ドクロが時空をかきわけて
ドクロが時空をかきわけて
ジャンポップ・クロジャン銀河を震撼させた、ドクロマークを艦首にかかげるドレトロな未来感あふれるデザインの宇宙戦艦は、小型恒星炉でドライヴし続ける零式海賊放送弾を残して、別の銀河につながるグラジ・ゲートへとすさまじい勢いで突っ込んで消えていった。
ジャンポップ・クロジャン銀河のあらゆる方角に向かって発射された零式海賊放送弾は、小型恒星炉の火が燃え尽きる時まで嘘みたいな海賊放送を再放送しながら、あらゆる方角の先にある宇宙の果てをめざして飛びつづけた。
太くて長くてさきっちょがマジでヤヴァイ! 艦首にドクロマークを掲げる宇宙戦艦は、グラジ・ゲートの奥まで進んで飛び出ると、新しくお邪魔した銀河のあらゆる方角に、45口径46銀河標準センチメートル砲三連装四基十二門の砲口をむけた。
真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳の女のコが、漆黒のマニキュアが映える細いお指で巨大なリヴォルバーカノンの引き金を引き絞る!
宇宙空間戦闘において今どき絶対あり得ない、化学反応エネルギーが生み出す紅蓮の炎を、45口径46銀河標準センチメートル砲十二門が星の海へと龍がごとく吐き、邪悪なる真実をまき散らす零式海賊放送弾を世界へと解き放ツ!
どこまでも広がる宇宙空間を電磁的に振動させて、好き勝手に邪悪な真実を言いまくる海賊放送が、またひとつ新しい銀河に流れだしていく。
ザンゲェー・ゾング銀河に、シャイニー・ノースサイド銀河に、ギッド・ギミバー・ゴナイ銀河に。
ポップで明るくオシャレでゼニーだらけの売れ筋で、深刻なことは何もないことを装ったSpace Synthesis System勢力圏内に、不穏で不安で不快な海賊放送は、邪悪な振動を叩き込んで行きまくる。
新しい銀河を翔けて、また次のグラジ・ゲートへと突っ込んで、意味不明の七変化の奥までいって、もっともっと新しい銀河へ、ドレトロな懐かしい未来感デザインの宇宙戦艦は飛び出していく。
Space Synthesis System勢力圏の辺境から、ド真ん中の中枢へむかって、邪悪なる真実は船首のドクロで時空をえぐりかきわけ、何もかもをドログチャに変えてしまう弾丸のように、深く深く突き進んでいく。
System Self-Defense Force SSFが、System Schutzstaffelが、上から怒鳴り散らされ罵られ、ケツが震え上がるような空気圧を受けて、不穏で不審で不快な放送を取り締まろうとやっきになった。
銀河のあらゆる方角で放送される海賊放送を追って、いくたの宇宙戦艦が星の海を翔けた。
だがなぜか、海賊放送の発信源にたどりつきそうになると……
パタリと放送は止んで、まったく違うどこかの方角から、あのクソ腹立たしい放送は再開されるのだった。
System Self-Defense Force SSFが、System Schutzstaffelは顔面真っ青。
銀河中がてんやわんやの騒ぎを尻目に……
太くて長くて先っちょがマジでヤヴァイ! ドクロマーク付きのたった一隻のドレトロな未来感デザインの宇宙戦艦は、そんな騒ぎをケツの彼方に追いやって、次から次へとグラジ・ゲートに突っ込んで消えていった。
Space Synthesis Systemという、あまりにも巨大なたったひとつのかたまりのはじくれで、小さな小さな震えに過ぎなかった電磁的振動が、やがて辺境銀河を震わせて、ついには巨大なかたまりの中心部に向かって、わずかだけれどもその振動を伝え始める。
「声をあげるのなんてカッコ悪い」
「声をあげるなんて無駄だよ」
「声をあげる前にやることあるでしょ」
「総統陛下になったこともないのに」
「批判ではなく自分ができることをしよう」
「部屋の掃除でもしているべきなんじゃないですか?」
「学歴も肩書も権威もない、こんな放送にいったい何の意味がある?」
銀河を震わせ始めた電磁的振動を押しつぶそうと、あらゆるSNSに、空気のようなものが大量に流し込まれはじめる。
そいつらはまるでどこかから給料が出ているかのような熱心さで、ネトネトとした強烈な粘着質をもって、声なんかあげても無駄だと口先で声高に言い続ける奴らがウヨウヨわいた。
だけど、そんな些末なことども全部を
「じゃあ、てめえがまずは黙ってろ」
と蹴っ飛ばし、たった一隻のドレトロな未来感デザインの宇宙戦艦は、海賊放送を流してただひたすらに中枢をめざして進み続けた。
そして……
「いよいよだな」
アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋で、ブ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がる宇宙にあいた漆黒の大穴、グラジ・ゲートをみつめて無免許もぐりの航海士は言った。
「いよいよだね」
いくたの銀河のあらゆる方角に、零式海賊放送弾をこれでもかと撃ちまくった女のコが、巨大なリヴォルバーカノンを愛しげに撫でながらしみじみ言った。
「くそがぁぁぁ!」
と毒づく、銀河イチ速い逃げ足でもって、あらゆる宇宙戦艦から逃亡を続けた結果、追っかけてくる奴らの巣食うど真ん中、つまりは中枢部までやって来てしまった操縦士。
「予算はあります。無益なドンパチさえしなければ、海賊放送船イービル・トゥルース号は、あと三銀河標準年放送できます」
銀河イチ省エネルギーと言われる計算機、バンソロをジャランと鳴らして、神がかりの予算管理者はモフンと羽をふくらませて言った。
「もとより、かわいいパンダマークがついたファンシー雑貨貿易船に就職したつもりはありません。ですが、この先はsynthetic stream中枢閣が存在する、いわば暗部の心臓みたいな領域。武者震いが止まりませんね」
七色の地の和服を大きく衣紋を抜いて着て、あでやかにうなじをみせつける、冷静沈着な女性が斧型の髪飾りで髪をまとめながら言う。
「腐った組織を蹴っ飛ばして、腐ったブツ達に陽の目をみさせる時がきたよぉぉ!」
身長1銀河標準メートル、半透明の体を持つ少女が両のお手々を握りしめ、氷砂糖のように硬い拳を震わせて言った。
「コノホウソウガ、セカイヲカエタラ、ロボットニモジンケンガ……」
ギンギラメタルボディのロボットは、しみじみとつぶやいた。
「こいつは大穴狙いの、最後の大博打ってやつだなぁ」
うるわしの船の素敵なケツに、青い炎を灯す謎を操る機関長が言った。
「当たる確率は大穴ですが、大穴が爆裂しても、払い戻しは一切ないかもしれません」
ケツに灯るアッツイ青い炎の謎にこだわり続ける、真面目な機関副長はそう言った。
「俺は、いちかばちかの大博打が大好きだが、てめえの生涯がかかっている、自分が勝負できる博打しかうたねえ。そして、生涯ってやつには払い戻しなんてものはねえってのが、世の相場だ」
濃紺のミリタリージャケットの肩をすくめて、アーク・マーカイザックはそう言った。
「相変わらずヤヴァイことしか考えないですなぁ」
無免許もぐりの代行に、コタヌーンはそう言った。
「確かに俺はイカれたことしか考えない。だが、俺が考えることには、後ろめたくて答えられない、不正みたいなものは一切ねえ」
キリリと表情を引き締めて、アークは返す。
「確かに、この船の会計に一切不正な点はありません」
神がかりの予算管理者、タッヤも太鼓判。
「敵対勢力のど真ん中に突っ込むのに、可愛いパンダマークの船に偽装しなくていいんです?」
かつて、ちぐにゃにゃん運営・二次大惨事の三賢者の一人だったAXEが、冷静な提案をあげる。
「ここまできたら、もう何も隠さなくてもいいんじゃないかなぁ」
と大胆に言うのは、氷砂糖のように半透明の少女ミーマ。 (ただし、ブラックと焦げ茶で構成された服が透けているわけではない・超重要)
「イカツイドクロマークに寄ってきたら、あたしがじゃんじゃん気持ちよく、良いシンセティック・ストリームにしてあげるからさぁ」
と真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳のお目々をギラつかせるサディ。
「ドイツモコイツモ、イカレテヤガル」
とはイクト・ジュウゾウ。
「大事なとこは隠したほうがいいと思うけどなぁ」
とはコタヌーン。
「ノーガードの丸裸。というのが謎過ぎて、一番手を出しづらいのかもしれません」
とはオクタヌーン。
「はっはっはっは! 丸裸でど真ん中に突っ込むってのは、いかにも海賊放送船らしいじゃねえか。丸裸みてえなもんで、ここまできたんだ。小細工は抜きでいこうか」
アークは大声で笑うと、艦橋最前列の席から振り返り、アイアンブルーとガンメタルグレイの世界に集まった、愉快な仲間達をみつめて話しはじめる。
「今まで何度となく話してきたことだが……。
大事なことだからもう一度言うぞ。
この船は海賊放送船だが、45口径46銀河標準センチメートル砲三連装四基十二門を背負い抱く、ガチでバチバチに武装したマジモンの戦争屋が乗るような宇宙戦艦でもある。
この船がそんなクソヤヴァイブツを背負い抱くのは、誰かに俺たちの言うことを聞かせて、俺たちの好きなようにするためじゃない。
大宇宙をたったひとつにしようと渦巻く濁流。synthetic streamの中心で脈打つ暗部の心臓に主砲を突っ込んで
「おまえは黙れ」
と言うわけではなく。
コスパとタイパを考えて、ズドン! と一発! すっきりさっぱり始末するためでもない。
45口径46銀河標準センチメートル砲三連装四基十二門は、俺たちが言いたいことを言うためにある。
そして、ここではないどこかの誰かが言いたくても言えないことを、俺達がかわりに言うためにある。
俺はこの船に乗っていて、いつもいつも思うことがある。
何かを自由に言うために、こんなクソヤヴァイ砲が十二門もないといけないってのは、酷くおそろしいクソみたいな世の中だと思わねえか?
そんな世界の中心で、俺達はたった一隻で海賊放送を叫ぶ。そのために、俺達はここまできた。
たった一隻の船が、好き勝手なことを言っているにすぎない。
しかも、嘘偽りまじりっけなしの正真正銘、邪悪なまでにむきだしな真実ってやつをだ。
それは、たった一隻から発せられる、ちいさなちいさな声にすぎない。
俺達は、この大宇宙にくらべたらちっぽけな声をあげる、たった一隻の海賊放送船に過ぎないわけだ。
だが、この世界は、声をあげる誰かをゲラゲラ冷たく笑い、よってたかって声をあげた奴を袋叩きにしにやってくるようなとこだ。
ネトネトに粘着質な奴らがウヨウヨしているクソみたいな世界だ。
それらが生み出す空気というものが、見えない圧で言うことを聞かないと押しつぶすぞ! とすごんでくる。
宇宙はあらゆる銀河と星々が、それぞれ想い想いの思想と価値観が互いに干渉することなく存在できるほど、ぶったまげるくらいに広い。
なのに、世界はたったひとつだと、何もかもひとつにしようとするクソみたいな巨大な流れを、synthetic streamと俺は呼ぶ。
海賊放送船イービル・トゥルース号は、海賊放送という真に自由なやりかたでもって、この世界に風穴をあけようとしている。
そんなことは無理だ。夢物語だ。お花畑だ。
そういうことを飽きもせず言いまくる、ネトネトに粘着質な奴らがウヨウヨいるが、俺はそんなカスは眼中にない。
俺の放送を聞きたくないなら、耳を塞いで目を閉じて、自室で一生縮こまっていればいい。
ネトネトに粘着質な奴らがウヨウヨしているからと言って、主砲で弾いて始末しようとも思っていない。
俺はこの世界に、銃弾や主砲弾をブチこんで、大穴をあけたいわけじゃない。
できることなら、ただの一発も撃つことなく、言葉ってやつでこの世界に風穴ってやつをあけたい。
銃や砲でブチ抜いて、おまえに風穴をあけてやる。そういうシノギをこの船はやっていない。
何もかもをズドン! と一発で解決してくれそうな銃も砲も、必ず残弾というものがある。どこまでも永遠に撃ち続けられる銃砲など実在しない。どこまでも永遠にクソが生み出される世界を作った、無能な神をブッ殺すには銃や砲では間に合わない。
だけど、海賊放送船イービル・トゥルース号は違う。
いつかこの大宇宙をひっくり返す、残弾無限の一石を投じ続けることができるのがこの船だ。
だから俺は、撃って奪ってウェーイ! な宇宙海賊ではなく、海賊放送屋というシノギをやっている。
たったひとつあいた風穴から、ひとすじの風が流れ、やがてそれは世界を変える大きな流れを誘いだすかもしれない。
俺はその可能性に生涯を賭けた。
世界を満たす絶望のなかで常軌を逸した夢を語る、まるで嘘みたいだが実在するイカレ野郎が口にする、たったひとすじの希望から、なにもかもがいつか変わっていくのだと、俺は強く確信している。
俺たちには希望の風穴をあける、残弾無限の強い力ってやつがある。
いったいどこの宇宙から流れてきたのかわからない、正体不明のクソ怪しい船に乗ってくれた君も、俺があきもせず口にする希望に賭けたからこそ、いまここにいると、俺は強く確信する。
だが、ここから先は、今までで一番ヤヴァイ現場でのシノギに、この船は突っ込むことになる。
海賊放送船イービル・トゥルース号に乗り込んだ君に、無免許もぐりの航海士が問う! 覚悟はいいか?!
ある日勝手に動きやがったせいで無期限謹慎中のパンダ船長は、未だメタルケーブルぐるぐる巻の刑に服しておられるからな。
この船の意志を、無免許もぐりの船長代行として問うぞ!
このグラジ・ゲートの先にある、synthetic stream中枢閣が存在する。アベンカールト銀河へ、進もうと決意した者は挙手!
「あたしはブッ放すよぉ!」
サディ、漆黒と真紅にバラ柄の袖を華麗に揺らして起立一票。そして両手をあげて二票を投じる。
イチ✕イチ✕イチ=イチ! サディ一票!
「ピンハネ、中抜き、キックバック、そして裏金がお家芸。そんなシンセティック・ストリームに任せていたら、近くこの宇宙は経済的に破綻します。予算管理を任される者として、それは見過ごすことのできない、恥ずべき危機ですからね」
タッヤがバンソロを持った羽先をピッとあげる。
「可愛いパンダマークで突撃するのもオツだと思うのですけど、艦橋にはメタルケーブルぐるぐる巻きとは言え、可愛いパンダ船長がいるのでよしとします。私は日常があればいいんです。でも、その日常がよくわからない流れに押し流されて、外銀河との悲惨な戦争に向かうのは嫌。だからこの船に乗ったんです」
AXEが七色の袖を揺らして挙手。
「他人のファックに口を出すような世界、私はとてもじゃないけど耐えられません! 腐った女子が、腐った組織を蹴っ飛ばす!」
氷砂糖のように半透明の拳を、ミーマがあげる。
「ロボットニ! ジンケンヲ!」
イクト・ジュウゾウがメタルアームをあげてアイアン・フィストを天に突き、ロボット乗組員の総意を表明。
「とにかく博打が大好きで、さんざん博打をうちましたがね。世界の運命を賭けた博打ってのは、まだ打ったことがないですからなぁ。この大博打、ノリますぜ! ただし、アウトな時は、次は首絞めは抜きで、ちゃんと総員退艦放送でお願いしたいなぁ」
とコタヌーンがゆっくりと挙手。
「首絞めだけでなく、掌底でおやすみなさいも抜きでお願いします。こんな世界では、安心して子供を作ることもできないですから、世界をひっくり返す賭けにのるというのが、実は一番安定した生き方なのかもしれません」
とオクタヌーンが挙手。
「く、くそがぁぁ!」
最近はもう、自分は本当に逃げているのかわからなくなりつつあるのだが、このグラジ・ゲートの先に行けば、もっともっと逃げることになることはわかっているので、ネガも挙手。
総員の挙手にアークはゆっくりうなづくと、未だメタルケーブルぐるぐる巻きの刑に服しているパンダ船長に視線をあわせる。
あんたはずっと、この船に乗っていた。
俺より先に、この船に乗っていた。
あんたはこの船のオーナーで船長だ。
あんたがいったい何者で、本当は生きているのか、何を考えているのかも、まるで俺にはわからねえが……
この船は俺たちの言うことを聞いている。
こっから先は、synthetic streamのど真ん中。
船長、あんたはあれっきり動かねえし、何にも言わねえ。
だったら……
俺達の決めたことに、異議異論はねえってことだよな? 船長。
アークは心の中でパンダ船長に言ったが、パンダ船長はつぶらな瞳でまっすぐに、艦橋の先に広がる星の海をただみつめ続けるのみ。
「よし! 総員の意志は決まった! 海賊放送船イービル・トゥルース号! アベンカールト銀河行きのグラジ・ゲートへ突入するぞ!」
アークが拳銃の形にした手を、アイアンブルーの天から振り下ろす!
「くそがぁぁぁ!」
もはや何か逃げているのかわからなくなった、銀河イチ逃げ足の速い操縦士は、とにかく今ここから逃げだすことにして、イービル・トゥルース号のケツを蹴っ飛ばすペダルを踏み込んだ。
うるわしき船の素敵なケツに、アッツイ青い炎がもえあがる!
船首のドクロがグラジ・ゲートへブッ刺さり、ズブリと刺さった船体がヌルリヌルリとおナカのオクへと飲み込まれ、ドロッドロっの真っ黒い虚無の闇が艦橋に迫る!
「サディ。目、絶対にまわすなよ」
真横にいるアークからの注意に
「わかってるよ!」
とサディはむーっとふくれて答え、和服に合わせためっちゃ雅でカワイイブーツで、アイアンブルーの床をコツンと蹴った。




