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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第四部・白薔薇の君

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アーク・マーカイザックの苦悩

アーク・マーカイザックの苦悩



 野薔薇のばらが咲き、名も知らぬ花々が咲き、あらゆる植物が絡み合う野生の庭園で、アークは頭上に広がる星空をみあげていた。

 その背中に強い衝撃が走る。

「痛えッ!」

 アークが振り返ると、そこには拳を握りしめた、真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳を血走らせたサディがいた。

「どういうことなんだよ? アーク。ずいぶんやる気がないじゃんよ?」

 サディは赤い瞳でアークをにらみつけてそう言った。

「ひとりで考えさせてほしいだけだ」

 アークはサディにそう言った。

「いったい何を考えるって言うんだよ?」

 サディが赤い瞳をギラつかせて問う。

「海賊放送船イービル・トゥルース号が、どうこの戦争にからむかだ」

 バシッ!

 サディのローキックがアークに炸裂さくれつする。

「なんだよ! ガチの戦争を前にしたら、急に怖くなったのかよ!?」

 サディのローキックにびくともしないが、何か言葉を返すこともなく、アークは沈黙ちんもくする。

「珍しく、タッヤもやるって言ってんじゃん!」

 サディの言葉が続く。

「イービル・トゥルース号が間に入らなければ、シュライザーローズ号は沈んでたよ! あいつら! マジで殺しにきてんだよ! ハナから戦争するつもりできてんだよ! そんなことアークはわかりきっているし、そんなことで怖気おじけづくような、おちんたまナシの腰抜けじゃないだろぉ?!」

 サディの言葉に、アークのまゆがピクリと動く。

「そうだよ。俺は別に、シンセティック・ストリームが怖いわけじゃない」

 アークの瞳にいつもの、静かな凶暴性を匂わせるにぶい光が戻る。

「じゃあ、なんでだよ? いったい何に怖気おじけづいてんだよ?!」

 サディが叫ぶ。

「AXEを、ミーマを、タッヤを、コタヌーンを、オクタヌーンを、ネガを、失うのが俺は怖い」

 アークは静かにそう言った。

「あたしを失うのは怖くないのかよぉ!」

 サディの右の拳がアークの胸を狙って放たれる。

 アークの左が素早く動き、サディの渾身こんしんの右を受け止める。

「いまさら君を失うなどとは思いはしない」

 サディの右の拳を手にとらえたまま、アークは続ける。

「AXEも、ミーマも、タッヤも、コタヌーンも、オクタヌーンも、ネガも、本当の俺を知らない。俺が本当は何をするヤツなのか、その目で見たこともない。この間、System Schutzstaffelの宇宙戦艦を一隻、ダークマターの世界にお連れしたよな。あの時、あの艦の中で俺が何をしたか、サディ、君以外知りゃあしないのさ」

 受け止められた右の拳をにさらに力をこめながら、サディが歯ぎしりする。

「なんで猫なんかかぶろうとするんだよ? ガチで殺り合う殺し合いのドンパチなんだ! あんたは残虐無比で、絶対敵にまわしちゃいけない男だ! それでいいじゃないか! それで離れていくなら、あいつらとはそれまでだったってだけのことだよ。でも、あたしは違う! 残虐無比なあんたこそが、アーク・マーカイザックなんだってわかってる! それでいいじゃないか! それでいいじゃないかよぉ!!」

 サディが叫ぶ。

「そうだな。猫を被って、れ合いを続けるってのは、確かに俺らしくない」

 アークは深くため息をつく。

「だけどな、嘘みたいな本当のできごとから、イービル・トゥルース号に拾われた俺は、パフォしか言わねえパンダ船長とふたりでは、さびし過ぎて広過ぎる宇宙をずっとずっとさまよってきたんだ。最初に出会ったのはサディ、君だ。次にAXEとタッヤに出会い、ネガに出会い、ミーマとコタヌーン夫妻に出会った。正直、長く付き合えるなんて思っていなかった。でも、気がつけばもう長い付き合いだ。そのあたたかさに、俺はいつの間にか染まっているのも確かなんだ」

「あたしは残るよ。あんたがどんなに残虐なことをしても残るよ。それでいいじゃないか。それでいいじゃないかよぉ」

 サディの真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳がうるみだす。

「ありがとうよ。だけどな、悩んでいるのは、それだけが理由ってわけじゃない」

 アークはサディの拳を離すとそう言った。

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