海賊放送船はどこに行くのか?
第六部開幕!
いま再びいつもの面々が乗り込み、星の海を翔ける海賊放送船に、君も一緒に!
海賊放送船はどこに行くのか?
「Space Synthesis System艦隊、全艦船の破壊を確認しました。生存者は皆無と推定します」
BLACK PINKのイカツクかわいい戦闘指揮所に冷たい報告が走ると、ダークピンクがダークグリーンへと変化し、戦闘態勢が解除されたことをあらわす。
「先に抜いたのは……。あんたらだから……」
戦時状態を脱し、ダークグリーンに染まる戦闘指揮所で、いまだBLACK PINKに彩られたスカイカイト女王の声が響く。しかし、その声はくぐもった声だった。ダークグリーンの光の中で、真っ赤な血を口からダラダラ流す猟奇的なパンダのぬいぐるみを抱きしめて、モフモフのお胸にスカイカイト女王は顔をうずめている。
「我々の仕事は済みました。これだけ殺れば、少なくとも向こう100銀河標準年くらいは、スカイカイトへ手を出そうとは思わないでしょう」
BLACKレザーにダークグリーンのラインが走るライダーズジャケット姿に変わった少年が言う。
スカイカイト女王は、猟奇的なパンダのぬいぐるみに顔をうずめたまま、少年になにも返しはしなかった。
少年は背筋をのばし語りだす。
我ら自由なる空の女王。
あなたはスカイカイトの女王として、殺らなくてはならないことをした。
つまり、あなたは女王としての義務を果たした。
よそ様の領宙域目前に、軍団規模の艦隊で押し入り、さらには全艦一斉射での威嚇を行った時点で、話し合いによる解決など想定外の彼方へと追いやる暴挙の領域へ、Space Synthesis Systemはすでに踏み込んでいた。
そして、我々には勝つと確信できる純然たる戦力差が、彼我との間に存在するという事実を判断できる根拠があった。
synthetic bullshitによくみられる伝統的な由緒正しいお家芸、ピンハネ中抜きスカスカで、税金をお仲間にジャブジャブ利益供与するために作り上げられた、中身はからっけつのハリボテ宇宙戦艦ども。そんな見た目だけは勇ましい虚構が作り上げた巨大過ぎるクソ軍団。しかも、我々は軍隊ではないのだという偽りの看板さえ掲げ、我々は積極的平和の使者だと、詐欺の典型みたいな言葉を撒き散らし、土足で人様の領域に踏み込んできた軟弱御珍砲ども。
本物の戦争の前で、そんな詐欺、欺瞞と詭弁に満ちた軟弱な御珍砲が、通用するわけがない。
synthetic bullshitは、まったくもって話にならない。そもそも話す気があるのかすら怪しい。意思の疎通が困難なほどに、synthetic bullshitの言葉は意味不明な破綻した妄言に満ちている。
つまりは軟弱御珍砲をぶらさげた、異次元の妄想野郎どもだということだ。
大宇宙に毒ん毒んと脈打つ暗部の心臓とか言うボンクラにぶらさがった、アホウ駄郎と無能駄郎、カスと既知の外にいる異次元様どもに、つける薬はないと聞く。
自分の口でついた嘘にさえのまれ、現実と妄想の区別がつかなくなった無能駄郎が作り出す効能は、あまりにも害悪に過ぎる。
どんなに詭弁をていそうが、どれだけ答えなかろうが、どんなに否認しようとも、ことが戦争であるならば、こちらにはすべてを明確に解決する手段がある。
こまかいことはおいといて、話にならない相手が先に攻めてきたのだから、ブッ殺せばハイ終わり。
御珍砲をへし折り、もぎとり、踏み潰し、ドログチャの役立たずになったお前様の御珍砲を、嘘偽り意味不明の妄言しか吐かない口に突っ込んで、現実を教えてやるしかない。
現実は嘘をつかない。
つまり、実際に始まってしまった戦争の結果は、嘘をひとつもつくことがない。
失われた命はもう二度とは戻らない。それはこの大宇宙の邪悪に過ぎるほど絶対な真実だ。
だから生命を奪われ、無惨に皆殺される、おもてなしに至るのが当然。
そして、我々にはそれを実行できる力があった。
事実上、無条件降伏を強要する宣戦布告に等しいSpace Synthesis Systemの威嚇行為に、現実的に実力でうわまわるスカイカイトが、譲歩することなどありえない。
積極的平和主義? 笑わせる。
こんな不快で有害な笑いをうみだした、synthetic bullshitのマジクソカスどもは、ゴミセンスにまみれた異次元のアホウ領域にだけ生息できる恥的生命体だ。
何かの病気に集団的にかかっているのかもしれないが、我々はsynthetic bullshitのかかりつけ医でもない。
なにより、synthetic bullshitどもを、なおしてやる義理もない。
ならば、結論は単純明快。
てめえらマジクソカスのゴミどもが押し入ってくるのなら、我々の銀河からきれいさっぱりお掃除してくれる。
スカイカイトの意志は決定された。
あなたの思いがどうあれ、あなたの感情がどうあれ、あなたに手ひどい感傷を呼ぶ決断であったとしても、あなたはスカイカイトの女王としてスカイカイトの意志を表明し実行した。
確かにそれは残酷で残忍な残虐行為だったのは事実です
だとしてもあなたは、敵には無慈悲な空の女王としての務めを果たした。その無慈悲な行為は、決して先に行われたものではないことに、私は強い尊敬の念を抱く。
私はあなたへ、最大の敬意を表します。
それでもスカイカイトの女王は、猟奇的なパンダのぬいぐるみに顔をうずめたまま、何も言いはしなかった。
少年は右の拳を作ると、真っ直ぐなパンチを空に放ち、右の拳を引き戻して左の胸へとそえる。
「我ら自由なる空の星、スカイカイトの象徴たる、敵には無慈悲な空の女王へ! 敬意を抱く者は、その場で最敬礼! これは強制などではないッ!」
少年の呼びかけは、秘匿通信チャンネルに流され、すべての艦の循環空気をふるわせる。
スカイカイト艦隊群すべての乗組員が起立、右の拳で空を切るパンチを放ち、引き戻した拳を左の胸へと当て、敵には無慈悲な空の女王へ、最大の敬意を示す。
「戦争は終わった! 全艦、スカイカイトへ帰還せよ!」
総員最敬礼が行われる黒と暗緑に包まれた戦闘指揮所に、星への帰還を告げる号令が走る。
謎の同士撃ちによって半壊したSpace Synthesis System艦隊を、すべてもれなく完全に地獄の底に落としきったスカイカイト宇宙戦艦達が、ゆっくりと180度回頭を開始する。
それでも、いまだにBLACK PINKに彩られたスカイカイト女王は、猟奇的なパンダのぬいぐるみに顔をうずめたまま、言葉にならぬかすかな声をおさえこんでいた。
180度の回頭を行い、ブッ殺すほどに着飾ったBLACK PINKなスカイカイト女王様の領宙域へと帰還していく、スカイカイト艦隊群の航跡が星の海に刻まれる。
アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋前面、ブ厚い硬化テクタイト製窓に走るダークピンクの爪痕を背に、白銀の髪がきらめくバトルドレス姿でシートのうえで足を組むサディが映える。
「主砲照準器をあんな使い方をしたのは初めてだよ。殺って殺っての殺りまくり! デッカイ主砲が吐き出すお弾弾どもをガンガンにブチこまれ、おナカのオクにドクンドクンとエネルギーを注ぎ込まれてドロッドロっに溶けちまって逝きまくる奴らを、あたしは指をくえてみせつけられる。これは何かのプレイなの?」
主砲照準器からようやくお顔をはずし、くつろいだ姿勢で席につくサディが、バトルブーツのかかとでコツコツと床をつつきながら言った。
アークはめいいっぱい倒したシートに寝転び、ブ厚い硬化テクタイト製窓の先で、宇宙の墓場へ向かって漂っていく宇宙戦艦の死骸達をみつめている。
「45口径46銀河標準センチメートル砲三連装四基十二門は、いったいなんのためにある?」
アークの問いにサディは答えなかった。
「この船は、海賊放送船ですよね」
AXEの冷静な声が響く。
「海賊放送船のくせに、この船は今回ただの一度も海賊放送をしていないと、状況を判断せざるをえません」
ミーマの腐った組織ダ! 海賊放送! の構想をいまも温めているミーマの状況判断。
銀河イチ省エネルギーと呼ばれるバンソロを、パチパチと弾きつつタッヤが語りだす。
この船はどこからきたのか?
その謎はある程度は解けました。
この船はどこへ行くのか?
それは私達が決めること。
この船は何物なのか?
ごくごくたまーに動くパンダ船長。そして、あまりにも謎過ぎる大殺戮大魔王大砲。
それでも、意味不明常識外の出力を叩き出す、謎のエンジンは確かに動き、この船は星の海を翔けている。
それだけが邪悪なる真実で、どんなに疑おうと、あり得ないと言ってみても、夢物語だとののしっても、現実に動いているこの事実をくつがえすことはできない。
どんなに否認しようが、現にいまある事実をなかったことにはできない。
まるで嘘みたいだけど、この船が実在しているのは事実です。
だとすれば……
この船はどこへ行くのか?
私達自身が、この船の行き先を決めることが大事なのではないでしょうか?
わざわざ言いはしないが、本当はいつも表示してはいけない領域に突っ込み続けている計器類に視線をうつし、タッヤはそう言った。
「そうだな。どこへ行くか決めるのは俺たちで、海賊放送船のくせに、この船はドンパチのさなかに海賊放送をやってない」
アークが答える。
「返り討ちにあって皆殺しにされたsynthetic streamに、追い打ちの海賊放送を叩き込みに行くんだよね?」
イカツクかわいいバトルブーツのかかとを、ゴツンと床に落とすサディ。
「サウザンアライアンズ銀河で俺は、synthetic streamどもを皆殺しにしたわけだ。正常な感覚なら、そこでおちんたま及びおまたんこが縮みあがって震えちまって、むこう100年はイキリたったりヨダレを流すことはねえんじゃねえかと俺は思っていたんだが……」
「次はスカイカイトに手をだした」
ガツン! と強く、イカツクかわいバトルブーツで、アイアンブルーの床をサディが蹴る。
あらゆるタマを宇宙の果てまで蹴っ飛ばす、サディのおみあしの標的が、synthetic streamをガッチリロックオンしたことに満足したように、アークはうんうんとうなづいて話し出す。
そうだ。synthetic streamの考えることは、いつもまったく理解できん。
意味不明理解不能のsynthetic streamのおおやらかしを止めるには、synthetic stream自体が
「自分達は狂っているんじゃないか?」
と疑問を持つくらいに変わらないと、どだい無理な話ってやつなのさ。
だから、俺たちは今再びsynthetic streamに突入し、残弾無限の海賊放送ってやつを叩き込み、いつか世界がひっくり変える日を、一日でも早くむかえようぜと騒ごうと思う。
それが海賊放送船である、この船らしい冒険なんじゃねえかって俺は思う。
「くそが!」
アークに同意するのか反発するのか、力強くネガの悪態が炸裂。さきほどあれほど漂っていた嬉しい感じはもう悪態から消えている。
アークはめいいっぱい倒したシートに身体をあずけたまま、ブ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がる星の海をみつめながら再び口を開いた。
俺たちには、45口径46銀河標準センチメートル砲三連装四基十二門を背負い抱く船がある。
たしかにたまには、殺られちまいそうだから、ぶっ殺したりすることもある。
スカイカイトの女王様風に言えば、御珍砲をイキリたたせて俺のお口に突っ込んで、俺に黙れと強要するヤツが現れたならば、逆にそいつを宇宙の石炭袋の底までブッ飛ばせるお弾弾をブチ込むゼニーが、いまこの船にはたっぷりある。
だが、断じて宇宙戦艦などではない、海賊放送船イービル・トゥルース号は、そういうことをするための船じゃない。
ドンパチするより、俺たちには宇宙を満たすダークマター級に言いたいことがあふれている。
大事なことだからもう一度言うぞ。
この船は言いたいことを言うために、星の海に浮かんでいるからこそ、断じて宇宙戦艦などではなく、海賊放送船と呼ばれているわけだ。
腹がふくれることはないが、胸がふくらむ海賊放送をドライヴさせることもできるし、俺たちの腹をブックブクにふくらませることもできるゼニーがある。
むこう数年。黙っていても給料が出るくらいの、ありえないような豊かさにこの船は今あるが……
どうだ? synthetic streamの中心で毒ん毒んと脈打つ、暗部の心臓にぶらーんとたれさがる、アスホールタロウなケツの穴とおちんたま及びおまたんこが震えあがってちびっちまうくらいの、しびれるようなバイブレーションってやつでもって、てめえらちっとはシャンとなれよと、グズグズなsynthetic streamにカツ入れるような、マジにハードでヘヴィな胸踊る生き方をするか?
それとも数年間、胸がふくらむどころか、腹が邪魔になるくらいにブックブクにふくらんで、元にもどるにはヒイヒイ言わなきゃいけないほど、ナマモノと酒をただひたすら流し込む日々を過ごすか?
決をとるぞ。
しびれるような生き方をしたいヤツは挙手。腹が邪魔になるくらいブクブクなほうがいいヤツはそのままでいい。
アークはそう言うと、手で形作った拳銃をブ厚い硬化テクタイト製窓の先にビシリとあわせる。
「んんんんん? ぐぬぬぬぬ? それは……。しびれるほうをとった場合、ナマモノと酒は一切ぬきなの!?」
アークの横でサディが頭を抱えてうめく。
「しびれる生き方はナマモノ酒抜き、とは一言も言ってない。だが、ナマモノと酒を選んだ場合、しびれるほうは一切抜きなのは確定だ。なのに最期のほうは、細かい理由はわからんが、ブルブルと手が震えだすのは間違いないだろうな」
アイアンブルーの天井に、ビシリと右の拳で作った拳銃をむけながらアークは言った。
「ナマモノを食べてしびれようぜ!」
サディ、起立して両手をあげて挙手。右手で一票! 左手で一票! 起立して一票! 合計三票が、ナマモノにイチ、しびれるにイチ、さらにドンパチを期待にイチに叩き込まれ、それからがすべて✕(かける)ことにより、最終的にサディ一票。
「ナマモノ食べてしびれたら、もう完全にアウトなような……」
ミーマが苦笑いを浮かべてサディをみつめる。
「かわいいパンダマークがご自慢の、ファンシー雑貨貿易船に就職したつもりはありませんから」
AXEが手で拳銃を作り星の海にむける。
「腐った組織ダ! 海賊放送! の時間だね!」
手で作った拳銃を若葉色の髪にそえて、ミーマが敬礼。
「浪費するのは論外ですが、貯めたゼニーを脂肪にかえて、一生使われることのない腹の埋蔵金にするために、ゼニーを管理しているわけではないですからね」
タッヤが片方の羽を広げる。
「んー、悩むなぁ。酒でブクブクも魅力的だしなぁ。でも、博打としては、しびれるほうが断然いいなぁ」
艦橋にきていたコタヌーンが、ビシリと手で形づくった拳銃で、星の海の先で待っているであろう未知のブランドの酒瓶をとらえる。
「博打はほどほどに、しびれるような博打はごめんですけど、ブックブクは健康に悪いだけなのかも知れません」
艦橋にきているオクタヌーンが、手で形づくった拳銃をコタヌーンにむける。
「シビレルヨウニイキタラ、ロボットニモジンケンガウマレルカモナ」
イクト・ジュウゾウが、一本のメタルアームをあげる。
「く? くそが!?」
俺はどこに逃げればいい? この船に乗っている限り、逃げることには事欠かないのは確かなのだが……
艦橋全員の反応に、ネガはバンザイをするように両手をあげる。
「こいつはパンダ船長もご納得だろう」
アークはニヤリと笑ってそう言ったが……
いまだメタルケーブルで艦長席にぐるぐる巻きにされ、無期限謹慎処分の身にあるパンダ船長は、まっすぐに星の海をみつめたまま何一つ答えもせず、うなずくこともしなかった。




