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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第六部

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船内庭園で君と

船内庭園で君と




 ゴツーん。 ふら〜。 ゴツーん。 ふら〜。 

 ぷっしゅ〜 (耐圧扉の開く音)

 イービル・トゥルース号船内工場を抜けると、艦橋に一番近い二番砲塔直下のメカニカルゾーン。

「シュホウノオジョウサーン、コンバンハー」

 主砲塔を旋回せんかいさせる重厚じゅうこうなメタル機構きこうを保守中の、メタルヘッドに黒いバンダナ巻いたロボット乗組員がサディに挨拶あいさつ

「いっつもありがとねー」

 サディは手を振りこたえて、ふらふらと歩いていく。

 ゴツーん。 ふら〜。 ゴツーん。 ふら〜。

 ぷっしゅ〜 (耐圧扉の開く音)

 船首にもっとも近い、一番砲塔直下のメカニカルゾーンが続く。

「銀河を翔けるお仕事中のみなさーん、いっつも、ありがとねー」

 昔々、ちぐにゃにゃんだった頃に言ったセリフを言いながら、サディは鋼鉄のメカニカルゾーンをふーらふらと歩いていく。

「オジョウサーン、ヨイヨルヲー」

 実体弾、花火弾頭、ビーム兵器の三種を打ち分ける、砲身ライナー交換機構を保守中のギンギラメタルボディのロボット乗組員が、イービル・トゥルース号独特の手で形作る拳銃敬礼でサディを見送る。

 サディは手を振り敬礼に応えて、ふーらふらと揺れながら去っていく。

 ゴツーん。 ふら〜。 ゴツーん。 ふら〜。

 ぷっしゅ〜 (耐圧扉の開く音)


 耐圧扉の先、船首付近の船内庭園を維持いじするための環境維持装置室かんきょういじそうちしつ

 乗員の生命維持装置とはまた別系統の水質浄化循環すいしつじょうかじゅんかんシステムと、空気循環装置や有機物処理装置が並ぶ区画くかく

 相変わらずメタルと合成素材が構築こうちくしている世界だけど、この部屋の先には大宇宙の小さな森と言っていい、緑の世界が待っている。

 たった一隻でsynthetic streamに対抗し得る、驚愕驚異きょうがくきょういの宇宙戦艦。その名を海賊放送船イービル・トゥルース号と呼ばれる船は、超長距離航海を可能とする銀河間航宙船でもある。

 あまたの銀河の過半数を占めると豪語ごうごする、グロテスクなまでに巨大な統治機構とうちきこうであるsynthetic streamを飛び出して、様々な思想と想いが散らばりきらめく、広大な宇宙を旅することは、このうえなく楽しいことだ。

 だけど、星から星へ、恒星系から恒星系へ、銀河から銀河へと翔けることは、とっても時間のかかることでもある。

 無能と呼ばれることを恐れて神が作ったとうわさされる、あらゆる宇宙船を無料で時空の彼方へとブッ飛ばす、チートオブジェクト級のグラジ・ゲートがあったとしても、宇宙を旅するには、星の海をながくながく航海することになる。つまり、宇宙を旅することは長旅なのだ。

 メタルと合成樹脂の世界にずっと閉じこもっていると、様々なスペック低下が懸念けねんされる。そんなことを考えた設計者の、いきなはからいなのだろうか?

 それとも単に、設計者が緑を愛する者だったのか?

 環境維持装置室の耐圧扉の先には、森と呼ぶには小さいながらも、船内に自然を抱いた空間が待っている。

 ゴツーん。 ふら〜。 ゴツーん。 ふら〜。

 ぷっしゅ〜 (耐圧扉の開く音)


 イカツイフルメタルの耐圧扉が開いた先には、生いしげる樹々の世界が広がっている。

 いま現在は戦闘態勢にないイービル・トゥルース号は、船内庭園上部の硬化テクタイト製ドームをおおうう装甲板を開放しており、頭上にはきらめく星の海が夜空となって広がり、月をした照明があわい光を放っている。

「おーー」

 サディはいつも、ここにくると自然と声が出てしまう。

 サディはすーっと息を吸って深呼吸。

 船内を何度もぐるぐるめぐって循環している、機械処理の空気と同じものがこの空間を満たしているのだけれど、ここでは緑の匂いがすごいするのがすごくいい。

 休日にはAXEが草木を愛でにきてたり、ミーマがここで日光浴をしていたり、ヌーン夫妻がピクニックしていたり、タッヤがちょっとだけ飛んでみたり、ネガが草むらの影でクソが! と言っていたりする。 (ネガが何をしているのか? 見に行った者は誰もいない)

 それでもってこの大宇宙の小さな森には、アークの本当の自室と言ってもいい、小さなテントがあったりする。

「あのふにゃふにゃおちんたま野郎〜。もしかしてー、はなから鍵もかからないテントで、ぐーすか寝てるんじゃないだろぉなぁ〜」

 フルメタルなイービル・トゥルース号の通路とは違う、草の生える土の上を、サディのイカツイレザーとメタル仕立てのバトルブーツがぽてぽて進む。

 大宇宙の小さな森に風が吹いて、サディのきらめく銀髪を揺らす。

 船内庭園に風を吹かせているのは人工的な装置なのだけど、風が吹く周期に疑問を持ったアークが調べたところ、船外の宇宙空間に存在する太陽風や宇宙線の動きに一致いっちした周期で吹いているらしい。

「この森に吹く風は、星の海を進む船にぶちあたる波と、同期しているってことだ」

 たまに別人みたいなことを言う、アークの言葉を思い出す。

「スゴイ船だなぁぁー」

 頭上に広がる星の海が生み出す夜空に、大声でサディはまた言った。

 船首の巨大なドクロで、星の海を満たす時空をかきわけて進む海賊放送船。宇宙空間を飛び交う太陽風と宇宙線の周期を、肌と揺れる銀髪に感じながら、サディは森を歩いていく。

 船内循環水が流れる小川にかかる橋を越えると、生い茂る樹々の前に張られたアークの小さなテントが見えてくる。

「出てこーい。あーく・まーかいざっくぅぅー」

 サディは大声で呼びかけてみたが、テントからアークが出てくることはなかった。

 テントの前に置かれている簡素かんそな木製テーブルと、木の折りたたみ椅子。

 植物の維持育成のために、人工の雨がこの森には降るのだけど、アークはそんなことはおかまいなしでテーブルも椅子も放置するので、一部にこけが生えてしまっている。

「こういうのがいいんだよ」

 とアークは言うけれど、雨が降る時はわかっているのだから、雨の時だけでもしまえばいいのに。とサディは思ったりもする。

「あいつはぁー、てきとーだからなぁー」

 サディはそう言って、風雨にさらされて独特の風合ふうあいになった席に着いて休むことにした。

 アークのおちんたまどころか、鋼鉄巨人のモビルトルーパーを本気で蹴っ飛ばしても大丈夫な、イカツイレザーとメタル仕立てのバトルブーツが重い。

 たった一隻の海賊放送船とは言え、船体の下半分を船首から船尾まで走り、今度は上半分を船尾から船首付近まで、今度は歩いて戻ってきたわけだ。

「そりゃあ、疲れるよなぁー」

 サディはそう言って、重いバトルブーツの足をぶらぶらさせる。

 しかも、イービル・トゥルース号めぐりの大探索だいたんさく発端ほったんは、胸がバクバクするところからだったりするわけで……

 頭上に広がる星がまたたく夜空と、月を模した穏やかな照明。そして、星の海を翔けるイービル・トゥルース号に吹きつける、太陽風と宇宙線に同期して銀髪と肌をなでる風が、酔いが回って熱い身体に気持ちよかった。

「このまま、寝ちゃおうかなぁー」

 触れたら切れてしまいそうなバトルドレス姿で、夜の森の席に座るサディは大きなあくびをする。

 船内庭園の下が乗員居住区ではあるのだけれども、森をまた歩いて船体下部ブロックに降りるエレベーターまでいくのがめんどくさい。

 それに……

 オクタヌーンさんの言う通り、アークなりの優しさの結果なんだろうけども、アークのこなかった部屋に戻るのもなんだかなぁ。とサディは思う。

「今夜は部屋に帰りたくないなぁー」

 そんなサディの赤い瞳の前に、アークの張った小さなテントがあるわけで。

「もう、ここでいいかなぁ」

 サディは木製テーブルと椅子の席を立って、小さなテントに向かう。

「どうせ、あいつ、いないしなぁー」

 テント入り口のフラップを開けると、中はやっぱりもぬけの殻。アークが使う寝袋が、からっぽの状態で転がっている。

「あたしは今夜ぁ、ここで眠るぞぉー。あーく・まーかいざっくぅー」

 サディは重たいバトルブーツを脱ぎ捨てると、からっぽの寝袋のうえに倒れ込み、そのまま深い眠りのなかへと落ちていく。

 すー。すー。

 サディが静かな寝息をたてる頃、テントのフラップを静かに開ける影が現れる。

 寝袋のうえに倒れ込みバトルドレス姿のままで眠るサディに、そっと横の毛布をかけると、透き通るような銀髪を一回だけ優しくなでる。

「おやすみ。俺の可愛いお嬢さん」

 黒い影は静かに言うと、サディの眠るテントを後にした。

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