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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第四部・白薔薇の君
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普通ではないあの船と連合艦隊の分水嶺

普通ではないあの船と連合艦隊の分水嶺




「巨大ブラックホールの重力圏内じゅうりょくけんないに、接近せっきんぎなんじゃなーい?!」

 ヨシモトムラ・ギョーコーズの一人が、言葉をらす。

 宙域斬撃改革艦隊旗艦ちゅういきざんげきかいかくかんたいきかん鮮烈斬撃せんれつざんげきスーパー宇宙戦艦ヨシム・ラーヒフロミのみどり基調きちょうととしたバラエティー番組風な戦闘指揮所に、指揮系統を無視した声があがったのだ。

「貴様ぁぁぁ! 艦長になってからものを言えぇぇ!」

 カッコよくデキる雰囲気ふんいきにキメながら、どうしてもかくしきれないアクの強さがにじみ出るおっさんは、まるでそれが決めゼリフかのように決り文句もんく力強ちからづよくビシッとキメた。



「ナンカ……、チカヅキスギジャ、ナイデスカ?」

 必勝ひっしょうと書かれたメシトリベラをふるのをやめて、の声になったメガネっ娘人工知能が静かに言った。

「しかし、ドレトロデザインのド旧式ドクロ艦は、キシガ・イフミーオのもっと先を飛んでいるわけで……」

 神経細胞しんけいさいぼうがとろけそうなモエモエボイスではなく、の声で真面目まじめに聞かれたので、ツァオミャオもで答えてから、ついにやっとようやく気がついた。

 あの船は普通じゃないのだと言うことを。

「敵艦! 主砲塔しゅほうとうふたた旋回せんかいを開始!」

 いまさら政治的公平性など言っていられない、権畜けんちくナンバーズの声が告げる。

 え?

 メインモニターに映し出されたのは、ブラックホールの重力に引き寄せられながらも、ひたすら逃げ続けるあの船。甲板先頭かんぱんせんとう主砲塔一基しゅほうとういっき左舷さげんねらい、艦底腹側艦尾かんていはらがわかんびの主砲塔一基が右舷うげんねらって停止する。イシーンズもSpace Synthesis Systemもねらわない、なぞ照準しょうじゅん。まったくもって意味不明の主砲旋回。

 え?

 次の瞬間。それぞれ明後日あさっての方向をむいた二基の主砲塔から、巨大なブラックホールの暗闇が広がる宇宙空間に、六門の砲から紅蓮ぐれん業火ごうかはなたれる。

 え?

 宇宙的感覚では恐ろしくゆっくりとした速度で発射された実体弾が、肉眼にくがんでも認識にんしきできる。それは三連装二基六門から放たれた、六発の火の玉。

 え?

 六発の火の玉は、暗い宇宙空間をまるで泳ぐかのようにゆっくり飛ぶと、やがてはじけた。

 え?

 宇宙空間の暗闇に、美しい大輪たいりんの花がみだれる。三連装二基六門さんれんそうにきろくもんから放たれた六輪ろくりんの巨大な花が、ブラックホールが作り出す漆黒しっこくやみを背に七色の光をきらめかせ、やがてはかなくずれて散っていく。

 え?

 それはあまりにも場違ばちがいで、あまりにも意味不明で、なのに心をとらえて離さないほどに美しい。

 えええ?!

 ツァオミャオはそのありない光景こうけい完全かんぜん魅了みりょうされ、メインモニターの中でくりひろげられる、きらびやかな光みだれる世界へと引き込まれていく。



 イシーンズ宙域斬撃改革艦隊旗艦ちゅういきざんげきかいかくかんたいきかん鮮烈斬撃せんれつざんげきスーパー宇宙戦艦ヨシム・ラーヒフロミのメインモニターに、突如とつじょあらわれた大ボケかつアホンダラーな展開てんかい

「おまえはホンマ、真面目まじめにやってそれなんかーい!」

 カッコよくデキる雰囲気ふんいきにキメながら、どうしてもかくしきれないアクの強さがにじみ出るおっさんは、本能ほんのうのままに突っ込んだ!

「イエス! ダイハン! バンパク!」

 ヨシモトムラ・ギョーコーズ達が、アクの強さを隠しきれないおっさんにならい、空を右方向に一直線に切るチョップでビシリッ! と突っ込みを決める。



 キシガ・イフミーオのメインモニターに、ヨシム・ラーヒフロミのメインモニターに、七色にきらめきおどる光達の中に、大回転するドレトロなデザインの旧式宇宙戦艦のシルエットが浮かぶ。

 艦尾かんびともる青い業火ごうかが、巨大ブラックホールの暗闇くらやみを背に、青い三日月みかづきえがくのが見えた。甲板かんぱんにそびえ立つ艦橋の形が見えた。甲板かんぱん艦底かんてい搭載とうさいされた主砲塔四基の形がみえた。あの普通ではない船の、なつかしいレトロなデザインがこれでもかとみてとれた。それはつまり、あの普通ではない船が、今はもう真っ直ぐにこちらにケツをむけて、ただ逃げているのではないことを意味していた。

 旧式宇宙戦艦のケツにともるアッツイ青い炎は、巨大ブラックホールへとまっすぐに向けられている。

 だが、すでに巨大ブラックホールの重力にとらわれている旧式宇宙戦艦は、これっぽっちも前には進まない。だからと言って、ブラックホールに吸い寄せられて、後退こうたいしているわけでもなかった。

 ドレトロなデザインの旧式宇宙戦艦は、静止せいししているように思えた。

 その瞬間しゅんかん、時間が停止ていししたかのような錯覚さっかくが生まれる。

 一秒、二秒、四秒。

 わずか数銀河標準秒すうぎんがひょうじゅんびょうが、気の遠くなるような長さに感じる。

 そして……

 旧式宇宙戦艦のケツにともる青い炎が、ひときわ強く光りかがやき、濃紺のうこんを思わせる業火ごうかへと変わる。

 すべての主砲塔が再び旋回を開始。三連装四基十二門の砲口で、巨大ブラックホールの漆黒しっこくねらう。

 十二門の砲口から紅蓮ぐれん業火ごうかが放たれて、巨大ブラックホールの闇を背に、七色の大輪たいりんはなを次々にかせる。

 七色に輝きはかなくずれ、巨大ブラックホールへと吸いこまれて散っていく光達が、旧式宇宙戦艦が前進しているような錯覚さっかくを生み出す。

 錯覚さっかく? いいや違う。

 モニターの中に浮かぶ、ドレトロな旧式宇宙戦艦は、ほんの少し、わずかではありながら、ゆっくりと前進している!

 すべての推力すいりょくをふりしぼり、時代遅れどころではない化石級の実体弾が生み出す反動までもを前進する力に変えて、普通ではないあの船は、ブラックホールの重力圏じゅうりょくけんから脱出だっしゅつを開始していた!



 このごにおよんで意味不明の行為こういをぶちかまし、まだまだ逃げ続けるイカレきった船を、キシガ・イフミーオもヨシム・ラーヒフロミも追おうとした。だが不思議なことに、まったくもって追いつけなかった。まったくもって追いつけないどころか、少しづつ、だが着実に、ヨシム・ラーヒフロミもキシガ・イフミーオも、ブラックホールへと少しずつ少しずつ引き寄せられていた。

「ばかな! あんなドレトロなデザインのド旧式ドクロ艦が重力をふりきれて! 最新のカスタムエアロパーツでビシリとキメた、この鮮烈斬撃せんれつざんげきスーパー宇宙戦艦が、重力をふりきれないなどということがあるか!」

 カッコよくデキる雰囲気ふんいきにキメながら、どうしてもかくしきれないアクの強さがにじみ出るおっさんは、今や無能むのうがいいそうなセリフを思いっきり言っていた。

「ノーーォォォ! ヒガシ! ブラック! ウッドンッ!」

 ヨシモトムラ。ギョーコーズ達が、両手を前に突き出して振って拒絶きょぜつし、地団駄ぢだんだんで現実を否認ひにんする。



「あんな正体不明学歴不明意味不明しょうたいふめいがくれきふめいいみふめいの船が重力をふりきれて! 第98代森羅万象絶対無謬総裁総理総合枢軸統一元帥総統陛下アベンシゾー様の名をかんした、森羅万象宇宙戦艦しんらばんしょううちゅうせんかんアベンシゾーと同型三番艦! このキシガ・イフミーオが重力をふりきれないなどということがあってたまるか! こんな現実は捏造ねつぞうだ! いちじるしく政治的公平性にけた一方的な偏向へんこうだ! キシガ・イフミーオが重力をふりきれるという、両論併記りょうろんへいきこそが政治的に公平な事象じしょうとしてあるべきだ!」

 ハイワン・ツァオミャオは叫び続けた。

 だが、時はすでに遅かった。

 現実はもう、決して後戻あともどりできないところまで進行していた。

 イシーンズ宙域斬撃改革ちゅういきざんげきかいかくスーパー宇宙戦艦隊と、Space Synthesis System 艦隊分遣大隊かんたいぶんけんだいたいは、すべての推力すいりょくを吐き出しても逃げ出すことのできない重力圏内じゅうりょくけんないに、すでに存在してしまっていた。

 100%明確めいかく確定かくていされてしまった死。否定ひていすることのできない邪悪じゃあくなる真実が、あの普通ではない船を追った者すべてに突きつけられる。

 阿鼻叫喚あびきょうかんの戦闘指揮所のメインモニターから、どんどん遠ざかっていく星の海。

 これが最後だとわかっている光景が、どんどんどんどんにじんでいく。

 そして……メイン・モニターに突如とつじょ

 Radio Evil Truth Special Program!! の文字がおどる。

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