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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第四部・白薔薇の君
130/360

INU・HK

INU・HK



 ピンポンパンポーン

 ピンポンパンポーン

 こちらはInformation Neutral Union 放送教会。INU・HK (イヌエイチケー)。政治的に中立な放送法にのっとった、公平で公正な公的情報を、すべての銀河臣民ぎんがしんみんに提供し教育する統一教化的公共放送です。

 本日も政府が右というものを、左と言うことはできない、政治的に公平中立な立場より、右から左へ情報を提供いたします。

 それでは

 Defensive

 Alliance

 In

Total

 Operation

 Anti-Invasion

 DAITOA本営発表!

 本日、Space Synthesis System標準時未明。サウザンアライアンズ銀河辺境ぎんがへんきょう、Space Synthesis System圏内へと接続するグラジ・ゲート周辺宙域において、Space Synthesis System 積極的平和推進使節団せっきょくてきへいわすいしんしせつだんに対する、重大なる権利侵害をともなう主権侵略行為が発生しました。

 重大なる権利侵害行為は明確な武力行使を持って行われました。精強せいきょうであり屈強くっきょうなる強固極きょうこきわまる強大きょうだい抑止力よくしりょくを持って、積極的に平和を推進する、我らが積極的平和推進使節団に一切の被害は出なかったものの、我々の積極的平和推進行為について、方針の転進てんしんを決意させるにじゅうぶんなものでした。


「先に撃ってきたのはそっちじゃないか!」

 サディがちいさな拳を、撃ちますッ! ドンッ! とテーブルに叩きつけると、お皿のマカロッソが一瞬重力から解き放たれて飛び上がった。

「サディ。まずはイヌっころ放題狂会とやらの話を聞こうや」

 ヘイガーが置いたポッドから、自分のティーカップにお茶を注ぎながら、アークが冷たい声で言った。


 映像を御覧ごらんください。これが、我らが積極的平和推進使節団に加えられた、暴挙的武力行使ぼうきょてきぶりょくこうしのエビデンスです。

 

「クートゥ。映像を」

 けわしい表情に変わったシュライザーローズの言葉に、クートゥが動く。晩餐会の会場にかけられた、味わい深い風景の描かれた巨大な絵画かいがを、クートゥが両手でぐるりと回転させて裏返す。

 くるりと回転した絵画はモニターに変わり、そこに映し出されていたのは……

 艦首に白薔薇しろばらの紋章をかかげ、主砲三連装四基十二門から赤黒い光弾を撃ちまくる、イービル・トゥルース号の姿だった。


「船首にあるのはドクロだし! ウチの光弾は、てめえらをもれなく憂鬱ゆううつにするブルーなんだよ!」

 サディが再び、撃ちますッ! ドンッ! とちいさな拳を叩きつけ、マカロッソがまた一時重力の束縛そくばくから解放される。

「サディ。あとで好きなだけ撃たせてやれそうだからな、いまは抑えろ」

 アークが鋭い視線でサディをみつめて言った。


 Space Synthesis System積極的平和推進使節団は、当方とうほう圧倒的抑止力あっとうてきよくしりょくをもって行われる外交的平和推進行為がいこうてきへいわすいしんこういに対し、暴挙的な武力行使におよんだサウザンアライアンズ銀河を、強く強く非難いたします。

 同時にSpace Synthesis System中枢閣は、サウザンアライアンズ銀河、ジャーデン・サベージ星を暴威ぼういと認定。Space Synthesis Systemの自衛のため、積極的平和推進ではなく、積極的平和力の先制行使、つまりは反撃能力を選択し、積極的平和主義による敵基地攻撃能力の行使を平和的に選択することを、中枢閣議において閣議決定いたしました。

 積極的平和力の先制行使は、あくまでも反撃能力であり、戦争が発生する以前に敵基地を攻撃し、結果的に戦争を発生させないという、極めて積極的な平和行動であることを、Space Synthesis System銀河臣民におかれましては、全身全霊をもってご理解とご協力いただけることを、重苦しい空気を持ってお伝えさせていただくしだいであります。

 宇宙の平和を積極的に維持するため、24銀河標準時間経過後、Space Synthesis Systemはサウザンアライアンズ銀河、ジャーデン・サベージ星に対して、積極的平和力の先制行使 (通称・反撃能力)による敵基地攻撃を宣言いたします。

 繰り返します。24銀河標準時間経過後、Space Synthesis Systemはサウザンアライアンズ銀河、ジャーデン・サベージ星に対して、積極的平和力の先制行使 (通称・反撃能力)を持って、平和の推進維持のため、敵基地を攻撃することを宣言いたします。

 これにともない、積極的平和力先制行使 (通称・反撃能力)予算の拡大が行われます。銀河臣民の平和的協力行為として、消費税及び所得税の大幅な増額、さらに積極的平和力行使協賛協力金が新たに銀河臣民に課せられます。一方、積極的平和力行使にともなう、経済的危機の到来とうらいそなえ、大企業に対しての法人税は大幅に減額するものと、Space Synthesis System中枢閣議により閣議決定されました。

 これは宇宙の平和を積極的に維持する、極めて平和的な公平で公正な公的負担による平和推進への協力となります。

 Space Synthesis System銀河臣民におかれましては、平和的に公正な態度でもって一丸となり、このご負担に協力いただけるものと存じます。これらの意思決定に同意されないものは非銀河臣民として、非難の声をあびることが妥当だとうであり……



「もうけっこう」

 今や冷たい表情に変わったシュライザーローズの声が、古き洋館に響く。

 Information Neutral Union 放送教会。INU・HK (イヌエイチケー)の放送をヘイガーは切断。

 クートゥが無言でモニターを回転させ、再び味わい深い風景画へと戻す。

 静まり返った空気が流れる。

「予想通りと言えば、確かに予想通りではあるんだが……。すまねえ……。まさかウチの船が使われることになるとは……。助けに入ったつもりが、奴らにかっこうの言い分を与えちまったようだ……」

 めずらしく抑えたアークの言葉が、静まり返った空気に流れる。

「イービル・トゥルース号は、ただの一発も撃ちはしなかった」

 シュライザーローズはそう言った。

「だが……」

 モニターに映し出された、白薔薇の紋章を船首に掲げ、赤黒い光弾を撃ちまくるイービル・トゥルース号の姿をアークは思う。

「あのような捏造ねつぞうを平気で行い、それを公共を名乗る放送で自身の民に流すくらいです。たとえどんな対応をしたとして、結局はこうなるということだった。そういうことです」

 シュライザーローズは今や鋭い輝きを帯びた紫の瞳で、アークをみつめてそう言った。

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