と、後ろからの攻めに対応するために、出せるメタル野郎はもう出している。
たった一隻でsynthetic streamに対抗し得る、驚愕驚異の宇宙戦艦をフルドライヴさせるメタル野郎は、総勢256体いる。
だけど……
前線に出撃しているハジメ、エイタ、船尾機関室を守りに行った、イゴウ、ツーツーが装着している、追加装甲ボディがもう在庫切れ。
イービル・トゥルース号を一歩出れば、そこは危険な暴威とお嬢様が、よってたかってくる虫ケラどもを、大量駆除する殺戮の炉心。
追加装甲を身に着けないメタル野郎が、危ないおもちゃを背負ってタマが飛び交うお外へGO。それはつまり100%の自壊行為を意味するわけだ。
知的生命体と違ってロボット乗組員は、二体をベッドにいれてあんあん言わせておけば、三体目がお腹かから生まれて出てくるわけじゃない……
ロボット乗組員を何体投入すれば、銃砲弾が飛び交う前線にブツを届けられる?
ジュウゾウは計算してみる……
やってできないことではないが……
船をドライヴさせるロボット乗組員が、あっという間に足りなくなってしまう。
イービル・トゥルース号の工場区画は、いま弾薬製造でフル回転中。
ロボット乗組員を補充できる生産ラインを、今から構築している時間はない。
アークのガレージにブツはある。弾薬工場はガンガンに弾も作ってる。あっちっちになった銃身を冷やす冷却材もじゃぶじゃぶにある。
でも……
危険な暴威とお嬢様がドログッチャに殺りまくりのお現場に、追加の危ないオモチャを届けられる、若い衆に着せる装甲が足りてない。
装甲が足りてない? ならば……
ロボット乗組員がモビルトルーパーに乗り込んで、ロボットが巨人ロボットを操作して前線に出たら?
そこまではジュウゾウの回路も計算できるのだが……
モビル・トルーパーは、イービル・トゥルース号がふりまわす暴力の要を成す存在だ。突撃刺突衝角で敵艦内部にモビル・トルーパーを送り込み、内部から破壊して終わらせる。野蛮極まりない、イービル・トゥルース号特有の暴力手段。
もしもしもの万がイチ、モビル・トルーパーが敵に奪われたら、大変にまずいことになる。
だから、モビル・トルーパーには強固なセキュリティがかかっている。
操縦桿を握ることで、残虐行為への参加確認を行う生体認証が、イービル・トゥルース号の野蛮生命体以外が、モビル・トルーパーを操作することを固く禁じている。
イービル・トゥルース号をフルドライヴさせる縁の下の力持ち、ロボット乗組員は血肉と骨の身体をもっていない。だから、逆立ちしようが、モビル・トルーパーの生体認証を突破できない。
モビル・トルーパーの主制御装置をクラッキングして、プログラムを書き替えることができれば?
やってできないことではない。
でも、アークが作ったモビル・トルーパーに搭載されているコンピュータは、大宇宙のあらゆる場所からかきあつめてきたジャンク品を組み上げたものだ……。詳細不明のハードと、クッソ怪しいOSの解析をしないと、まずお話にならない。
いまそんなことをしている時間はない。
ロボット乗組員がモビル・トルーパーを操作して救援にかけつける。この手は今は使えない……
「ブツハアル! ダガ、ロボットガ、タリテネエッ!」
タッヤの要請に対して、ジュウゾウの回路が叩き出した答えは、あまりにも簡潔すぎた。
ミーマ・センクターお姉様が深いため息をついて口を開く。
 
押し寄せてくるザコ珍砲どもが、あまりにも多いんだ……
持てる中で一番デッカイ銃を持って出たのがまずかった……
デッカイ砲は重たく小回りがきかず、デッカイ熱をバンバン吐き出す……
このままじゃ、すぐに銃身があっちっちで焼き付いちまうよ。
戦力の逐次投入ではなく、最大戦力の投入が仇になるなんてねぇ……
 
押し寄せてくるザコどもに対抗している現場に、危ないオモチャを届ける手段が今現在ないという、無情な現状を示す情報表示盤を、金と銀の瞳でミーマ・センクターがみつめている。
「イチバチさん! イービル・トゥルース号からの援護で、この状況をなんとかできませんか!?」
「とっくの昔に殺ってるよ」
地獄に続く縦穴に対して照準可能なパルスレーザー砲から、死に至る無慈悲な青い雨をふらせ続け、装甲人形駆動兵器をスクラップに変え続けている、イクト・イチバチの冷たい声。
「主砲は!? 主砲で雑魚を一網打尽にできませんか!?」
タッヤの声に、イチバチが振り返る。
「この船の主砲では、破壊力がでかすぎる。ここでブッ放したら、密室で爆弾を爆発させるようなものだ。この船だって無事では済まないし、アークもサディお嬢ちゃんも、間違いなく逝っちまう」
冷たいメタル製キラーマシンの言葉が、邪悪な真実となってタッヤに突きつけられる。
モフモフ羽毛に包まれて、猫耳のせたタッヤ頭部の内部で、思考が空回りを開始する。
 
イチバチさんの言うとおりだ……。ここで主砲をブッ放すのは、大変にまずいことになるのだ。
まずい……、この船自慢の極悪凶悪最強暴力装置(ごくあくきょうあくさいきょうぼうりょくそうち)が、今は完全に仇となってしまっている……
どうしよう? どうすればいいのか、なにひとつ思いつかない……
私は予算管理に関しては有能ですけど、戦闘に関しては素人なんですよ……
どうすれば、この状況をくつがえせる?
だめだ、何も思い浮かばない。
私に……、この船の指揮官は……無理、なのか?
 
チカラがこめられたタッヤのクチバシがきしみをあげて、猫耳がピクピク震える。
「タッヤ!? どうした?! まだ俺とサディが逝っちまうまで時間はあるが、そんなに余裕があるわけじゃねえんだぞッ!」
臨時暫定指揮官を示す猫耳付きヘッドセットに届くのは、危ないお嬢様と殺りまくり中の危険な暴威が、俺とあの娘はもう長くは持たないと言う、邪悪過ぎる真実。
ぐううう……
タッヤがうなり、絶望の中で必死に思考をめぐらせる。
 
ロボット乗組員は現場に出れない。
だとしたら……
アークが作り上げたヘヴィ・メタルマシーン、モビルトルーパーで前線に、危ないオモチャを持っていくしかない!
私がGTZで出るか? GTZのバックラックなら、銃砲を満載できるはずだ。両椀は資源採掘用のハードでヘヴィなメタルクロー。重機級のクローを持つGTZなら、ある程度の銃弾や砲撃に耐えられるかもしれない。
だけど……
私にいけるだろうか?
マジモンの暴力が渦巻く殺戮の炉心である前線に、私は立つことができるのだろうか?
ふたりきりで殺りまくりの危険な暴威とお嬢様の元に、ヤッヴァイおもちゃを届けることができるのだろうか?
こういう船に乗ったなら、私がドンパチにさらされる日もくるだろう。
私はそういう想像をしたこともある。覚悟をしていないと言えば嘘になる。
だけど……、こんなラスト・ドンパチの真っ只中で燃あがっている、殺戮の炉心にいきなり突入することになるなんて……
モビル・トルーパーの操縦は問題ない。でも、私の実戦経験が、圧倒的に足りていない……
ドンパチという世界の最前線に一度も出たことがない私では、殺りまくりのバカップルに、危ないオモチャを届けられないかもしれない……
それでは、終わりだ。
かき集めた銃砲は殺りまくりのバカップルに届かず、ブッ放しまくりでドログチャ状態の残虐行為が停止してしまう。
そうなったら、synthetic streamの小型機動兵器がイービル・トゥルース号にとりつくだろう。その瞬間に何もかもが終わるわけではないけれど、取り付いた小型機動兵器は、いずれイービル・トゥルース号の内部に侵入してくるだろう……
synthetic streamは、システムを構成している銀河臣民にすら容赦しない。一般知的生命体を吸ってしゃぶって搾取して出がらしになったら、こうなったのは全部自己責任ですよとポイ捨てる。そんなsynthetic streamが、たった一隻で圧倒的多数の権力様に歯向かった私に、容赦などするわけがない。
私はsynthetic stream製の小型機動兵器に腹を引き裂かれ、内臓を全部ひきずりだされた後に香草をたっぷりと詰められて、ケツの穴からくちばしまでメタル串をぶっ刺してくるくる回され、こんがりと焼かれるのだ。
どんな大災害であっても止まらない、大自民統一教会党の大宴会のテーブルで、すべての肉をむさぼり食われて最後に残った私の骨までもを、アベンシゾーにしゃぶられている自分の姿が目に浮かぶ。
モフモフの羽毛に包まれた身体が震えた。
これが、私の未来なのか? 通常の二倍以上に常軌を逸した男に誘われて、大宇宙を翔ける大冒険に出た、鳥型知的生命体の末路なのか?
否! 否! 断じて否!
私はそんな未来を断固拒否する!
でも、現実は邪悪なまでに残酷だ。
私は前線に出れるのか?
法や、知的生命体道がどうだとか、そういう細かいことを全部すっ飛ばしてブッ放してブッ殺せる。あのふたりみたいに、私は前線で戦えるのか?
まさか、私が、最終局面の鍵を握る存在になってしまうなんて……
いくのはいい。私は行ける。覚悟はできてる。
でも……、現実的に考えて私では、殺りまくりのバカップルに、危ないオモチャを届けることができるかどうかが……
 
「タッヤ! 持ってこれないなら、格納庫から蹴り飛ばせッ! なんとかこっちで回収し
大迷走している思考に割り込んでくる、危険な暴威のがなる言葉が途切れる。
え?
突然静かになった世界に、タッヤの意識が混乱する。
「ご注文の危ないオモチャ。私がお届けにいきますよ」
タッヤの耳に響くのは、いつだって冷静なAXEの声。
え?
タッヤが視線を声がするほうに向ける。タッヤの頭部から外した猫耳付きヘッドセットマイクをつけて話す、AXEの姿がそこにはあった。
「タッヤさん。GTZを、私に借していただけますか?」
七色の地にセピア色の鳥獣戯画が描かれた着物姿の女性が、猫耳揺らして優雅に過ぎる流し目でタッヤをみつめて言った。
「AXEさん……」
タッヤは思いっきりためらった。
男の私が前線に出ることなく、女性を前線に出すのかと。
男が女が、そういうことを言っている場合ではないのかもしれない……
だけど……
いま私の前に立って、斧をモチーフとしたかんざして黒髪をまとめるAXEの頭上に揺れる、臨時暫定指揮官を示す猫耳……
和服姿の猫耳女性を、前線に出すなんて……
ためらうタッヤのつぶらな瞳の視線を受け止めて、AXEの頭に生えた猫耳がピクピク動く。
「大丈夫ですよ、タッヤさん。すべてのセンサーによる走査はすでに完了。内部構造解析はエニグマ・メインフレームに託された。もしも私が戻らなくても、中枢閣の位置を必ずエニグマ・メインフレームが叩き出す」
ぞっとするほど冷静な声で、AXEはタッヤにそう言った。
 




