アーク・マーカイザックの喪失
アーク・マーカイザックの喪失
ぷっしゅー。
音をたてて開く耐圧扉を抜けると、そこはアイアンブルーとガンメタルグレイで構成された、あの懐かしい艦橋だった。
ゴツゴツゴツ。
サディのイカツクてカワイイブーツが音をたてて、艦橋へと踏み込んでいく。その後に続くイービル・トゥルース号元乗組員達。
「んんん?!」
メタルワイヤーでぐるぐる巻きにされたアークを担いだサディが、困惑の声をあげる。
目の前にはなぜか、パンダ船長までもがメタルワイヤーでぐるぐる巻きにされて、艦長席に縛りつけられている。
「船長?」
思わずAXEが声をかけるが、メタルワイヤーぐるぐる巻き状態のパンダ船長は、冷静沈着さを一切失わず、ブ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がる暗い海を、真っ直ぐにみつめたまま何も言わない。
「これは……、どういうことなのでしょう?」
状況を判断しかねる、という表情でミーマが言った。
「これは錯乱したのかなぁ」
とコタヌーン。
「これは発狂したのかもしれません」
とオクタヌーン。
「発狂してるのなら、ふんじばっておいて大正解だ! えいッ!」
サディがかついだアークを乱暴にアークの席に放り込む。メタルワイヤーのうえからさらに戦闘用ハーネスで、バッチンバッチンと席に固定。
「いかに正体不明な不死身の化け物だったとしても、これではそう簡単には動けませんね。それでは、私は金庫と帳簿をみてきます」
そう言ってタッヤが、アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋を出ていく。
「く……、くそが……」
かなりの速度でガンガン前へと進行していくバイオレンスさに、銀河イチ逃げ足の早い操縦士はガスマスクの中で静かに毒づく。
ぴっぴっぴっぴ。
タッヤが羽先で器用にゼニーを数えていく。
「奇跡です! 金庫のゼニーはほとんど手つかずでした! 正体不明な不死身の化け物かもしれませんが、私達がいない間は財務的におとなしくしていてくれたようですね!」
各員の給料を計算し、宇宙の神秘とポンコツリアクター販売から得られた臨時収入からのボーナスと、アークに絞めあげられた手当と、サディに絞めあげられた手当と、アークにぶん殴られた手当と、サディにぶん殴られた手当を各員にうわのせつつ、タッヤが言った。
パチパチパチパチ。
銀河イチ省エネルギーな計算機、バンソロをタッヤが小気味よく弾く。アークからはみんなをだました罰金と、私をぶん殴った罰金と、その他みんなをしめあげた罰金を差っ引く。許されざる所業のため、アークのボーナス分は全額カット。最終的にアークへの給与支給額がマイナスになったので、しばらくアークはタダ働きということになる。
サディさんも一応、被害者ではあるのですけど……
ころりとアークにだまされた罰金と、乗組員を殴り絞め落とした罰金を、給与からごっそり天引きすることにする。だけどその件は、今はサディさんに伝えないようにしようと、タッヤは決める。
「機関室のへそくりも無事だったなぁ」
とはコタヌーン。
「機関室の秩序も無事でした」
とはオクタヌーン。
「給料は無事支払われる。正体不明の不死身野郎は、バッチリガッチリぎっちぎちにしばりあげられている。ということで、そろそろこいつを、叩き起こしていいころだよね?」
AXEによって鎮静剤を追加され、いまだ気絶したままメタルワイヤーぐるぐる巻き状態で、めいいっぱい倒したシートに固定されているアークをサディがつつく。
「起こしてダイジョブかなぁ」
とコタヌーン。
「何かあれば、また眠らせればいいのかもしれません」
とはオクタヌーン。
「正体不明な不死身の怪物とは言え、メタルワイヤーをぶっちぎるほどの怪力という話はいまだ確認されていないので……。大丈夫ではないかと、状況を判断します」
とミーマ。
「追加の鎮静剤も用意してあります」
と冷静に、AXEが麻酔弾の入った銃をみせる。
「それでは……」
サディがすぅぅぅぅっと息を吸い込み、右のお手々をふりかぶる。
「めぇぇぇ! さませぇぇぇ!!」
ばっちーーーんっ!
サディの全身全霊フルスイングビンタがアークのほっぺに直撃する!
「く、くそがァ!」
バイオレンスに進行していく状況に、ネガはガスマスクの中で毒づく。
「うーん……」
メタルワイヤーにぐるぐる巻きにされ、さらにめいいっぱい倒したシートに戦闘用ハーネスでガチガチに固定されたアークがうめく。
やがてアークの目が開き、強烈なビンタを放ち終え、短く紅いレザースカートとぷりんぷりんのお胸を華麗に揺らすサディに、目の焦点があう。
「おお! サディ! ひさしぶりだな! どうした? ずいぶん大きく成長したな? それに服の好みがずいぶん変わったな! 男でもできたのか? つまりは、惚れた男に揉まれてモリモリ育って、さらに男の趣味に、服まであわせたということか?」
「アークのばかぁぁぁぁ!」
強烈なビンタを放ち終えた態勢から、サディが往復ビンタの要領で放った裏拳が、アークのアゴへブチ込まれる!
どぐしゃぁぁッ!
ガクリ……
アゴにブチ込またれサディの裏拳によって、アークが再び意識を失う。
「めぇぇぇ! さませぇぇぇ!!」
サディがアゴを撃ち抜いた裏拳を解いてひらいたお手々を、アークのほっぺに打ち下ろす!
ばっちーーーんっ!!
裏拳を放ち終えた態勢から放たれた、強烈なビンタが再びアークのほっぺに着弾。
「うーん……」
メタルワイヤーにぐるぐる巻きにされ、さらにめいいっぱい倒したシートに戦闘用ハーネスでガチガチに固定されたアークがうめき、再びまぶたがゆっくり開く。
眼の前には、短く紅いレザースカートとぷりんぷりんのお胸を揺らす、おヘソを出した赤い瞳の女の子。
「おお! 久しぶりだな! サディ! どうした? ロリなくせして胸だけはパンパンって感じを、強烈にアピールしだしたな? 細マッチョの素敵な男は引っかかったか? ロリで胸だけモリモリ、そういうのはぜんぜん俺の好みじゃあねえんだけども、まあ、かわいいってことにしておくか」
サディが放った裏拳の衝撃で、ついさっきまでの記憶を喪失したアークが言う。
「アークのばかぁぁぁぁ!!」
二発目の強烈なビンタを放ち終えた態勢から、サディが再び往復ビンタの要領で裏拳をアークのアゴにブチ込む!
どぐしゃぁぁッ!
ガクリ……
アークが再び意識を失う。
「めぇぇぇ! さませぇぇぇ!!!」
重力加速を加味したサディのお手々が、アークのほっぺに三度目の急降下!
ばっちーーーんっ!!!
再度裏拳を放った態勢から、三発目の強烈なビンタをアークのほっぺに叩き込むサディ。
「うーん……」
メタルワイヤーにぐるぐる巻きにされ、さらにめいいっぱい倒したシートに戦闘用ハーネスでガチガチに固定されたアークがまたまたうめき、まぶたがまたまたゆっくり開く。
アークの眼の前には、短く紅いレザースカートとぷりんぷりんのお胸を揺らし、白いサイハイソックスとの間の絶対領域がきらめき輝く女の子。
「おお! 久しぶりだな! サディ! どうした!? 猫耳少女はやめて、いまはロリで配信やってかせいでいるのか? シンセティック・ストリームではロリがとにかく大人気だもんな! しかも胸については大人よりモリモリだもんな! サムネイルの半分くらいは胸で満たしてやってる感じか? それでどうだ? スーパーチャージはガンガンに入っているか?!」
サディの裏拳二発目の衝撃で、ついさっきまでの記憶を再び喪失したアークが言う。
「アークのばかぁぁぁぁ!!!」
三発目の強烈なビンタを放ち終えた態勢から、サディが往復ビンタの要領で三発目の裏拳をアークのアゴにブチ込もうとした時!
「サディさん。そこまでです。いかに不死身のモンスターと言えども、これ以上殴ると神経細胞がグズグズになって、すべての記憶を喪失してしまいかねません」
とタッヤがサディのお手々を、羽先でガッチリ押さえた。
「く、くそが……」
目の前で執り行われた、往復ビンタ式記憶喪失裏拳ループ刑に、心底ビビリながらネガは毒づく。




