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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第六部

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もう知的生命体じゃない

もう知的生命体じゃない




「全平和力の喪失そうしつはあり得ない。アンダーコントロール」

 天を我が物にして統一するがごとく、両手を広げて立つアベンシゾー総統陛下の異次元の偉容いようなお姿が、モニターに映し出されている。

 ドブラックな壺鉤十字つぼかぎじゅうじ御神体ごしんたいとしてかかげる、せまくるしい臨時現場指揮所りんじげんばしきしょ各所かくしょ力尽つからつきた権畜達が梱包材こんぽうざいにくるまり転がり、巨大航宙ホテル船ニューコンチネンタル・オーダニー号の従業員購買所で販売される、安価な即席食料の包装ほうそうがあちこちに散らばる。

 森羅万象をつかさどると豪語する総統陛下の実務じつむを実行し、豪華絢爛ごうかけんらんたるサントソーのタダ酒まみれの酒宴しゅえん、ザヤカを見る会を運営する臨時現場指揮所りんじげんばしきしょのモニターには、酒池肉林しゅちにくりんのRed Sukers 大自民統一教会亭から生中継された映像が投影されていた。

「アベンシゾー総統陛下!! 全平和力喪失ぜんへいわりょくそうしつ完全否認かんぜんひにん! さらに状況をアンダーコントロールとご宣言! 命じはしたが命令していない。忖度そんたくを開始せよとのご下命かめいをいただいた!! 権畜総員けんちくそういん! 各位かくいが全力を持って自己判断と自己責任で忖度そんたくを開始せよ! みんなのチームワークで力の限り権力にご奉仕ほうしくし、総統陛下のご随意ずいいにあわせて、現場判断の現場責任でもって現実を最適に修正せよッ!!」

 臨時現場指揮所りんじげんばしきしょの中間管理職に就任しゅうにんした、木端役職持こっぱやくしょくもちの権畜が怒鳴り散らす。

「しかし……。これは……。完全に全平和力喪失の状態です……。ドロドロに溶け落ちようとしている現場を冷却することは、もう……」

 機体中枢きたいちゅうすうつらぬかれて隠滅能力いんめつのうりょくをすでに喪失そうしつした、必勝必殺滅殺隠滅機械ひっしょうひっさつめっさついんめつきかい最終隠滅平気さいしゅういんめつへいきドリルド・ブッチ・O・ユーコの破滅的な状況に、ひとりの権畜が絶望を口にする。

「アベンシゾー総統陛下は、全平和力の喪失を完全否認かんぜんひにんし、現場はアンダーコントロールにあるとご宣言せんげんなされのだ! そして忖度そんたくを開始せよと、命じはしたが命令はしておられないのだ! であるならば、現場をなんとかするのは、現場の判断と現場の責任だけだろうがぁぁ! てめえら、プロ意識をもって仕事しろぉぉぉッ!」

 臨時現場指揮所りんじげんばしきしょの中間管理職に就任した、木端役職持ちの権畜が怒鳴り散らす。

「では……、プロの現場を統率とうそつする課の管理職である、あなたから、何をどうするのかご下命を」

 絶望的な状況を前に、こんなの現場ではどうしようもない、なんとかできるのなら具体的な指示を出せという、権畜からの的確てきかくな言葉。

「だからぁぁ! 俺はぁぁぁ! 管理職に頼るのではなく、現場のことは現場が現場で判断して、現場の責任でなんとかしろって、現場にいるプロのてめえらに、きちっと現場責任もってプロ意識でちゃんとやれって、具体的に指示命令しているだろうがぁッ!!」

 ぜんぶ現場でナントカしろなんて、小学生でもできる仕事じゃねえかよ……、管理職ってやつは……

 メッチャクチャに破壊された必勝必殺滅殺隠滅機械ひっしょうひっさつめっさついんめつきかい最終隠滅平気さいしゅういんめつへいきドリルド・ブッチ・O・ユーコの現状は、壊滅的かいめつてき破滅的はめつてき、マジでほろびる五秒前。

「この現場をナントカできないなら、てめえら全員プロ失格だぁぁぁッ! 現場責任を徹底的に追求して、てめえら全員社会的に破滅なんだからなぁ!」

 臨時現場指揮所りんじげんばしきしょの中間管理職に就任した、木端役職持ちの権畜が、Space Synthesis System伝統の

 い・や・が・ら・せ・デ・お・も・て・な・し・テ・お・ぞ・ま・し・い、社会的な死をバンバンにちらつかせる!


 この現場をしくじったら、てめえら全員現場責任を追求されて、組織に大損害を与えた罪で、間違いなく懲戒解雇ちょうかいかいこだ!

 組織に大損害を与えた責任を、一個の知的生命体に対して組織は徹底的に、どこまでも絶対に許さずに追求するぞ!

 つまり組織から全員に大損害賠償請求だいそんがいばいしょうせいきゅうだ!

 それがどういうことかわかってんのか!?

 てめえらは仕事と収入と社会的信用をすみやかにすべて喪失そうしつし、再就職など絶対にできないからなぁ!

 つまりは社会的に永久BANなんだぞ!

 そうしたら、てめえらの家族も全員、生涯しょうがいにわたって社会的に永久BAN!

 イチ人前の社会人たるてめえらは、それぐらいの社会的な道理どうりを、当然わかっているよなぁ!?


 さらに追撃ついげきをブチこんでくる、心の底から震え上がるような、社会を転がり落とされる者へさしのべられる、Space Synthesis System伝統の

 い・や・が・ら・せ・デ・お・も・て・な・し・テ・お・ぞ・ま・し・い・おはげまし!

 怖い! 怖い! 社会が怖い! 俺をやとっている会社が怖い!

 敵なんかより、俺の上司がマジでヤヴァイッ!

 どうする!? この状況から、何ができる!?

 ドログチャにかきまわされたクソのつぼみたいな現実をなんとかしないと、俺たちはもうおしまいだ!

 俺が社会的に死ぬ。家族が社会的に死ぬ。経済的に死んでしまう。

 総統陛下は何一つ手をくださないのに、俺たちは一家揃って、自主的に生物学的一斉BANだ!!

 浮かぶ浮かぶ目に浮かぶ、自主的に首を吊ってる自分の姿が。

 浮かぶ浮かぶ目に浮かぶ、自主的という名の強制で、道連れになる家族の死に様が。

 浮かぶ浮かぶ目に浮かぶ、すべての責任を自己責任で背負わされ、社会的に抹殺まっさつされていく俺と家族の物語が。

「ついこの間、マイホームの45銀河標準年ローンを組んだばかりなのに……」

「俺は……、子供が生まれたばかりなんだ……」

「娘を大学に通わせて、次の世代は権畜から脱出させようと願っていたのに……」

「権畜の給料で、仲良くなったガールズバーの女の子と結婚するつもりだったのに……」

 漏れる漏れる。あちこちで悲痛な悲鳴みたいに悲劇的な言葉が漏れる。

 すごい! ヤヴァイ! トンデモナーイ! Space Synthesis System特有の厳し過ぎる現実に直面することになった、おっきな組織の小さな個人。

 世間様が安定と呼ぶいわゆる普通の幸せが、めっちゃくちゃに破壊される恐怖に直面した、イチ個生命体の阿鼻叫喚あびきょうかんの言葉が漏れて漏れてあふれだす。

「もう……。知的生命体であることをやめるしかない……」

 ひとりの技術系権畜が、ぼそりと言葉を漏らす。

「だけど……。知的生命体であることをやめたら……。俺達は……」

 ひとりの技術系権畜が踏みとどまれと異をとなえる。

「もうずっと前から……。俺たちは知的生命体なんかじゃなかったのさ……」

 また別の技術系権畜が、ずっと前から知的生命体扱いなんかされてこなかったことを噛みしめる。

「だって、そうだろう? 俺達はめったに出てこれない都会ってやつで、パーティに参加するのを楽しみにやってきた一般知的生命体達を、総統陛下のために忖度そんたくして、生物学的にBANして隠滅したんだぞ? これは許されざる罪だ……。俺はもう……」

 権畜達の瞳から、涙がこぼれ落ちはじめる。

 ローンを組んだ家のため、家族のため、子供のミルクのために、俺はとんでもないヤヴァイことに手を染めてしまったのだ……

 行きつけのガールズバーの女の子が独立するのを助けるために……

 子猫になろうとしてがんばって、猫耳と尻尾が生えてくるところまではきた美少女配信者に、高額スーパーチャージをして助けるために……

 俺は自分の手を汚してしまった。仕方なかったんだ……。だって、俺には幸せになる義務があるのだから……

 自分の両手が、パーティ会場にブチまかれた血で染まっているのが目にみえる。

 単身赴任たんしんふにんで、やっと買ったマイホームに置いてきた子供が、毎夜夢に現れて

「お父さんは憲法違反なの? アベンシゾーにそそのかされて、憲法違反の行為をやって、両手を血に染めてしまったの?」

 と涙をボロボロ流して問うてくるのだろう。

「昔々に押し付けられた憲法だったら、間違いなくお父さんは憲法違反だったよ……。だって、忖度そんたくでこんなことをやってしまったんだ……。でも、いまは大丈夫なんだ。安心するんだよ。アベンシゾー総統陛下が、何もかも権力が好き放題にやっても、緊急事態なんだから許されるように、憲法を変えてくださったから。これはすべて緊急事態条項きんきゅうじたいじょうこうのおかげなんだ」

 にっこり笑って、何も心配することなんかないよと言う自分の顔を、怪物をみるような目でみあげる我が子の顔……

 そんな目で俺をみないでくれ!

 だって! 仕方ないじゃないか!

 おまえを養い学校に通わせるためなんだ!

 アベンシゾーがカルト宗教に言われるがままに改変した、カルト宗教によって押し付けられた憲法に従うしかないんだ!

 だってもう! カルト宗教の思惑おもわくあやつられるままに、国の形は改変されてしまったのだから!

 Space Synthesis System憲法に書き加えられた緊急事態条項きんきゅうじたいじょうこうの前では、権力の前では一個に過ぎない知的生命体なんて、何の価値もないんだよ!

 だから、俺は正しい! 正しいんだ! 合憲なんだ! ぜんぶ緊急事態条項がナニをやっても許されると決めてるんだぁぁぁ!

 我が子よ! だからそんな怪物をみるような目で、お父さんをみるんじゃないッ!

 やるぞ! 俺はやる!

 すでに一般知的生命体を大量に隠滅いんめつするという、後に引けない悪徳あくとくに俺は手を染めたのだ!

 緊急事態条項発動下きんきゅうじたいじょうこうはつどうかでは合憲ごうけんで合法だとか言われても、俺の心に二度と平穏へいおんはおとずれない!

 この先、追加で何人隠滅なんにんいんめつしようが、もうどうということはない!

 俺は完全に一線を超えているんだ!

 だって、俺は人の名を持たない権畜ナンバーズ! 知的生命体としてのナントカなどというものは、仕事のために遠の昔に捨て去ったのだ!

「非知的生命体的な組織で、非知的生命体的なことをずっとずっと続けてきたんだ。俺たちは、非知的生命体な道を極めた、ひとでなしの頂点に立つエリート。つまりは、システムの中でもっとも優秀な権畜ってことなのさ……」

 技術系権畜の一人が、禁忌きんきと書かれたボタンを覆う、厳重げんじゅうな誤動作防止カバーを引きがす。

「それは!!」

 禁忌きんきと書かれたボタンを押下おうかする。その結果どんな惨劇さんげきがはじまるのか知っている総合職系権畜が叫び、ボタンを押そうとする技術系権畜を羽交はがめにして止める。

「俺にはマイホームのローンがある……」

「俺にも子供の学費ローンがある……」

「俺なんか自分自身の奨学金ローンがまだ未返済なんだぞ……」

「俺の金銭支援で独立できたら結婚を約束している、ガールズバーの若い女が、俺にはいるんだぞ!」

 禁忌きんきと書かれたボタンを押せ押せ押せ! と、いろんな権畜達がはやしたてる。

 羽交い締めにされた技術系権畜が、ブツブツつぶやきながら羽交い締めの中でもがいて禁忌と書かれたボタンに手をのばす。

「だが! それを押したら!」

 技術系権畜を羽交い締めにした総合職系権畜が叫んだ。

「酷いことが起きるさ。でも、酷いことが起きるのは、俺にじゃないし、俺の家族に起きるわけじゃない」

 涙をボロボロ流しながら笑う技術系権畜が、羽交い締めする腕かに逃れようともがきながらそう言った。

 禁忌と書かれたボタンを押そうとする技術系権畜を羽交い締めにした、総合職系権畜が話し出す


 俺たちは、組織にすべてを売り渡した権畜だ。

 みてはいけないものをみてしまった一般知的生命体達を、巨悪きょあく象徴しょうちょうみたいに巨大で凶悪きょうあくなドリルマシンを使って隠滅いんめつしたのは俺達だ。

 アベンシゾーが改変したカルト宗教のための憲法に記載された、緊急事態条項が発動したのだから、いまは何をやっても合憲だ合法だと言ったって……

 今日、俺達がやったことを知られたら、後ろ指刺ゆびさされるどころじゃなくて、背後からレーザーブレードを刺されても文句を言えない……

 俺達は完全に一線を超えた。

 だが……、だからと言って、一線を超えたその先は、もう何をやったって同じというわけじゃない。

 今踏みとどまることだってできるはずだ。これ以上、罪を重ねないことだってできるはずだ。

 禁忌きんきと書かれたボタンを押した後に起きることを考えろ。

 禁忌と書かれたボタンを押したら……

 おまえの子供がしたから上目遣いで目に涙をためて、お父さんは憲法違反なの? なんて言うくらいじゃすまん。

 おまえは我が子の前で、一見はほとんど無害そうな知的生命体に見えて、その内側は知的生命体道を外れた正真正銘しょうしんしょうめいの怪物として永遠に生きるんだ。

 おまえは永遠に怪物になるんだ。怪物になって子供の成長を見守るんだ。

 どんなに子供が立派に育っても、その親は……、正真正銘しょうしんしょうめいの怪物なんだぞ!

 どんなに手を洗ったって、その手にまとわりついた血糊はとれんぞ!

 おまえだけに見える血まみれの手で、おまえは我が子を撫で続けるのだ。

 ずっと続く地獄だぞ!

 カルトの総帥そうすいみたいなアベンシゾー総統陛下が、カルト宗教の意のままに憲法を改正し、緊急事態条項をつけたした。

 緊急事態発生! 緊急事態条項発動! 緊急事態なんだから何をやっても許される! だって緊急事態なんだから!

 理屈りくつではどんなにそう言っても、知的生命体にはこえてはならない一線というものがある。

 俺達はその一線をすでに超えてしまったが、禁忌と書かれたボタンの先にあるのは、知的生命体の生命そのものに対する冒涜ぼうとくだ。

 権畜どころか、犬畜生いぬちくしょうにもおと鬼畜きちく所業しょぎょぅに手を出したら……

 すでに俺達は許されざるものだが、それこそ永遠の地獄に落ちるぞ!

 いまならまだ間に合う。禁忌きんきのボタンを封印するんだ!

 そして、少しでも犯した罪をつぐなおう!

 俺達は多数の一般知的生命体を隠滅したことを公開して!

 アベンシゾー総統陛下への忖度でもって実行した罪を、わずかでもつぐなおうじゃないか!


「うるさい! 緊急事態条項発動下では、一個の知的生命体に人権なんかないんだッ! 権力のためにどれだけ隠滅しようがどうということはない! だって合憲なんだから! なにをしようがどうということはない! だから何をやったってかまわないんだ!」

 おそろしい力でもって羽交い締めをふりほどき、技術系権畜が禁忌と書かれたボタンに手をのばす!

「やめろ!」

 もう一度羽交い締めに捕らえようと、総合職系権畜が手を伸ばすがもう遅い。

「俺達はもう、知的生命体なんかじゃない!」

 技術系権畜が、涙をボロボロ流しながら狂ったように笑い、禁忌と書かれたボタンを叩く。

「最終決戦平気・富国強兵発動」

 モニターに表示されるイカツイ書体の文字が、禁忌発動を告げる。

「これは家族を守るためなんだぁぁぁ!」

 技術系権畜の絶叫が、何もかもを丸投げされた、現場指揮所の循環空気を震わせ続ける。

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