あの時、俺たちは
あの時、俺たちは
「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
全身をレザースーツに包んだガスマスク男が叫ぶ。操縦桿をシンセティック・ストリーム艦隊に向けて倒し、イービル・トゥルース号をブッ飛ばすエニグマ・エンジンに、全力をブッちぎって燃えあがるんだよという意志を伝えるスロットルペダルを、アイアンブルーの床まで踏みこむ。
180度回転させた方向計は
今おまえは全力で逃げているのだと、ガスマスクの男へ明確に告げている。
なぜか一面岩石だらけの硬化テクタイト製窓。その窓が、赤黒い閃光に包まれる!
艦隊規模の一斉射があらゆる物質を、100%混じりっけなしの純粋な暴力で徹底的に破壊し尽くす。
破滅的なエネルギーがあらゆるモノを破壊する際に生じた電磁的衝撃が、船体に干渉して強烈な振動を生み出し、船内循環空気を震わせ轟音となって響きわたる。
硬化テクタイト製窓を覆っていた岩石が破壊され、爆裂し爆散し宇宙の果てへ向かって四散霧散。
赤黒い光弾が生み出した残光の中に現れる、星の海に浮かぶ必勝と書かれたメシトリベラを艦首に冠する、キシガ・イフミーオとその権畜達の宇宙戦艦。
問答無用! 次の斉射がキシガ・イフミーオと権畜達の宇宙戦艦から放たれる!
再び赤黒い閃光で満たされる硬化テクタイト製窓!
破滅的なエネルギーと護身の力がせめぎ合って生まれる電磁的衝撃によって、あらゆるものが振動し直近に直撃した落雷のような轟音がアイアンブルーとガンメタルグレイで構成された世界に轟き満ちる!
「恐ろしく邪魔な野郎は、いつだってとんでもなく不都合な時に現れる。それこそが邪悪なる真実だ!」
濃紺のミリタリージャケット姿で、ヘッドセットマイクを装着した男の後ろ姿が力強く叫ぶ。
「くそがぁぁ!」
さらに悪罵が続き
「対抗障壁領域健在。船体温度上昇中ですが、補助動力機関による冷却順調」
急にたんたんとした報告が続く。
「海賊放送船イービル・トゥルース号、現在位置シンセティック・ストリーム射線上にあり」
艦隊規模の斉射を浴びているとは思えない冷静な女性の声。
「ロボットノジンケンヲ、コウリョシヤガレ!」
冷たいメタリックボイスが、意味不明のぬくもりある発言。
「この恐ろしいまでに野蛮で不敵で映える瞬間をセルフィーするぅ」
なんだかきゃっきゃうふふな声がして、画面はアイアンブルーとガンメタルグレイで構成された世界を飛び出して、星の海のまっただなかへ。
画面は、艦首に必勝と書かれたメシトリベラを冠するドデカイミスター宇宙戦艦率いる艦隊と星の海だけの世界。
その世界が水平方向に流れ出す。
ぐるりと180度回転したその先に映るのは、白薔薇の蕾の前に立ちふさがる、艦首に禍々(まがまが)しいドクロを冠したドレトロな未来感を漂わせる、たった一隻の宇宙戦艦。
俺達はどこの銀河にも属さない。どこの星にも帰れない。住所不定学歴不問無免許もぐりの自称海賊放送屋。そんな最高にカッコいい肩書が大好きだ。そして、だからこそ、どんな権力にもなびかねえ。あらゆる思想と主義と想いが、誰かの権利を侵さない範囲において、自由気ままに存在できるほどに広い、このバカみてえな広さを持った大宇宙を勝手気ままに航行する、服装髪色肌の色なんでもござれの腰が抜けるほどに自由な船だ。
そんな第三者どころじゃねえほど蚊帳の外のヤツが、この目でみた事実ってやつをいまみてもらっている。
これがこの一方的な戦争をおっぱじめる発端となったできごとの、嘘みたいな本当ってやつだ。
なあ、あんた。恥ずかしくないのかい?
平和だ。積極的平和主義だ。世界を安定させる平定こそが平和だと。てめえ自身が信じていることが信じられねえくらいの言葉を、まるっきし信じているみてえに言いまくり、てめえのチンケなおちんたまとはくらべものにならない、やったらドデカイ砲をガマンもできずに早々に真っ先にドッカンズッコンドカンバコン。
俺だったら恥ずかしくて心臓が止まっちまうぜ。
だけどな、あんたらの胸で毒ん毒んしているのは、真っ黒いモジャモジャお毛々に包まれた暗部の心臓なのかもな。
だからこういうことができるんだ。
どう思おうがそれは自由だ。
だがな、それを口にするどころか、砲をぶちかますとこまできたら、俺は不都合極まりない、邪悪なる真実として本気で邪魔にしにやってくるのさ!!
ヘル・オトスは絶句した。
ハイワン・ツァオミャオは絶句した。
人の名を持たない権畜、ナンバーズ達は絶句した。
下着ド200%なアンダースコートをみせつけるのもやめて、必勝と書かれたメシトリベラをポトリと落として、メガネっ娘人工知能さえモエモエボイスを封印して絶句した。
純白と鮮烈な赤で彩られた、ドブラックな壺鉤十字の華美な戦闘指揮所のメインモニターに流れた、我々(われわれ)に配慮した政治的公平性など一切存在しはしない、邪悪極まりない一方の言い分を一方的に放送する、私達にとって一方的に不適切な存在。
そして、いま現実に、この目の前に嘘みたいなのに本当に存在しているのは……
圧倒的な積極的平和力行使のただ中に、本当にリアルタイムの割り込み突入をブチかましてきた。たった一隻のドレトロなデザインの艦首にドクロをかかげた宇宙戦艦。
そして、星の海に浮かぶ不敵なドクロの背には、ひたすら斉射を叩き込まれて、アッチッチーのパンパカパーン寸前の、白薔薇の蕾が率いるサウザンアライアンズ銀河艦隊群。




