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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
モッキンバード侵攻作戦
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首都上空を明け渡せ!!

首都上空を明け渡せ!!




「全機! 積極的平和行動用意!」

 System Self-Defense Force SSF支援迎撃隊隊長、ヘル・ツゲルの号令が響く。

 全機関正常動作。全平和力安全装置解除。モニターに俺を積極的に解き放てと、平和力どもからの催促が表示される。

 モッキンバードタウン上空を守るため全機が空にあがり、腹に抱え込んだすべての平和力を使用可能にして、まっすぐに直進してくるあのマ(以下略)艦に全平和力を積極的に打ち込み徹底的に平定するために、俺たちは全力で海上を飛んでいる。

 ヘル・ツゲルは操縦桿を握りしめ、わなわなと震えていた。

 おそらく。いや、ほぼ100%。空にあがった支援迎撃機全機が平和力の全てを発射したところで、あのマ(以下略)艦を沈めることはできないのはわかっていた。七日前、発射したすべての平和力が、実は迎撃撃墜されていたという事実が重くのしかかってくる。

 あれは弐番艦なんかじゃない。俺が沈めたと思った艦だ。

 だが、やるしかない。

 ビッグウエスト・セブンフリートの主砲の先には、モッキンバードタウンがある。首都上空で宇宙戦艦を沈められるわけがない。つまりは首都上空に主砲を撃てるわけがない。

 それを見越しやがって……

 ヘル・ツゲルは操縦桿のトリガーをみつめる。

 積極的平和力の行使チャンスはたったの一回。宇宙戦艦の真正面から全機突っ込み、相手の迎撃砲の射角がおよばないであろうドクロマークの艦首近傍の空間に、腹に抱えまくった平和力を全て積極的に行使するだけ。

「各機に告ぐ! セブンフリートの艦砲による積極的平和力の行使は絶望的状況だ。モッキンバードタウン上空を守り、モッキンバードタウンの住民を守るのは我々の使命である! ぎりぎりまで接近し、全平和力をあのマ(以下略)艦のドクロに叩き込むぞ!」

「了!」

 全機からの決意の返事にツゲルがうなづいた時、緊急通信を告げる警告表示が、コクピットを紅く染めた。



「本船前方、多数の戦闘機が本船に真正面から突入してきます!」

 ドリルのように一点集中でイービル・トゥルース号に迫る、戦闘機の群れを映し出したレーダーをみつめてAXEが言った。

「相手は砲の射角に入らない、艦首近傍に存在する空間を狙って撃ってくるはずだ。対艦ミサイル発射確認と同時に、船首をあげて空を見上げるぞ。船体を傾斜し、砲の射角を確保!」

 アークが海賊放送へのヘッドセットマイク出力をOFFにして言う。

「クソがッ!」

 ネガは操縦桿にかじりつきながら答える。

「サディ! 対艦ミサイルの発射と同時に船を空にむけて傾ける。確保した射角で主砲以外で使える砲で全弾落とせ! ただし、1発も街には当てるな! 向こうにとっちゃ、最後の防衛線。こっちにとっちゃ、ここを街に被害を出さずに切り抜けないと、一生一般市民からその首を狙われる、ガチのお尋ね者になっちまう。こいつはギリギリ守らないといけないラインってやつだ!」

 アークが全兵装の操作を握るサディに叫ぶ。

「任せて! 撃つのは大好きだけど、街を撃つのは私の流儀じゃないからね!」

 あらゆる武器が俺を解き放てと光を放つ、武器管制操作盤に照らされた顔でサディが叫ぶ。



「なにが!?」

 最大の推力で支援迎撃機のケツを蹴っ飛ばし、音速を超えて空を翔けるツゲルが緊急通信回線を開く。

「こちらはSystem Self-Defense Force SSF司令部である。支援迎撃隊、至急散開せよ! 至急散開せよ! 同時に全平和力の行使を中止。隊を南北へ散開させ、首都上空をあけろ!」

 緊急回線から流れてきたのは、まったくもって意味不明の命令だった。

「バカな! 地上部隊からの積極的平和力行使は確実に迎撃無効化される! しかも地上にまで被害がおよぶぞ! 事実上我々が最後の防衛線なのだぞ!」

 ツゲルの絶叫。

「貴様。通常時であれば、いまの発言ひとつで組織的にかつ社会的に思想的に完全に死んだぞ。だが、いまは非常時だ。今回だけは見逃してやる。貴様には疑問を持つ義務も権利も選択もない。命令に従え」

 緊急回線からは人の感情を持たない冷たい言葉が響く。

「しかし……」

「命令に従え。貴様には疑問を持つ義務も権利も選択もない。命令に従え」

 緊急回線から繰り返されるのは、冷たい言葉。

 敵の欺瞞ぎまん工作か?

 ツゲルの脳が高速回転を開始する。

 可能性としてはあり得る。首都モッキンバードタウンに侵入しようとする艦に対して、海洋方向からセブンフリートの艦砲による積極的平和力行使はありえない。首都を撃つなど、System Self-Defense Force SSFとしてあってはならぬ平和力の行使だ。地上部隊からの長距離射撃による積極的平和力行使は迎撃無効化されるだろう。事実上、我々が遂行中の艦首への地獄の平和的突入行動しか期待できる防衛行動はありえない。

 欺瞞ぎまん通信一回で、このヘル・ツゲルの地獄の平和突入行動を止められるなら安いものだ。

 だが、あのマ(以下略)艦のアークとかいうマ(以下略)野郎と話した時に感じた感覚とはまったく異質の、このクソ冷たい通信。

「命令に従え。貴様には疑問を持つ義務も権利も選択もない。命令に従え。ヘル・ツゲル。命令違反は貴様のSpace synthesis systemでの社会的な死を意味する」

 さらに繰り返される通信内容から、あのマ(以下略)野郎から感じた、意味不明支離滅裂な人間性の感触は一切ない。ただ感じるのは、Space synthesis systemが持つ、冷え切った宇宙のようなあの馴染み深い冷たさを持った、不気味な組織の体温だけだ。

 あまりにもよくデキ過ぎた欺瞞ぎまん工作? それとも、これは本当に本物の命令なのか? 

 ツゲルの脳が混乱する。

 しかし、こんな命令はありえない……

 ありえないんだ!

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