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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第四部・白薔薇の君

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野薔薇の庭園でお別れを

野薔薇の庭園でお別れを




 あらゆる草花が繁茂はんもし、野薔薇のばらと様々な花々が咲きみだざり合う、野生に帰りつつある庭園に、シュライザーローズとアークはいた。

「つまり、サウザンアライアンズ銀河艦隊群には組み込まれるつもりはない。俺達は独立独歩どくりつどっぽでやっていきたい。だけれど、それじゃあ、さらばジャーデン・サーベージ星、あとは知ったことか! ではない……。俺達はこの戦争にからむ。それも、宇宙戦艦としてではなく、海賊放送船として……」

 アークの話を聞き終えると、野薔薇のばらとあらゆる草花を背にするシュライザーローズはそう言った。

勝手気かってきままな船なんでな」

 アークは様々な銀河に広がっていき、今ではどこにでもある黄色い花をみつめてそう言った。

 シュライザーローズは、野生に帰りつつある庭園から空をみあげる。

「サウザンアライアンズ銀河艦隊群からの、武器弾薬ぶきだんやく補給ほきゅうは受けない。資金提供しきんていきょう、燃料の供給きょうきゅうすら拒否きょひする。幸いなことに、ついこのあいだかせいだタネゼニはあるから。と……」

 シュライザーローズの深いため息が、様々な花をらす風の中へと消えていく。

「ああ、そうだ」

 シュライザーローズは紫の瞳できっとアークをみつめ、思い切ったように口をひらいた。

「大変失礼なのを承知しょうちですが、あなたは思ったことを言うかただ。ですので、私も思ったことを言わせてもらいます。なんの見返りも要求することもなく、銀河同士の大戦争に、わざわざたった一隻で顔を突っ込み絡もうとする。あなた達はバカなのですか?」

 アークは眉をぴくりとさせることもなく、ニヤリと笑う。

「そのとおり。俺達は無法な銀河の果てからやってきた、傍若無人ぼうじゃくぶじんな野蛮生命体。ガチでバチバチの武装で固めたマジモンの戦争屋。戦争屋が頭が良かったことなんてねえ。つまりはバカ。だから俺達は、筋金入すじがねいりの消極的戦争主義しょうきょくてきせんそうしゅぎに染まった、正真正銘しょうしんしょうめいマジモンのイカレヤロウってことなのさ」

 アークは青く危険な光が宿る瞳で、シュライザーローズローズの紫の瞳をみつめてそう言った。



「無所属/フリーの海賊放送船へ、一切の補給及び援助をしないように。それがあの船からの要求です」

 シュライザーローズの言葉に、ヘイガーはもとより真っ白な頭髪以外の部分まで真っ白になる気がした。

「彼らと彼女らの言っていることがわかりません」

 無言で固まるヘイガーの横で、クートゥが驚きの言葉をらす。

「私もまったく意味がわかりません。ですが、たった一隻の奇妙な船に、これ以上時間をさく余裕よゆうはありません。ことはすでに動き出している」

 シュライザーローズはそう言い放つと、これよりサウザンアライアンズ銀河群を形成する、各星系からの政府及び軍事関係者との会談に向かった。



 ジャーデン・サベージ星大気圏外、静止軌道構造体サークル・ド・ラヴィ。

 Space Synthesis Systemから宣戦を布告された、サウザンアライアンズ銀河の各星首脳達かくせいしゅのうたちと軍関係者がつどう作戦会議が開かれている。

 ふる大議事堂だいぎじどうを思わせる空間で、あらゆる議論ぎろんり広げられ、次から次に指揮命令系しきめいれいけい確立かくりつし決定され、各星系艦隊かくせいけいかんたいの持ち場の宙域が指示され、多数の宇宙戦艦が指定の宙域へ向かって集結しゅうけつしていく。

 もはや騒乱そうらんと言ってもいい大騒ぎのただ中に、奇妙な8人がまぎれ込んでいる。

 濃紺のミリタリージャケット姿の男。

 真紅しんく漆黒しっこく薔薇柄和服姿ばらがらわふくすがたの銀髪少女。

 ガスマスクで顔をおおった、全身レザースーツ姿の男。

 七色の生地にセピアの鳥獣戯画ちょうじゅうぎがが描かれた和服をいなせに着付け、黒髪に斧型の髪飾かみかざりが似合う、なまめかしいうなじの女。

 やたらと可愛い巨大スズメ。

 氷砂糖のように半透明の身体を、焦げ茶と黒のレザースーツで包んだ少女。

 ビジネス用スーツで決めた男性と、ジーンズとスニーカー姿の女性。

 ことは侵略戦争。そんな大混乱のただ中で、場違いの姿をした奇妙な8人のことなど、もはや誰も気にはかけない。

 


「あのさ……。あたし、難しい話はわかんないんだよ……」

 えんえんと続く議論が渦巻うずま大議事堂だいぎじどうのはじで、サディは横にいるアークをひじで突っついて言う。

「わからなくてもいい。話に耳をかたむけろ」

 アークは濃紺のミリタリージャケットのポッケに両手を突っ込み、古い大議事堂の壁に寄りかかって言う。

「あたしはさ、主砲の照準精度しょうじゅんせいどを確認したり、砲身ほうしんの状態を確認したり、弾頭だんとう装填そうてんをしたりとか、そういう準備をしたいんだけど……」

 サディがさらにアークをひじで突っついて言う。

「なあ、サディ。スゲエ大雑把おおざっぱに言うと、戦場でブッ放したいんだよな?」

 アークが横目でサディに視線を流しながら言う。

「そうだよ!」

 サディがイービル・トゥルース号に行っていいのか! と目を輝かせる。

「いいか、サディ。ここはもう戦場だ。そのことを理解するんだ」

 アークはそう言って、議事堂の壁に寄りかかったまま、繰り広げられる議論をじっと聞いていた。

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