マノア・ド・ラヴィで夕食を
マノア・ド・ラヴィで夕食を
「晩餐会のご用意ができました。シュライザーローズもお待ちです」
再び部屋にやってきたクートゥは、例の優雅な礼をしてそう言った。
「おお、そいつはありがたい」
アークがずーっと飲んでいる、しびれるように苦いお茶を飲み干して席を立つ。
「お魚。お魚〜。貝。貝〜」
来るときにみた感じでは、この星には豊かな海がめっちゃある。それはつまり、豊かな魚介類が食べれるということだ。サディがるんるん気分で漆黒と真紅の和服を揺らして晩餐会へと向かう。
「いったいどんな料理なのかなぁ」
コタヌーンはるんるんで歩くサディの背中をみつめながら、そう言った。
クートゥに通された晩餐会の場は、これまた趣のあるアンティークなシャンデリアが頭上に輝く、古き洋館の一室だった。
ゆったりとした純白のローブに褐色の身を包んだシュライザーローズが、海賊放送船一同を迎える。
「シュライザーローズの晩餐会へようこそ。この星のお料理が、お茶と同じくお口にあうといいのですが」
シュライザーローズの優雅な礼に、海賊放送船一同は独特の敬礼で応える。
その後、アークは
「うーむ。こういう場所だと、どうしていいかわからんな」
という表情ながら、どかりと席に腰をおろした。
全員が席に着くと、ヘイガーとクートゥが盆を持って現れ、ひとりひとりの前に料理を置いた。
アークの目の前に置かれたのは、たった一杯のスープ。
むむむ?
アークは思った。
これだけなのか……。と。
むむむむ?
サディは思った。
具がないとは……。と。
ですよね。
AXEは普通に思った。
コース料理ですね。と。
わーお。
ミーマは思った。
こーゆーの期待してたの。と。
むむむむむ?
タッヤは思った。
くちばしにこれは難易度激高いのでは? と。
おー。
コタヌーンは思った。
高級ってやつですなぁ。と。
あー。
オクタヌーンは思った。
これはお高そう。と。
くそが……
ネガは思った。
ガスマスクしたまま食うのはめんどくせえな。と。
料理がこれしかないとは……。という絶望の表情でアークはスープをちびちび飲み。サディは具がないのは残念だと思いながらも、ため息を押し殺し。タッヤはスープスプーンをうまく操りくちばし問題を解決し、その他の面々はスープを普通に楽しんだ。
次に出てきた料理は生野菜の皿で、アークはほっとしたのだが、それにはちいとも手をつけず、クートゥが野菜は苦手なのかとさげようとすると
「そいつはとっておいて、最後に食いたいんだ」
とアークが謎のわがままを言って、ヘイガーとクートゥを困惑させた。
そんなことがありつつ料理は進み、アークの席にだけいつまでも生野菜の皿だけが残り、生野菜以外、出てくる料理出てくる料理、火が通っていることに表情がくもりだしたサディが若干しょんぼりしつつも、晩餐会の会話は進み、シュライザーローズのかろやかな声が時にはクスクスころころと笑い声をあげた。
上品ながらどこかに野趣が残る様々な料理が野蛮生命体達に食べ尽くされて、食後に甘苦い不思議なスイーツが出された頃……
ようやく生野菜を口にしたアークがもしゃもしゃしつつ、シュライザーローズにこう言った。
「実はあなたに、かなり聞きたいことがある」
シュライザーローズの紫の瞳を、アークがじっとみつめて言う。
「いったいどんなことでしょう?」
シュライザーローズは、アークの瞳を紫の瞳でまっすぐに見つめ返してそう言った。
「あなたが放送で最後に流した曲。あの曲について聞きたいのさ。Space Synthesis Systemのク……。失礼。アホンダラーの能無し野郎どもが、あなたを撃ちだしたのは、明らかにあの曲が発端だった。俺はそう思っている。あなたはどうお考えだろうか?」
「あの曲については……。私としても不用意な面があったのかもしれません」
シュライザーローズはそう言って、紫の瞳を伏し目がちに視線をティーカップに落とす。
「不用意だった? 通常、曲を流すことに不用意も何もないと思うが? 特に、あの曲には歌詞も何もない。政治的なメッセージも、反抗的なメッセージも、聞く限りではあの曲には存在していない。そんな曲を流すことがなぜ不用意だと?」
「確かにあの曲には、言葉は存在しません。ですが、あの曲は明確なメッセージを持っているのです」
シュライザーローズは紫の瞳を再び、アークの瞳に合わせてそう言った。




