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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第四部・白薔薇の君

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長く暗く深まる夜

長く暗く深まる夜



「サウザンアライアンズ銀河の各首脳かくしゅのうより通信が」

 クートゥが壁に並ぶ絵画かいがに再び手をかけて言った。

「つないでください」

 シュライザーローズの言葉にヘイガーはうなづき、クートゥは絵画を回転させモニターへと変える。

「俺達は席を外そう」

 そう言って立ち上がるアーク達を、シュライザーローズが手で制す。

「同席を願いたい。あの映像はサウザンアライアンズ銀河中に流されているはず。ここであなた達がただの一発も撃っていないことを、明確にしておく必要があります。そして、あなた方がどういう存在であるのか、このような事態じたいに突入したサウザンアライアンズ銀河は知る必要があるのです」

 シュライザーローズの紫の瞳が放つ鋭い視線に、アーク達は再び席に着く。



Philippe:これはいったいどういうことか、説明を求めたいものだな。シュライザーローズ。

 ビシリとしたスーツに身を包んだ碧眼へきがんの男性が、その瞳に強い輝きを宿してにらみつける姿がモニターに現れる。

Malais:撃ったのか? Space Synthesis Systemを? シュライザーローズ……。私はそんなことは起こり得ないと信じていたが……

 ややくたびれ気味のスーツ姿ながら、知性を感じさせる物腰ものごしの男性がモニターに現れる。

Schreiser Rose:いいえ、私達はただの一発も撃っていません。それどころか、あの映像に登場した白薔薇しろばらの紋章をかかげた宇宙戦艦は実在すらいたしません。

Philippe:あの宇宙戦艦が実在しない?

Malais:それはいったいどういう意味だ?

Schreiser Rose:ご説明いたします。あの時、実際には何が起きたのかということを。



……

Philippe:つまり……。あの映像は変造加工へんぞうかこうされたものだということか……

Malais:成り行き上、結果的に助けられたのだとしても……。宇宙海賊とつながるとは……

Ark Markizak:言葉をはさんで申し訳ないが、ウチは宇宙海賊ではなく、海賊放送船ってやつなんだよ。

Schreiser Rose:直接出会ってすらいない我らを、救ってくれた恩人です。

Malais:失礼した。宇宙海賊には何度も頭を痛くさせられているのでね。艦首にドクロを掲げられると、おだやかではない気持ちになることはお許し願いたい。

Ark Markizak:だが、軌道衛星構造物に接舷せつげんしている、船首にドクロを掲げたウチの船をみたからには、イヌエイチケーが流すあの映像が偽物にせものだってことはわかってもらえたと理解するが?

Philippe:承知している。

Malais:承知いたした。

Schreiser Rose:ご納得いただいて感謝します。Space Synthesis Systemはグラジ・ゲートを封鎖ふうさし、積極的平和推進使節団せっきょくてきへいわすいしんしせつだんという名の武装艦隊をこの銀河に送り込み、事実上サウザンアライアンズ銀河へ侵攻を開始していた。海賊放送船イービル・トゥルース号が私達とSpace Synthesis Systemの間に入ろうと入らなかろうと、何かを捏造ねつぞうしてまで開戦を宣言する結末に変化はなかったでしょう。Space Synthesis Systemは、やりたいとなったら、あらゆる法規ほうきと憲法と道義どうぎ蹂躙じゅうりんしてでもそれをやる。そして海賊放送船イービル・トゥルース号が間に割って入らなければ、私は今ここに存在しておらず、そして開戦を宣言されることにはかわりがない。

Philippe:いかにもSpace Synthesis Systemのやりかたらしい、無法の所業しょぎょうだな……

Malais:もはや開戦の宣言をされたのであれば、これからの話をしようではないか……

Schreiser Rose:私は戦争など望んでいなかった。なのに……、なぜSpace Synthesis Systemは開戦するのか……

Ark Markizak:開戦の原因はサウザンアライアンズ銀河にはねえよ。奴らが戦争をしたがるのは、Space Synthesis Systemの内部事情ってやつだ。Space Synthesis Systemはここ十数銀河標準年の間、重力井戸に実質的に転がり落ちるように衰退すいたいしている。愛し合う者達が普通に結婚できるわけじゃない、子供は生めるような社会じゃない。えこひいきで優遇ゆうぐうされた大企業は、そこにあぐらをかいて腐って崩れ落ち、経済はどんどん衰退している。そこにさらに庶民しょみんに対して大増税をぶちあげて、一方で大企業の法人税は大減税。そうやって巻き上げたゼニーを、とにかくテキトーな理由をつけて仲間内でぐるぐる回して中身を抜き取り、自分たちは甘い汁をすする。さらに無理やりメディアに金をばらまいて、権力のご都合で作り上げた空気であっしておさえ込んで誤魔化ごまかして転がり続ける。だから、雪だるま式に腐敗したクソのかたまりがデカくなる。その現実から視線をそらし、外敵を作り出すことで、Space Synthesis Systemという組織を維持しようとしているのさ。その標的がたまたま今回、サウザンアライアンズ銀河だった。それだけの話さ。

SADy:つまりは、いいシンセティック・ストリームは、ブッ飛ばされてダークマターにかえったシンセティック・ストリームだけだってことだよ!

NEGA:くそが!

Philippe:ずいぶんと……

Malais:レーザーブレードをボディへ突き刺すように……

Schreiser Rose:思ったことを言う人なのですよ。私の恩人は。




「シンセティック・ストリームがアホウタロウのケツの穴だってことは、とっくの昔にわかっていたことではあったが……。こいつはガチでバチバチの戦争ってやつだ。いまさら海賊放送で、シンセティック・ストリームにその心をとらわれた、毒裁政権どくさいせいけんに押しつぶされすり潰されて、ぎゅうぎゅうしぼり取られていながら、ちいとも投票行動を起こさなかった住人たちの、気持ちってやつから変えていこうぜ。なんてのはとっくの昔に過ぎた話にされちまったわけだ……」

 晩餐会ばんさんかいでの会談を終えて、最初に案内された部屋に戻るとアークは静かに言った。

「戦争だ! ドンパチだ! あたしは撃って撃って撃ちまくって、ギッタンギタンのバラバラにしてダークマターにかえしてやって、いいシンセティック・ストリームをガンガン作るよ!」

 サディが両の拳をぐっと握って力強く言う。

「戦争をしたくて海賊放送船に乗ったわけではありません。ですけど、あらゆる銀河をのんきに旅する、ファンシー雑貨貿易船に乗っているつもりは、もとよりないです」

 AXEが静かに言った。

「戦争が起きて欲しくないから、海賊放送船なんて言う、冗談みたいな船に乗ったんだけどなぁ。でも、ここでケツをまくって逃げ出しても、他人のファックに口を出す、ブラック・レーベル作品が違法の、クソみたいな世界がまた宇宙に広がるだけですよぉ」

 ミーマがぐっと氷砂糖のような半透明の拳を握りしめて言う。

「経済的には、ドンパチなんて損するだけです……。経済的にどうとか以前に、何よりドンパチは嫌いです……。ですけど……。シュライザーローズさんの平穏へいおんみだそうと……。いえ、シンセティック・ストリームはシュライザーローズさんを明確に殺そうとした。そのことを思うと、私はすべての羽毛が総毛立そうけだちます!」

 タッヤはガチン! とくちばしを合わせてそう言った。

「こいつはデカい博打ばくちだなぁ。大穴おおあなに賭けるというのはロマンだなぁ」

 コタヌーンがひょうひょうと言う。

「ドンパチも博打ばくちも嫌いですけど……。この謎だらけの性能を持つ船が、いったいどこまでやれるのか? イチ技術者としてこの目でみてみたい気持ちはあります」

 オクタヌーンは珍しくすわった瞳でそう言った。

「くそがぁぁぁぁ!」

 ネガは頭をかきむしってそう言った。

「アーク! やろうよ!」

 この場にいないパンダ船長のことはまったく気にすることもなく、サディはアークにそう言った。

「そうだな。俺は少し考えることがある、しばらく一人にしといてくれ」

 アークは静かにサディに返した。

「ええ?」

 思わぬアークの冷えた反応に、サディの声がれる。

 AXEが、ミーマが、タッヤが、コタヌーンが、オクタヌーンが、アークに視線をうつす。

 アークは何も言うことなく、ひとり部屋を出ていく。その背中にはめずらしく覇気はきがなく、海賊放送船の乗組員達はひどく困惑こんわくした。

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