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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第六部

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ヌーン夫妻、艦橋に現る

ヌーン夫妻、艦橋に現る




「ちょっといいかなぁ?」

 コタヌーンとオクタヌーンがふらりといった感じで艦橋にやってきて、アークが寝っ転がるめいいっぱい倒したシートをのぞき込む。

「おお? コタヌーン機関長殿にオクタヌーン機関副長殿。どうされた?」

 アークが昼寝からむくりと起きようとすると、コタヌーンがそれを片手で制す。

「無免許もぐりの代行殿。まあまあ、そのまま、そのまま」

 そう言ってコタヌーンはニヤリと笑う。

「俺は無免許もぐりの航海士なんだがな……」

 めいいっぱい倒したシートのうえで、アークがしぶい顔をする。

「ちょいとほらこの間、もぐりの代行の主砲殿と弾薬庫に、割と絶体絶命の危機があったでございましょう?」

 声をひそめるコタヌーン。

「あ? ああ、あの件か……」

 アークがさらに渋い顔になって、視線をすっと左にうつす。

 そこには……

 いつもの和銀河世界の衣服に身を包み、猫の形をしたフワフワを手に、武器管制盤をなでなでしているサディ。

「あの娘。ベロンベロンに酔ってつぶれて、どうにもならなくなっちゃったでしょう?」

「あ、ああ、そうだったな」

 とアークは、なんでそんなことをコタヌーンが知っているのか? と怪訝けげんな表情。

「あれ、実は、あの娘にガンガン飲ませて、いろいろとわからせたの、私達なんですなぁ」

 とコタヌーン。

「ほう?」

 とアークが興味を示す。

 確かに、細かい理由はまるで皆目かいもくわからんが、翌日のサディはなにやらいろいろわかったような感じで、アークに普通に接してきたのだ。

「ということはですね、もぐりの代行は私達に、多少の借りがあるんじゃないかと。つまりはそういうことですわぁ」


 タッヤはバンソロを弾き、これからの予算を着々と組みながら、なにやらヌーン夫妻とアークがゴニョゴニョ話しているのを横目に見ていた。

 タッヤの頭の中は、この船の予算管理でもういっぱい。

 synthetic stream勢力圏内に突入し、海賊放送をやるのであれば、寄港きこうして補給ほきゅうなどもってのほか。

 今やこの船は、synthetic streamを皆殺しにした、極悪非道残虐無比ごくあくひどうざんぎゃくむひな宇宙戦艦なのだ。

 もっとも……

 アーク・マーカイザックとパンダ船長が危険なタッグを緊急結成して行った、とされる想定外の大殺戮だいさつりくによって、synthetic streamの生存者は皆無かいむであると推定すいていされる。だから、どれだけことのしだいがsynthetic streamに知られているか、現状は未知数ではあるのだけれども……

 synthetic stream勢力圏内のドコかの星、あるいは宇宙ステーションに寄港する。そこでアークの面が割れたら、これはもう一大事どころではない……

 だとするならば、synthetic stream圏内での寄港は不可能と想定するのが当然。

 燃料食料をめいいっぱい積んで、synthetic streamに突入し、最終的には脱出しないといけない。

 だから、たまーに星の海を飛んでいる、行商宇宙船をつかまえては、燃料と食料をガンガンに購入してきたが……

 行商宇宙船も搭載量に限界があり、一括大量購入いっかつたいりょうこうにゅうにも限度がある……

 船まるごと売ってくれ! などというのは目立ち過ぎる。

 ゆえに、ちまちまと買い集めているわけで……

 どうしても割高になってしまいますね……

 とタッヤはため息をついていると……


「ところで、この船のもっとも謎なる存在と、センチメートルどころか、直接触れちゃったりしている私達は、もうちょっと優遇ゆうぐうされてもいいんじゃないかなぁ」

 と艦橋にきているコタヌーンの声が響いた。

「もうちょっとどころか、私も当然含めて、もっと優遇ゆうぐうされていいのかもしれません」

 と続ける、同じく艦橋にきているオクタヌーン。

「そうだなぁ。クッソヤヴァイ大殺戮大魔王大砲がブッ放すエネルギーも、きっとエニグマ・エンジンが叩き出しているんだろうしなぁ」

 とやたら大きな声でいったのはアーク・マーカイザック。

「機関長室の居住性がもっと良くなれば、おいしー料理を出す居酒屋ヌンヌン亭が、開店できちゃうかもしれないねぇ」

 と言ったのは、猫の形をしたフワフワで、巨大なリヴォルヴァーカノンをなでなでしているサディ。サディの頭の中には、あの時食べたバーサーシーの素敵におナマなお味がぐるぐると回っているわけで。

「そうなれば、乗組員一同も、たまには私の料理と酒を楽しんで、もっと士気があがっちゃうかもしれないなぁ」

 とコタヌーン。

「そうなれば、私のくつろぎ度も増えて、この船に秘められた謎の解明かいめいが、ぐっと前に進むかもしれません」

 とオクタヌーン。

「ふむ。確かにそうだ。革張りのソファーでゆったりして、マホガニーのテーブルに乗った料理と酒が自慢のヌンヌン亭。そんな場所ができたら、俺のる気もビンビンになっちまうかもしれねぇ」

 とこれまた大きな声で言ったのは、アーク・マーカイザック。

「ちょいとほかの分野でも、ヤル気を出してほしいものだけどねぇ……」

 と言ったのは、猫型のフワフワをぎゅーーっと握りしめているサディ。

「とにかく、あたしゃけっして、自分がほしいだけだから言っているんじゃないわけですわぁ。全乗組員のためを思って、言っているんですなぁ」

「この船の福利厚生ふくりこうせいのために、機関室をグレードアップするのはいいことかもしれません」


 バンソロを弾きながら、そんな話を聞いていたタッヤはぴんときた。

 これはゼニーがかかる話なのだと。

 革張りのソファーにマホガニーのテーブル?

 今現在の財務状況なら、余裕よゆうで買えなくはない。

 だけども……

 そういう浪費ろうひが、いずれは素寒貧すかんぴんへの道へと続くことに、タッヤは羽毛がざわざわする。

 なにより、この船は海賊放送船であり、質実剛健しつじつごうけんなイカツさというものが売りでもあり……

 タッヤの視線が、艦橋最奥かんきょうさいおう鎮座ちんざする艦長席にうつる。

 みよ! パンダ船長の座るあの艦長席を!

 イカツく質実剛健しつじつごうけん装飾そうしょくなど一欠片ひとかけらもない実用一辺倒じつよういっぺんとうのゴッツイ椅子に、でーんと座っているではないか!

 そんな中、船長が使う物より豪華ごうかな調度品を、乗組員達が購入するというのは許されませんぞ!

 という言い訳を、タッヤは思いつきはするのだが……

 視線は質実剛健実用一辺倒しつじつごうけんじつよういっぺんとうの椅子から、パンダ船長へとうつる。

 勝手に動いた罪で無期限謹慎処分中むきげんきんしんしょぶんちゅうの身ゆえ、メタルケーブルでぐるぐる巻きにされたパンダ船長は、イカツイ艦長服もほとんど見えず、勝手に街に出てきた罪で捕獲ほかくされた、ただのモフモフのようだ……

 船長があんな状態では……

 船長より豪華な品を使うなどもってのほか! とは言いづらい……

 それに、これからの無寄港航海むきこうこうかいを考えると、確かに船内の居住性をあげるのは良い選択でもある……

 機関長室でふるまわれる、コタヌーン料理というものにも興味が出てくる。

 乗組員食堂イービル・デリシャスで出される、アークの料理も確かにうまいが……

 アークの料理は、とにかく野蛮で過激に過ぎて、さらに量がめちゃくちゃ多い。

 これから無寄港で、限られた食料品で食生活を送るとなると……

 コタヌーン料理長の参加は、大変に嬉しいことだ。

 タッヤは素早くバンソロをぱちぱち弾く。

「……革張りソファーに、マホガニーのテーブルですか……。いいでしょう」

 タッヤの言葉に、ヌーン夫妻の表情が輝く。

「ですが、必ず、複数業者から見積みつもりをとってくださいね。その見積みつもり提出ていしゅつして、みんなで選考せんこうのうえで購入こうにゅうしましょう」

 タッヤの言葉に、ヌーン夫妻がにっこりうなづく。

「俺のヘヴィ・メタル・マシーンにも、予算をちっと回してくれねえか? あれもみんなのものだろう?」

 アークの言葉に、タッヤの表情が青くなる。

「ジャンク品から作った新パーツで、これからガリゴリに改造するというのに……。まだまだ性能に不服があると?」

 静かにタッヤが言った言葉に、アークの片眉かたまゆがぐいっとあがる。

「これからやる改造は、ガチでハードにヘヴィな死んじまうDeath級のヤヴァイやつよ。だから、性能に不服はねえよ」

「じゃあ、いったい何にゼニーを?」

「もっと性能をあげるためだ」

「性能的に不服がないのに?」

「もっとうえを目指してもいいんじゃねえかと、俺は思うが?」

「性能の目標値は?」

「宇宙でもっともクレイジーなマシーン」

「……うえを目指すのはいいことですけど……。アーク、目標値ナシの果てなき性能向上を目指すと、予算がいったいどういことになるか、想像したことはありますか?」

「具体的な目標値を言うとだ。直接打撃をブチ込んで、宇宙戦艦を撃沈できる人型機動兵器を、俺は作りたい」

 ふんっ! と荒い鼻息一発! 

 アークの言葉に、タッヤの表情が完全に真っ青になる。

却下きゃっかです。とても容認ようにんできません」

 深いため息をつきながら、タッヤはアークにそう言った。

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