死武夜街の夜に立つ
死武夜街の夜に立つ
頭狂二重惨苦星の歓楽街。夜闇に無数の明かりがきらめく死武夜街の道端で、ちいさくて体重の軽い女の子がひとり立っていた。
厚さ10銀河標準センチメートルはあるだろう厚底ブーツを履いた両脚を交差させて、お人形さんみたいに女の子は立っていた。
最先端を行き過ぎて、おしゃれなのか奇妙なのかわからなくなったその先を走るファッション。いったいどこの慣性系に属しているかで、流行の意味と加速度が変わってくるファッション。表向きのおしゃれさの影に隠された猥雑が混ざりあった、銀河有数の特徴的な街、死武夜街はあふれかえるようなファッションで満ちている。
ひとり路上に立つちいさな女の子の、大事な布が見えちゃうくらいにギリギリ短い華奢なスカートが、交差させる脚を組み替えるたびに揺れてきわどい瞬間を作り出す。
危険なほどに短くしたスカートの直近まで足をくるむのは、脚線美をこれでもかと強調する白いサイハイソックス。
華奢なスカートのとばりと白い領域の間には、まだ幼さを感じさせる肌が、夜の明かりにきらめいている。
トップスは華奢なスカートと対を成す純白のシャツ。あらゆるところにレースとフリフリのついた華美なシャツ。しかもなぜかお腹をはだけてみせつけて、おヘソの上で裾をピンクのリボンで結んである。それが体重の軽い身体を、これでもかとやたらと主張してくる。
華奢とレースとふわふわで殺せるほどに着飾って、大事なところがなぜかやたらと手薄で無防備な、幼さを危なげにみせつける。私は小さい女の子をこれでもかと主張する。そんなファッション。
長い黒髪。真っ赤な紅をひいた唇。ちいさな女の子は青い宝石みたいな瞳をふせたまま、厚底ブーツの脚を組み替えながら、たったひとりで夜の路上に立っている。
何人もの男が声をかけてくる。
待ち合わせ場所でもないところで、何をするでもなく立っていると、そういうことになるのが死武夜街。
青い瞳の目を伏せたまま、相手の足元をみて、答えるかどうかちいさな女の子は決める。
何人もの男を断って、目をつけた男にだけうなづく。
「まずはちょっとだけ」
そう言って小さな女の子は男の身体に両手を回して、ちょっとだけ男の脇に腕の力を込める。かなり変わった行為だったが、男は小さな女の子のするがままにした。
無反応……。うん。OK。
ちいさくて体重の軽い女の子は、今夜の客を決めた。
「綺麗なホテルがいい」
ちいさな女の子はいつものセリフを口にする。この要求に答えてくれないなら仕事はナシだ。女の子はそう思う。
女の子の見定めに間違いはなかった。男は高くて綺麗なホテルを携帯端末ですぐに用意した。
「歩いていくのは嫌だな」
厚底ブーツのつま先で路上をつついて、ちいさな女の子はそう言った。
男は笑うと、屠与太自動車の超絶倫高級自動車ブランド、レテンザマスの証であるレ点入りマークのキーを、ぶーらぶらとみせつけてくる。
その光景に、小さな女の子の真っ赤なリンゴみたいに赤い唇が、かすかに口角をあげる。
予約した部屋に入ると、ちいさな女の子は大きなベッドにダイブした。シーツの海に飛び込んでうつぶせになると、まだ厚底ブーツを履いたままの両足を可愛く何度もパタパタさせる。
「フカフカだぁ〜」
小さな女の子は、シーツの海を泳ぎながらそう言った。
その光景を、男は笑みを浮かべながらみつめている。
「おいでよ〜」
厚底ブーツの脚をぐるりと大きくふりまわして、小さな女の子がシーツの海に仰向けになって両手両足を広げて男を誘う。
とてもとてもいい眺めだった。殺すほどに着飾って、幼くてか弱くて、大事なところは無防備で。それは白いシーツを背景にした猥褻だった。
ずいぶん面白いのを引き当てた。
男はそう思って、ベッドに近づく。
「おいで〜」
厚底ブーツと白いサイハイソックスで包んだ両足を、大きく開いて揺らめかせながら、体重の軽いちいさな女の子がおいでおいでをする。
ベッドに男がのると、ブーツとサイハイソックスで包んだ両脚を、男の身体に女の子が絡ませてくる。白いサイハイソックスのすぐ向こうにあるちいさな女の子の感触と、目の前の絶景。
そして、あまーい甘いケーキみたいな、すごくいい匂いがした。
綺麗な包装にくるんだままで、洗いもせずにこのままいただくのがいいかもしれない。
男はそう思った。
さっきまでぱたぱた揺れていた両脚が、まるで引き寄せるように男を誘う。そして男は、その誘いにのった。
脚の大部分を覆うサイハイソックスの奥へ奥へと。サイハイソックスに包まれた、素敵な触り心地の二本の触手のナカへと、男はたくみにとらえられていく。
ついに男の首筋に、サイハイソックスに覆われていない、ちいさな女の子のふとももをナマで感じる。まるで男を抱きしめるように、ちいさな女の子の両脚が男にたくみに絡みついていく。
白いサイハイソックスに包まれた、ちいさな女の子の触手にとらえられるのは、とってもとっても気持ち良かった。男は夢心地の世界へと、自分の意識が飛んでいくのがわかった。
「まだちいさいのに、面白いこと、するんだね……」
それきり男は何も言わなかった。
男は女の子をいただくどころか、もうピクリともしなかった。ちいさな女の子の両脚の中で、いまは静かに眠っていた。
厚底ブーツとサイハイソックスで包まれた両脚が作り出した三角形の内側で、男はたくみに女の子に絞めあげられていた。それこそ、意識を失ってしまうくらいに、気持ちよくなってしまうくらい。
「あたしは気道を狙わない。だから、気持ち良かっただろう?」
まるで牙みたいにとがった犬歯をみせながら、真っ赤なリンゴみたいに赤い唇を歪ませて、めっちゃ体重軽いちいさな女の子は不敵に笑う。
ぴっぴっぴっぴっ。
巨大なスズメが、両の羽先で器用に現ゼニを数えていく。
財布のみならず、男のカバンの中にはブ厚いゼニ束が入っていた。ずいぶんいいカモを引き当てたものだ。
「おー。これはけっこうありますねえ。車も高級車ですからねえ、裏マーケットに流してもけっこうな額になりますねえ。この調子ですと、不動産とか証券とか、いろんな資産もお持ちでしょうねえ。あとでコタヌーンさんにゆっくり揺すってもらって、定期的に長期間安定してじっくり搾り取っていきましょう。このお方の人生は大激震、そして私達の暮らしはおおいに安定。これはもう今夜は祝杯確定ですねえ」
と言いながら、ゼニーを数えつつホクホク顔のタッヤ。
たぶん、あたし達の中で一番マトモな感覚の奴なんだろうけど、たまーに一番ヤヴァイんだよねぇ……。
黒髪ロングのウィッグを外しながら、サディは思った。
まあ、だからこそ、あたしの仲間なんだろうけど……。
ウィッグを外してネットに収めた髪を解放し、いつもの白銀きらめく姿に戻ったサディは、軽くため息をつく。
「防犯映像確保完了。住所、職場、個人情報、全て完全に押さえましたし、あと数分で全部のクレジット枠と貯ゼニーをいただけます」
ビシッと黒いスーツ姿でキメたAXEが、冷静にヤヴァイことをいいながら、クラッキング用の端末を叩いている。
「全部抜いたら、即時おマッポのとこに駆け込まない?」
ホテルのバスルームにある鏡の前で、青いカラーコンタクトを外して、真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳の女の子に戻りながら、サディは言った。
「しっかり眠らせてから行った、ムフフ淫行撮影会も済んでいます。後でプリントアウトして、いまご自分がどういう状況に陥っているのか、しっかりご説明した文書までもをつけて、足腰たたず身体が痙攣しだすくらいまでわからせてあげます。それに、なんてったって、この星では、サディさんは黒髪ロングの青い瞳の女の子で、しかもバリバリ現役女学生で未成年のご身分です。情報上はそういうことになっています。おマッポ署に駆け込んだら、大変なことになるでしょうね。なんてったって、情報上では未成年のちぐさちゃんにヤヴァーイことしちゃったわけですからね。おゼニー的に破滅はしましたけど、さらにさらにご自分自身を、お社会的にブッ殺すことはしないものと状況を判断します」
しっかり眠らせた全裸の男をうまく使って撮った、実在しない未成年のちいさな女の子とのあんなことこんなことシーンを確認しつつ、ミーマが冷静に状況を判断する。
「現実的には、トライアングルスリーパーできっちり絞めあげられて、意識をしぼりとられただけなのにねぇ」
きわどいくらいに赤い口紅を落としながら、サディは言う。
「絞めあげられるまでの記憶は鮮明に残っているでしょうし。いい夢をみれて幸せだった。ってことでいいんじゃないですかね?」
タッヤが現ゼニーを数えながら言う。
「どうします? こいつのおちんたまに、幼女肢体愛好癖、とか彫ります? 二分でいけますけどぉ?」
緑の瞳をきらめかせて、にんまりわらってミーマが言った。
「あのね。あたしは確かにサイズの小さい女の子ではあるけれど、決して幼女じゃ……」
サディがミーマに抗議した時、ミーマの手の中にある携帯端末が震えだす。
「くそがくそがくそがくそがくそがくそがくそがくそがくそがくそがくそが」
ミーマの手の中で、携帯端末にガスマスクのアイコンが表示され、独特過ぎる着信音を鳴らす。




