今宵は君と、モッキンバードツリーの頂上で
今宵は君と、モッキンバードツリーの頂上で
硬化テクタイト製窓の下に広がるのは、モッキンバードタウンのきらびやかな夜景。そして、その中心にそびえ立つ、モッキンバードツリーの明かりが目の前にひときわ強く輝く。
「船体全力上昇。モッキンバードツリーを飛び越えて、俺達は宇宙へと帰る」
アークが眼下の夜景をみつめて静かに言った。
「クソがァ……」
ネガは深く息を吐くように毒づきながら、宇宙に向かって操縦桿を引き上げ、イービル・トゥルース号の船体を宇宙へと飛翔させていく。
硬化テクタイト製窓の向こうにひろがる夜景が沈み、モッキンバードツリーが指す宇宙の星々が視界に広がる。
彼氏と彼女はモッキンバードツリー最上階の特別室で、ギャラクシーサイズのベッドの中にいた。
先週の所属不明の宇宙戦艦首都上空侵入事件と、その後に続いた一連の騒動から、二人の仲は急接近。
Space Synthesis System中枢閣が、緊急事態に全権を握りこの事態に対処するのだとか。積極的な平和力行使では足らず、これからは先制的に平和力を行使するのだとか。それにともない、Space Synthesis Systemの存在維持が最優先事項とされて、私と君の人権が停止するだとか。緊急事態宣言に名前は似ているけれど、中身はまったくの別物で、本当はクソ恐ろしいとか噂される緊急事態条項が発動したのだとか。一度も行ったことのない選挙が、これからはもう行われないのだとか。とにかく世界は急にきな臭いどころか、燃え上がる煙の真っ只中みたいになって何にも見えなくなってきたけれど、何かが危険で危ないと感じるだけで、具体的に何が危ないのか彼氏と彼女はよくわからなかったし。私と君の人権が停止しても、ラブラブなホテルのお布団の中はいつもどおり最高に素敵だったりしたわけで。
だけど……
もしもこの瞬間に世界が終わるなら?
そんな思いにかられた二人は大奮発して、いまこうしてモッキンバードツリー最上階の特別スイートで、私と君とのあいだにある、特別な愛を確かめあっていたわけで。
私があなたの特別であることと、君が僕の特別であることを、ゆっくり時間をかけて確かめ終わったふたりは、今夜ふたりだけの夜空となった黒い薄布の天蓋を、静かなシーツの海から見上げていた。
「ねえ、夜景を見にいかない?」
彼女が彼氏の手を取って言う。
「うん」
彼氏は彼女と一緒にシーツの海を抜け出して、モッキンバードタウンの夜景を見に窓へと向かう。
「ねえ、もしも、私と一緒なら、この窓から飛び降りてくれる?」
窓際で眼下に広がるモッキンバードタウンの夜景をみつめながら、彼女は彼氏にそう言った。
「え?」
彼氏はその言葉の意味がわからず、彼女の瞳をみつめている。
「ううん。なんでもないの」
彼女はそう言ってゆっくりと首を横にふる。そして、再び窓の先をみつめた彼女の表情が突然、青ざめて凍りつく。
「どうしたの?」
彼女の視線の先を追った彼氏がみたのは……
「あれって……」
満天の星空と、眼下に広がるモッキンバードタウンのきらびやかな夜景の光に照らされながら、一週間前にふたりでみた禍々しいドクロが、夜空をこちらに向かって飛んでくる。
「そんな……あの宇宙戦艦は平定されたはずじゃ……」
彼女の声が引きつる。そしてふたりの視界の前で、あの禍々しいドクロの上に存在する、純粋な暴力の化身である巨大な主砲が、いま再びふたりへと向けられる。
「主砲発射ぁぁっ!」
サディが絶叫とともに、武器管制操作盤上に現れた巨大なリボルバーカノンのトリガーを引き絞る!
海賊放送船イービル・トゥルース号の船体上部の一番二番、船体下部の三番四番砲塔が、45口径48銀河標準センチメートル砲三連装砲から、爆音と共にモッキンバードタウンの夜空に向かって業火を放つッ!
三連装四基十二門から発射された12発の火の玉が、モッキンバードタウンの夜空に炸裂!
七色と金銀の閃光が夜を走り抜け、大輪が咲き誇る花園を夜空に生み出す!
「さらばだ! モッキンバード星! また話そう!」
アークの最後の放送が、モッキンバードタウンの夜空にきらめく花火の中を流れ、海賊放送船イービル・トゥルース号がきらめき散りゆく光の洪水の中を宇宙へと昇っていく時……
それは起こった。




