水を……くれ……
水を……くれ……
「だから悪かったって! 殴って悪かったと思ってるし! 首絞めて悪かったと思ってるし! もちろんだまして悪かったと思ってるから、ガッチガチに俺をぐるぐる巻きにしやがってる、メタルワイヤーを外してくれって!」
めいいっぱい倒したシートのうえで、メタル芋虫がもぞもぞともがきながら言っている。
「どうします? メタルワイヤーを引きちぎる力はないとみて、間違いなさそうですけど」
AXEが麻酔銃をかまえながら言う。
「とは言え、相手は不死身のモンスターです。油断はできない状況と判断します」
とミーマ。
「都合三発以上ぶん殴っちゃってるからなぁ」
とはコタヌーン。
「三発以上殴って撃破できないのは、本物のモンスターだからかもしれません」
とはオクタヌーン。
「とにかく、まずはお話から。としましょう」
タッヤが両の羽の中でもがくサディを、羽交い締めにしながら言う。
「はなせ! タッヤ! このあたしを恋愛中毒のロリ呼ばわりした罪を、そこのメタル芋虫は新たに背負ったんだよぉ!」
いやいやをするように、タッヤの羽に羽交い締めにされたサディがもがく。
「サディさん。物事は順番が大事です。一番新しい罪は、一番最後につぐなってもらうことにしましょう」
「この一番ヤヴァイ、常識巨大スズメめぇぇぇ!」
アイアンブルーとガンメタルグレイの艦橋に、サディの絶叫が響く。
「サディさん。まずは落ち着いてください。気持ちはわかりますが、不死身のモンスターをブッ殺した、マジで危険なヤヴァイ女の子になってはいけません」
タッヤが両の羽ではがいじめにしている、通常の三倍以上に危険な女の子の説得にとりかかる。
メタル芋虫は謝罪と抗議を繰り返しつつ、シートでもがく。サディは怒りまくって、タッヤの羽の中でじたばた。そして時間が過ぎていく……
「み、水をくれ……」
めいいっぱい倒したシートのうえで、メタル芋虫がもぞもぞともがきつつ言っている。
「どうしましょうか?」
麻酔銃をかまえたAXEが、視線をミーマにむけつつ言う。
「いかに不死身のモンスターと言えども、水を断ったらさすがにマズイのではないかと、状況を判断します」
ミーマが常識的に状況判断。
「さすがに水くらいはいいんじゃないかなぁ」
とコタヌーン。
「さすがに水くらいは飲ませないと、マズイかもしれません」
とオクタヌーン。
「銀河中でちやほやされる、かわいい戦闘要員であるこのあたしを、そこのメタル芋虫は恋愛中毒のロリ呼ばわりしたんだ! このままカラッカラにひからびさせてやる!」
と言ったのは、いまだにタッヤに羽交い締めにされているサディ。
「私はこういうわけで、両の羽が離せませんからね。ネガさん、そこのメタル芋虫に水をあげてください」
タッヤの指示に
「くそが!?」
とネガ驚愕。
「私は独り身じゃないからなぁ。なにかあったら大変だしなぁ」
とコタヌーン。
「私には夫がおりますし。何かあったら夫が大変悲しむかもしれません」
とオクタヌーン。
「私のサイズじゃ、ナニカあった時に対処できないかも、と状況を判断します」
と言ったのは、身長イチ銀河標準メートルくらいのミーマ。
「私が麻酔銃でしっかり狙っていますから。何かあったらズドン・デ・ぐっすりです」
麻酔銃の照準をピタリとメタル芋虫に合わせるAXE。
「くそが!?」
逃げ道をふさがれたネガは、しかたなく水差しを取りに行き、メタル芋虫に水をやる。
アークはすさまじい勢いで水差しから水を飲み、あっという間に水差しを空にしてしまった。
「感謝するぞ。ネガ。確かに俺があの時、一切の手加減なくネガを絞めあげたのは間違いないが、それはネガに助かって欲しい一心からやったことだ。ネガはわかってくれると、俺は思っているが」
メタル芋虫の言葉に、ネガは視線をそらして
「くそが」
と言った。
「まずはあたしにあやまれ! そこのメタル芋虫! 銀河中でちやほやされる、めっちゃカワイイ戦闘要員の純真な心をもてあそびやがって!」
タッヤの両羽の中で、サディがもがきつつ言う。
「悪かったって! あの時は他にどうしようもなかったし! どう考えても生き残る可能性は万にひとつくらいしかなかったんだって! そんな時に、君は船を降りろって言ったって、そう簡単にはいかなかっただろうよ! だから悪いとは思ったけど、あれしかあの時は思い浮かばなかったんだって!」
めいいっぱい倒したシートにしばりつけられた、メタル芋虫はそう言った。
「バカバカバカバカ!! アークのバカぁ!!! やるんだったらあたしを残せよ! そうすりゃ生き残る可能性はもっとあがったっていうのにさあ!」
タッヤの羽に羽交い締めにされた状態のサディが言う。
「確かに生き残る可能性はあがると思うが……。万にひとつが万にふたつにあがるくらいだ。計算したことはねえけどな。そんな無謀な賭けに、一人前以上の男がちっちゃな女の子を、コロリとだまくらかしてのせれねえよ」
メタル芋虫の言葉に
「うわー! このメタル芋虫野郎! なんかまたあたしが恋愛中毒のロリみたいなこと言ったー!」
とタッヤの羽の中でサディがもがいてわめく。
「サディさんをだました理由はとりあえずわかりました。銀河イチとは言わないまでも、かわいい戦闘要員の純真な心をもてあそんだことについても、それなりの理由があったということも理解はできます。純真な心にやらかした手ひどいおイタについては、あとであらためてサディさんに、ゆっくりじっくりたっぷりちゃんと謝罪してください。ということで、次の疑問点です。あなたはつまり、あの大殺戮の罪から私達を逃した。そういうことなんですか?」
巨大スズメの体重を空に舞わせる力で、暴れるサディを抑え込みつつタッヤが問う。
「実は一番ヤヴァイ巨大常識スズメがー! 銀河イチカワイイとは言わないまでもとはなんだー!」
タッヤの羽の中でサディがもがいて猛抗議。
「ああいうことをするために、海賊放送船に乗っているわけじゃない。俺とサディ以外はな。違うか?」
メタル芋虫はそう言った。
「言いたいことはわかります。ですが、常識外れのあの殺し方について、私達は聞きたいんですよ」
サディを両の羽先にとらえたまま、タッヤは言った。
「あのクソ恐ろしいまでに意味不明な破壊力の砲についてか」
めいいっぱい倒したシートのうえで、メタル芋虫がタッヤの質問に答える。
「あんなマジクソヤヴァイ特装砲があるなんて、このあたしだって知らなかったんだからね! どうしてだまっていたんだよぉ!」
とサディ。
「俺だって、あんな砲がこの船についているなんて知らなかったんだよ!」
めいいっぱい倒したシートのうえに転がる、メタル芋虫が言った。
「あの砲のことを知らなかった? それ、本当ですか?」
いい加減、麻酔銃で狙うのをやめたAXEが言う。
「本当だって! そこに証拠がある。パンダ船長をみてみろ。メタルケーブルでぐるぐる巻きにされているだろう?」
「確かにされてますけど……。これ、なんなんです?」
艦長席にメタルケーブルでしばりつけられたパンダ船長を、ミーマが横目で見つつ言う。
「包囲網を突破するあの時、突撃刺突衝角がクソデカい特大宇宙戦艦にうまい具合にブッ刺さらなくて、一番ヤヴァイきわっていう瞬間があっただろう?」
「あったなぁ」
とコタヌーン。
「ありましたね」
とオクタヌーン。
「あの時、信じられないことに、パンダ船長が動きやがったんだ」
「はあっ!?」
メタル芋虫の言葉に、ネガ以外の全員がそう言った。
たった一人ネガだけが、
「くそが!?」
と言った。
「マジだ。俺も信じられないくらいなんだが……。間違いなく、パンダ船長が動いたと思われる」
「いったいどういうこと?」
タッヤの羽のなかでもがくのをやめたサディが、メタル芋虫に問う。
サディの問いに、メタル芋虫がめいいっぱい倒したシートのうえで話し出す。




