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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第五部 紅と蒼 & BLACK PINK

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君と俺と、この争いと

君と俺と、この争いと




「これでおあいこ。とか言っていたのはいったい誰だ? 大気圏離脱たいきけんりだつのとき、信じられないくらいに痛かったぞ」

 むすっとしたアークが、パンダがらのハーフパンツからのぞく、包帯ほうたいでぐるぐる巻きの太ももをみつめながら言う。

「まーたアークが、追加でオイタするからだよ。あんよの間の大事なとこに、あたしの素敵なお足を突っ込まれて、カワイイ主砲と大事な弾薬製造庫だんやくせいぞうこをつぶされなかったことを、あたしの慈悲深じひぶかさに感謝して心の底からありがたく思うんだね」

 サディはくちびるをとんがらせ、ゴツいバトルブーツでガツンとアイアンブルーの床を蹴っ飛ばして言った。

 バチュン! と音を立て、サディのバトルブーツから飛び散る赤い火花。

「くそが……」

 そんなやりとりの横で、ネガはふるえて小さくなっている。

 ……やれやれですね……

 目の前で展開てんかいされる、撃ちまくり過ぎて真っ赤になった銃身みたいな熱いイチャコラに、AXEが完全にあきれかえっている。

 こんな状況だというのに……

 自席のレーダー盤にうつる数々の光点が描き出した、対峙たいじするふたつの巨大な光の雲に、AXEが視線を落とす。

「あらゆることについて、やることが後手後手ごてごて後手ごて致命的ちへいていに遅過ぎる、いつも周回遅れのシンセティック・ストリームも、ついに積極的平和推進使節団せっきょくてきへいわすいしんしせつだんを送り込んできましたね」

 AXEは冷静に言いながらも、背筋せすじを走るゾッとするような感覚に身をこわばらせる。

「対するスカイカイトは、相当そうとう歓迎かんげいを用意しているようで……。さすが、かつて単独たんどくでBig Synthetic Empireの侵略しんりゃく退しりぞけた、ガチでバチバチな星系と状況を判断します」

 ミーマがゴクリとつばを飲み、互いの戦力状況を分析。

 ブ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がる星の海では、巨大な宇宙戦艦達が作り上げる艦隊群による砲撃戦が、今にもはじまろうとしている。

 イービル・トゥルース号はスカイカイト星を離れ、今再び宇宙を翔けてsynthetic stream 勢力圏せいりょくけんからの侵入経路である、グラジ・ゲート周辺に存在する小惑星群の中に隠れひそんでいた。

 船首のドクロの先には、synthetic stream 積極的平和主義推進使節団(せっきょくてきへいわしゅぎすいしんしせつだん)と、それを迎えるスカイカイト艦隊群が対峙たいじする、一触即発いっしょくそくはつの公宙域。

 公宙域とは言っても、ここはもうスカイカイト星系の事実上の縄張なわばりだ。

「ここまできたら……。積極的平和主義がもたらす、破滅的な惨劇さんげきが積極的にバンバン起きる、という予想が外れることは、とっくの昔の想定外の事態じたいですね……。このドンパチの片隅かたすみで、本船は傍観者ぼうかんしゃを決め込む……。これで本当にいいのでしょうか?」

 バンソロと呼ばれる銀河イチ省エネルギーな計算機で、これから起こるであろう損害そんがいをパチパチと計算しつつ、あまりの甚大じんだいすぎる被害予想ひがいよそうにタッヤが震えながら言う。

「ジャーデン・サヴェージ星系の時みたいに……」

 アークが話しはじめようとしたが……

 殺気に満ちてギラつく赤い光弾がごとき視線が、左横から痛いほどに突き刺さりえぐってくるのが、アークにはわかった。その時点で、パンダ柄のハーフパンツの内部に格納かくのうされた、かわいい主砲と大事な弾薬製造庫がキュンッとちぢみあがって震えるほどに、アークはすでにわからされてしまっていた。

 アークはいったん口を閉じる。

「すーはー……」

 アークの深呼吸する音が、アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋に満ちる循環空気じゅんかんくうきを、かすかに震わせる。

「……過去にどういういわくが、スカイカイトとこの船の間にあるのか不明だが、今現在この船は海賊放送船だからな。海賊放送屋としてできることをやる。それがこの船の総意そういと決めたじゃねえか。このドンパチのど真ん中に割り込んで、いま再び英雄になろうなんてのは、俺たちのガラじゃねえ。そういうことさ」

 アークの言葉に、サディがギリリと歯ぎしりし、するどとがったメタル・スタッズ付きのグローブに包まれた拳を、ギュッと握る。

「いいシンセティック・ストリームをやまほど作れる、45口径46銀河標準センチメートル砲が、三連装四基十二門もあるっていうのにねぇ」

 心の底から残念そうなサディ。

 アークが苦虫にがむしつぶしたような表情を作り、口を開きかけた時……

「シンセティック・ストリーム艦隊、公開チャンネルで通信を開始。モニター出します!」

 緊張感に満ちたミーマの声が艦橋に響きわたる。

 艦橋前面、ブ厚い硬化テクタイト製窓の星の海が消えて、スクリーン表示へと移行していく。

 スクリーンが白地にかわり、毛筆もうひつで書かれた赤黒あかぐろい文字が次々に白地を不気味に染めていく。

「Space Synthesis System!! 積極的平和主義推進使節団大本営発表(せっきょてきへいわしゅぎすいしんしせつだんだいほんえいはっぴょう)!!」

 デカデカと表示された、synthetic stream 標準言語。

 そして、激しい時代遅れ感をともなうラッパの音が、パッパラッパ・パッパッパと響きわたる!


 我々は、Space Synthesis System 積極的平和主義推進使節団(せっきょくてきへいわしゅぎすいしんしせつだん)である。

 本使節団はあらゆる戦争を積極的に抑止する、積極的平和の使者である。

 圧倒的な抑止力を発揮はっきする、強大なる平和力をともない、大宇宙に積極的に平和をもたらす、神聖なる究極平和の使者である。

 そのような究極平和の追求をになう積極的平和主義推進使節団(せっきょくてきへいわしゅぎすいしんしせつだん)に対して、武力を持って対峙たいじ威嚇挑発いかくちょうはつするスカイカイト星系艦隊群せいけいかんたいぐんの対応は、あまりに非文明的であり野蛮極まる無法国家のテロ行為そのものである。

 このような戦争主義の発露はつろは誠に遺憾いかんであり、この銀河の平和を乱す許されざる蛮行ばんこうと断じ、非難ひなんされるものでしかあるまい。

 銀河をひとつにし、あらゆるものをひとつにたばねる。

 あらゆる者にとってたったひとつの真理である、絶対存在であらせられる第98代 森羅万象絶対無謬総裁総理総合枢軸統一元帥(しんらばんしょうぜったいむびゅうそうさいそうりそうごうすうじくとういつげんすい)アベンシゾー総統陛下そうとへいか異議いぎをていすことは、非銀河臣民的ひぎんがしんみんてき不敬ふけい不遜極ふそんきわまる不敵ふてきな反積極的平和主義者の野蛮さがもたらすテロ行為と、強く糾弾きゅうだんせざるを得ない。

 だが! 森羅万象しんらばんしょうつかさど絶対無謬ぜったいむびゅうの存在であられる、アベンシゾー総統陛下そうとうへいかはとてつもなく器が大きい。

 すべての銀河をその心に持つ巨大なツボに収めるほどに、アベンシゾー総統陛下の心中にあるツボは巨大なのだ!

 いま再び、もう一度だけ問おう!

 Space Synthesis Systemに合流せよ! 我らとひとつとなりて! アベンシゾー総統陛下の胸にある、巨大なツボに合流して流れ込み、圧倒的多数に溶け合いたったひとつになるのだ!

 何もかもがひとつになり、そこに意見の相違そういも個人の区別も存在せず、あらゆるものがツボの中で溶け合い宇宙的家庭連合となった時!

 この宇宙はひとつなって、絶対的な平和がもたらされるのだ!

 なにもかもがツボの中で溶け合い、たったひとつになった後の世界では、争いも不平も不満も存在できない。

 なぜなら、森羅万象を司るアベンシゾー総統陛下の末端まったんとして、何もかもが従属じゅうぞくし、そこには個人というへだてなどもはや存在しないからなのだ!

 貴様と俺の境界線が、すでに存在しないのならば、そこにいったいどんな争いが起こる余地があるというのだ?!

 俺は貴様で、貴様は俺で、貴様と俺はアベンシゾー総統陛下の末端だ! ならば、アベンシゾー総統陛下の幸せを、あらゆる忖度そんたくをして追求することが、知的生命体としての幸せなのだ!

 貴様は俺で、俺は貴様で、そしてアベンシゾー総統陛下の末端でもある!

 このような至高の幸せの中で、たったひとつになった俺と貴様に、意見の相違を生み出すような、思想の変化がどうやって起こり得ようというのか!?

 あえて言おう! 絶対にないと!

 ああ! 素晴らしいシステム!

 なにもかもがたったひとつにまとめられ、なにもかもがアベンシゾー総統陛下に率いられる! その究極理想の世界には、自身の考えを持って思い悩むなどという、無為むい無価値むかち無駄むだなど、ひとつも存在することはできないのだ!

 無知蒙昧むちもうまいなる不敬ふけい不遜極ふそんきわまる不敵ふてきなテロ国家!

 スカイカイト星系よ!

 今ならまだ間に合う!

 我ら積極的平和主義推進使節団(せっきょくてきへいわしゅぎすいしんしせつだん)がかかげる、圧倒的な抑止力をもたらす平和力の前に平伏へいふくし、無条件で我らが平和に賛同さんどうせよ!

 積極的平和主義せっきょくてきへいわしゅぎ推進すいしんするために、この星域におもむいた我らに突きつける、その異常なまでに侵略的な武器を放棄ほうきして、我らが平和に合流してツボの中で溶け合い、たったひとつの宇宙的平和家庭連合になりたまえ!

 だが、この善意あふれる平和の提言ていげんに対して、無知蒙昧極むちもうまいきわまる銀河の果ての未開の野蛮生命体には、回答を出すには検討けんとう検討けんとうを重ねて議論を加速させ、足りない中枢神経細胞でもって必死に考える必要があるのであろう。

 今から24銀河標準時間の回答猶予かいとうゆうよを設ける。

 我々の積極的平和推進提案せっきょくてきへいわすいしんていあんに対して、無条件でなされる平和的な賛同さんどうを、スカイカイトが選択することを期待する。

 無条件平和賛同宣言むじょうけんへいわさんどうせんげんが成されない場合には、貴様らを平和に対して挑戦する脅威きょういと認定し、圧倒的な平和力を積極的に行使して、大宇宙の平和を推し進めるために、貴様ら未開野蛮生命体を平定する所存であることをもうしあげておく。

 無知蒙昧極むちもうまいきわまる銀河の果てで、未開の野蛮生命体によって構成された、不敬ふけい不遜極ふそんきわまる不敵ふてきなテロ国家どもよ!

 この積極的平和主義の象徴しょうちょうたる、圧倒的な抑止力の前に震え上がれ!

 心の臓腑ぞうふまでもを、積極的平和主義に染めあげられて、従順じゅうじゅんに我が平和に無条件で賛同さんどうせよ!

 積極的平和主義の前に平伏へいふくせよ!

 ちっぽけで無力な個々の生命体としてなどではなく、圧倒的多数に溶け込んで、たったひとつに束ねられてかたまったひとつになりたまえ!

 第98代 森羅万象絶対無謬総裁総理総合枢軸統一元帥(しんらばんしょうぜったむびゅうそうさいそうりそうごうとういつげんすい)アベンシゾー総統陛下そうとうへいかマンセー!

 ともにたったひとつのツボの中で溶け合い! この大宇宙に統一された平和の一部となれ!

 我らが積極的平和力のちからをみるがよいッ!

 震えあがれ! 我らが巨砲の威力いりょくを目に焼きつけて、中枢神経細胞ちゅうすうしんけいさいぼうナカのオクまで、平和をわからされるがよいッ!

 積極的平和力推進抑止力せっきょくてきへいわすいしんよくしりょく! 顕示けんじッ!

 全艦! 大自由神民主主義銀河神民統一砲! 全門開けッ!

 この大宇宙に、圧倒的な抑止力を吐き出して、道理どうりを知らぬ野蛮生命体どもにみせつけるのだぁぁぁぁッ!



 synthetic stream 全艦隊が、艦隊直上にすべての艦砲を向けて、極大威力のビーム兵器を発射する!

 赤黒い閃光がsynthetic stream艦隊直上の宇宙空間に、赤黒くドクドク脈打みゃくうつ巨大な柱をそそり立たせる!

 それは、宇宙空間に群がる艦達のうえにニョキニョキ生えた、赤黒い不気味な巨大キノコを思わせた。

 ブ厚い硬化テクタイト製窓から入り込んでくる赤黒い光に、アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋が、不快な朱色しゅいに染まる。

相変あいかわらず、狂ってやがる……」

 自席でパンダ柄のハーフパンツのうえで拳を握りしめてアークは言った。

「もうさ。ブッ放してブッ殺して宇宙の石炭袋の底までブッ飛ばして、あっという間に解決しようよ。聞いての通り、あいつらに言葉なんて意味ないんだよ」

 サディが武器管制盤を叩く。サディの前に巨大なリボルバーカノン型の主砲操作桿が現れ、小さなお手々でしっかりとそのトリガーに指をかけ、ゴツいバトルブーツでガツンと艦橋を蹴っ飛ばしてサディは射撃姿勢をとる。

 ガンメタルグレイの構造物と接触せっしょくしたバトルブーツがバチュンと飛ばす、通常の三倍以上に危険そうな赤い火花!

 ゴツいレザー仕立てのバトルスカートからなまめかしくのびる、火花を散らすサディの素敵なあんよをみつめていたアークは、パンダ柄のハーフパンツで格納中の、ご自身のカワイイカワイイ主砲と弾薬製造庫に視線をうつし……

 シートに座っていれば、直上からの垂直落下式バトルブーツさえ気をつけていれば大丈夫だろうと判断し、アークは話しはじめる。

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