ヘル・オトスのビッグ・マグナム
ヘル・オトスのビッグ・マグナム
純白と鮮烈な赤とで彩られ、ドブラックな壺鉤十字を頂点に据える華美な戦闘指揮所のモニターに流れる映像に、イエスしか言わない者だけを選別した、ガース・ヒーデ乗組員達が総員絶句した。
ヘル・オトス親衛隊大将の股間が、しゅんとしてこじんまりとキューーッとなる。
俺の主砲、大自由神民主主義銀河神民統一砲一門が、豆も撃てないコンパクトさへとハイテクノロジーに変形する。一撃で億千万の弾丸を放つことを実現する、ゴールデンな二棟のまあるい弾薬工場が稼働を停止して、この窮地にきゅーっと業務を縮小する。
あいつらだ……。民主主義がナントカカントカとか、この世界の主権を握るのは一般人なんだとか、知的生命体には生まれ持っての絶対の権利があるなどと言う、悪夢みたいにイカれきった与太話を、それこそ本当にイカレたように言い放ちまくる、意味不明なまでに傍若無人で暴威な奴らだ。
あいつらは、俺が沈めたことに公的に公式に公になっている。いまさら俺が嘘をついたとか、そういう話にならないのは安心できる。
Space Synthesis Systemは、公式に公的に絶対に間違えることがないと公にされている。そういうのが政治的に公平性を保たれた、公の発言を右から左に流すのが放送ってもんだろうが。
そして、その放送を俺達は握っている。その放送を生み出す素、広告ってやつをうみだす、電痛とかいう広告代理店も握っている。
だから大丈夫。
そこはどっかりしっかり、あぐらをかいていられる。
だが……
あいつらがこの場のど真ん中に、第三者の視点からの事実なんて、これまた悪夢みたいなことを言い放って乱入してくるとなると……
マズイマズイマズイマズイマズイ
こいつはまったく想定外の予想外だ。予想を斜め上どころか、遥か彼方の明後日までぶっ飛んだ、ヤヴァイことをしでかすに違いないというか、すでにそんなことをもうやらかしていやがる。
グラジ・ゲートを封鎖して、他の銀河への特定秘密な機密情報の漏洩を防止し、サウザンアライアンズ銀河を圧倒的な平和力でもって、徹底的に平定する。
勝てば官軍。歴史は後から修正し放題。
それが、現実をしっかり見据える、大人の良識というもの。
すべてが終わった後に、つぎはぎ当てたのちに、きれいにウォッシュしてペカペカに仕立てあげた誇り高き歴史で、人心を美しく染めあげる。そういう計画だった……
そういう計画だったのだ!
だが……
あれはマズイ。本当にマズイ。
他にもいろいろ撮っているのだろう……。そのことは容易に想定できる……。
あの船が万が一生き残ってこの銀河を脱出して、あのような映像を宇宙中にばら撒き拡散するなんてことになると……
Space Synthesis Systemはビクともしないさ。そんなものは、正体不明の船が流す不正確な情報で、100%のデマなんですと100回言えばそれが圧倒的多数、つまりは公の真実という物になる。
だが……、俺は違う。俺は責任を取らされる。間違いなく取らされる。
あの御方はそういうヤツだ。気に食わないことをした。たったそれだけのことで、俺を社会的に殺すどころか、生物学的に殺すところまでやるだろう。そしてまた、俺の殺害を依頼したヤツに約束したゼニーを出さないから、また家に火炎瓶をブチこまれるんだろう。
そんなことはすでに社会的に生物学的に死んだ俺にはもうどうでもいいことになっていて、あの御方の家にブチこまれた火炎瓶で、俺はスカッとジャアポンッ! なんてできないわけで……。
俺は表向きは自殺として処理されて、もちろんSpace Synthesis Systemは安泰だ。
社会的に殺され、生物学的に殺され。なのに公的には、のしかかる自責の念に耐えられずということで、いさぎよく自らの腹にレーザーブレードをブチ込んで、湯気のたちのぼる血の海にみじめに沈んだ自分の死体がリアルに見える。
その恐怖が、ヘル・オトスの虎の子、たった一門の大自由神民主主義銀河神民統一砲と、その弾薬製造工場である二棟のゴールデンでまあるい弾薬工場が、収縮に収縮を重ねてその加速度をあげていくほど、マジでホントにちびりそうになる。
畜生……。畜生……。
俺はここまで出世したじゃないか。あまたの権畜に閣下とあがめたてまつられて、銀河臣民の生き血と、粉にしてやった身を焼いて、甘い汁をたっぷり吸わせたパンケーキをむさぼり食らってきた栄光の日々。
それが……終わってしまう……




