赤い海にサントソーのタダ酒を
赤い海にサントソーのタダ酒を
ブルーナイトメア・スーパーエクスキューションが、無限の軌道を回る履帯で、ニューコンチネンタル・オーダニー号の華美な回廊を蹂躙していく。
最初にたどりついた耐圧扉の前には、かつてチバラ銀河仕様の魔改造武装二輪だったものと、珍走団だった者たちの成れの果てが赤い汚れとなって散乱していたが、アークはなにひとつ表情をかえなかった。
床にぶちまけられた不快なゴミを作り出したSystem Schutzstaffel突撃隊員の防衛陣を、右腕からのばしたメタルワイヤーひとふりで両断して、床に広がる赤い海に大量の新鮮な臓器と流血を追加する。
湯気あがる血みどろの先に立ちふさがる装飾まみれの耐圧扉を、極厚装甲シールドから射出されるメタル杭でぶち抜き、シールドをねじ込みこじ開けて、アークは進む。
System Schutzstaffelのクソ野郎どもをメタルワイヤーで両断しまくった結果、機体に壮絶な返り血を浴びたブルーナイトメアは、正真正銘の狂い過ぎたマジモンの狂戦士だった。そんなブルーナイトメアを止める者は、もう誰一人いなかった。
かえり血まみれのブルーナイトメアは、奴らにとって逆らってはいけない、絶対的な権力者様にみえたのだろう。黒尽くめのSystem Schutzstaffel突撃隊員達は、華美な通路を爆走する血まみれの青いヘヴィメタルマシーンに道をゆずり、ただ見送ることしかできなかった。
「現金なものだな」
アークはまたひとつ耐圧扉をぶち破り、こじあけ内部に突き進みながら思う。
「この調子なら、想定より200%簡単に、アベンシゾーを殺れそうだ」
アークの口元が不気味に歪む。
ここには、AXEもタッヤもミーマもネガも、ヌーン夫妻も誰もいない。
「たった一騎で乗り込んできたイカレ野郎を、誰一人止められないとはな! はっはっはっはっ! サイコ野郎がイカレ野郎に殺られるにはピッタリの、最高の展開ってやつだ!」
海賊放送船の中では絶対にみせない危険な光を瞳に宿して、アークはいつもの高笑いをする。
アークの高笑いを、誰が聞いているわけでもなかった。だが、もしも今のアークの笑いを聞いたなら、誰もが震えあがっただろう。それはいつもと寸分違わない、アークの笑い声のはずなのに。
「ミーマの予想だと、そろそろか」
サディが主砲照準器でとらえたパーティ会場の窓から予想した、ニューコンチネンタル・オーダニー号内部の存在位置を記した図を、アークは確認。
眼の前に迫るのは、ひときわ華美な装飾がほどこされた、巨大な耐圧扉。
「さすが! 俺とは違う公的資格持ち、ミーマ・センクター。いい仕事だぜ」
極厚装甲シールドに内蔵された、爆薬の爆裂と電磁加速によって射出されるハードでヘヴィなメタル杭の照準を華美な耐圧扉にあわせ、アークが引き金を引き絞る。
ブルーナイトメアを震わせる爆音、ハードでヘヴィなメタル杭が耐圧扉に突入する轟音。ぶち抜いて開けた穴に、極厚装甲シールドの先端を突っ込んでこじ開ける。
支点、力点、作用点。装飾華美な耐圧扉が、技術によって生み出された圧倒的な暴力によってこじあけられ、ブルーナイトメアがザヤカを見る会のパーティ会場へと侵入していく。
「待たせたな。アベンシゾー。おまえを殺しに来てやったぞ」
誰一人観測する者がいない世界で、アークの瞳に狂ったような光がギラつく。
極厚装甲シールドでこじ開けた、装飾華美な耐圧扉の先にあったのは……
テーブルがひっくり返り、料理がぶちまけられ、割れた酒瓶からサントソーのタダ酒が床にぶちまかれている。それらのぐちゃぐちゃの残飯の間に、爆ぜた西瓜のような無惨な姿で、赤い体液と臓器をさらして転がる多数のいちじるしく損壊した死体達。
急造フル武装状態にあるブルーナイトメアの操縦桿を握る、アークの両手に力がこめられる。
「アベンシゾーぉぉぉッ!」
アークが絶叫しブルーナイトメアの操縦桿を握りしめ、ペダルを踏み込み、無限の軌道を回る履帯を暴力的に回転させて突撃とようとする。だが、ニューコンチネンタル・オーダニー号の華美なフロアには、多数の知的生命体の亡骸が横たわっている。ペダルを踏み込み、このまま突き進めば、ブルーナイトメアは転がる死体達を蹂躙し引き裂くだろう。それは、完全に狂った危険な光を瞳に宿すアークにさえ、できない蛮行だった。
「もうすぐお前を殺してやるからなぁぁッ!」
アークが履帯行動モードの解除ボタンに拳を叩きつける。
腰部で90度に折れ曲がり、脚部前面を接地させていた姿勢が解除され、ブルーナイトメアが全高四銀河標準メートルの巨人へと戻る。
バーティ会場の天井は4銀河標準メートルをはるかに超える高さであり、殺戮の宴が行われた死体置き場に、ブルーナイトメアが立つ。
呼吸器官をぶちまき、消化器官をぶちまけ、中枢神経細胞をぶちまき、さっき口にした料理とサントソーのタダ酒をぶちまけ、流出した体液が生み出した血の海に沈む死体をふまないように、へヴァなメタル巨人は歩んでいく。
一歩。また一歩。全高四銀河標準メートルの巨人が立てる重い駆動音が、血まみれのパーティ会場の成れの果てに響く。
ひっくり返されたテーブル。赤く染まったテーブクロス。ぶちまけられた残飯。あちこちに転がる、パーティに無償提供された、サントソーのタダ酒。そして、もう二度と元には戻ることのない、知的生命体の亡骸達が無惨に転がる、血と骨と臓物とサントソーのタダ酒で濡れるフロア。
ブルーナイトメアの操縦桿を握るアークの両手が、ぶるぶると震えている。
俺はこういうことを平気でできる、野蛮生命体のはずだった。実際にこういうことを、過去にしたこともある。ただしそーゆーことをする相手は、知的生命体を一方的に社会的に生物学的に平気でBANできる権力を持った、正真正銘のクソ・オブ・クソ野郎どもに対してだけだ。
抵抗することすらできない、非武装の一般知的生命体を圧倒的多数でよってたかって一方的にぶっ殺す。そういうことを俺は戦いなどとは絶対に呼ばない。
それはもはや戦争ですらない、虐殺や殺戮という名の、ただの残虐行為だ。
虐殺、殺戮、それは知的生命体としての最低限の知性すらもたない、もう知的生命体と呼べない鬼畜の所業。
なんでも道にしやがるsynthetic streamは、非知的生命体道をまいしんする、正真正銘のゴミカスだ。
殺す、殺す、殺す。絶対に殺す。殺処分でもって処刑する。
こういうことを忖度によって行わせて、自分の責任ではなく現場に押し付けたアベンシゾー。おまえを絶対に俺が殺してやる。
おまえをたった一回しか殺してやることしか俺にはできないが、それではおまえに全然足りない。
一度殺すくらいでは全然足りない。おまえは万回死んでもまだ足りない。クソカスゴミを通り越した、放射性廃棄物以下の特級汚物野郎。
かつてサディが、腐れセクハラリスナーのナントカマンにしようとしたことを思い出す。
樹脂弾で磔にして、一箇所ずつ丁寧に攻撃を重ねて、身体破壊をゆっくりゆっくり加速させていく。いつまでたっても最終的な結論が出てこない、永久に続く永劫回帰の地獄めぐり。こういうことをsynthetic streamでは、とっても大事にするんだったよな?
そうだ、ああいうことを、アベンシゾーにはするべきだ。
万回の死に値するクソ野郎も、現実的にはたった一度しか殺せない。
だとしたら、ヤツが改憲した憲法では絶対に禁止されていない拷問をもって、ヤツの命尽きる時を果てしなくのばしきり、永遠の苦しみがごとく、じっくりゆっくりたっぷりと心をこめて苦痛を味わわせてやるべきだ。
それこそが、大宇宙のクソの素、アベンシゾーが成し遂げた改憲が声高に言っている、大宇宙に存在する公共の秩序のための善行ってやつだ。
どうだ? 俺はやさしいだろう?
泣いて喜べアベンシゾーよ、おまえが改憲した憲法にのっとって、俺がおまえを拷問して、少しでも罪を減らしてやる大サービスってやつをしてやるんだ。
くそ……。樹脂弾なんてなまぬるいブツを、こいつに搭載してこなかったのが悔やまれる。
ブルーナイトメア・スーパーエクスキューションは、ガチでバチバチなマジで殺す兵器しか積んでねえ……
一発でも当たれば、万回死んでも足りない放射性廃棄物以下の特級汚物野郎を、あっさりと200%殺しちまう……
アークは悔やんだ。心の底から悔やんだ。ガチでバチバチなマジモンの武装しか積んでこなかったことを。
それならば……
ブルーナイトメアを降りて、この俺がアベンシゾーの生命を、ゆっくりじっくりたっぷりと削ぎ落とすように破壊してやる。
アークが最高の閃きにたどり着き、万回死んでも罪を償うに足らぬアベンシゾーに、すこしでもその罪を精算する手段を切り開いた時……
眼の前に信じられない光景が現れる。




