モッキンバードタウンにアークが立つ
モッキンバードタウンにアークが立つ
「いよいよ明日は最終日だねぇ」
ビッグウエスト海洋に隠れ潜むイービル・トゥルース号に、brain distraction号でむかえにきたタッヤと交代し、いまはbrain distraction号の操舵輪を握るアークが悠長に言った。
アークはイカツイ操縦席のラジオをつけて、96.9銀河標準メガヘルツに流れる、自分の声を聞いてみる。
「うーん。少々熱くなり過ぎか? でも、萎縮して忖度した既存のメディアなんてもんには、こういう感じは一切ねえから、いいんじゃねえかなぁ? ってか、そもそも、加減なんてできないし」
アークはそんなことを独り言でつぶやいている。
いま流れているのは、イービル・トゥルース号に残ったタッヤが、いままでの海賊放送から特に内容がいいと思ったものを、総集編として再放送してくれているものだ。
「物事、客観的に観るのは大事だよな」
そんなことを言いながら、自分のバカ話にはっはっはっはっと笑いながら、アークはクルーザーに偽装されたbrain distraction号の操舵輪を回して、モッキンバードタウンの港、モッキンバードポートへと向かっていく。
「ようこそ! アーク!」
brain distraction号を係留するモッキンバードポートには、サディがむかえにきていた。
「おうおうおうおう。うまい魚が食える店はみつかったかい?」
アークはモッキンバードタウンの大地を踏みしめて言う。
「もちろんだよ! アークのお腹に虫がわくくらい、ナマモノを食べれるよ!」
ニコニコしてそう言うサディに、俺もナマモノは好きだが、さすがにそこまでは食わんな、という顔をする。
「行こう! アーク! 美味しいのたべよ!」
サディに手を引かれてアークは、モッキンバードタウンのめくるめくナマモノの世界へと連れ込まれて行った。
「おー。これはなんだか、懐かしい感じがするな」
アークはハミングバード公園のベンチで、魚焼きを食べるなりそう言った。
「懐かしい……?」
初日の一発目に魚焼きを食べて、目を白黒させたサディは、いぶかしげにアークをみつめる。
「俺が育った星のひとつに、こんな感じの奇妙なスイーツがあってな」
アークはそう言いながら、魚の形をした魚料理ではない甘い食べ物をばくりと食べる。
「えー……。アークが育った星にも、こんな奇妙な料理があるの……」
サディはアークの目が白黒するのを見たいがために、わざわざテイクアウトの魚焼きを食べさせたのに、予想外の無反応ぶりに口をとんがらせて言った。
「それだけじゃないぜ。俺が育ったその星は、とにかく意味不明理解不能なまでに好戦的でな。この魚焼きみたいなスイーツの中身について、ナントカ派とカントカ派にわかれて、しょっちゅう戦争しているような星だったんだぞ」
そう言いながらばくりと魚焼きを食べきってしまったアークが、信じられんだろ? という表情で口をもぐもぐさせながらサディをみつめる。
「スイーツの中身で戦争してたの? アークの育った星って?」
サディには意味不明過ぎてにわかには信じられず、真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳を見開いてアークをみつめる。
「そうよ。宇宙に飛び出るより、星の中でドンパチするのが好きな閉鎖的な星だったからな。他にも、キノコタケノコ戦争とか言うアホな戦争もしょっちゅうやってたぞ」
アークはあきれた顔で、テイクアウトの未来みたいに真っ黒いコーヒーをがぶりと飲む。
「キノコ……タケノコ……戦争?」
いったいそれはどんな戦争なのかと、サディはまったく想像がつかない。
「俺が育った星には、キノコってスイーツと、タケノコってスイーツがあってな」
「スイーツが……戦争してたの?」
「いや、キノコとタケノコが戦っていたわけじゃない。そのスイーツを食う人々が、キノコ共和国軍とタケノコ連邦軍にわかれて戦ってたのよ」
アークは信じられんだろ? という顔で肩をすくめると、またがぶりと未来みたいに真っ黒いテイクアウトのコーヒーを飲んだ。
「えええ……」
そんな星で育ったアークが、頭のネジが数本どっかに飛んでいってしまっているのは仕方ないことなんだな。サディはあらためてそう思ったのだった。




