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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
モッキンバード侵攻作戦

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モッキンバード上陸作戦

モッキンバード上陸作戦



「放送用バルーンステーション、キリカエカンリョウ」

 操作盤を金属の指でポチリと押してイクトが告げる。

「はっはっはっはっ! 今頃また別のバルーンにおっとり刀で向かってるぜ!」

 アークは艦橋の自席で豪快に笑っている。

 水深100メートルの海中を、静かにゆっくり移動するイービル・トゥルース号からのびたケーブルは、海上に浮かぶブイへと海賊放送のデータを届ける。海上ブイは暗号化された電波でこの星の各地の空に拡散したバルーンステーションに海賊放送を届ける。バルーンステーションはイービル・トゥルース号から届いたデータを96.9銀河標準メガヘルツにのせて、この星の空へとオンエアする。

 バルーンステーションは何かの接近を察知すると電波の発射を停止。別のバルーンステーションへと海賊放送電波の送出を任せて、バルーンをしぼませて海上まで降りてしまう。

 System Self-Defense Force SSF支援要撃隊が駆けつけてみれば、そこにはもう何もいない。そしてまたどこかから、96.9銀河標準メガヘルツの海賊放送が、あざわらうように流れてくる。

「こちらは無限の宇宙をさまよう、流れの海賊放送船だ。まだ聞いたことのない音楽を追い求め、嘘みたいな本当のことを探しているんだ。考えてみてくれよ、銀河の果てのレストランまで、チェーン店にすることはない。もしも宇宙がひとつになって、俺と君との境界線が侵されてしまったら、俺はどうやって君のために泣けばいい? この銀河は、ありとあらゆることが存在を許されるほどに広く深く、おそろしいまでにいい加減だ。たったひとつなんてのは、てめえの命だけで充分で、なにもかもをひとつにするだなんて反吐が出る。そうじゃないか? ねえ、君はどう思う? 世界はたったひとつの方がいいか? もしもその世界がダメになったら君はどうする? 想像してほしい。もしも世界がいくつもあったら。もしもひとつの世界が滅びたとしても、それはあまたある世界のひとつに過ぎない。人は世界を渡り歩いて生きていくことだってできる。宇宙をひとつに? 笑わせる。あんたはこの宇宙を究極の孤独に追いやる、マジモンのファシストだ! そんなファシストのケツを蹴っ飛ばすぞ! 次の曲は君たちの知らない未知の宙域、メロデス星系からやってきたクソ早くて冷たい最高の音楽、腐りそして転がるだ!」

 空を超音速で駆けずり回り、血眼でイービル・トゥルース号を追うSSF支援要撃隊。その無線はヘル・ツゲルの罵詈雑言と誹謗中傷と尊大極まる命令に満たされ、機体は派手に旋回し新たな海賊放送の発信源へとぶっ飛んでいく。

 ビッグ・ウエスト海洋の海中、水深100メートルでは、ロボット乗組員のイクトが操船するイービル・トゥルース号がゆったりと海中を進む。艦橋最前列の自席をめいいっぱい倒したアークが、思うがままの言いたい放題をありとあらゆるSpace synthesis system法をぶっちぎった、ナイン・シックス・ポイント・ナイン96.9銀河標準メガヘルツにのせて、この星の空へと流しまくる。

 一方ビッグ・ウエスト海洋の上では、後部デッキで潮風を受けながらパーティーを続けるbrain distraction号が行く。そして、クルーザーとは思えない、ガリゴリのいかつい操縦席では……

「クソが……」

 とネガがつぶやく。



「上陸だッ!」

 サディがモッキンバードタウンの陸へと降りる。

「アニ冥土〜、アニ冥土〜、アニ冥土に行かなくちゃ〜」

 ミーマがるんるんスキップで陸を歩き出す。

「さて、商売、商売」

 コタヌーンがスーツケースを引いて船を離れていく。

「いってらっしゃ〜い」

 オクタヌーンはコタヌーンに手を振り、パソコンが入ったカバンをぶらさげ、この星の喫茶店を探しに歩きだす。

「まずはどこに行こうかな〜」

 AXEが街へと向かう。

「クソが……」

 おしゃれなモッキンバードタウンの姿を遠目にみながら、ネガはガスマスクの中で毒づき歩きだす。

「みなさーん、基本自由行動ですけど、一日一回の連絡だけはお願いしますよ〜」

 クルーザーに偽装したbrain distraction号を港に係留する手続きを終え、船に戻ってきたタッヤがみんなに声をかける。

 手をあげ、手をふり、背中で語り、クソがと毒づき、めいめいおもいおもいの反応でタッヤに答え、モッキンバードタウンへと消えていく。



 サディは港近くの街を徘徊していた。

 貝。魚。魚介類。ここは港ということは、この海からとれる幸が売りの店があるはず。

 サディは目に入る飲食店を真っ赤なリンゴみたいな赤い瞳で値踏みする。

 イービル・トゥルース号の食事は美味しい。のだが、いかんせん長い期間宇宙を航行するとなると、ついさっきまで生きていたのを、見事ぶっ殺しましたのがこれです、というのが売りの魚介類、なんてものとはどうしても縁遠くなってしまう。サディが海賊放送船の乗組員になって衝撃的だったのは、海賊と言う名前がつくのに、新鮮な魚介類と縁遠い世界だということだった。正直、海賊と名がつく船なら、勝手に新鮮な魚介類が毎日のように出てくるものだと……。

 まあ、ちゃんと考えれば、遠い銀河から銀河を渡り歩く船に、ピチピチの魚も死後数分でございなブツも、食卓に出てくることはないのだけれど……。

 いまでもたまに、海賊放送船の乗組員になったことを、深刻な新鮮魚介類不足によって後悔することがあるサディだった。

「あれかッ!?」

 サディの真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳が輝く!

 店の前にたったのぼりに可愛い魚のマーク!

 これはもう間違いないッ! サディは可愛い魚のマークが描かれた店へと深紅の和服の袖をはためかせ、ダッシュで突入していく。



 ミーマはイービル・トゥルース号にいた時から、海底ケーブルのネットトラフィックにまぎれこんで、アニ冥土の情報を仕入れていた。

「久しぶりの上陸だから、次の星に降りるまでの分を仕入れておかないと〜」

 ミーマはるんるんで事前に調べたアニ冥土へ向かって歩いていく。

 アニ冥土とは?

 この広大な宇宙に展開する最大手のアニメ関連販売チェーンである。本当の店名はアニ冥土ではないのだが、銀河中のアニメファンを数々破産させ、財政的に冥土の果てへと送り込んだため、いつしか銀河中のアニメファンの間から、アニ冥土の名で呼ばれることになったいわくつきのチェーン店である。というのが最有力説とされるが、アニ冥土の名の由来には諸説あり。別の説としては、銀河統一を目指すSpace synthesis systemにその表現の自由さから目をつけられ、何度かアニメ業界もろともチェーン自体が冥土おくりにされかけたことがあるからだとか。他にも何代目かの社長が冥土喫茶という特殊業態に目をつけ、みずから冥土喫茶をはじめた逸話に由来するからだとか。まことしやかにささやかれる様々な説があるのだが……。

 銀河中ですでにアニ冥土と呼ばれているので、ここではこの程度で説明を終えたいと思う。


 

 コタヌーンはスーツケースを引きながら、モッキンバードタウンの街を見回す。

 街の中心部にそびえ立つ超高層建築を中心に、巨大な都市が広がっているモッキンバード星系の首都。人口は相当な数だろう。

 これだけデカい街なら融通の効く店も多いだろうし、けっこうな数がさばけるのは間違いない。コタヌーンはニヤリと笑う。

「まずはあの店に行ってみますか〜」

 ビルの前面にデカデカと、ンニー、サムンソ、闘士場、華ゾディアック、イチマルジョウホウ、あーそーそー、ぴたちん、ゲーイー等々、様々なロゴが並ぶ、超絶大型店舗をみあげてコタヌーンがのんびりと言う。

 コタヌーンはネクタイに手をそえて整えると、デカい電気屋と思われる店に入っていく。



「シュラーバッデスコーヒー……」

 オクタヌーンは、おしゃれデザインな異形のシルエットマークを掲げる、喫茶店の看板を見上げる。

「略して修羅場か……」

 オクタヌーンはゴクリと唾を飲む。

 せっかくの上陸日なわけで、おしゃれな喫茶店で大好物のカフェラテを飲みながら、のんびりイービル・トゥルース号のメインエンジンのデータを精査したかっのだけど……。

「さすがに修羅場はないわ……」

 オクタヌーンはそうつぶやいて、もっといい喫茶店を探しにモッキンバードタウンを歩いていく。



 AXEは騒がしい街中を歩いて、自然の多い公園を探している。

「青い空をみながらゆっくりしよう」

 大きく衣紋を抜いて、アクティブにうなじをみせつけながら、AXEはこわばった肩をほぐすように首をまわしす。

 海賊放送船での航海は自由気ままだけど、青い空というものはない。どうしても上を見上げることがない日常は、首や肩をこわばらせる。

 長いあいだ続いた宇宙航行でこわばった身体をのばしたくて、AXEはモッキンバードタウンのきらびやかな街を抜けて、緑と広い青空のある場所を探して歩いていく。



 タッヤはbrain distraction号に積まれた荷の確認を終えると、ようやくbrain distraction号を後にした。

「久しぶりに羽をのばすとしますか」

 タッヤが羽を広げ羽ばたくと、巨大なスズメの身体が宙に浮かび、モッキンバードタウンの上空へと飛んでいく。

「みんなちゃんと連絡してくれるかなぁ……」

 タッヤは眼下のモッキンバードタウンに散っていった、おおらかで自由な船に馴染みまくった、自由過ぎる乗組員たちのことを思いながら、宇宙には存在しない青い空を満喫して飛んで行く。

 


「クソが……」

 ネガはレザースーツの上に来た革ジャンのポッケに両手を突っ込み、毒づきながらモッキンバードタウンを歩いていた。

 ネガはいつの間にかおしゃれな街並みの通りに入り込んでいて、周囲には手をつないだ恋人達がモッキンバードタウンの街をそぞろ歩いている。

「クソが……」

 ネガは恋人達の姿から目をそらし、ガスマスクの中でそう言った。

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