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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第四部・白薔薇の君
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Buzz Suckerノ夜行

Buzz Suckerノ夜行



 シュライザーローズは食後のお茶をゆっくりと飲み干し、金線で描かれた白薔薇の紋章入りティーカップをソーサーに置くと話し始めた。


 あの曲にまつわるいわれの話は、はる彼方かなたの昔へとさかのぼります。Space Synthesis Systemが、まだSpace Synthesis Systemという名前ではかなった時代。この宇宙の各地で勃発ぼっぱつしていた大宇宙戦争の時代まで。

 あらゆる銀河が参戦し、あらゆる星々が銀河連合群と、銀河枢軸群ぎんがすうじくぐんにわかれて戦った、あの大宇宙戦争の時代です。

 当時、宇宙の片隅かたすみに存在する恒星系のひとつに過ぎなかったSpace Synthesis Systemの母体組織は、ティナ銀河に対して侵攻を開始。徐々にその宇宙的影響力を拡大していた頃でした。その組織の名は、Big Synthetic Empire。

 Big Synthetic Empireは、ティナ銀河侵攻を様々な銀河からとがめられ、宇宙的に孤立こりつしていきます。

 孤立し追い詰められたBig Synthetic Empireは、所属していた銀河連合を脱退。ナティーヌ・ドイシダー銀河とナポソタリー銀河と同盟を結び、宇宙の枢軸すうじくを名乗り、銀河枢軸群として大宇宙戦争を開戦します。

 当時、宇宙戦争の主役は巨大空母及び膨大ぼうだいな数の艦載機達でした。巨大空母によって構成された空母打撃群による、機動部隊同士の艦載機宙域決戦かんさいきちゅういきけっせん。その戦いに一石いっせきどころではない巨砲を叩き込んだのが、Big Synthetic Empireだったのです。

 現代の戦争では当たり前となった、極大威力のビーム兵器を搭載した宇宙戦艦の前には、空母及びその艦載機は無力。このまったく新しい現実を当時の戦場に叩きつけたのが、Big Synthetic Empireでした。さらに、アベルフ・シンゾラー率いるナティーヌ・ドイシダー銀河の独創的なビリビリパッパ作戦もあり、その攻勢は当初、圧倒的なものでした。当時における戦争の常識をくつがえす、大艦巨砲主義たいかんきょほうしゅぎがもたらした圧倒的勝利は、宇宙を震撼しんかんさせました。それに対抗したのが、銀河連合群です。

 戦争というものは、ここに語り尽くせぬ長く複雑な理由と経緯と経過がある。銀河連合群もまた、絶対的な正義などではなかったと私は考えます。ですので、銀河枢軸群、銀河連合群、どちらが正義だったのか? などという話を今はするつもりはありません。ですが、あの戦争の結果によっては、未来は非常に悲惨ひさんなものであったことも確かです。

 あえて言うのならば、今こうして私達がSpace Synthesis Systemに圧迫あっぱくされ最終的には撃たれている現実は、Space Synthesis Systemの母体であり、現代的に言えば、今現在よりはるかに過激だった積極的過ぎる平和主義者であり、ひとりはみんなのことを考えろ思想が過剰かじょうに過ぎるほど強かったBig Synthetic Empireそのものの暴虐行為です。

 そのことを考えれば、Big Synthetic Empireがあの時、大宇宙戦争で完膚かんぷなきまでに負けていてよかった。というのが私の正直な感想です。

 もしも、あの時、Big Synthetic Empire率いる銀河枢軸群が大宇宙戦争に勝利していたのなら、この宇宙はSpace Synthesis Systemがそうしたいと願うように、誰も彼もがたったひとつにたばねてまとめられて右を向かされ、真空よりも息苦しく何も言葉を発せられない世界になっていたのではないかと私は思うのです。

 そんな古い戦争の時代に流れた曲には、歌詞など存在しなくても、いわれというものがつきまといます。

 あの曲の名は、Buzz Suckerノ夜行。

 大宇宙戦争のただなかで、様々な星々が銀河枢軸群によって次々に侵攻され占領されていく中、銀河連合群に加入することもなく、最後まで単独で銀河枢軸群に反抗し続け、最後までBig Synthetic Empireに屈しなかった唯一の星があった。その星の名はスカイ・カイト。Big Synthetic Empireが、たったひとつの星を落とせなかった。反逆者スカイ・カイト星が、あらゆる侵略に対して反抗の意志を表明するために、ことあるごとに流し人々をふるいたたせていた曲。

 それがあの曲、Buzz Suckerノ夜行。

 私達がSpace Synthesis Systemに艦隊斉射を受けるきっかけになった、あの曲なのです。

 私はSpace Synthesis Systemの今回の侵害行為に対して、言葉なき音楽でもって不屈ふくつの意志を伝えたつもりでした。しかし、それが事実上開戦のきっかけを与えてしまったことに、後悔と疑問の念にいま包まれているのです。



「よぉーくわかったぜ」

 ジャーデン・サベージ星の苦いお茶をぐびりと飲み干し、アークはうなづいた。

「曲のいわれはわかりましたけど、かつての戦争でどうしても屈しなかった星が流していた曲をかけたくらいで、いきなり撃ってくるなんて……」

 AXEが信じられないという表情で言う。

「シンセティック・ストリームのケツの穴は、光さえ脱出できないブラックホールの中心で、驚異的な重力に圧縮されまくった事象じしょうの地平線なクソよりもはるかにちいせえ。そういうことを考えると、過去の気に食わない歴史を思い起こさせる曲を流すだけで、神経がおっって逆向きに立ち上がり、いきりたち過ぎて早々にタマをドビャンと出しちまうってのは、よぉーく理解できるって俺は思うぜ」

 アークの言葉に、またもあっというま飲み干されたお茶をいれにきた、ヘイガーのまゆがピクピクと動く。

「シンセティック・ストリームはとにかく腐ったクソみたいな組織です。そして腐ったクソみたいな組織を批判する者は、弾圧され制圧され統制されて、くさいくさいと言う声すら封じられています。そんな声なき世界は、言葉を話せないクソが重力にひかれるままに転がり落ちるように、クソめへと沈んでいきます。何もかもをひとつにして、頭数だけは多いけれども、その実、トップの頭はすっからかんの組織は、やることなすことすべてが異次元の腐り具合の、岸Guy野郎なアホウダロウのケツの穴と判断します」

 ミーマが冷静かつ冷酷で酷薄な状況判断を披露する。

「つまり、あり得る。私も同意ですね。シンセティック・ストリームの税率も経理処理も使い道も、あんな不正はありえない。何もかもを中抜きしてピンハネして裏金に、という法外を通り越した無茶苦茶な不正です。私がシンセティック・ストリームの住人なら、とっくの昔にみぐるみはがされるどころではとどまらず、すべての羽を抜かれて、皮を剥がれてお尻の穴から串を刺されてこんがり焼いて食われている。自身の勢力圏内の住人にさえ、そういうことを平気でするのがシンセティック・ストリームです。たかが過去の気に食わない歴史を思い起こす曲をかけただけで、いきり立ち将来性も予算的にもありえない軍事的行動に出ることは、容易よういに想像ができます」

 タッヤが銀河イチ省エネルギーな計算機、バンソロをぱちぱちするかのように分析。

「シンセティック・ストリームってのは、公共博打とサンテン方式がバンバンの、それこそイカれたカジノみたいなところだからなぁ」

 いままでさんざんシンセティック・ストリームを博徒ばくととして渡り歩いた、博打打ばくちうちにしてビジネスパーソンかつ呑兵衛のんべえのコタヌーンが納得なっとく

「シンセティック・ストリームのカジノで身ぐるみがされた住人を数々みてきた私としては、対外的にイカレた博打に打って出るのはわからなくもないことなのかもしれません」

 とは呑兵衛ではないし、博徒でもないオクタヌーン。

「とにかく、いいシンセティック・ストリームってのは、バラバラに分解されてダークマターにかえったシンセティック・ストリームだけだってことだけなのは確かだよ!」

 サディが言い切り、デザートのマカロッソを口に放りこみもぐもぐする。

 サディの言葉に激しく同意したのか

「くそが!」

 と、力強くネガは毒づく。



 シュライザーローズは腹をかかえて笑っていた。

 ヘイガーは眉をピクピクさせ、手を震わせて、なんとかアークにおかわりのお茶を注ごうとがんばったが、ついにお茶の入ったポッドをテーブルに置いて笑った。

 サディの皿に追加のマカロッソを置こうとしていたクートゥは

「君は心の底から正直なんだね」

 とサディに笑いながら言った。

 お口いっぱいにマカロッソをほおばって、ふくらんだほほをぽっと色づかせて、サディはごっくんとマカロッソを飲み込んだ。

 そんな晩餐会の夜に……

「ピンポンパンポーン」

 無味乾燥むみかんそうきわまりない謎のチャイムが鳴り響く。

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