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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
モッキンバード侵攻作戦

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ブッ飛んだ奴等とブッ飛べない私はサヨウナラ

ブッ飛んだ奴等とブッ飛べない私はサヨウナラ



 DEATH! DEATH!

 机の上に置いてあったカードラジオの通知が鳴る。

 カードラジオに描かれた、禍々しいドクロの目が紅く輝き、96.9銀河標準メガヘルツの電波が入ったことを告げている。

 路上で出会った怪しいスーツ姿の男が売っていてた、特別仕様数量限定ご禁制バージョンの海賊放送ロゴ入りカードラジオ。

 カードラジオをスピーカーにすると、撃沈された所属不明の宇宙戦艦の生き残りがやっていると言われる、あの海賊放送が流れ出す。



 はっはっはっはっ! こちらはアーク・マーカイザック。アークのやってる海賊放送だ。

 Space synthesis systemは俺たちを沈めたと言っていたが、Space synthesis systemが滅んでも俺たちは永遠に不滅だ。

 ちょうど一週間。この星で海賊放送をやってきた俺達は、次の銀河をめざして宇宙へと帰る。

 ありがとうよ。楽しい一週間だった。偶然にもこの放送を聞いている君は、いったいどんな一週間だった?

 世界はたったひとつではないし、この星が所属する星系や銀河の他にも、嘘みたいな本当の世界があることを、ちょっとは気にしてみてくれたかい? いつだって世界はひとつだなんて、わかりやすい話が出回りがちだけど、本当の世界はそんな単純なものじゃない。この宇宙は、様々な銀河と様々な意志と、様々な思想と言葉と感覚が、私と君との境界線を侵さない範囲において、ばっちり存在できるほどにありあまるくらい広いのさ。

 この星ではお尋ね者の俺達も、どこかの銀河では英雄かもしれない。

 あらゆるSNSで俺達のことを話してくれた君に感謝する。

 君は飛び上がるように広い世界に、意見や意志や思いを投げかけ続けるのをやめないで欲しい。心が羽ばたかなくなった時、人は本当に飛ぶことをあきらめてしまう。翼なんかなくてもいい。心が羽ばたくことをやめないで欲しい。

 心が羽ばたき過ぎて、ひとつのところにすらとどまれない俺達は、いま宇宙に向かって行くよ。

 一週間、たったの一秒でも、この海賊放送を聞いてくれた君に感謝。様々なSNSで、俺達のことに言及してくれた君に感謝。街中の雑踏で俺達の噂話をしてくれた君に感謝。

 SNSで、ま・る・で・ど・こ・か・から給料でももらっているんじゃないかという熱心さで、俺達に罵詈雑言を浴びせてくれたあんたにざまあみろ。

 それでは、俺達は宇宙へと帰る。

 またな! また話そう! イービル・トゥルース号出航!



 特別仕様数量限定ご禁制バージョンの海賊放送ロゴ入りカードラジオから、聞いたことのない音楽がまた流れ出す。

 この一週間、これはいったいなんなのだろうという疑問と、こんな海賊放送が実在することについてとか、どうしてSpace synthesis systemはこんな放送を野放しにしているのか? とか、取り締まろうとしてもできないのだろうか? とか、そんな嘘みたいな存在が実在できるのだろうか? とか、いろんなことを考えさせられた。

 なんでもない日常に突然、空から降ってきた所属不明の宇宙戦艦。彼らは再び宇宙に帰ると言う。

 彼らはこの星を去るのだと言う。私はずっとずっとこの星に居続けるというのに。

 どこに行くのだろう?

 またな。また話そう。……か。

 彼らはまたこの星にやってくるのだろうか? この特別仕様数量限定ご禁制バージョンの海賊放送ロゴ入りカードラジオが、再び96.9銀河標準メガヘルツの受信を告げる日がやってくるのだろうか?

 あらゆるSpace synthesis systemのルールと掟とマナーと慣習と権力のご都合をぶっちぎった、意味不明正体不明もはや理解不能の海賊放送は、特別仕様数量限定ご禁制バージョンの海賊放送ロゴ入りカードラジオのスピーカーを、ガンガンに鳴らし続けている。

 


「ブロック! ブロックだ!! ブロックだぁぁぁ!」

 大自由神民主主義銀河神民統一教会党(通称大自民統一教会党)所属、Space Synthesis System中枢閣、マルイチ後方大臣効能多漏は荒れ狂いわめいて叫び、机上の黒い鳥が描かれたボタンを正気の沙汰とは思えぬ速度で拳を打ち下ろし乱打する!

 しかし、いつもは目の前から耳の痛いことを言う何者かを、効能多漏の目の前から刹那の速度で排除する黒い鳥は、所属不明の宇宙戦艦が流す海賊放送に対してはまったくもって完全に無力だった。

「なぜブロックできんのだ! なぜこの放送は止まらんのだ! 私は一切の批判を受けたくない! 本当のことなどなにひとつ聞きたくないのだ! 私は私の所属する組織の中でだけ話し合い、私は私の所属する組織の中だけで通る理屈だけが真実であって、言論の自由とは私の範囲にとどまるべきで、私はどんなことでも自由に発言することができ、私の言論の自由を保証するためには誰一人私に批判などしてはならない! 私は私のみたいものだけをみて、私は私の聞きたいことだけを聞く権利があり! 私は私の答えたくないものには一切答える説明責任などはなく、私は私に対するあらゆる批判を誹謗中傷として片付ける権利だけがあり、私は私の好きなように世界を回す権利がある! そして、私がマルイチ後方大臣として行った職務は、所管が変わればこの私には一切の責任がなく! 例え責任があったとしても、私はギャラクシー・ヤクザがヤクの密売に使う運び屋程度のものに過ぎない! おお! Space Synthesis Systemの言論空間を支配する、スペース・ビリビリ仮面の黒い鳥よ! このクソガンガン響いて耳に痛い、この海賊放送を私の世界から排除したまえ!」

 叩く! 叩く! ひたすら叩く! 黒い鳥の描かれたボタンを、正気の沙汰とは思えぬ速度でぶっ叩く!

「ブロック! ブロックだ!! ブロックだぁ〜ぁぁ〜!!!」

 都合の悪い存在を目の前から排除する、SNSのドスゲエ権力の頂点であるスペース・ビリビリ仮面に作らせた、黒い鳥マークのボタンを、効能多漏は狂ったように乱打する!

 それでも、Space Synthesis System法のあらゆる道理を引っ込ませる権力をブッ飛ばし、この星の空気にのった海賊放送は、ガンガンに今日もモッキンバード中のラジオ達を鳴らし続ける!

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