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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第五部 紅と蒼 & BLACK PINK
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ドクロが空から降る夜に

ドクロが空から降る夜に




「そろそろきても、いい頃ですよね」

 柑橘系かんきつけいのカクテルを片手に、タッヤは夜空をみあげてそう言った。

「ただ待っているというのも、退屈たいくつなものですからなぁ」

 コタヌーンはそう言って、スカイカイト星の独特どくとくな香り漂う蒸留酒じょうりゅうしゅをゴクリと飲んだ。

「くちを開けて、ゼニーが降ってくるのを待つみたいなー?」

 ミーマがふざけて、口をあんぐりとあけて夜空をみあげる。

「使い切っていないといいんですけどね」

 AXEがグラスをかたむけながら冷静に言った。

「くそが!」

 とネガは毒づいた。

「使い切っていた場合は、船を借金のカタに押さえればいいのかもしれません」

 オクタヌーンはそう言った。

「あいつをほっぽりだしてかぁ。確かにそれもありかもねぇ」

 Aliveと言う名のついた残酷料理達ざんこくりょうりたちを、順調じゅんちょうにお腹におさめながらサディは言った。

 吹き抜ける風がサディの髪をらして、スカイカイトの夜景に白銀をきらめかせる。

 スカイカイト星では、屋外に席を設けて露天ろてんで飲み食いする店が多かった。

 brain distraction号を停めている駐機場から近い街でにぎわっている店の屋外席。イービル・トゥルース号の元乗組員達は、夜空のしたで飲み食いしながら、あの船が空から降ってくるのを待っている。

 吹き抜ける風は、馴染なじみのないスパイスの匂いがした。何もかもがチェーン店になっていくsynthetic streamとは全然違う、まさに別世界にいるような気分に、この店はさせてくれる。

 大都会のはずれで、億千万の明かりがきらめく夜景をながめながら、魅惑的みわくてきな香りがする風に吹かれて飲む酒は、最高に美味しかった。

 頭上にはスカイカイト星の夜空。あの船が降りてくるのを、こうやってずっと待っている。

 大都市の明かりのせいで、またたく星の少ない空は、濃密なブルーを思わせる。

 あの船にはためくドクロ旗の色みたいだ。とサディは思った。

 宇宙の怪異的かいいてきにグロいオイオイスターが、生きたままたっぷりのっていた皿が、いまはもう空っぽになっている。

「オイオイスターをBreak me aliveで三人前。追加でください」

 からになった皿を店員さんに返しながら、サディが言う。

「そんなに食べて大丈夫です?」

 ミーマが緑の瞳でじーっとみつめて、目を細めて言う。

「あいつをみつけたら、わけまえはたっぷりもらえるんだ。だからナマのオイオイスターが多少お高めでも、どうってことないよ」

 サディはむふふと笑う。

「ナマのオイオイスターは、たまーに当たることもあるそうですよ」

 AXEが冷静に言う。

「当たることもあるだろうけど、当たる確率はかなり少ない。何個食べようが、次に食べるナマオイオイスターが当たる確率に変化はない。つまり、当たる確率は少ないまま。だからダイジョブ。問題ない」

 サディはすましたお顔でそう言った。

「たくさん食べると、当たる確率もあがるんじゃないかなぁ」

 とはコタヌーン。

「たくさん食べると当たる確率はあがります」

 とはオクタヌーン。

「当たらなければ、どうってことないよ」

 サディはすましたお顔でそう言った。

「無茶苦茶だなぁ」

 コタヌーンはあきれたように言う。

 その横にいるネガは、そんなやりとりをガスマスクの中からみつめている。

 万がイチの際には、銀河イチ速い逃げ足でイービル・トゥルース号を追うことになっているネガは、一滴の酒も飲んでいない。

 だから……

「くそが!」

 と言った。

 魅惑的みわくてきなスパイスの匂い。サディの中にどんどん消えていく、めちゃグロいナマのオイオイスター達。グラスは空になり酔がまわって、夜はどんどん深まっていく。

「そろそろ引き上げますか」

 未知の蒸留酒を果てしなく呑み込んでいくコタヌーンを横目に、オクタヌーンが言った。

「もう少し飲んでもいいんじゃないかなぁ」

 とコタヌーンは異議いぎをとなえた。

「オイオイスターをBreak me aliveで三人前。追加でください」

 また空になった皿を店員さんに返しながら、サディは再びそう言った。それはつまり、帰らないでもう少し食べるぞ、という意志表示だった。

「明日は用事があるので、留守るすをたのみますね」

 タッヤがAXEにたのみごとをしている。

「羽があるのにインドア派。そんなタッヤさんがおでかけですか。いったどこに行かれるんです?」

 AXEが斧型のかんざしをさわりながら言う。

「女? 女? 女? それとも、男?!」

 ミーマが緑の瞳をハート型にしてタッヤにせまる。

「ちがいますよ……」

 せまるミーマに、タッヤがため息をつく。

「くそが!」

 ガスマスクをしたまま、器用きように食べているネガは言った。

 そんなにぎわいのド真ん中に置かれた、カードラジオのドクロマークの目が、一瞬赤く点滅てんめつする。

「きた」

 店員さんが運んできた、追加のナマオイオイスターBreak me alive三人前の皿を手に持ったまま、サディが言った。

「いまのは……。海賊放送に使う、電波設備の動作確認ですね」

 タッヤが柑橘系かんきつけいのカクテルをテーブルに置くと、店員さんにお会計をお願いしますという意味の、両の羽先を交差させる合図をおくる。

 AXEが濃密なブルーに染まる夜空をみあげる。

 真剣なまなざしに戻った緑の瞳で、ミーマが空をみあげる。

 コタヌーンがグラスを置いて、オクタヌーンがカフェラテを置いて、夜空を見あげる。

「くそが!」

 毒づきながらネガはガスマスクを夜空に向ける。

 スカイカイト星の大都市の明かり達のせいで、またたく星の少ない濃密なブルーに染まった夜空に、ちいさなちいさな黒い影が飛んでいた。

 ちいさなちいさな黒い影はどんどん大きくなって、ついに巨大なドクロへと変わる。

 まっすぐ前方に向けられた、三連装四基十二門の主砲が見えた。

 今どき誰にだってわかる、不合理極ふごうりきわまるデザインの、そびえ立つ艦橋が見えた。

 ブ厚い硬化テクタイト製窓にともる明かりの中にある、アイアンブルーとガンメタルグレイの世界が、心の中に浮かんでくる。

 たった一隻でsynthetic streamに対抗たいこうし得る。

 いいや、違う。

 たった一隻でsynthetic streamを皆殺しにしたあの船が、あの頃のままの嘘みたいなやりかたで、本当に降ってきた。

 かつてあたしが乗っていた、驚愕驚異きょうがくきょういの宇宙戦艦。

 あたし達はあの船を、海賊放送船イービル・トゥルース号と呼んだ。

 その名をサディが、思わず口にしかけた時……

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