主砲をブッ放したらサヨウナラ
主砲をブッ放したらサヨウナラ
「いーっやっほーぉ!」
サディが主砲照準器からお顔を外し、両手をあげて歓声をあげている。
「く、く、く……、くそがぁぁあッ!」
ネガは毒づき、一切のミスが許されないほど敏感になった操縦桿を握りしめ、繊細に船を操る。
そんなふたりに挟まれるド真ん中に座るのは、臨時暫定指揮官を示す猫耳つけたアーク・マーカイザック。
危険な光を宿すアークの瞳が見つめるのは、ブ厚い硬化テクタイト製窓に映る、ドログチャに破壊し尽くされた死の回廊。
ブ厚い硬化テクタイト製窓のむこうに星の海はもうなく、カルトスターの異様な壷型の姿もない。
暴力によって破壊し尽くされて開いたドログチャの大穴という、地獄へ続く深淵のような破滅世界が、ブ厚い硬化テクタイト製窓の先にある!
「ちょっとちょっとちょっと! 要塞内部に船ごと突入しゃうなんて?! 確かにどこからも撃たれない! ゲームバランス崩壊級の安全地帯ではありますけどもぉぉ、これ、本当にダイジョブなんですかぁぁ!?」
アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋に、タッヤの悲痛な悲鳴が響く。
「レーダ波の乱反射状況から推測すると、船体と周囲との相対距離は、およそ0.001宇宙キロ! これは……。お互いのぬくもりが伝わってしまうけれど、おナカとブツがギリギリおナマでは接触していない、大宇宙の驚異的と言っていい状態です」
レーダー盤から読み取れる、イービル・トゥルース号の周囲に存在する巨大質量構造体との距離を、冷静に予測しているAXEのご発言。
続いて、ミーマ・センクターお姉様が発言を開始する。
パンダ船長の目論見どおり、主砲斉射が大命中!
ズッポシガッツリ! ガンガンに突っ込み掘って大損害をあたえまくって、ドデカイ大穴あけたねぇ!
だけどもさぁ! まさか! まさか! まさか!
ガン突きかました大穴のおナカにおナマでズブズブまるごとイン!
イービル・トゥルース号ごとズッポシ入っちまうとはねぇ!
ブラック・レーベル作品の豊かな想像力でも有り得ないレベルな、特殊な状況と判断せざるを得なーいッ!
ミーマセンクターがお姉様お顔を文字通りに凍りつかせつつ、銀河中の乙女をうるわし濡らすブラック・レーベル作品視点は忘れることなく、ほほを紅潮させての状況判断。
「オオアナアケテブチコムト、オトトイアタリニ、イッテオキヤガレッ!」
そう言ったのは、どんな計算機でも叩き出せないこの現実に、メタルヘッドが驚愕してしまったイクト・ジュウゾウ。
「こいつは、大口依頼が入りそうだ」
イクト・イチバチはウンウンと満足そうにうなづき、死神がプリントされたバンダナ巻くメタルヘッドを上下させている。
「大穴は、ちゃんと払い戻しまでいってから喜ばないと、危ないなぁ」
と言ったのは、機関室直結通信器の向こうにいるコタヌーン。
何かのシミュレーションに夢中のオクタヌーンからの答えはない。
45口径46銀河標準センチメートル砲三連装四基十二門が、本気をだしてブチかました収束砲撃によってブチあけた大穴は、異次元異様要塞カルト・スターの奥深くへと続く破滅の深淵。
ドッログッチャに破壊され尽くした大穴のオクを、ブ厚い硬化テクタイト製窓からじっとみつめるアークが口を開く。
バンバン撃って大穴開けて! ハメてズッポシ、ウッハウハ!
ここまでは、それなりに野蛮なヤツならできることだ。
しかし、ここから先は、大宇宙をまたにかけたマジモンのサバイバー、ガチでバチバチなモフモフ野郎、キャプテン・パンダーロック殿だからこそできた発想を実現させる、マジモンにハードなドンパチが待っている。
超巨大移動要塞カルト・スターをおナカのオクからブッ壊し、大破滅が渦巻く坩堝のナカを、この船だけはドピュンと飛び出し、生きて星の海をまた翔ける。
そういうマジでバチバチな大穴を当てる最終局面。
積極的平和主義者の対極に存在する、消極的戦争主義者の本気ってやつを見せつける時間のはじまりだぜ。
大自民統一教会党がセントラル・ドツボと呼ぶ超自民要塞の中心。毒裁政権の核と言っていい、最奥部に存在する中枢閣を狙う、アーク・マーカイザックはそう言った。
アークの左隣で巨大なリヴォルバーキャノンを握る、真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳の女のコは考える。
ついにきたね! ラスト・ドンパチの最終局面!
アークが最後の最後までネタを明かさなかった。その理由がよくわかる。
だって、巨大なリヴォルバーカノンの引き金にかけた、あたしのお指が震えてるもん。
こんなイカれた殺りかた、最初からやるって言われていたら、絶対無理だって思っちゃう!
パンダ船長が考えた安全地帯は、確かにめっちゃ安全だ。
朕はてめえの大事な生命を撃ち抜けない。
宇宙戦艦乗りの間で古くから伝わる、声にだして読みたいお上品な格言ってやつさ。
確かに理屈のうえでは格言通り。
だけど……
その向こうをさらにぶっちぎった先にある、朕のお腹のオクに向かって船ごと突入するとは……
朕のおナカにおナマでインして、大事な生命を奪い去る!
撃って掘って突っ込みまくって奪い去り! 大宇宙のクソの素が果てたらポイして大団円ッ!
なによりブッ飛んでいるこの発想!
通常の二倍以上に常軌を逸している男ってのは、ガチクソにマジでハンパない!
そして一見めっちゃくちゃに思える、残酷で残虐な暴虐あふれる暴威の策には、ちゃんと理がある。
この船お得意の突撃刺突衝角をブッこむんじゃあ、船体がお外でむきだしになっちまうんだ。
船体がお外にむきだしの状態だったなら、相手の主砲では撃たれないだろうけど……
要塞の外殻に機動兵器を持ち出されたら、いったいナニをされるかわからニャい。
宇宙戦艦は宇宙空間戦闘において、あらゆるものを蹂躙できる、絶対無敵の残虐王だ。
機動兵器が宇宙戦艦に闘いを挑むなら、宇宙戦艦に搭載された砲の射角の内側に入り込むことしか、勝ち目はない。
イービル・トゥルース号には、船体各所にハリネズミみたいにパルスレーザー砲が搭載されているけれど……
要塞外殻に突撃刺突衝角がブッ刺さった状態で身動きとれなくなったら、船のどこかに必ず死角が生まれちゃう……
その死角から忍び寄られたら、イービル・トゥルース号はあっさり機動兵器に取りつかれちまうんだ。
だけど、船ごと相手のおナカにインしている今の状態なら、主に前と後ろにだけ注意すればいい。
イービル・トゥルース号の主砲が作り出した死の回廊は、ドッログッチャに溶けた後に冷えてかたまっていて、機動兵器を投入する開口部がただのひとつもまったくない。
主砲がブチ開けた死の回廊のオクには、溶解までいたっていない要塞核が存在している。
synthetic streamがイービル・トゥルース号に対抗して、機動兵器を素早く投入できるのは、まだ破壊され尽くされていない前方からか、要塞外殻から送り込む手段のふたつしかない。
死の回廊の前と後ろしか投入できない機動兵器は、船体各所に搭載しているパルスレーザー砲でゴミッカスに変え続けてあげられる。
相手は圧倒的多数様ではあるけれど、たった一隻のイービル・トゥルース号は今、有利な状況にある!
理屈で考えたらそうだけど……
主砲で撃って大穴開けて、そのおナカのオクに船ごとカチコミかけるんじゃ! と最初から言われたら……
なんじゃそりゃあ? と思っちゃうよね。
突撃刺突衝角でブッ込んで、クッソデッカイ相手のおナカに突っ込んで! 何もかもめっちゃくちゃにしちゃいましょう!
そういう常識的な暴力の遥か彼方の先にブッ飛ぶ、残酷で残虐な暴虐あふれる暴威のイカれた発想。
あたしは腕一本で食っていける、通常の三倍以上に危険な戦闘要員だけれども……
こういうぶっ飛んだ発想は、まだまだあたしニャできやしない!
あたしが夢中になっちまう危険な男は、通常の二倍以上に常軌を逸した、ガチでハードなマジモンのタフガイ!
めっちゃエッジの利いたデンジャラスさに、あたしのお胸は動悸動悸してくるけれど、この状況はいいことづくめってわけじゃない。
「ねえ、アーク。ここでおナカのオクにブッ放したら、大事なところをブッ飛ばされて、クッソ怪しい壷型巨大要塞はビッグ・バンしてサヨウナラ。だけどさ……。それはあたしたちも同じでさ。ここでブッ放したら、あたしたちまで宇宙のダークマターに帰されちゃうよね?」
サディの声は若干震えていた。
確かに、異次元級に異様な移動要塞の内部に入れば、あらゆる砲撃を無効化できる。
ドログチャに溶けた金属が冷えて固まってできた死の回廊は、四方八方から投入される敵の機動兵器に押し寄せられる危険性もない。
異次元級に異様な巨大要塞に、たった一隻の宇宙戦艦が立ち向かって勝利をつかむには、最高の一本道であることは確かだし、ここならゲームバランス崩壊級の大暴れができる状態であることは間違いない。
だけど……
イービル・トゥルース号が背負い抱く、45口径46銀河標準センチメートル砲三連装四基十二門をブッ放して、すべてを終わらせることはもうできないんだ。
こういう巨大移動要塞は、核付近に超大出力のリアクターを複数搭載しているはずなんだ……
主砲から放たれる破滅の力が、一発でもリアクターをブチ抜いたら……
マジモン暴力を注入されたリアクター内部の燃料が、制御不能の核融合や核分裂をはじめちゃう……
そうなったら、もう誰にも破滅への大行進は止められない!
カルトスターは大爆発!
地獄の業火をまきちらすメインリアクターの爆発は、要塞内部にむかってガン突き掘ったこの大穴を満たすだろう。
そのどまんなかにいるイービル・トゥルース号は……
無事では済まないとか、そういう話では終わらない。
イービル・トゥルース号ごとあたしとあんたは、何もかもが終わりの世界までブッ飛ばされて逝っちゃうよ!
あたしの握る、巨大なリヴォルバーキャノンの引き金が、自分の命運を一瞬で断てる凶器に思えてくる。
いくらイービル・トゥルース号の対抗障壁領域が打たれ強くたって、ブッ放した後に待っているのは超巨大移動要塞がビックバン。超巨大爆弾が目の前で大爆発するマジモンの地獄ってやつさ。
物理的な爆発や破片を防御できない対抗障壁領域では、超巨大爆弾のビッグバン的大爆発に対して、紙切れ一枚分の防御力も持たないことを、あたしは知ってる。
アークは以前、実体弾防御を前提とした重装甲を持つ、ド旧式宇宙戦艦をなめるなよッ! と豪語したことがある。
イービル・トゥルース号は、実体弾をブチ込まれることが前提の時代に建造された、ガチでバチバチな宇宙戦艦なのだろう。対抗障壁領域以外に、ものすごく厚いツラの皮もあるのだろう。
だけど……
超巨大な異次元異様要塞カルト・スターが散る際に起きるであろう大爆発は、実体弾が持っている運動エネルギーなんかと比較にならない。
イービル・トゥルース号はハードでヘヴィなメタル製で、驚愕驚異の硬さを持つタフな宇宙戦艦だ。
でも、小惑星級の要塞が大爆発したところで、この船はどうということはないんですよという、ご都合主義なチートマシンでは断じてない。
つまり、もう主砲は撃てないんだ。
撃ったらあたしとアークとこの船と、そしてみんなも、あっさりと逝って果ててしまう。
だったらどうする? どうすればこの超巨大移動要塞を破壊できるの?
サディの白銀きらめく髪に覆われた、中枢神経細胞のナカを電流が駆け巡る。
「そうだな。普通に考えたら、ここでブッ放したら、その瞬間に俺たちはさようならだ」
さらりと言い放つアークの言葉が、サディのお耳に届く。
アークの声は、なにひとつおびえてはいなかった。ほんのすこしの迷いすらもなかった。
アークの言葉には、この先の闘いかたを確信させる力強さがあった。
この地獄を終わらせる、たったひとつの冴えた殺りかたが、間違いなくアークにはある。
最終局面を終わらせるたったひとつの冴えた殺りかたにむかって、サディの思考が疾走を開始する。




