Heavy Metals Factory
Heavy Metals Factory
 
ゴツーん。 ゴツーん。 ゴツーん。 ゴツーん。
ぷっしゅ〜 (耐圧扉の開く音)
艦橋と甲板二番砲塔との間に存在しているブロックに、サディが入る。
イカツイ超大型のヘヴィメタルマシーン達が、クソ重たい轟音をあげて稼働している区域。
ここは、イービル・トゥルース号を維持するための各種パーツを自作している、船内工場と言っていい場所。
「どうだ? この船はすごいだろう?」
ふんっ! と荒い鼻息を一発キメて、ニヤリと笑うあいつの顔が思い浮かぶ。
イービル・トゥルース号は、魔法の力で星の海を翔けているわけじゃない。
船体も、エニグマ・エンジンも、エニグマ・メインフレームも、少しずつだけど、いろんなところが劣化してダメになっていく。
あたしがブッ放す主砲だってそう。エネルギーを収束させてブッ飛ばし、極大威力の閃光で星の海を切り裂く、synthetic streamを真っ青にする青い光弾を放つエネルギー収束ユニットにも、使用回数がきっちりと決められている。
実体弾を発射時に回転させて生まれるジャイロ効果で、弾道を安定させる砲身内のメタルライナーだって、撃てば撃つほど摩耗していく。
あまたの銀河がひしめき、あらゆる星とあらゆる考え方と想いが存在できるほどに広過ぎる宇宙にあって、この船と同型の存在をアークどころか誰も知らない。
そんな唯一無二のオリジナル過ぎる船のパーツは、自分で独自に作るしか道はない。
そういうブッ飛んだ発想の船。
そのくせ……
前にAXEが提案した、乗員共同大浴場の邪悪湯をおしゃれにリフォームするために、素敵なバスタブとかは作れないというのが、もーんのすごくガックリするところだったりもする。
「俺にはそういうおしゃれなものが、これっぽっちも思い浮かばねえ」
ふんッ! と荒い鼻息一発。AXEにそう言い放ったアークのセリフを思い出す。
「なんでも挑戦してみることが大事なんじゃないですか?」
AXEが冷静にそう言うと……
「そうだな。確かにハナからあきらめるのは、俺の流儀じゃねえよ」
と言って、アークは図面を書き出したが……
AXEいわく。
「あれは、おしゃれなバスタブなんかではなくて、野菜を洗う流し台みたいなシロモノ」
だったそうだ……
おしゃれなお風呂は、おしゃれなセンスがないと作れない。
AXEがアイデアを出し、アークがそれを図面にする。そういう共同作業にもチャレンジしてみたが……
どうにもアークにはお洒落のセンスがないらしい……
AXEのアイデアはどれも、アークの手にかかるとなぜか無骨でハードなブツになってしまい……
「ブッ飛んでいるアークでも、できないことはあるということを理解しました」
とAXEは冷静に言って、アークのガレージを後にしたと言う……
まあ、アークがさ、めっちゃおしゃれな女湯にぴったりのバスタブを作れたら……
それはそれで、なんかめっちゃ怪しいよね?
とは言え、自分を直すパーツを自作してしまうこの船は……
「スゴイ船だなぁぁぁ」
サディはまた言って歩きだす。
レアなマテリアルと無骨で重厚なメタルが、ラインをつぎつぎ流れていくのを横目にサディは歩く。
たった一隻でsynthetic streamに突入して、海賊放送を再びやろうとするくらい、今は懐があたたかくなったけれど……
ついこの間までは、その日暮らしの素寒貧に近かった船。
そろそろあのパーツがヤヴァイ!!
でも、材料を買うゼニーがねえぞ!?
かつて本当にやってきた、イービル・トゥルース号の大ピンチを思いだす。
「材料が買えないなら掘りに行け、資源が取れるまだ誰の物でもない星はごまんとある」
これまた乱暴極まるパンダ船長のご英断で、イービル・トゥルース号をブッ飛ばし、みんなで資源採掘に行った日のことを思い出す。
「ちょっとぉぉ。どうやって資源を掘るっていうんですかぁ? ツルハシ振って、たどり着ける深さじゃないんですよぉ」
と言うタッヤに、アークが
「こいつで掘りゃあいいんだよ」
と言って、アークのびっくりドッキリマシーンをお披露目した日。
格納庫のすみにあった、不審な布をアークが取り払うと、中から現れたのは……
全高4銀河標準メートルのクソ重たい鋼鉄の巨人。
「こいつで本気を出して掘りまくれば、どんな星にもボッコボコに穴が開く」
ふんッ! と荒い鼻息一発。アークがブ厚い胸を張る。
「ちょっとぉお。こんなの開発してたなんて、全然聞いてませんよぉ?」
つぶらな瞳のお目々をまんまるにして驚くタッヤに、アークはこう言う。
「俺の給料の範囲で済む開発費だ。だから、タッヤが組むこの船の予算には、まるで関係ないからな」
とは言え……
こんなクソ重たいカスタムしまくりの鋼鉄巨人が、普通の値段であるわけがない。
「あの……。いったい……。いくら使ったんですか?」
おそるおそるタッヤは、アークに額を聞いたらしい。
アークが給料のほとんどをつぎ込んで作ったモビルトルーパーの開発費を知って、タッヤが真っ青になってガクガク震えて泡を吹いて失神したのを思い出す。
財務的に青色吐息の悪夢。
近接戦闘特化型モビルトルーパー・ブルーナイトメアの名は、タッヤが真っ青になって失神した事件からつけられた。
AXEさん専用機A2 (AXE-AXE)。ミーマさん専用機カラミティ・ヒア。ネガにもBTTB (Back To The Back)。あたしには通常の三倍カワイく仕上げたキャンディ・アップル・レッド。ヌーン夫妻には、重作業カスタムのパワード・ヌーン。その開発費と材料費を考えたら、そりゃあ、失神するのも無理はないけど。
そんなタッヤも、アークに作ってもらった資源採掘カスタムのモビルトルーパーに乗り込んで、資源採掘星で自らクローでお宝を掴んだ時は、歓喜にふるえて泣いたんだっけ。
乗組員総出で、まだ誰も所有権を主張してない星を掘りまくったのは、今になってみればいい思い出だ。
だけど……
イービル・トゥルース号の船首、ドクロマークの極厚装甲板の裏側に存在する貨物格納庫に、ギッチギチに資源を積み込んだら船体の質量バランスが悪くなっちゃって……
ネガが操縦しづらくてたまらなくって、イービル・トゥルース号が飛んでいる間、クソがクソがクソがとずーっと文句を言い続けたんだっけ。
AXEさんとミーマさんが、ずっと続くクソがに耐えきれなくなって、艦橋がめちゃ険悪な空気になったんだっけ。
腹はパンパンにふくれたけれど、まともに星の海を翔けれなくなったイービル・トゥルース号。
そんな大問題をなんとかしたのは、タッヤだった。
「資源を情報資産化すればいいのです」
タッヤはそう言って、上陸日に街に消えていったんだ。
そして、貨物格納庫の資源をあっという間に、ゼニーと謎の電子データに変えてしまった。
「えー!? こんなのただのデータじゃん! タッヤだまされたんじゃないの?!」
と叫んだあたしに……
「これは資源を権利に変えたもので、これはその証になる暗号資産なんです。これがあれば、宇宙のいろんな場所で、ちゃーんと資源に変えられるんですよ」
とモフモフのお胸を張って言ったタッヤ。
どういうカラクリでそんなことができるのかわからないけど、確かにいまでもあの時の権利で、この船を維持する材料を行く先々の銀河で調達できてる。
「スゴイ乗組員達だなぁぁ」
サディはそう言って、イービル・トゥルース号の船内工場を歩いていく。
 




