表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第六部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

304/360

大逃走という名の大闘争

大逃走という名の大闘争




「イービル・ボンバー。船体から分離ぶんりを開始します」

 主砲照準器にお顔を突っ込んだサディが、武器管制盤のうえで不気味な紫の光を放つ、骨だけになった肉食魚が描かれたボタンをそっと押す。

 イービル・トゥルース号船首に左舷三連装右舷三連装六門(さげんさんれんそううげんさんれんそうろくもん)ある宙雷発射口から、一本のミサイルが静かにそっと宇宙空間へゆっくりと送り出される。宙雷発射口の真ん前にあるのは、突撃刺突衝角とつげきしとつしょうかくでブッ刺さしたままの、巨大航宙ホテル船ニューコンチネンタル・オーダニー号。だからミサイルのケツには、燃えあがる炎は灯っていない。

 漆黒しっこくのマニキュア映えるお手々が握るスティックで、サディはミサイル操作を開始する。

 宇宙空間に漂う宙雷は、姿勢制御スラスターを噴射ふんしゃしてぐるりと回頭を開始。ミサイルの回転がぴたりと止まったのは、イービル・トゥルース号のケツ方向。

「イービル・ボンバー反転完了。目標。うるわしき船の、素敵なおケツ」

 サディがお顔を突っ込む主砲照準器の内部にうつるのは、強力な物理爆発力を秘めたミサイル、イービル・ボンバーからの映像。

 メインモニタに変化しているブ厚い硬化テクタイト製窓には、主砲照準器に映像が投影とうえいされている。

 サディの仕事に、アークがうんうんと満足げにうなづきながら、パンダ船長の秘策解説ひさくかいせつを開始する。


 それでは、お仕事を進めつつ、パンダ船長の秘策ひさくについて少し話そう。

 一見いっけんイカれきった選択に思えることは、結論をいきなりブッ込まれているからに過ぎない。

 どうしてそういうイカれた考えに至るのか? ちゃーんと考えれば、そんなにイカれた話ではないとよくわかる。

 なので、順を追って今回の大逃走がいったいどういうことなのか? ちょっと一緒に考えてみるとしよう。

 まずはこういう風に考えてみてほしい。

 いま俺が、近接戦闘特化のブルーナイトメアを、ガチでバチバチな対艦仕様にチューンして、ヒート・チェーンソーと、どんな船体外殻せんたいがいかくもブチ抜いちまう、ハードでヘヴィーなメタルぱいるを射出する特殊武装で出撃した。

 そう考えてみてほしい。

 近接戦闘特化型モビル・トルーパー、ブルーナイトメア対艦仕様が狙うのはいったいどこの宇宙戦艦だ?

 それは、海賊放送船イービル・トゥルース号だ!! となったら?

 こいつはヤヴァイ! マジでヤヴァイ!

 なんてったって、ブルーナイトメアが出撃したのは、標的であるイービル・トゥルース号からなんだからな。

 イービル・トゥルース号のぬくもりが伝わっちまう、0.001銀河標準ミリメートルのうすうす感どころじゃねえよ。

 ガチでバチバチな近接戦闘特化の重機動兵器が、この船の船体外殻せんたいがいかくにジカにおナマで密着していることになる。

 サディ? 君ならどうする?

 この船にとりついた対艦カチコミ仕様のハードでヘヴィなメタルマシンに、イービル・トゥルース号専属の凄腕戦闘要員すごうでせんとうよういんである君なら、いったいどう対処する?


 主砲照準器にお顔を突っ込んで、漆黒しっこくのマニキュア映えるお手々でスティックを操りながら、サディは答える。


 ねえ、ブルーナイトメアに乗ったお兄ちゃん。

 なんでおナカにいる時に、オクにむかってブッ放さないの?

 例え話にまじめに突っ込む、しごくまっとう過ぎてつまらない質問はおいといて、こいつはガチでマジにバチクソヤヴァイ。

 船が対艦仕様の重機動兵器にとりつかれた!

 45口径46銀河標準センチメートル砲三連装四基十二門は、確かにあらゆるものをブッ飛ばす!

 ガチでバチバチなマジモンの暴力装置だけれども……

 船体外殻にとりついた機動兵器はブチ抜けない。

 デッカイ主砲の砲身が途中でグニャリと曲がって、てめえの弾薬庫を狙ってドッカン!

 そんなことはできやしにゃあよ。

 もっとお上品に言えば、お朕 (ちん)はてめえの命 (タマ)を撃てやしない。

 敵にとって、巨砲きょほう根本ねもとは安全地帯。

 宇宙戦艦乗りにふるくから伝わる、格言かくげんってやつがそう言っている。

 デッカイ巨砲ってやつは、てめえの間近まじかをマジでホントに狙えない。

 主砲じゃだめだ。どうやっても、船体外殻にとりついたブルーナイトメアをブチ抜けない。

 じゃあ、主砲より小さい砲ならいけるのかって?

 イービル・トゥルース号の素敵なケツには、主砲より小回りがく副砲がついている。

 主砲より小さいとは言え、副砲だってそんな芸当げいとうは無理な話さ。

 残るはこの船で一番口径が小さくて、船体各所に設置されているパルスレーザー砲なら唯一、ブルーナイトメアを撃ち抜くことが可能かも……

 だけど、船体に固定されているパルスレーザー砲の前に、ブルーナイトメアがのこのこ現れて、デーンとおっ立ってくれる。

 そんなアホウタロウのケツの穴がやりがちな、大量出血で死亡が確定ダイハンバンパク級の大赤字サービスをしてくれるわけがない。

 船にとりついた重機動兵器にしてみれば、船体外殻のほとんどが無防備まるだし、やりたい放題えぐり放題おナマで挿れ放題でウッハウハ!

 イシーンズにやりたい放題されているダイハン銀河みたいに、イービル・トゥルース号がめちゃくちゃにされちゃうよ!

 そうなったら、銀河中でちやほやされてしかるべき、この船で一番かわいいとびっきりの凄腕戦闘要員であるこのあたしは、いったいどう対処する?

 いますぐ艦橋から飛び出して、めっちゃ体重軽い体をかっ飛ばし、キャンディ・アップルレッドに飛び乗って、船にとりついたブルーナイトメアをブッ飛ばしに行くしか無いんじゃない?


 さすが! イービル・トゥルース号専属戦闘要員! マシンガン・サディ!

 その通り! イービル・トゥルース号がこれからやるのは、こっそり超巨大異次元異様要塞カルト・スターに近づいてひっついて、巨悪きょあく象徴しょうちょうみたいに巨大で凶悪きょうあくな巨砲の射角内側に入り込み、ほぼすべての攻撃を不能にしてしまうということだ!

 やっぱり君はこの船にふさわしい、サイコーにヤッヴァイ危険な戦闘要員だぜ!

 はっはっはっは!


 最終局面にはまったく似合わぬ、盛大せいだいな大笑いをブチかますアーク。

「イービル・ボンバー、うるわしき本船の素敵なおケツにご到着」

 主砲照準にお顔を突っ込んだサディが、破滅的な破壊力を秘めたミサイルが、この船のおケツに着きましたよと報告。

「準備はすべて整った。完全沈黙の巨大航宙ホテル船が、突然方向転換なんかしだしら、どんな未曾有みぞうの阿呆駄郎のケツの穴がユルガバな思考の足りねえボンクラ野郎も、万がイチのもしかして、あれは敵なんじゃねえか? と気づいちまったりするかもしれねえからな」

「だから、うるわしの船の素敵なおケツで、ミサイル一発はじけさせ、巨大航宙ホテル船が大爆発で大炎上し、ぶっ飛ぶ方向が変化したふりをするものと状況を判断しちゃうねぇ」

 ミーマ・センクターお姉様が的確に状況を判断。

「すでに完全沈黙状態の一番狙いやすいクッソデカい的。ニューコンチネンタル・オーダニー号は、一般知的生命体を始末してから狙う。後回しになる可能性は確かに大きいですね」

 イカレきってはいるが、合理的な選択と、AXEが冷静に評価。

「そのとおり!」

 アークが片手で拳銃を形作り、アイアンブルーの天へとむけて語りだす。


 俺達はガチでバチバチなマジモンの戦争屋で、積極的平和主義者の対極に存在している消極的戦争主義者だ。

 野蛮の最先端を生きている勇猛果敢ゆうもうかかんな戦闘員が、目の前で一般知的生命体をブッ殺されるのをだまってみているわけにはいかねえよなぁ?!

 この宙域でおっぱじまったマジモンの戦争に、消極的戦争主義者が満載のイービル・トゥルース号はどこまでも絶対に反抗するぞ!

 これよりイービル・トゥルース号は、巨大航宙ホテル船ニューコンチネンタル・オーダニー号という盾に隠れて、超巨大異次元異様要塞カルト・スターにむかって、大逃走という突入を開始するのだ!

 そんでもって最後には、キャプテン・パンダーロック殿の秘策ひさくでもって、何もかもがまんまるふわふわな大団円にいたるってわけよ!

 遥か彼方の昔より大宇宙をまたにかけて今現在にたどり着き、未だにそのモフモフさをめっちゃかわいいいクオリティに保っている、マジモンのサバイバー!

 キャプテン・パンダーロック殿に続けば、死ぬことなんかありゃしねえ!

 俺の予定をむこう200銀河標準年確かめてみても、死ぬ予定はただのひとつもなかった。

 いくぞ!

 何もかもをもみもみつぶして消し去って、なかったことにするsynthetic streamのクソ野郎どもに俺達は抗う!

 ってか、ここで抗わなけりゃ、この船がsynthetic streamを脱出できる可能性はゼロ!

 synthetic streamの行き止まりまで追い込まれて、積極的平和主義者どもに皆殺しにされちまうのが関の山!

 死にたくなけりゃ、キャプテン・パンダーロック殿の大博打に乗りやがれ!

 大逃走開始前のケツをとるぞッ! 

 死にたくねえ奴は挙手!

 機関室からは音声で意志を表明してくれ!


「殺るゾオぉぉぉッ!!!」

 主砲照準器にお顔を突っ込んだまま、紅い高分子素材で包んだ拳を、アイアンブルーの天へと突き上げるサディ。

 めっちゃ体重軽い女のコが力強く突き上げた小さな拳は、どんな言葉よりも強く勝利を確信させる何かがあった。

「ちょっとぉぉぉ……。これ、本当にダイジョブなんですかぁ〜?」

 と言いながらも、タッヤが羽先をピッとあげた。

 私は心底ビビッてる。でも、私は羽先をあげのだ。

 だって現実的に、殺らなければ殺られてしまう極限状態だということは、財務担当でもわかるような最終決戦なのだから。

「シンセティック・ストリームが渦巻く中心から、逃げ切ることはまず不可能。だったらシンセティック・ストリームを潰すしかありません」

 絶対の冷静さをたもちつつ、AXEがゆっくりと手をあげる。レーダー盤をみつめるAXEの目は、冷たい覚悟の光が宿る。

「腐った女子が腐った組織を蹴っ飛ばす! 宇宙の愛が自由であるために、私も大勝負にのるしかないよねぇ!」

 ミーマ・センクターお姉様が、ぐっとにぎった拳をえいっえいっえいっと卑猥ひわいな動きで前後させる。

「くそがぁぁぁ……」

 心底げんなりした悪態あくたいをつきながら、ネガはのろのろと手をあげる。

 あり得ないような逃走先なのだが、確かにこの逃げ道しか今はないのだと、銀河イチ逃げ足の速い俺の心が言っているのだ。

「博打の究極は、ガンガンにレイズでいくよどこまでも。一度乗った大博打から、降りることもできないからなぁ」

 機関室直結通信機から、コタヌーン機関長が大博打にさらに賭けると意思表明。

「ここで降りたら、何もかも失ってしまうかもしれません」

 オクタヌーン機関副長は、最終局面でギャンブラーになってしまったようだ。

「ロボットニ、ジンケンヲ!」

 イクト・ジュウゾウが、メタルアームを突き上げる。

「殺しの依頼、大口案件が大確定」

 冷たいキラーマシーンのイチバチが、クールにメタルハンドで作った拳銃をカルトスターに向ける。

 そして、イービル・トゥルース号のオーナーにして最高執行責任者であるパンダ船長は、無言でもって同意を示した。

「総員の意志によって、船の行き先は決定された! やっちまえ! サディ!」

 アークがアイアンブルーの天に向けた、手で作った拳銃を振り下ろす。

「いっくよー」

 サディの言葉に

「あいよー。お嬢さん」

「どうぞ! サディさん」

 機関室からコタヌーンとオクタヌーンの答えがかえる。

「イチ、ニの、サンッ!」×3

 サディとヌーン夫妻のカウントが完全同期。

 ヌーン夫妻がエニグマ・エンジンの謎に満ちた力を解き放つ!

 イービル・ボンバーの起爆ボタンを、サディが小さな拳でぽんっと押す。

 エニグマ・エンジンが、うるわしの船のケツに、アッツイ青い炎を灯す。

 イービル・ボンバーに満載された、まじりっけなしの暴力のかたまりである爆薬が爆発してうまれた爆炎が、イービル・トゥルース号のケツから吹き出す青い炎とにかきまぜられて、激しく広範囲に紅蓮ぐれん業火ごうかを撒き散らす。

 そして

「くっそがぁぁぁぁッ!」

 銀河イチ逃げ足の速い操縦士の悪態あくたい炸裂さくれつ

 イービル・トゥルース号を大回転させる主砲発射反動に対抗する姿勢制御スラスターが、青い火を吹きはじめる。

 巨大航宙ホテル船ニューコンチネンタル・オーダニー号の背後で大爆発が大炸裂!

 そういう光景を演出しつつ、突撃刺突衝角をブッ刺したままイービル・トゥルース号が、超巨大異次元異様要塞カルト・スターが迫る方位に回頭していく。

「イービル・トゥルース号! 超巨大異次元異様要塞カルトスター直近に存在する、安全地帯に向かって出航!」

 アークが、はっはっはっはと高笑い。

「ちょっとぉぉ。これ、本当にうまくいくんですかぁ〜?」

 結局、最後の秘策の詳細は一切明かされず、バンソロでも弾き出せない成功確率に心底ビビるタッヤの声が、アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋に響く。

「くっそがぁぁぁ……」

 ネガの悪態が心の底から嫌そうに響く。

 もうこうなったら俺は、安全地帯まで逃げるしか無い!

 操縦桿をセンターにいれてスロットル!

 ケツに灯る青い炎を巨大航宙ホテル船の影に隠しつつ、イービル・トゥルース号は超巨大異次元異様要塞カルト・スターに向かって、星の海を飛んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ