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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第五部 紅と蒼 & BLACK PINK

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過去が詰まった本棚の回廊で

過去が詰まった本棚の回廊で

 



「ふが〜。ふがー」

 メタル芋虫いもむしのいびきが、アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋にひびく。

「これ、どれくらいで起きるの?」

 メタル芋虫いもむしのほっぺを指でつんつく突っつきながら、サディが言った。

「フルで叩き込んだ場合、だいたい10時間程度のはずです」

 AXEが冷静に言う。

「AXE過激ぃ」

 とはミーマ。

「普通に自白剤じはくざいでよかったんじゃないかなぁ」

 とコタヌーン。

「普通に自白剤ですと、中枢神経細胞ちゅうすうしんけいさいぼうがダメになって、もっとイカレてしまうかもしれません」

 とオクタヌーン。

「くそが!」

 とネガ。

「残った薬液やくえきから見積みつもって、最低一時間は熟睡じゅくすいですね。その間に話を整理せいりしておきましょう」

 タッヤが自席に着き、キーボードを羽先で器用きように叩き出す。

 海洋生物が泳ぐ姿が見えるブ厚い硬化テクタイト製の窓に、タッヤが打ち出す文字が表示されていく。


1・メタル芋虫いもむし出自しゅつじ年齢ねんれい一切不明いっさいふめい

2・メタル芋虫いもむしが船を買う金を、自力でかせぐことはありえない

3・メタル芋虫いもむし以前いぜんもした話を、寸分すんぶんたがわず繰り返した

4・メタル芋虫いもむしに、即席そくせき自白剤じはくざいを叩き込んでも、話すことは変わらなかった

5・この船はハサウェイが作ったものではない

 (伝説級の存在であるハサウェイなら、大宇宙戦争の頃から生きているというのも、まったく有り得なくはないが……)

6・この船のオーナーはパンダ船長。(または未知の誰か)


「以上ですね」

 タッヤが今までの話をまとめおえる。

「どう思う? こいつの大嘘おおうそ見抜みぬけなかったあたしには、こいつが本当のことを言っているか、イマイチわかんない」

 ブ厚い硬化テクタイト製窓に並ぶ六項目を、サディが目を細めてにらみつつ言う。

「パンダ船長をよく調べてみては?」

 とAXEが冷静に言うが……

「でも、メタル芋虫いもむしの話が本当だとするのなら……。船長。動くんですよぉ?」

 ミーマがぶるっと、氷砂糖のように半透明の身体をふるわせる。

「メタルケーブルでぐるぐる巻きにしてあるのは、本当に動いたのかもしれないなぁ」

 とはコタヌーン。

「一人で船に残った結果、発狂はっきょうしただけなのかもしれません」

 とはオクタヌーン。

「この中で一番戦闘能力があるのがあたしだけど……。パンダ船長は、なぐってってってたおしてってめあげて、そういうことでなんとかできる存在じゃなさそうだ。そうなると、あたしのめっちゃ軽い体重じゃあ、ガチに船長が動き出したら、ちょっとどころじゃなくヤヴァイかもしれないねぇ」

 とサディ。

「さわらぬ船長に激怒げきどなしです。船長はメタルケーブルでぐるぐる巻きなんですし、話しかけても今のところ反応はんのうはありません。とりあえずそっとしておきましょう」

 とタッヤ。

「くそが!」

 とネガも賛同さんどう

「で? どうする? このメタル芋虫いもむしの話が嘘だったら、エアロックから海に放り出す? メタル芋虫いもむしの話が本当だったら。というか、メタル芋虫いもむしの話を信じて、このぐるぐる巻きのメタルケーブルから解放かいほうする?」

 サディが腕を組んで問う。

「ファンシー雑貨貿易船に就職したつもりはないですけど、かつての大宇宙戦争で大殺戮だいさつりくをした大魔王の座乗艦ざじょうかんというのはね」

 AXEが冷静に言う。

「ガチに本当のことを言えば……。Big Synthetic Empireを皆殺みなごろしにするほどの艦でなければ、シンセティック・ストリームに対抗することもできなかったと状況を判断せざるをえません。そう考えれば、この船の正体がどうあれ、私達がこの船にずっと乗っていたという事実には変わりがなく、そのことはここにいる全員がすでに、暗黙あんもくのうちに了承りょうしょうしていたものと状況を判断します」

 ミーマが的確な判断を披露ひろうする。

「とは言ってもなぁ」

 とコタヌーン。

「とは言っても、気になるのはしかたないことなのかもしれません」

 とオクタヌーン。

「くそが!」

 とネガ。

「結局、私達が納得しないのは、気持ちの問題が大きいのかもしれませんね」

 タッヤが言う。

「そうだよ。もとよりイカレた船なのは知っていたはずさ」

 とサディが言う。

「問題は」

 とAXE。

「このメタル芋虫いもむしが」

 とミーマ。

「信用できるかどうかかなぁ」

 とコタヌーン。

「信用できるかどうかですね」

 とオクタヌーン。

「くそが!」

 とネガ。

 


「うーん……」

 メタル芋虫いもむしがうなり、目を覚ます。

「おはよ」

 腕を組みながら仁王立におうだち状態のサディが、あかく短いスカートの中身がギリッギリ見えない位置から、メタル芋虫を見下ろしながらのご挨拶あいさつ

「珍しく……もう起きてるのか……。サディ……。なんだ……。この眠気は……」

 AXEにブチ込まれた自白剤じはくざいがわりの麻酔ますいがまだ効いているのだろう、メタル芋虫いもむしの意識はだいぶ朦朧もうろうとしているようだ。

 そのすきのがさず、タッヤがメタル芋虫いもむしに駆け寄り話し出す。

「カピシ。とはなんですか?」

 簡潔かんけつなタッヤの質問に

「……わかったか? だ……」

 とメタル芋虫いもむしは答える。

「それは知っています。このカピシという言葉、いったいどこで知りました?」

 タッヤの言葉に、朦朧もうろうとした意識のままメタル芋虫いもむしが答える。

「本で……読んだ……」

「本?」

「船……の……蔵書ぞうしょ……うーん……」

 メタル芋虫いもむしは、再び眠りの中へと落ちていく。

居住区きょじゅうくにある図書室をあらためましょう」

 タッヤが艦橋の耐圧扉に向かって歩きだす。




「トッキュウケンヲダシヤガレ!」✕2

 そう言いながら、ジュウゾウとフタロクが本棚ほんだなから本を取り出しては、紙のページを超高速でパラパラめくって中身をどんどん確認していく。

「こいつはいったい、どれぐらいかかるのかねぇ」

 イービル・トゥルース号の乗組員居住区のりくみいんきょじゅうくにある、図書室に並ぶ本棚ほんだなをみまわしながらサディが言う。

「本はすさまじい量ありますが、検索対象けんさくたいしょうはこの船がはる彼方かなたの昔から所蔵しょぞうしているモノに限られます。すべて紙ですが、ジュウゾウさんとフタロクさんなら、一時間もあればいけるのではないでしょうか」

 本棚ほんだなが生み出す通路の真ん中で、両羽を組んだタッヤが言う。

「あいつの言ったことが確かなら、この図書室の本のどこかに、カピシという言葉があるってわけか」

 サディの言葉に

「そのとおりです」

 とタッヤが答える。

「カピシという言葉が本に書いてあったとして……。どうなんでしょうか? それは即、大殺戮大魔王だいさつりくだいまおうかつ不死身のモンスターじゃない、という証拠しょうこにはならないのでは?」

 イービル・トゥルース号の図書室の本棚ほんだなながめながらAXEが言う。

「その通りです。カピシという言葉が本に記載きさいされていたとして、それはイコール、カピシという言葉を本から得たという証拠しょうこにまではならないものと判断します」

 とミーマが状況判断。

 ネガは艦橋で、メタル芋虫いもむし監視役かんしやくまかされているので、

「くそが」

 という悪態あくたいは図書室にはひびかない。

「それでもまあ、あの野郎が言うことが、まるで全部が嘘ってこともあるから、確かめないわけにはいかないのかねぇ」

 よくわかんないけど、という表情でサディが言う。

「確かめたところで、アークが大殺戮大魔王だいさつりくだいまおうかつ不死身のモンスターなのかどうかはわかりません。ですが、決定的ではないにしても、情報は多いほうがいい。そして、不死身のモンスター問題については、サディさん。実はあなたが一番のたよりなんです」

 タッヤがサディに返す。

「ほう? サディさんがどんな頼りになるのなぁ」

 とはコタヌーン。

「一番付き合いが長いのがサディさんだから、なのかもしません」

 とオクタヌーン。

「そうです。そこです。私がこの船に乗った時には、すでにあなたは一人前の戦闘要員としてこの船に乗っていた。今までサディさんがどれくらい昔からこの船に乗っているのか? 特に気にしたことはありませんけど、それが一番大事なことなんです」

 タッヤの言葉に、サディの片眉かたまゆがぐいっとあがる。

「どうしてあたしが、どれだけ昔からこの船に乗っているかが大事なの?」

「簡単なことですよ。あなただけが一番昔のアークを知っている。単純な話です。あなたが最初にアークと出会った時からいままで、それそうおうにアークはちゃんと年老いているか? ということですよ」

 タッヤが両の肩をすくめて言う。

「ずいぶん単純な判定方法だねぇ」

 サディの両眉りょうまゆがぐいっとあがる。

「もうこれくらいしかないんじゃないですか?」

 AXEは冷静に言う。

大殺戮大魔王だいさつりくだいまおうのクローンであって、人格じんかくに連続性がない。または、本人の記憶が消えてしまっているとか、そういう展開てんかいも予想できるわけで、そうなった場合、本人ですら判定できないことであるのは、もはや否定できないものと判断します」

 とミーマ。

「そうだなあ。本人がイカレていたら、どうにもならないなぁ」

 とはコタヌーン。

「本人がイカレていたら、それはもうアウトなのかもしれません」

 とオクタヌーン。

「そうです。だから、最終的には、私達の判断しかないんですよ」

 とタッヤは言った。

「で、その判断をするのが、あたしなの?」

 サディが言う。

「サディさんの次に乗組員になった私では、正直判断がつきません。サディさん。どうなんですか?」

 タッヤの言葉に、サディは目を閉じ、今は遠い過去になってしまったけれど、いまもはっきり覚えているあの頃へと飛んでいく。

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