ドアーホ・マーカイザックを破壊せよ!
ドアーホ・マーカイザックを破壊せよ!
「ねーえー? これでオアイコ。ってことで、私達は仲直りしたんじゃないのぉ?」
ブ厚い硬化テクタイト製窓の前に、濃紺のミリタリージャケット+自室用のパンダがプリントされたハーフパンツ姿で、むすーっっとした表情で立っているアークに、サディが問いかける。
「まったくオアイコなんかではないと思うが? 少なくとも俺は、全員の命を救おうとしたんだぞ」
むすーっとした表情のアークが、腕を組んだまま言う。
「いいじゃん。アーク。かわいかったよぉ。だから許してあげるってぇ」
サディがニヤニヤ笑いながらアークに言う。
「くそがぁぁあッ!」
真横で繰り広げられるイチャこらに、ネガの激しい悪態が炸裂する。
「……まったく……」
そんな艦橋最前列でのやりとりを、AXEは優雅姿勢で自席に座ってながめている。久しぶりについた自席は、水中にいるためにレーダーはまるで役にたたず、特にすることはないくらいに暇でもあった。
「あんな感じではありますけれども、袋にたっぷりたまった体液をドバドバお漏らす、そんな特殊な時間を共有した今となっては、ふたりはドロリとより親密な関係になったと状況を判断します」
閉鎖されたアイアンブルーとガンメタルグレイの世界で行なわれた内部事情を、じつはいろいろ知っているミーマが冷静に判断する。
「……そろそろ。真面目な話をしたいのですが……」
タッヤが計器類を点検しつつ言う。
「ふむ? 真面目な話とはなにかなぁ?」
そう言ったのは、艦橋で行なわれた惨劇の後に、しれっと戻ってきたコタヌーン。
「真面目な話というのは、これからの話なのかもしれません」
とオクタヌーン。
タッヤがうなづき、話しはじめる。
 
その通り。これからのお話です。
様々な謎は残りつつも、イービル・トゥルース号に今再びいつもの面々が集結したわけです。
あらゆる銀河をたったひとつに束ねようとするシンセティック・ストリームに、あらゆる銀河を渡り歩きながら反抗し続けてきた私達は、いまもってシンセティック・ストリームに合流して、たったひとつとなることをよしとしません。
そして今再び、シンセティック・ストリームは銀河侵攻艦隊をスカイカイト星系に送り込み、戦乱を巻き起こそうと画策しています。
では、私達はこれからいったいどうするべきか?
そのお話をしたいのですよ。
 
「決まってるじゃないか。いいシンセティック・ストリームは、ダークマターにかえったシンセティック・ストリームだけさ」
真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳をギラリと光らせ、サディが答える。
「ジャーデン・サヴェージ星のお姫様に、いいところをみせようとした結果、シンセティック・ストリームを皆殺しにするようなことを、またするつもりなんですか?」
AXEが厳しい視線をサディに向けて言う。
「この船には、正体詳細一切不明ながら、その大殺戮を行うことができる実力が存在すると、状況を判断せざるを得ません」
サディが殺ろうと思えば思うがままに、この船は大殺戮できてしまう事実を、ミーマが冷静に指摘。
「殺し過ぎるのよくないなぁ」
コタヌーンが穏やかに指摘する。
「殺し過ぎるのは、本末転倒かもしれません」
とはオクタヌーン。
「俺は好きで殺しまくっているわけではないぞ」
濃紺のミリタリージャケット+パンダがプリントされたハーフパンツという、大宇宙の果てを翔ける斬新なファッションでキメたアークが答える。
「あのねぇ。アーク。前に誰もいない宙域で、ふたりきりで突っ込んで、思いっきり殺りまくったじゃない。あの夜のことを忘れたの?」
とサディが唇をとんがらせて言う。
「ダイジョブだ。あれはなかったことにしていいはずだ」
あれは二人の一夜限りの過ちで、いまとなってはノーカン扱いだ。と言いたいそうな表情でアークは言った。
「はぁぁあ? なかったことにしていいってのは、いったいどういうことなのさ?」
ふたりで殺りまくったあの夜を、なかったことにしろと言われたサディはそう返す。
ギラつくサディの真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳を、アークはじっとみつめて口を開く。
俺と君が熱くなって、ふたりで激しくドロッドロになるまで殺りまくったあの夜は……
誰もいない宙域での、たったふたりだけの秘め事だからな。
つまりは、あの時あの場所で行われた、過激な行為についての観測者というものは、存在していないってわけさ。
この広すぎる大宇宙においては、その存在を観測する者がいなければ、それはつまり存在しないと同義だ。
あの夜、あの宙域で俺と君とで行われたことは、誰にも観測されていない。
つまりあの時に行われたあの行為は、誰にも認識されず認知もされず、ゆえに事実として起こっていない可能性が未だに存在しているということだ。
だから、俺と君が熱く燃えあがって、激しい運動の果てにドロッドロになるまでやらかした、殺りまくりのお蛮行という事実は、どこにもエビデやンスも何も存在しないため、それは実際には起きなかったことなのだとも言っていい。
アホウタロウのケツのアナから漏れ出す無能駄郎なシンセティック・ストリームの世界では、俺が今言ったことはじゅうぶんに通じる論破力ってやつだ。
シンセティック・ストリームはマジカスアホのクソクソだが、俺は何もかもを全否定しかしないBotじゃない。
ということで今回俺は、シンセティック・ストリーム的な論破力に満ちあふれる、こういう認識を採用したい。
つまりだ、とある誰もいない宙域で、キャプテン・パンダと愉快な仲間たち号に問答無用でブッ放した結果、無惨にぶっ殺されたあの宇宙戦艦は、とある一夜の過ちどころか、完全にノーカン扱いでもいいということだ。
いいか、サディ。
物事ってヤツは、柔軟に考えることが重要だ。
柔軟にやさしく接っするように、思考をモミモミしまくれば、物事ってヤツはドロリと濡れたように、なめらかにスルッとぬるりと奥へとズンズン突き進む。
素晴らしきかな! 柔軟思考! 俺はそうやって生きてきた!
この俺の存在自体が、最高のエビでヤンスってやつなのさ!
こいつはもう、アッハ! アッハ! と笑うのが、やめられない止まらない!
つまりは、アッハエビでヤンス!
とは言えとは言え、だがしかし
ここスカイカイト星域では、いろんなことがまったく違う。
あらゆる衆人環視のまっただ中で、いま再び俺と君が熱く気持ちを燃えあがらせて、ふたりで殺りまくりのしまくりでブッ放し、シンセティック・ストリームをブッ殺してまわるというのはあまりに目立ち、様々な知的生命体に観測され過ぎる。
当然、俺達にカメラを向ける者もいるだろう。
そうなれば、俺と君の燃えあがるような激しい行為が生み出した、ドロッドロのグッチャグチャな無修正映像が、この大宇宙にどんどん拡散されてバラまかれていくことになる。
こいつはまずい! 消してまわるぞ!
そうは言っても今更遅い。
俺と君が殺りまくりでしまくりの、バンバンでバコンバコンなお蛮行お動画は、コピーがコピーを生んでバイバインにボンキュッボンと増えまくり、広すぎる宇宙に果てしなく拡散していき、永遠になくなることはないだろう。
そうなったら、さすがに俺も
「あの夜あったことは一夜の気の迷いで、なかったことにして欲しい」
なんてことを、しれっと言えなくなっちまうからな。
だ・か・ら
殺りまくりのしまくりで、バンバンバンのバコンバコンとブッ放し、シンセティック・ストリームを殺してまわる。
そういうことは、今回はおあづけだ。
わかるな? サディ?
熱く燃えあがる気持ちに流されて、殺りまくりのしまくりを、今回はぐっとがまんしろってことだ。
そして、最後に大事なことを言うぞ。
俺たちはマジでバチバチに武装したマジモンの戦争屋だが、いつも最初に撃ちたがる積極的平和主義者の対極に存在している、ガチガチの消極的戦争主義者であることを忘れるな。
 
濃紺のミリタリージャケットの前で腕を組みながら、パンダがプリントされたハーフパンツ姿で立つアークは、ビシリとサディにそう言った。
「えー。そんなんでどーやってスカイカイトにやってくる、積極的平和使節団とか言う、偽の看板をデカデカ掲げた、ガチの侵攻艦隊とやりあうって言うのさぁ」
サディがさらに唇をとんがらせる。
「スカイカイトは、昔勝ったんだろ? 俺達の加勢なんか、この星はいらねえかもしれない」
アークは静かにそう言った。
「つまりは、すべてをスカイカイトにゆだねると?」
アークの予想外の答えに、AXEが眉をひそめる。
「確かに、ガチでバチバチなハードさ極まる実績を誇るスカイカイト星系なら、私達が加勢しなくても……。なのかも」
とミーマが状況を判断する。
「たまにはのんびり過ごしてもいいんじゃないのかなぁ」
とコタヌーン。
「たまにはドンパチに顔突っ込まなくてもいいのかもしれません」
とはオクタヌーン。
「オレニキュウカヲ、ヨコシヤガレ」
とはイクト・ジュウゾウ。
「いや、なにも関わらないとは、俺は一言も言ってない」
アークがブ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がる、スカイカイト星の深海をみつめて言う。
「じゃあ、どう関わるのさ?」
アークが履くハーフパンツにプリントされたカワイイパンダを、サディが赤い瞳でみつめながら言う。
「この船のいつもどおりのやりかたでだ。しかし、前ヤッたみたいにドンパチのド真ん中に、頭を突っ込んでズコズコ奥まで割って入ってイク。そんなことはしない。なんてったって、ジャーデン・サヴェージ星の時みたいに、こういう女はどうしても助けてやりたいと俺が心の底から思っちまう、肝のすわった素敵なお姫様と、俺達はつながっているわけではないのだからな」
アークの言葉に、サディの瞳に危険な光がギラリと輝く。
「あたしの純真な乙女心に対する配慮をなにひとつ、貴様は学んでおらんのかぁぁぁ! このドアーホ・マーカイザックがぁぁぁッ!!」
サディがあげる怒りの絶叫が、循環空気を震わせる!
そして、いかつくカワイイブーツが全力全開全速で、目標物の全損を狙う破壊力でもって、アークのハーフパンツに叩き込まれた!
 




