表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第六部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

308/360

地獄へGO TOキャンペーン

地獄へGO TOキャンペーン




 小惑星クラスの超巨大異次元異様要塞カルト・スターを示す楕円だえんが、刻一刻こくいっこくと近づいてくるレーダー盤。

 あまにりも急な展開で、たすきでそでをくくっただけの和服。ぐいっと大きく奥襟おくえを下げたまま、あでやかにみせるうなじに冷たい汗が流れるのをAXEは感じている。

 あらゆる銀河の可愛いものを集めてさばく、ファンシー雑貨貿易船に就職したつもりはもとよりない。

 だけど、完全沈黙した巨大航宙ホテル船に隠れて、どう考えても自殺行為的な突撃をする宇宙戦艦に就職したつもりもなかった。

「本船とカルト・スターの相対距離、現在150宇宙キロ」

 自分の声が異様に冷静なことに、AXE自身が恐怖を覚える。

 かつて絶体絶命の危機に、イカレたあいつにハメられた危険な娘に首しめられて、意識を失った状態で大宇宙に放り出されたこともある。

 確かに命が助かりはしたけれど……

 もう少し違うやり方があったことは、間違いない。

 首絞くびしめプレイで失神させて宇宙にポイ。

 今回はそういうことを、イカれたあいつとイカれたあの娘はしなかった。

 本当に正気なのだろうか?

 本当に勝機しょうきがあるのだろうか?

 本当にこれは正真正銘しょうしんしょうめいの自殺行為ではないのだろうか?

 AXEの中に疑問がわいてくる。だけど私の前で、イカれたあいつはでっかいあくびをかましている。

 どう考えても、自殺行為に突っ込む者がみせる姿じゃない。

「相対距離、100宇宙キロ」

 動揺どうようとは真逆の、冷静な自分の声。

 右隣の席に着く、ミーマ・センクターにAXEは視線を向ける。

 ボンキュッボンのラインを描く身長2銀河標準メートルの褐色かっしょくボディに、ガッチバチのベルトとバックルだらけの軍隊仕様のバトルスーツに身を包んだ黒髪ロングのセンクターお姉様が、金色と銀色の瞳をギッラギラに暗闇の中で光らせている。

「いかにシンセティック・ストリームが、阿呆駄郎あほうだろうのケツの穴でも……。通常の神経では考えられない奇策きさくも奇策とはいえ、そろそろ砲撃を食らってもおかしくない相対位置関係まできたものと状況を判断するけどねぇ……」

 ミーマ・センクターが刻一刻こくいっこくと接近する相対位置から、いつ撃たれてもおかしくないのだと状況を判断。

 ミーマ・センクターお姉様の心中は揺れていた。

 阿呆駄郎あほうだろうのケツのお穴におナマでブッ込むような、絶望的に危険過ぎる突入の先に、ゲームバランスを完全崩壊させるほどの安全地帯が、本当に存在するのだろうか?

 艦隊規模の斉射が生み出す、過半数を突破した圧倒的多数のフルボッコに平気で耐える。この船の異常な対抗障壁領域が実在することのほうがまだ信じられる。だって、現にこの船は事実、今までただの一度も沈まなかったのだから。

 だけど……

 ミーマ・センクターお姉様の思考がさまよいだす。


 synthetic streamのケツのお穴におナマでイン。

 どう考えても……

 致命的ちめいてきな病をもらって、私の明るい未来計画がジエンド。

 そんな絶望への突入みたいなことは、今まで一回もしたことがない。

 なのに……

 目の前では、アークがまたでかいあくびを一発。

 チート的な救出作戦の果て、本船にようやく帰還きかんした無免許もぐりの航海士は、余裕余裕よゆうよゆうのおめプレイ。

 それが一番ゾッとする。

 立ったらいけないフラグがお立って、本当にイッテしまうかもしれなくて……

 ブラック・レーベル作品が合法になった世界で、私は生きてもう一度、ブラック・レーベル作品を読めるのかしら?


「たくわえをケチって使わずに死ぬ。そんなバカなことはごめんですけど……」

 これから起こるであろう、何もかもがすべて終わった後に、この船の財務状況が壊滅的なまでの危機におちいることを予想して、タッヤが静かにそう言った。

「またスカンピンになったら、資源採掘しげんさいくつでもやればいい。宇宙の神秘しんぴでも探してかせげばいい。どこかのポンコツリアクターを、銀河中にいるネトネトに粘着質なウヨウヨしている情弱どもに高値で売ればいいのさ」

 すかんぴんになったなら、また稼げばいいだけさ。アークは真面目にそう言った。

 タッヤは思う。


 本当に……、そんな日々がくるのだろうか?

 素寒貧すかんぴんでも、大事な命があれば、未来はどうとでもなるさ。

 理屈りくつで言ったらそうだけど……

 これから突っ込む領域では、その理屈が通る世界なのだろうか?

 すべての物種ものだね、大事な生命を燃やし尽くしてしまう世界に、私達はいま進んでいるのでは?

 スカンピンではあるけれど、まっとうなシノギでゼニーを稼ぐ日々。

 つつましいけれども、誰も殺す必要などない。そういう日々を、私はこの船で過ごしたい。

 そのためには……

 とにかくケツをまくってバックレる。ただし、バックレる先は、迫りくる超巨大異次元異様要塞……

 カルト・スターにむかって、この船はガンガンに突っ込んでいるわけで……


 緊急事態の真っ只中で、勢いにのって選択してしまった自分の道が、地獄へGO TOキャンペーンの血塗ちまみれな道にしか、いまのタッヤには思えない。



「とりあえず今はひまだけど、いったん忙しくなるとここは地獄だからなぁ」

 慣性航行中かんせいこうこうちゅうのため停止しているエニグマ・エンジンをみあげて、機関長室のソファーに身をあずけたコタヌーンはそう言った。

「イチバンキツイノハ、オレタチダガナ」

 メタルヘッドに赤いバンダナ巻いたメカニック係長イクト・フタロクが、緑色のオイルが入った湯呑ゆのみに口をつけてそう言った。

「アネゴハ、レイノトコニ?」

 機械魂と刻印された湯呑みを傾けつつ、メタルヘッドに緑バンダナ巻いたメカニック若い衆、イクト・ニーイチが言う。

「エニグマ・エンジン以外の謎に、なぜか最近ご執心しゅうしんなんだよなぁ」

 あらゆる計器がレッドゾーンを振り切って、あらゆる数値を意味不明なものにしてしまう。エニグマ・エンジンの謎をずっと追い続けていた奥様に思いをはせるコタヌーン。

 機関室の深部に、機関副長オクタヌーンはずっと閉じこもっている。

「私はこの船の、核心かくしんせまっている」

 愛用するノートPC、末期まっき突出とっしゅつのキーボードを叩き、とあるシミュレーションを作成しながら、オクタヌーンはこの船の謎を解く糸口いとぐちを追い続けている。

「この船の本当の謎は……」

 あらゆる数値が意味をなさないエニグマ・エンジンの謎を解くために、オクタヌーンがたどり着いたのは……

 エニグマ・エンジンの解析かいせきという方法ではなかった。

 吐き出せるはずのない出力を吐き出してしまう。まるで嘘みたいなこの船のイカれた主動力源。

 どんな解析も通じない正体不明の出力を叩き出すくせに、今現在の科学水準と同一の原理で動作するという、驚愕驚異きょうがくきょういのエンジン。

 どんな理屈でも成立しない謎の存在に、オクタヌーンはずっと歯が立たなかった。

 でも……

 とある一件をまのあたりにしたオクタヌーンは、ある着想ちゃくそうを得た。

 その着想をシミュレーションすることで、この船が叩き出した出力は実現可能なのかを検証けんしょうする。

「私の想像が、もしも本当に正しかったら……」

 オクタヌーンの指が、想像が現実にあったらどうなるのかを示す、シミュレーションを構築こうちくしていく。

 急がないと……

 この船は最終決戦の地へと向かっているのだから……

 謎の出力を叩きだすエニグマ・エンジンが格納かくのうされた機関部の最深で、オクタヌーンの孤独こどくな闘いが続く。

 乗組員達の様々な思いを背負せおい抱き、イービル・トゥルース号は絶望的な突入の先にあるという、まさかまさかの安全地帯を目指してひっそり静かに星の海を翔けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ