アークにとって始めてで最後の夜
アークにとって始めてで最後の夜
「アークは今頃、好き放題やっているんでしょうねえ」
タッヤはアークの海賊放送振り返り総集編を流しながら、一人イービル・トゥルース号の艦橋にいた。
アークと交代。というのはていのいい言い訳で、タッヤは避難してきたに過ぎない。
最終日の前日。つまり今夜。アークは絶対にモッキンバードタウンで何かもめごとを起こす。そのことをタッヤは確信していた。
「騒がしいのは苦手です」
ビッグウエスト海洋、水深100メートルの静寂に包まれたアイアンブルーとガンメタルグレイの中で、タッヤは一人そう言った。
「こいつはマジで腹に虫がわきそうだぜ」
サディがみつけたナマモノがうまい店で、結局腹に虫がわきそうなくらいたらふく食べたアークは、そう言いながらモッキンバードタウンの街を仲間達と歩いていた。
「いや、ほんとに虫がわいてもおかしくないくらい食べてましたね……」
AXEが呆れ顔で、アークのふくらんだ腹をみつめる。
「次にナマモノが食えるのはいつなのかわからないからな」
アークはそう言ってニヤリと笑う。その横では同じくたらふくナマモノを腹につめこんだサディが、しゃなりしゃなりと澄まして歩いている。
「アーク。本当に一晩でいいんですか?」
オクタヌーンが、明日のイービル・トゥルース号の宇宙への帰還予定を思い浮かべながら言った。
「海賊放送も大人気。カードラジオの在庫は無くなったけど、もう少しこの星にいてもいいんじゃない?」
そう言ったのは、初日に絶望のどん底に叩き落されたミーマ。そんなミーマも、いまや地下組織兄冥土とのつながりができ、いまや潤沢な地下ブラック・レーベル作品を確保できるようになったこの星に、もうちょっといてもいいんじゃないかと思いはじめていた。
「いやいや。海賊放送って言っても、二週間も三週間もずっと聞いているもんじゃない。退屈でかわりばえのしない日常に、ある日突然やってきたいかれきった一週間。そんな感じが一番いいのよ」
アークはそう言ってはっはっはっと笑う。
その笑い声を聞いて、イービル・トゥルース号の乗組員に緊張が走る。
「あの……。アーク。その笑い声はひかえた方が……」
AXEがだいぶビビった感じでアークに言う。
「???なんでだ???」
きょとんとするアークに、ミーマが呆れ顔で言う。
「海賊放送でおんなじ笑い方しているんだから、ソッコーで海賊放送の主だったバレますよ」
「マジカ?!」
アークがびっくりした顔で言う。
「マジデス。ボイチェン使っても、その笑い方ならバレますよ……」
ミーマがまずいですよぉ。という顔でアークをみつめて言う。
「海賊放送稼業も楽じゃねえな」
アークはそう言うと、キリッとした顔で笑うのをやめた。
「まあまあまあまあ。世知辛い話はナシで、腹にわきそうな虫を消毒にいきましょうや」
コタヌーンがそう言って、アークの肩に腕を回す。
「最後の夜だし、ぱーっと行くと?」
アークの言葉に、コタヌーンがコクリとうなづく。
「それでは、最後の夜に出発!」
サディがニッコニコで叫ぶ。
そして最後尾を歩いていたネガが……
「クソが」
明日の旅立ちがクソなのか、この星がクソなのか、何がクソなのか、いや、なにもかもがクソなのか、ネガは毒づく。




