Going my milky way!!
Going my milky way!!
「ミルク!」
店でアークが勢いよくおかわりを注文したのは、ミルクだった。
「またミルクですか?」
ミーマがきょとんとした顔で聞く。
「ミルクだ」
キリッと表情を引き締めて、アークが返す。
「アークはホント、ミルクが好きだよね〜」
ミルクに黒いリキュールをあわせて作る、褐色の甘いカクテルを飲みながらサディが言う。
「俺はミルクが大好きだ」
はっはっはっと笑いかけて急にやめて、再び表情をキリッとさせたアークが答える。
「前に、船で牛を飼おうって言ったこと、ありましたよね……」
AXEが目を細めて言う。
「飼おうと思えば飼えるしな」
キリッと真面目な表情のまま、アークが言う。
「長いあいだ宇宙にいると、新鮮なミルクは貴重ですものね」
そう言うオクタヌーンに、アークがわかってるねぇと無言でうなづく。
「最後の夜なんですし、飲みましょうよう〜」
すでに完全にできあがっているコタヌーンが言う。
「いやいや、いいのよ。俺にとっては最初で最後の夜だから、クリアな思考でこの街をみてみたいってのもあるし、酒は船で飽きるほど飲んでたからな」
そう言ってアークは、届いたジョッキにたっぷり入ったミルクをごくごくと飲んでいく。
ビールでもそんなには飲めないだろう、という量のミルクを飲み干していくアークをみつめながら、酒を飲むのに飽きるなんてあるんだろうか? と、コタヌーンは手にしたグラスをみつめる。
宴は進み。ボトルもグラスも空になり、アークはさらにミルクをガンガンに飲み干した頃……
それは起こった。
「坊や。ここはミルクを飲む場所じゃねえんだよ」
目のすわった男がアークに言った。
「おまえが好きな酒を飲む権利があるように、俺には大好きなミルクを飲む権利があるんだよ」
ニヤニヤ笑いながらアークが返す。
「ああ?」
目のすわった男は一瞬驚いた後、ドスのきいた声でアークを威嚇する。
「おっさん。自分の席で酒でも飲んでな」
はっはっはっと笑うのを抑えて、アークはキリッと真面目な顔でそう言った。
「ミルクの坊や。てめえ、喧嘩売ってるのか?」
目のすわった男が、さらにドスのきいた声でアークにせまる。
「5000万ゼニーで売ってやる。クレジット、暗号資産、どれでもなく現銭でな」
アークはつまらなそうに答えて、ゴクリゴクリとミルクを飲み干してジョッキを置く。
「ミルク!」
とジョッキを掲げて、さらなるミルクの追加を要求する。
「このミルク坊やがよぉッ!」
目の据わった男がアークの手からジョッキを奪い、テーブルに叩きつける。
「5000万ゼニー。現銭でだ」
アークが男の瞳をじっとみつめて言う。
「てめえ!」
目のすわった男がアークの胸ぐらをつかもうとするが、アークはすっと身をかわして胸ぐらをつかませない。
「いいのかい? こちとらそういう分野のほうが得意だぜ」
アークがニヤニヤ笑いながら言う。
「ああ?!」
目のすわった男は再度むなぐらを掴みにいくのだが、またもさらっとかわされてしまう。
目のすわった男が見事に空振った自分の手を見て思う。
何かおかしい?
胸ぐらをつかめない。というのはなんだか変だ。しかも、こいつ、全然ビビらない? どころか、とてもじゃないがミルクを飲んでいるとは思えない、まばたきもしない見開いた目で真っ直ぐにみつめかえしてきやがる。これはなんだか変というか……。もう完全に変だ。
「お兄さん〜。ここは平和的に勝負しようよぉ〜」
真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳をとろんとさせたサディが、アークと男の間に入ってくる。
???!
いきなり間に割り込み、勝負まで提案してきたバラ柄に赤と黒の和服の少女に、目のすわった男の思考はさらに混乱する。
「酒飲みの兄ちゃん。ミルク坊やの恐ろしさってヤツを、心の底から知った方がいいよぉ〜」
スーツ姿でグラスを傾けるコタヌーンが、目のすわっている男にニヤニヤ微笑みかける。
???!!
「ダイジョブよぉ。アークが平和的にお相手してくれるから」
ミーマがモッキンバード星系の特産、ジャポン酒を飲みながら笑う。
???!!!
「暴力よりもっと酷いけどね」
モッキンバード星系の勝宙という酒が入ったグラスを、悲しそうにみつめてAXEが静かに言う。
???!!!!
「タッヤさん。これが嫌なのよねぇ」
ミルクをガブ飲みするアークとは違い、大人しくソフトドリンクを飲んでいたオクタヌーンが虚空を見つめて言う。
???!!!!!
そして一番はじの席に座る、不気味なガスマスクとレザースーツ姿のヤツがこっちを見つめて……
「クソがぁ〜」
と言った。
???!!!!!!?




