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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第四部・白薔薇の君

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やっとふたりきりになれたね

やっとふたりきりになれたね




 アークとすべてをかたづけると

「やっとふたりきりになれたね」

 サディはアークにそう言った。

 アークは無言でサディに近づくと、ぎゅっとサディを抱きしめた。

 ぴたりとあたしにくっついている、アークの匂いがする。そしていま、この船にはあたし達しかいない。

 だからそんなに、痛いくらいに力をいれなくていいんだよ……

 でも、アークはどんどんすごい力をこめてくる。

 なんだよ、アーク。抱きしめかたもイカレてるのかよ……。

 アークの片腕が首に巻きついている。さらにあたしの腕を一本、アークが頭部でぐいぐい押しこんでくる。

 え? なに……これ?

 甘い時間から、苦い現実世界にサディは急速に引き戻される。

 サディにはわかった。これは抱きしめているのではなくて、私をめ落とそうとしているのだと。

 これはアークが教えてくれた、正面からめ落とすやつ……

 なんだよ! これ!

 サディの戦闘スイッチがONになる。

 この技の逃げ方は、アークが昔教えてくれた。

 アークの頭部に押しこまれている自分の腕を、残されたもうひとつの腕としっかり組む。両腕の力をふりしぼって、絞めあげてくる力に対抗する。押し込まれている側の腕を動かせる空間をなんとか作ると、こんどは上方向に腕を逃がす。さらに逃がした腕を自分の頭にそえて、両腕の力と首の全力を使って、絞め落とされないように首の部分に空間を作りだす。

 絞めあげられている首に空間がうまれたことで、自分の神経細胞に流れこむ血液が増えたことを、サディは感じる。

 よくやった! あたし! これですぐに意識を失うようなことはない!!

 まだ首に巻き付いているアークの腕は外せてない。だけど、片側だけでも少し空間があれば、技は完全に決まってない。だから、あたしが技から逃げることはできるはず。

「教えたとおりだ」

 アークはそう言って、サディの首にまきつけていた腕を放す。サディが首の動脈に血液を流す空間を作るために対処した腕を、アークが両腕でとらえて関節を極める動きへと移行する。

 マジヤヴァイ!!

 極めるとかそういう話じゃない。アークはためらいなく折りにくる奴だ。片腕折られたら、もう絶対にアークから逃れられない。

 サディは腕関節を折られることを回避するため、今度は腕を上方向に伸ばして関節破壊から逃れる。

「いいぞ。だけど、こういう変化は教えてない」

 冷静にそう言って、サディが上方向に伸ばして逃がそうとする腕を、アークが横方向にぐいっと曲げて、別の方法で折りに来る。

 まだ変化するのかよ! 

 サディは腕を下方向に移動させて、再びアークの関節破壊から逃れる。

 サディが下方向に逃れた腕を、アークが今度は折り曲げてサディの背後にまわして、肩ごと破壊しようとする。

 しつこい!

 自分の背中に回されそうになる腕を、サディは自分の腰に巻かれたゴツいベルトを握って守る。

「正しい判断だ。こう防御されたら、通常は腕をキメれない。腕はな」

 アークが静かにそうに言った。

 え? 腕は?

 と思った時には、関節破壊を逃れようと力を込める腕を、自分が力をこめている方向に流される。

 あっ!

 腕を背後にまわされて関節を破壊されまいとしていた手が、あっけなく掴んでいたベルトから外される。そして、自分の腕が腹をこすり、胸のあいだをすり抜けて、自分の首に巻き付けられる。

 自分の腕にとらわれているサディの背後に素早くアークが回り込んで、さらに力をこめて絞めあげてくる。

 サディは今、自分の腕で自分の首を絞めあげられて、神経細胞に注がれる血流を完全に止められていた。

 なんだよこれ……。知らないよ。こんな技……

 サディの背後に回り込み、首を絞めあげながらアークが言う。

「俺は気道きどうねらわない。だから気持ちいいだろう?」

 本当だった。全然苦しくなかった。息はできるのに、あたしの神経細胞に流れる血が止まってる。頭がぽーっとしてくる。気持ちのイイまっ白い世界に、あたしの意識がすーっと落ちていく。

 アーク……この大嘘……

 そこでサディの意識は途絶とだえた。



 アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋の耐圧扉が開く。

 ゴツ、ゴツ、ゴツ

 鋼鉄芯入りの重たいブーツのかかとを鳴らして、アークがひとり、艦橋にやってくる。

「昔みたいに、ふたりきりですね」

 アークはパンダ船長にそう言った。

 艦橋最奥の艦長席に鎮座ちんざするパンダ船長は、なにひとつ言いはしなかった。

 いつもの面々がいなくなり、空席ばかりの艦橋は恐ろしく静かだった。

 アークはもう二度とサディが座ることのない席につくと、戦闘用ハーネスをガチガチとつなごうとする。だが、ハーネスが小さく調整されていて、ハーネスの長さを伸ばすところから、アークはやらないといけなかった。

「俺はこんなちいさな女の子に、この席をまかせていたんだな」

 アークは深くため息をつくと、武器管制盤の操作をはじめる。AXE席のレーダー表示、ミーマ席の情報表示、タッヤ席の計器表示、ネガ席の船体操縦権をサディ席へと集約しゅうやくしていく。

 すべての画面を切り替え確認しながら、アークは思う。

 何もかもひとりでやっていた時代。

 そうだ。この席は最初、俺の席だった。

 ヘッドセットマイクを操作して、船に音声命令をあげる。

「イクト・ハジメとエイタ。艦橋にこい。イクト・フタロク。機関室は任せる。もう知的生命体は俺以外に誰もいねえ。あとはすべてギンギラにギラつくメタル仕立てのメカ野郎どもだけだ。よろしく気分良くうまくやってくれ」

「オレニ、ソウキタイショクノミチハ、ネエノカヨ?」

 赤いバンダナ巻いた新任機関長フタロクの応答は、例にもれずいかにもロボットらしい声で、まったくロボットらしくない事を言う。

 アークはニヤリと笑う。

「昔の面子めんつでド派手はでにやろうぜ」

 そう言ってアークは音声命令を終了した。

 アークは武器管制盤を操作して、巨大なリヴォルバーカノンの形をした主砲操作桿を出現させる。

 いつもいつもいつも、この巨大なリヴォルバーカノンをがっちりと握りしめて、牙みたいな犬歯をむいて、

「ねえ、撃っていいよね? これ撃っていいやつだよね!?」

 と真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳をギラギラさせて、俺に言っていたちいさな女の子のことを思い出す。

「悪いな。サディ。俺は大噓つきなんだ」

 かつて漆黒しっこくのマニキュアが映える小さなお手々が握っていた、巨大なリヴォルバーカノンをアークは握る。

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