表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第六部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

203/362

ズブリと突っ込むその前に……

ズブリと突っ込むその前に……




「本当に行くの? アーク?」

 フル装填状態そうてんじょうたいにある主砲をあやつる、巨大なリボルバーカノンの引き金に指をかけたサディが問う。

「本当に行くぞ。サディ」

 アークはめいいっぱい倒したシートに寝転がり、ブ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がる宇宙の大穴、神秘の時空につながるグラジ・ゲートの暗闇を、どんよりにごった瞳でみつめている。

「く……、くそ……が……」

 極度きゅくど緊張状態きんちょうじょうたいにある毒づきが、ネガのガスマスクから漏れる。

「確かに、このグラジ・ゲートを通るのが、シンセティック・ストリーム 勢力圏内せいりょくけんないに入るには、最短さいたんのルートなのでしょうけど……」

 タッヤがぶるっとふるえて言った。

一切いっさい電磁波でんじはが返ってこない、グラジ・ゲートの向こう側に存在している戦力は一切不明いっさいふめい。大艦隊の待ちせに合う可能性だって考えられます。これはあまりにも無謀むぼうに過ぎませんか?」

 グラジ・ゲートの向こう側に広がる世界が、完全にBLACK OUTして闇の中状態なかじょうたいなレーダー盤から、AXEが視線を外してミーマをみつめる。

 AXEの視線を受けたミーマは、情報分析状況判断士として口を開く。


 これは、シンセティック・ストリーム艦隊が、スカイカイト星系に侵入してきたグラジ・ゲートです。

 確かに、グラジ・ゲートの向こうは、スカイカイトからの逆流ぎゃくりゅうドロドロあふれだすを防止ぼうしするために、艦隊規模かんたいきぼの戦力が待ち伏せしていると想像されるのは、無理もありません。

 ですが、現実的に考えれば……

 グラジ・ゲートの大きさには限りがあり、大艦隊だいかんたい編成へんせいしてのグラジ・ゲート突入とつにゅうは不可能、という制約事項せいやくじこうが存在します。

 大艦隊規模だいかんたいきぼでの一斉突入いっせいとつにゅうが不可能である、という制限せいげんがあるのならば……

 通常、グラジ・ゲート出口での待ちせは、少数の艦船で構成された艦隊の侵入しんにゅう撃破げきはできる程度の戦力でいい。

 シンセティック・ストリームはアホウタロウのケツの穴であり、無能駄郎むのうだろう異次元集団いじげんしゅうだんですが、それくらいのことは考えている可能性は高いと思われます。

 そして、我らが海賊放送船イービル・トゥルース号は、どれだけ突っ込んでも途中でグニャリと折れやしない。そういう常識じょうしきハズレな、驚愕驚異きょうがくきょういの想いと持続力じぞくりょくがある。

 であるならば、勝算しょうさん七分八分以上ななぶはちぶいじょう九分九厘未満くぶくりんみまん

 海賊放送船イービル・トゥルース号ならば、充分じゅうぶん突破可能とっぱかのうな状況だと判断します。


 ミーマが冷静に状況を判断するが……

「まさかまさかの一番人気。とは言え、はずれちゃったら、大穴おおあながあいちゃう可能性はありありだなぁ」

 機関室とつながっている通信機が、エニグマ・エンジンのオーバードライヴにそなえているコタヌーンの声を、アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋に届ける。

「一番人気を当てる前に、大穴があいてしまうかもしれません」

 と言ったのは、通信機の向こう側に存在しているエニグマ・エンジンルーム、ヘヴィなメタル世界にいるオクタヌーン。

「イソガバマワレ、シラネエカ?」

 とメタリックボイスで言うはイクト・ジュウゾウ。

 アークはめいいっぱい倒したシートのうえで、大きなあくびを一発すると、話し出す。


 だが、このグラジ・ゲートを通らなければ、絶対安全安心とは言い切れない、そこそこ安全そうなルートをぐるっと回って、いくつもの銀河を大回りしてsynthetic stream 勢力圏内せいりょくけんないに、遅ればせながらコンニチハ、ってな感じで入ることになる。

 道中どうちゅうなんにもなく、立ちり飲み食いをすっ飛ばして、保存食料のエナジーバーをガシガシかじって、ヌルリヌルリと次々グラジ・ゲートにズコズコと、船首のドクロをこのうえなくなめらかに、宇宙の大穴に突っ込みまくったとしてもだ。

 かなりの時間が過ぎちまうのは間違いない。

 その頃には、synthetic streamのねっしにくく冷めた奴らは、カチンカチンのヒエヒエになっちまっているどころか、積極的平和主義推進使節団(せっきょくてきへいわしゅぎすいしんしせつだん)のことなんか忘れちまっているよ。

 俺たちは、海賊放送屋というシノギをやっている。

 海賊放送稼業かいぞくほうそうかぎょうってのは、どこよりもアッチッチの激アツ情報を、火傷ヤケドするくらいにアッアッアッってのが売りよ。

 まあ、俺たちは受信料無料で、売るのはカードラジオではあるけどな。

 どこの公式様も、ビビってちぢんでチビりそうになって言えない。そういう激アツの情報を、どこよりも激速げきはや劇的げきてきにお届けし、アッアッアッと眠れない夜にしちまうのが、海賊放送屋の真骨頂しんこっちょう。 

 海賊放送屋で生きている、永遠に14才の世界を過ごしている俺の腕が鳴るどころか、図太ズぶとい骨が鳴っちまうくらいよ。

 いつかこの大宇宙をひっくり返す可能性をマジで持つ、一石いっせきとうじ続けることが本当にできる残弾無限ざんだんむげんの海賊放送。 

 それこそが、どんなクソでかい宇宙戦艦様が持つ大砲なんかよりも、ドすげえミスター宇宙の破壊王ってやつさ。

 熱しにくく冷めきって、まるで死んだように生きている、synthetic streamの銀河臣民ぎんがしんみんとやらを、アッチッチのアッアッアッにしない限り、この大宇宙を流れる不気味な潮流ちょうりゅうは変わらねえ。

 ここでぐるっと遠回りして、せっかくの激アツ情報を冷めるがままにさせちまうってのは、この船の流儀りゅうぎに反する。

 ならば、眼の前で口を開いているグラジ・ゲートのおナカのオク、シンセティック・ストリームのど真ん中に、船首のドクロをズブリとブチ込むしかねえよな。

 こいつはまるで勝ち目なしの、お馬鹿ばかみたいなお蛮行ばんこうに思えるかも知れないが、勝算はまあまあどころかバッチリある。

 だとするならば、ガッチリ勝利をつかみに行くのが、海賊放送船に乗る俺達の流儀りゅうぎってやつじゃねえか?


 にごった瞳でグラジ・ゲートをじっとみつめて、アークはそう言った。

「パンダ船長が、あんな状態じゃなければなぁ」

 通信機の向こうから響くコタヌーンの声。

「パンダ船長なら、わりと穏当おんとうなことを決めてくれるかもしれません」

 と言ったのは、ハードでヘヴィな未来が目に浮かんでいるオクタヌーン。

「パンダ船長はある日突然動き出し、俺をちびるくらいにビビらせた罪で、メタルケーブルぐるぐる巻きで無期限謹慎中むきげんきんしんちゅうの身だ。船長を頼るな」

 パンダ船長の前でちびりそうになった後、サディにちびるどころではない目にあわされたアークはそう言った。

「いいよ。ダイジョブだよ。このあたしがいるんだ。主砲のお弾袋たまふくろにお弾弾たまたまはたーっぷりある。グラジ・ゲートの向こうに大艦隊が待っていたって、このあたしがバンバン撃って、ガンガンにお弾弾たまたまをドンドンおナカのオクにブッ込んで、ドロッドロッのグッチャグチャにぜーんぶ砕いてやるよ」

 牙のようにとがった犬歯けんしをむいて、ニヤリと笑うサディ。

「サディ。万がイチのもしかして、いざという時の大活躍だいかつやくを、大変期待たいへんきたいしているぞ。さて、そんな君に、重要じゅうよう提案ていあんがあるのだが」

 アークが静かにそう言った。

「なに? アーク?」

 真っ赤なリンゴたみたいに赤い瞳の視線を、アークにむけるサディ。

 ガチャコン!

 音を立ててめいいっぱい倒したシートを起こし、アークがちゃーんと座って、サディの赤い瞳をみつめて話しだす。

「サディ、君は……。いつもいつもいつもいつも、あれほど目を閉じろと言っても、グラジ・ゲート内部の摩訶不思議まかふしぎ時空じくう七変化しちへんげ万華鏡まんげきょうをみるのをやめないよな? そして目を回すわけであって、今回はそーゆーことは許されない」

 アークがキリキリと表情を引きめて言った言葉に……

「え……。だって……。めっちゃ、きれい……じゃん……」

 サディの口がしどろもどろ。

「いや、まあ、きれいなのは違いない。だがしかし、今回ばかりはグラジ・ゲートの先には大艦隊が待っている可能性も多少なりともあるわけで、この船で一番デンジャラスにお弾弾たまたまをバンバン撃ちまくって、ガンガン沈めまくる予定のイケイケどんどんなマシンガン・サディちゃんに、ぐるぐるお目々(めめ)を回してもらうわけにはいかんのだ」

 アークの表情がよりきびしいものに変わる。

「え……。みないよ……。開けていいって言われまで、目閉じるから、いいじゃん……」

 いつになくきびしい表情のアークに、じっとみつめられたサディがたじろぐ。

「サディさんを信用しんようしたいところですけど、乗組員全員のりくみいんぜんいん命運めいうんがかかっているんですよね。だとすれば、自分の命に保証ほしょうが欲しいのは当然です」

 AXEが冷静に言って、自席の物入れから何かを取り出す。

「え? なにそれ?」

 サディが振り返り、AXEの手に握られたブツをみる。

秘密平気ひみつへいき! ちぐにゃにゃん目隠めかくしセットです」

 こういうこともあろうかと思って、全身全霊ぜんしんぜんれいを込めて作っておいた、お目々(めめ)の位置にお魚マークのひとみがかかれた、ちょこっとフェティッシュな香りただよう革ベルト式の目隠めかく拘束具こうそくぐをAXEが手でなでる。

「ええええ!?」

 サディが絶句ぜっく

「通常の三倍かわいい猫耳少女、ちぐにゃにゃんのことを私は忘れていませんよ。サディさん。安心してください。ちゃんと可愛く仕上げてあります」

 AXEがにっこり笑い、かわいいお魚マークの瞳が描かれた部分をみせる。が……、サディの表情は一気に真っ青に変わる。

賢明けんめいな判断です。かつて、ちぐにゃにゃん運営、二次大惨事にじだいさんじ三賢者さんけんじゃの一人であった、AXEさん。さすがです」

 タッヤがうんうんとうなづき、感嘆かんたん

「いい開発センスだ。AXE。そいつをつければ、グラジ・ゲートの摩訶不思議まかふしぎな時空が七変化しちへんげ万華鏡まんげきょうで、サディが、いや、ちぐにゃにゃんがぐるぐる目を回すことは絶対ないな」

 アークまでもが、うんうんと満足げにうなづく。

「このクソ広過ぎる宇宙には、絶対なんて……ない……の……で……は……」

 サディがわなわなと震えながらそう言った。

「アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された、最後には棺桶かんおけにまでなりえるガチでハードなメタル製、大宇宙の小さな艦橋の中には、絶対はあるかもしれねえな」

 アークがキリリと表情を引きしめ、サディに言葉を返す。

「私! やります! 自分の命の保証は、自分で確保かくほしたいと状況を判断します!」

 ミーマが半透明の片手を挙手きょしゅして席を立ち、秘密平気ひみつへいき! ちぐにゃにゃん目隠めかくしセットをAXEの手から取り、サディの背後へとせまる。

「あ……、あの……」

 サディからかすかな声がれる。

「なんだ? サディ?」

 アークが片眉かたまゆをぐいっとあげて、サディに問うた。

拘束具こうそくぐをつけられるなら……。アークに拘束こうそくさ……」

 そして、サディのほほがぽっと赤らむ。

「ぱッふぉぉぉぉっ!!」

 野蛮やばんけもの雄叫おたけびが、すさまじい音圧おんあつで艦橋に響き渡る!

「ひぃぃぃぃ!」

 突然の背後から浴びせられた雄叫おたけびに、サディがビビッて悲鳴をあげてすくみあがる!

「いまだ!」

 アークの声に、ミーマが背後から視覚拘束具しかくこうそくぐを、ガチン! とサディにはめる!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ