いったい何の話やら
いったい何の話やら
「話の筋がまったく見えん……。いったい何を知りたいんだ?」
メタル芋虫の言葉に、元乗組員一同の間にまた視線のやりとりが走る。
「これはもう、ドストレートに話したほうがいいねぇ」
サディがため息をついて、メタル芋虫の転がるシートにむかう。
「いいよね?」
めいいっぱい倒したシートにしばりあげられた、メタル芋虫の横に立ち、サディが全員に視線をむける。
「そうですね。小出しに質問していたほうがいろいろボロが出て、そこから真実がわかるかと思いましたけど」
タッヤが言った。
「いったいなんの話なんだ? というか、サディ。それ以上近寄るなよ。スカートの中がみえちまうぞ」
めいいっぱい倒したシートに転がるメタル芋虫が、サディを下からみあげて言う。
「あたしのパンツが気になるなんて、ずいぶん余裕があるじゃないか? メタル芋虫のお兄ちゃん」
真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳でメタル芋虫を見下ろすサディは、一歩たりとも後退しない。
「えーと……。男女間のいざこざと、パンツがどうとか、そういう話は、後でおふたりきりでしていただいてもろて」
タッヤがすっと話しを戻す。
「そうだねえ。そういう話は、あとでゆーーっくり、二人きりでさせてもらおうかねぇ」
真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳に、危険な炎が一瞬ギラリと光って消える。
「ということで、ご質問の続きをどうぞ」
タッヤが言った。
「話ってのはね。この船と、あんたについてだよ」
スカートの中身がギリギリみえない場所に転がる、メタル芋虫を見下ろしてサディが言った。
「俺とこの船についての話?」
メタル芋虫がけげんな顔をする。
「ついこの間、スカイカイトの空に降りてきた時、やったらド派手なドンパチ騒ぎが起きたのを覚えているだろう?」
目を細めてサディが言った。
「あれか? 俺が降りて来た時に、こんな歓待受けたことない的な、花火がドンパチ炸裂する謎の対空砲火を食らったことか? スカイカイトの祭りにたまたまあたったのか? 俺は?」
メタル芋虫の表情が、あれはいったいなんだったんだ? という表情に変わる。
「ねえ……。あんた、とぼけてるの?」
あきれかえったサディの言葉。
「なんにもとぼけてねえよ。首都への降下が、たまたま祭りの日に当たることもあるだろう。そして、祭りの邪魔を俺がするのは無粋に過ぎる。だから俺は、祭りが終わる頃まで海に沈んで布団に入って、マシーン開発に使えそうなジャンクパーツを、SNSで探していただけだ」
メタル芋虫の話は信じがたかった。
サディは眼下に転がるメタル芋虫をみつめて思う。
こいつはたまに、とんでもなく抜けているトコが確かにある。
黙っていれば、あたしのパンツをじっくりたっぷり拝めちゃう。そういうチャンスを、平気でふいにする男だ。
だから今回のことはたまたまで、本当に布団に入ってジャンクパーツ探しをしててもおかしくないと、サディは思った。
「あのドンパチはね。イービル・トゥルース号にために上がった花火なのさ。この星ではね。イービル・トゥルース号は英雄が乗る宇宙戦艦だって言うんだよね」
サディが言う。
「はあああ!?」
メタル芋虫は驚きに目をみひらく。
「ずいぶん盛大に驚くじゃないか」
サディは真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳で、眼下に転がるメタル芋虫をギロリとみつめ続ける。
「どうです? サディさん? アークは嘘をついてそうですか?」
タッヤの問いに、サディはため息をついて言う。
「あたしは嘘発見器じゃないんだよ。そういうことができるのなら、あたしはこいつに、絞め落とされてないわけで」
「確かに」
とネガ以外が同時に言った。
ネガだけが一人。
「クソが」
と言った。
「どうだい? そこのメタル芋虫みたいなお兄ちゃん。嘘をつかずにドバドバ吐いて、全部ちゃーんとお話するのなら、スカートの中がばっちりみえちゃうように、もうちょっと近づいてあげてもいいんだよ?」
シャツの裾を結んで露出したオヘソの横にお手々を添えて、両足を軽く開いて短く紅いレザースカートを揺らして、ニヤリと笑って挑発するサディ。
「サディ。絶対にそれ以上近寄るな。それ以上近寄ったら、俺は二度と本当のことは言わんぞ」
めいいっぱいに倒したシートに転がる、メタル芋虫はそう言った。
「あたしのパンツなんざ、みたくねえってことなのかよッ?!」
ガツーンッ! ばちゅーん!
ちからいっぱい蹴っ飛ばしたサディのイカツクてカワイイブーツが、アイアンブルーの床に接触。危険な紅い火花を散らす!
「あの……。周囲が大迷惑なウハウハ展開で、大宇宙が大騒動のラブコメ世界ではないんですよ……」
タッヤのクチバシが冷たく突き刺さる突っ込み。
「くそがぁぁぁッ!」
ひときわ大きく響くネガの悪態。
「ちっ。量産型カワイイの量販店、シマシマムラムラで買ってきた、どんなお兄ちゃんもムラムラ確定の、しましまパンツをはいてきてあげたって言うのにねぇ」
サディは舌打ち。
「ここはメタル芋虫さんにしっかりお話していただいて、メタル芋虫さんが何を言ったかで判断するしかありませんね」
サディのセリフをガン無視して、AXEが冷静に言う。
「今はイチャコラより、話し合いが大事だと状況を判断せざるを得ません」
と言ったのはミーマ。
「では、ドストレートな質問を続けましょう」
タッヤが両の羽を組んで言う。
「質問。あんたは大宇宙戦争の頃から生きている化け物なのか?」
真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳で、メタル芋虫をじっと見下ろしつつサディが言った。
「はああ!?」
メタル芋虫は驚きに目をみひらく。
「本当のことを答えなさい。本当のことを答えないと、あたしのパンツがみれるかどうかなんざはすっ飛ばして、このまま主砲に詰められて、海と大気圏をブチ抜いて、宇宙の果てに向かってブッ放されることになるんだよ?」
サディの赤い瞳が、ギラリと危険な輝きをおびる。
「あのなぁ……。大宇宙戦争がどれだけ前の戦争だと思っている? 俺が知る限り、どんな知的生命体だって、あの頃から今まで生きていられるような奴はいねえよ」
メタル芋虫の言葉に、AXEが話し出す。
「もちろんそうです。しかし仮に、大宇宙戦争の時代から、船を光の速度近くでずっと飛ばし続ければ、この船の時間の流れはいちじるしく遅くなる。そうすれば、今現在まで生きていることは可能なのでは?」
AXEが冷静に、まったくできないことではないということを示す。
「原理的にはじゅうぶん可能な範囲と判断します」
ミーマが状況を的確に分析。
「あのなぁ……。原理的には可能かもしれねぇが、どう考えても燃料代的に不可能だろうが」
メタル芋虫の言葉に、タッヤが考え込む。
「確かに……。原理的には可能ですけど、収入のない存在にとっては、財務的に不可能ですね」
「人を無職のように言うな。俺には海賊放送屋という立派なシノギがある」
メタル芋虫がふんっと鼻息荒く言う。
「親類縁者という線はないのかなぁ」
とコタヌーン。
「子孫末裔のたぐいなのかもしれません」
とはオクタヌーン。
「だから、いったいなんの話なんだ?」
メタル芋虫が再び問う。
「ふーん?」
サディが上体をくいっと倒して、短く紅いスカートの中に広がる絶景はおあづけですよ状態をたくみに維持して、メタル芋虫の瞳を覗き込む。
真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳が、メタル芋虫の瞳をみつめるが……。
「とぼけているのかわかんないや」
とサディは言った。
「ドストレートにいきましょう。アーク。あなたは大宇宙戦争で、スカイカイト星に加勢しましたか?」
AXEが冷静に、レーザーブレードを腹に直刺しズドンと聞いた。
「はあああ!?」
メタル芋虫の瞳が驚愕に見開かれる。
「ふーん?」
メタル芋虫をみつめていたサディが考え込む。
「なんか、本当に驚いているっぽいね」
「いったいなんなんだ? これは? いったいどういう意図の質問なんだ?」
メタル芋虫が問う。
「簡単に説明します。私達はスカイカイト星の大宇宙戦争歴史館で、この船がシンセティック・ストリームを皆殺しにする記録映像をみたんですよ」
タッヤが静かにそう言った。
「なんだと!?」
メタル芋虫の瞳が再び驚愕に見開かれる。
「だからあんたは、大宇宙戦争の頃から生きている、不死身の大殺戮大魔王なんじゃないかっていう大疑惑のド真ん中で、こうしてぐるぐる巻きにされているわけよ」
サディがメタル芋虫を見下ろしつつ言う。
「そんな話はまったく知らん! だがな、この船のいたるところにみられる、懐かしさの果てを感じるデザインからして……。遥か彼方の昔からこの船は存在しているんじゃないかっていう気はすごくする。もしかしたらの万がイチ、パンダ船長の前の前の前のそのまた前のオーナーあたりがやらかしたんじゃねえのか? 少なくとも俺は知らん!」
「ふーん?」
サディがメタル芋虫に注目する。
「この船のオーナーがパンダ船長というのも、いい加減にやめたらどうです? どう考えても、この船のオーナーはあなたでしょう」
AXEが冷静に追求。
「あのなぁ……。こんなドスゲエ船を買えるゼニーを、俺が稼げると思うのか?」
メタル芋虫がAXEに反論。
「無理ですね」
銀河イチ省エネルギーな計算機を叩くこともなく、タッヤが即答。
「確かに無理ですね」
AXEが冷静に自身の発言の荒唐無稽さを認める。
「宇宙の原理的に不可能レベルで、それは無理な話と状況を判断せざるを得ません」
ミーマが的確に状況を判断。
「商才はあるのかもしれないけれど、悪いことにしか使わないからなぁ」
とコタヌーン。
「商才はあるのかもしれませんけど、商売にまったく興味がないのかもしれません」
とオクタヌーン。
「何より、こいつのフトコロが豊かだった時をあたしは知らない」
とサディ。
「なんだよ! ずいぶん素直に認めやがるじゃねえかよ!」
とメタル芋虫。
「ドストレートに続けようかねえ。では、この船のオーナーは誰?」
サディが真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳で、メタル芋虫をにらみつけてそう言った。
「だ・か・ら・そこのメタルケーブルでぐるぐる巻きにされている、パンダ船長がオーナーだよ!」
メタル芋虫の言葉に、全員がため息をつく。
「ぐるぐる巻きのヤツにドストレートに話したら、話がぐるぐる周りだしたね」
サディがお手上げだと肩をすくめる。




