羽ばたけメタル芋虫!
羽ばたけメタル芋虫!
「おかけになった電話は、グラジ・ゲートの向こうにおられるか、船が沈んでいるため、かかりません」
ぷるるるぅ〜という怪音のあとに現れたのは、そんなことを繰り返す機械音声だけだった。
結局、何回かけても、ハサウェイに電話はつながらなかった。
「ぷるるるるるるるるぅ〜」
と怪音が鳴り、無味乾燥な機械音声が一方的に話すだけで、礼儀正しいブラックスーツ男の声は現れなかった。つまり、極大威力を飛び越えた、大殺戮大魔王大砲の謎は解けなかった。
そしてパンダ船長も、ピクリとも動かなかった。
メタル芋虫は
「いいかげんに、メタルケーブルをほどきやがれ!」
と騒いでもがき続けた。
「くそが!」
とネガは、メタル芋虫に答え続けて相手をしている。
「俺が悪かったって! マジでしゅーんと反省してるよ! だから、いい加減メタルケーブルをほどいてくれよ!」
もがくメタル芋虫。
ゴツ、ゴツ、ゴツ
イカツくカワイイブーツのヒールを鳴らして、サディがメタル芋虫の元にやってくる。
「まだまだハナシつけないと、いけないことがあるんだよ」
紅く短いスカートの中身が、ギリッギリ見えない位置で仁王立ちしたサディが、メタル芋虫を再び見下ろして言った。
「今度はなんだ? いったいどの件だ?」
「あの時、シンセティック・ストリームのクソ野郎どもをきれいさっぱり始末して、すべてのケリがついた後のハナシ」
サディの真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳が、するどく危険な光を宿す。
「俺がいままで何をしてたかってことか?」
「いいや、違うね。な・ん・で・あたし達をほっぽって、星の海の果てにバックレたのさ? ってハナシだよ」
サディの真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳が、ギロリとアークをにらみつける。
「あのなあ……。いまこの俺がなっているざまをみろ。あれからどれだけ時間がたっていると思う? 犯行直後のあっちっちのほっかほかの段階を遠の昔に通り過ぎて、ほとぼりが冷めててもいい頃でこの仕打ちだぞ? あの時、俺が戻っていたら、いったいどうなっていたと思う?」
アークの言葉に、真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳に危険な炎が燃えあがり、サディの唇がなまめかしく開かれる。
あー、そうだねぇ。
問答無用であんたのあんよの間に、あたしのバトルブーツを突っ込んでから、あんたのお皮をズルリとむいて、お敏感になったさきっちょあたりをフルメタル製のやすりで、ゴリッゴリ音をたててナデナデしてかわいがってあげてたよ。
きっとあんたは、うれしくってうれしくって、涙を流して素敵なお声をあげただろうねぇ。
でも、ダイジョウブ。ズルリとむいて敏感になっているさきっちょを、やすりでやさしくちょこっとこすってやってるだけだからさ。
たいしてあんたは減りゃしないよ。
死ななければ、ぜーんぶかすり傷。
すべてなくなってしまわなければ、どうということはない。ってやつさ。
だけどさ、せっかくズル剥けに身ぐるみはいだわけだしさ。
ズルむけになったあんたの身体に、俺は純真な女の子をだまして好き放題やりまくり、首まで絞めて失神させてから、宇宙にポイした正真正銘のクソ野郎です、ってペイントしてから、突撃刺突衝角の先っちょにくくりつけて、一銀河標準週間くらいは銀河ひきまわしの刑に処しただろうねぇ。
「ほらみろ! 俺の予想を遥かにうわまわる、クソヤヴァイことをするつもりだったじゃねえか……。やっぱあの時、ケツまくって逃げて大正解だったってことだよ!」
「メッチャ計画的に、ほとぼり冷まそうとしてんじゃねえよッ!」
サディのイカツクかわいいブーツが、アイアンブルーの床をガツーン! と蹴りつけ
バッチューンッ! と紅い火花を散らす!
「くそがぁぁぁ……」
マジでキレてる危険なサディからたちのぼる、真っ赤なバイオレンスオーラに毒づくネガ。
「サディさん、ちょっとこちらに」
きらめく銀髪がアイアンブルーの天を突きそうなサディに、冷静なAXEが自席から手招きをする。
「どうしましょうか?」
タッヤが両の羽先をモフモフな身体の前で組んで言う。
「どうしようかねぇ」
サディが腕を組んで言う。
「私達の命を助けようとしたのは事実なのでは?」
AXEが斧モチーフの髪飾りをいじりながら、自席のシートのうえで言う。
「なかなか過激に過ぎた方法だったとは思いますけど……。あれだけ極まった状況であったなら、集団で発狂して集団特攻という結末もあったのではないかと、いまになってみれば状況を判断せざるを得ません。そう考えると、めっちゃくちゃではありましたけど……。一応は、私達を救う方法ではあった。というのは妥当な判断かと」
ミーマが久しぶりに座った自席で、足をぶらぶらさせながら言う。
「なんてったってヤカラだからなぁ。追い込まれると、ヤヴァイことしちゃうんじゃないかなぁ」
とコタヌーン。
「殺るか殺られるかの状況では、ヤカラになってしまうのかもしれません」
とはオクタヌーン。
「くそが!」
とネガは毒づく。
タッヤが組んでいた両の羽先を解いて、メタル芋虫がしばりつけられた席に近づき話しはじめる。
メタル芋虫さん。
あなたにちょっと、お聞きしたいことがあります。
あなたがいったい何者なのか? というのは、とりあえず今はおいておきます。
ですけどね、ここスカイカイト星では、この船は別格級の大英雄扱いなんですよ。そのことは、首都降下のあとに起きた花火騒ぎがあったことからも、今のあなたはじゅうぶん理解していると思います。
で? あなたはどうするつもりなんです?
もしかしたら、かつてこの星を大殺戮をしまくって救った大英雄と、クローンなのか子孫末裔なのかはわかりませんが、なんらかの関係があなたにはあるのかもしれない。
だとしたら、あなたはこれからどうするつもりなんです?
タッヤの言葉に、メタル芋虫が話し出す。
どうもしねえよ!
大殺戮大魔王とか大英雄だなんだとか、俺が知ったことか!
クローンであるとか、子孫末裔であるとか、そんなことは知らねえし、何より俺にはどうでもいい。
俺は俺だ!
シンセティック・ストリームのアホウタロウのケツのアナが、またおバカなおイタをしに大手を振ってやってくるんだ。
おクソのお濁流みたいな大クソ潮流、シンセティック・ストリームに俺は抗うために、海賊放送船でやってきただけだ。
俺は俺で、俺は俺のやりかたを、いままで通り、俺の気が向くままにするだけだってえの!
メタル芋虫の発言に、タッヤは深い溜息をつくと話し出す。
メタル芋虫さん……
もしもここが、ハードSF小説の世界だった場合はですね。
ご自身のアイデンティティとか、自分はいったい何者なのか? とか、
謎のテクノロジー満載の宇宙船の由来とか、めっちゃくちゃに重大なことなんですよ。
そういうあらゆる重大要素をブッ飛ばして、あなたは自分の思うがままに、この船を海賊放送船と呼び、それでもって好き勝手にまたやって、シンセティック・ストリームのケツを蹴っ飛ばしてブッ飛ばしたい。
つまりはそういうことでいいですか?
「その通りだよ。理屈も何も、この船は現実に存在しているんだ。そして、俺は俺であって、今現在ここにいる。それだけが邪悪なる真実だ」
メタル芋虫はそう言った。
「はああああ……」
AXEが、ミーマが、タッヤが、サディが、コタヌーンが、オクタヌーンが、深いためいきをつき、ネガだけが
「くそがぁぁぁ……」
と言った。
乗組員達の深いためいきを聞きつつ、タッヤがさらにくちばしを開く。
もうひとつ質問です。
あなたが好き勝手やるというのは……
45口径46銀河標準センチメートル砲三連装四基十二門と、大殺戮大魔王大砲を好き放題にブッ放し、このスカイカイト星に攻めてくるシンセティック・ストリームを、どいつもこいつもひとり残らず宇宙のダークマターに返してやるぜ!
そういう意味だったりするんですか?
「だからよぉ。この船は、海・賊・放・送・船であって、海賊船でも宇宙戦艦でもねえんだって、ずっとずっと言っているだろうがよ! 俺は俺のやりかたで、果てしなく世界に一石をブチ込み続ける、残弾無限の海賊放送ってやつで、この戦いにブッコミにきたんだよ!」
メタル芋虫の答えに、タッヤが満足げにうなづく。
「本質的には残酷で残忍な残虐極まる危険な暴威であることは知っていますが……。この海賊放送に対する異常なまでのこだわり。通常の二倍以上に常軌を逸した、意味不明なまでの自信に満ちた発言。これはもう間違いありません。このメタル芋虫は、私がよーく知っているアーク・マーカイザックにほかなりません!」
タッヤがついに宣言する。
「おお! わかってくれたか! では、いいかげんにメタルケーブルをほどいてくれよ。もうそろそろ俺も限界でな……。とにかくおトイレに行きたくてしかたなくてな」
正体不明な不死身のメタル芋虫から、ようやくアーク・マーカイザックに復帰したアークが、めいいっぱい倒したシートのうえで、モジモジしながら言う。
「そ・い・つ・は・つ・ご・う・が・い・い・は・な・し・だ・ねぇ」
真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳をギラつかせ、紅く短いスカートの中身がアークからギリッギリ見えない位置で、仁王立ちしているサディがそう言った。
「都合がいいだと?」
メタルケーブルでぐるぐる巻きにされた、アークの片眉がぐいっとあがる。
おびただしい流血の色を思わせる、赤い口紅ひいた、サディのお口が話し出す。
アーク。
あんたは、銀河中でちやほやされてしかるべき、カワイイ戦闘要員であるこのあたしの心と身体を、これ以上ないくらいにしっちゃかめっちゃかにもてあそんだんだ。
ま・さ・か
タダで済むとは、これっぽっちも思ってないよねぇ?
ぶちまかれた鮮血の色を思わせる、赤い口紅ひいたサディのお口から発せられた言葉に
「なんだと?!」
とアークは驚愕。
大量出血を連想させる、赤い口紅ひいたサディのお口が、なめらかに動き出す。
あんたは永遠の14歳なんだって?
だとすると、合法年齢を過ぎたあたしは、あんたよりずーっとうえのお姉さん。ってことになるよねえ?
ずーっとうえのお姉さんの心をだまくらかしてもてあそび、さらにそのお体までもを好き放題にいじりまわして、最後には首まで絞めて失神させて、宇宙にポイしちゃうショタなんて……
重罪のナカの重罪さ。
この先二度とおイタができないように、おちんたまをブッつぶされても文句は言えない。
ねえ、あんたはそう考えたりはしないのかい?
カワイイお顔を主砲照準器に突っ込んだ時のように、サディの口元から牙のような犬歯がのぞく。
「つまり、強烈な罰を与えると?」
AXEが斧モチーフのかんざしをいじりながら言う。
「罪と罰という、わかりやすい構図にあると、状況を判断します」
と言ったのはミーマ。
「確かに、精算は必要ですね」
と言ったのは、かつてはちぐにゃにゃん運営、二次大惨事の神がかりな予算管理者だったタッヤ。
「こいつはやばい払い戻しになりそうだなぁ」
と言ったのはコタヌーン。
「最終的に破産しなければいいのかもしれません」
と言ったのはオクタヌーン。
「くそがああ……」
ネガの悪態は、どこか震えているような感じ。
「まじかよ?! なんだ? 俺は向こう三銀河標準月、この船のトイレ掃除でもすりゃあいいのか?!」
アークの表情がめずらしく歪む。
そんなアークを、紅く短いスカートの中身がギリッギリ見えない位置で仁王立ちしたサディが見下ろし、真っ赤なリンゴみたいに赤い口紅ひいたお口を開く。
「ト・イ・レ・は、禁止ですぅ」
赤い瞳をギラつかせ、メタルケーブルぐるぐる巻きのアークを高圧的に見下ろし、サディは言った。
「おい。サディ……」
アークが驚愕に目を見開いて言う。
「これは無免許もぐりの航海士に、公開おもらしを要求しているものと状況を判断します」
ミーマが表情をキリッとひきしめて言う。
「くそがぁあッ!?」
ネガの悪態も、動揺を隠せない。
「罰として、ト・イ・レ・は、禁止ですぅ」
サディの赤い瞳は、ガチりとアークの瞳に視線をあわせ、凶暴な光を宿して見下ろしている。
「あの……。それは……。艦橋が大変なことになるのですけども……」
タッヤがぶるぶる震えながら言った。
「ダイジョブだよ。そんなものはしたに防水シートをしいとけば、なにひとつ問題ない。罰をみたくないヤツはいいんだよぉ。みたい奴だけここに残りな」
サディは赤い瞳をギラつかせて、おびえ震えるいつもの面々にそう言った。




