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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
モッキンバード侵攻作戦
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シンセティック・ストリームとの衝突

本作品は未開の宇宙からやってきた野蛮人どもが多数登場するため、非常に刺激的な発言が含まれます。

あらかじめご了承のうえご閲覧くださいますようお願い申し上げます。

シンセティック・ストリームとの衝突




 暗いアイアンブルーとガンメタルグレイを基調にした空間に、様々な計器類とモニターが並ぶ操作盤。前面に並ぶ分厚い硬化テクタイトで覆われた窓には、自身の船体の下に広がる超過密都市が広がる。艦橋中に、レーダー照射を受けたことを告げる警報音が鳴り響く。

「本船へのレーダー照射を確認。シンセティック・ストリームに発見されました!」

 ゴツいバケットシートに座る、氷砂糖のような半透明の身体を焦げ茶色に黒を組み合わせたレザースーツに包んだ、身長1メートル弱しかない細身の少女が叫び、若葉色があざやかなショートヘアが揺れる。

「びっくりだな。ミーマ。思ったよりここのシンセティック・ストリームどもは優秀じゃないか」

 艦橋の最前列ど真ん中の席。紺色のミリタリージャケット姿の男が、ヘッドセットマイクをOFFにしてからつぶやく。その声はあの都市上空でいきなりまくしたてた、アーク・マーカイザックと名乗る者と同じ声。

「首都のど真ん中でブッ放されたとなったら、さすがにシンセティック・ストリームも本気出すんでしょうね」

 ミーマと呼ばれた、氷砂糖のような半透明の身体をした身長1メートル弱しかない細身の少女が答える。

「レーダーに感あり。SS艦及び航空機複数が高速で本船に接近中」

 アークの右斜め後方の席に座る、虹色の地にセピア色の鳥獣戯画が描かれた和服姿の女性が告げる。アップにまとめた黒髪を留める斧の形をしたかんざしがきらりと光る。

「SSどもが動き出したな。AXE、雑でいいから、レーダーからSS艦の艦種がわかったら教えてくれ」

「はいな」

 アークの左斜め後方の席に座る、AXEと呼ばれた斧のかんざし和服姿の女性が答える。

「機関室。メインエンジン出力上昇願う! 重力下最大船速まであげてくれ」

 紺色ミリタリージャケットの男、アークがヘッドセットに向かって言う。

「あいよ。この星の重力をふりきらない程度に回しますわぁ」

 ヘッドセットからは一切のあわてふためきを感じさせない、どこかそこはかとなく緊張感を消し去る声が響く。

「機関長コタヌーン殿、よろしく頼む。降りてきたばっかで、宇宙まであがっちまうのもったいない」

 アークはヘッドセットマイクにつぶやき、背後を振り返る。

「で、船長。どうします?」

 アークの視線の先には艦長席。そして艦長席には、いかつい艦長服に身を包んだパンダが微動だにせず鎮座している。

 艦橋にいる全員の視線が、艦長席に座るパンダに集中する。

 艦長席に座るパンダは微動だにせず、全乗組員の視線を受けとめる。

「ぱふぉっ」

 艦長席に座るパンダはそう言った。

「アーク。船長はなんて?」

 艦橋最前列ど真ん中にいるアークの左真横の席。暗い深紅に漆黒を組み合わせた地に、真っ赤なバラが描かれた和服に身を包んだ銀髪の女性が、真横にいるアークを見つめる。その瞳は、真っ赤なリンゴみたいに赤い。

「サディ、いい質問だ。とにかくずらかれ。船長はそう言った」

 一瞬静まり返る艦橋。

「イービル・トゥルース号、全力逃走! 了解ッ!」

 勢いよく答えたのは、アークの右真横に座る、全身漆黒のレザースーツに身を包んだガスマスクの男だった。

「頼んだ。ネガ。銀河一早い逃げ足ってやつをみせてやれ」

「クソがぁっ!」

 ネガと呼ばれたガスマスクの男が答え、スロットルペダルを踏み込む。

 イービル・トゥルース号船尾の熱核ロケットエンジンが吠える。船体に強大な推力がかかり、分厚い硬化テクタイト製の窓にうつる空が高速で動き出す。

「本船の残存推進剤で飛び回れるのは、この星一周と半分だけです。これ以上の航行は宇宙空間への離脱が不可能になります。注意してください」

 様々な計器類を確認しながら、人のサイズほどもある巨大なスズメの形をした鳥が、艦橋左舷側の席から言う。

「ありがとうよ。タッヤ。聞いたな? ネガ。この星を一周半するまでに逃げ切るぞ」

「クソがぁっ!」

 ネガはそう叫んで、ちょっとだけ船のスロットルをゆるめる。

「AXE。このまま直進すると海に出るよな?」

 艦橋前面を覆うぶ厚い硬化テクタイト製窓から外をみつめるアークが、ぶっきらぼうに言う。

「海に出ますね」

 アークの斜め後ろに座る、和服姿に斧のかんざし姿のAXEが答える。

「クソがぁっ!」

 なぜか全身漆黒のレザースーツにガスマスクのネガは再び叫ぶ。

「このまま都市上空を突っ切って海に出るぞ」

 硬化テクタイト製窓の先に広がる空をみつめながら、アークが言う。

「3時の方向に回頭すれば海はすぐそこだよ。アーク」

 レーダー照射を告げたミーマが、モニターを見つめながら言う。

「そうだろうな。このまま直進しても、この星を一周半するまでたどりつけないほど海は遠くはないだろう? この空を自由に飛ぶ俺たちの姿をみせつけるのも宣伝だ」

 アークはそう言って硬化テクタイト製窓の先に広がる空と、眼下に鎮座する2機の巨大な三連装主砲塔をみつめ続ける。

「クソがぁっ!」

 またもネガは叫び、今度はちょっとだけスロットルをさらに踏む。

「SS戦闘機が複数接近中」

 AXEがレーダーをみつめて告げる。

「放置でいい。陸の上でこちらを攻撃するほど度胸はない」

 アークは相変わらず硬化テクタイト製窓の外をみつめながら冷静に言う。

「接近するSS戦闘機から公開チャンネルで音声通信。即時停船を要求しています」

 ミーマがモニターに表示された、公開チャンネルからの通信を告げる。

 アークは一瞬考えをめぐらせて言う。

「ミーマ。回線をつないでくれ、それと同時に、通信の内容を96.9銀河標準メガヘルツで流す」

「はーい。通信内容を海賊放送で公開ね」

 ミーマが接近するSS戦闘機と回線をつなぐ。

「さきほど首都上空にて発砲し、現在航行中の所属不明の艦に告げる。こちらはSpace Synthesis System モッキンバード星域方面 System Self-Defense Force SSF支援要撃隊、隊長ヘル・ツゲル主任特務大尉である。貴様の艦はありとあらゆるSpace Synthesis System法に違反し、この銀河の平穏を乱している。ただちに停船せよ。ただちに停船せよ。停船なき場合は、容赦なく積極的平和力の行使を開始する!」

 暗いアイアンブルーとガンメタルグレイを基調にした艦橋に音声が流れる。

「ミーマ。海賊放送開始」

 アークの言葉にミーマがうなづく。

「ナイン・シックス・ポイント・ナイン! 銀河標準メガヘルツ。レディオ・イービル・トゥルース放送開始!」

 操作盤のドクロマークが描かれた赤いボタンを、ミーマがふりあげた拳を打ち下ろしてONにする。

 艦橋に多数存在するモニターのいくつかが、濃密なブルーのうえに描かれたドクロと、エックスの形に交差した大腿骨の海賊旗を表示。RADIO・EVIL TRUTH NOW ON AIRの赤い文字が海賊旗の上に踊る。

 その瞬間、迫りくるSS艦と戦闘機から逃げる海賊放送船イービル・トゥルース号から、Space Synthesis System法を無視した違法電波が放たれる。

 アークはヘッドセットのマイクスイッチを入れて話はじめる。

「こちらはやたら熱い音楽と嘘みたいな本当の話を退屈極まる日常にお届けるために、この銀河から遠く離れた未開の宇宙からやってきた野蛮人が満載の海賊放送船イービル・トゥルース号だ。以後よろしく。すまんな。遠い未開の宇宙からきた野蛮人なもんで、Space Synthesis Systemとか知らん。ということで、Space Synthesis System法とやらも知らん。さきほどの発砲は海賊放送の宣伝のためであって、攻撃を意図しての実弾発射ではない。Space Synthesis Systemとやらに対して攻撃する意図はない。もちろん、戦争をおっぱじめるつもりもない。ということで、貴殿らはとっとと帰投されて、こたつに入りお茶でも飲んでみかんムキムキしつつ、レディオ・イービル・トゥルースの放送を楽しんでくれたまえ」

「ふざけるな! この宇宙を統治するSpace Synthesis System を知らぬなどということがあるか!」

 通信相手はあまりのふざけた回答に激昂して答える。

「この宇宙を統治するだ? この宇宙はどこまでも広がる海だ。たかが銀河のひとつかふたつ支配したくらいで、宇宙の支配者にでもなったつもりか?」

 アークはつまらないそうにそう返す。

「銀河ひとつやふたつじゃない! このモッキンバード星系の属するバードマン銀河、リヴォフ銀河、サンドミール銀河、他にも多数の銀河を統べる、この宇宙最大の統治機構だろうが! どんな田舎者だって知っている! いずれこの宇宙全体をひとつにするSpace Synthesis Systemをだ! わかったか! このイカレ野郎!」

 通信相手はさらに激昂してまくしたてる。

「この広大な宇宙をひとつにする? とんだ誇大妄想狂だな。あんた」

 アークはまたつまらなそうに返す。

「ふざけやがって、てめえはマジキチのクソ野郎だッ! 第一、てめえはSpace Synthesis System標準語をしゃべってるじゃねえか!」

 ガツン! と何かを叩く音がイービル・トゥルース号の艦橋に響く。

「ああ、これはな。翻訳コンニャクというものを食ってだな……」



「テメエは何を言っている!?」

 Space Synthesis System モッキンバード星域方面 System Self-Defense Force SSF支援要撃隊長のヘル・ツゲル主任特務大尉が、意味不明の通信相手にブチ切れて、自身が座る支援要撃機のシートの肘掛けに拳を再び打ち下ろした時、別の通信からの音声が割り込んできた。

「あの、隊長……。通信内容がすべて流れていますので……その」

「当たり前だろうが! こいつは公開チャンネルなんだ。おまえにも聞こえて当然だろうが!」

「いや、そうなのですが、それだけでなく」

「それだけでなくなんだ?!」

「いわゆるラジオ放送というもので、隊長の声が全世界に流れてまして……」

「なんだとっ!? どういうことだ? どこの放送局だ? SSFの通信を公開放送する局なんて聞いたことがないぞ!」

「その……。大変申し上げづらいのですが……。現在隊長が交信しておられる所属不明艦が流している違法電波による海賊放送です……」

「このマジキチのド腐れ外道がァァァァァァっ!」

「ですから、隊長……、もう少しお言葉を……」

 ガツーーーン!

 SSF支援要撃隊隊長ヘル・ツゲル主任特務大尉が、怒りのあまり通信装置に拳を叩き込み、そこで通信は終了した。



「アーク。翻訳コンニャクってなに?」

 真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳に、怪訝そうな色を浮かべたサディが、真横にいるアークを横目にじっとみつめて言った。

「俺の育った星にはな、世界秩序をぶっ飛ばすぐらいの、ぶったまげるようなスーパーリアルロボットがいて、そいつが持ってる超絶万能翻訳マシンのことさ」

 アークははっはっはっはっと笑いながら、ぶ厚い硬化テクタイト製窓の外をみつめながら言う。

「アーク。あんたはそのスーパーロボットが持っていた、超絶万能翻訳マシンを食べたってこと?」

 サディの表情はさらに怪訝なものに変わっていく。

「サディ。この話はとんでもなく長い話でな。SSのクソ野郎どもに追われながらするには少々な」

 サディは深くため息をつくと、真っ赤なリンゴみたいな赤い瞳をぐるりとまわした。

「なんとなく理解できました。で、アークどうする? 通信も叩き切られたし、撃ってくるんじゃない? でも、ここでドンパチするのは……」

「陸の上ではこちらを撃てない。二次被害がデカ過ぎる」

「だから海に向かっている?」

「その通り。サディ。海に出たら盛大に血を流そう」

「了解。アーク。もちろん準備できてるよ」

 サディはつまらなそうに言うと、手元の武器管制操作盤に視線を落とす。

「ねえ、アーク」

 サディが手元の銃器の形を模した武器管制操作桿の近くを、指でいじりながら言った。

「なんだ? サディ?」

 アークはサディを横目で見つつ言う。

「今撃っちゃだめ?」

 サディは武器管制操作盤から、真横にいるアークに視線を移してそう言った。

「サディ。船長の命令は、とにかくずらかれ。だ」

 アークはそう言うと、ぶ厚い硬化テクタイトで覆われた窓の先に広がる、モッキンバード星の青空を見つめ続ける。



「あいつら、下に陸がある限り攻撃してこないとたかをくくってやがる」

 先程の暴言を海賊放送で流され、上層部からかなりの苦言を呈されたヘル・ツゲル主任特務大尉は歯ぎしりをする。

 さきほど拳を叩き込み、これは始末書確定かとションボリするようなダメージを負ってしまった通信機が点滅表示。

「主任大尉。ビッグウエスト・セブンフリートより入電。我、包囲陣を形成しつつあり。我、包囲陣を形成しつつあり。貴殿は所属不明艦を警戒継続、必要とあらば牽制せよ。以上」

 ツゲルはにやりと笑う。

 ビッグウエスト・セブンフリートの包囲陣の前では、たった一隻の宇宙戦艦ごときは絶対に生き残れない。

「デカい口を叩いた報いをうけるがいい。マジキチド腐れ外道のバカ野郎が」

 ツゲルは通信機の送信が切れていることをしっかり確認してから、そう言った。

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