白き薔薇と白き骨。今宵は大宇宙の小さな席で
白き薔薇と白き骨。今宵は大宇宙の小さな席で
「本当によろしいのですか?」
ヘイガーはエアロックの前に立って言った。
「相手は海賊ですよ?」
クートゥはまだ開かれぬエアロックを前に言った。
「海賊だとしても、見ず知らずの船のために、Space Synthesis System艦隊斉射に割って入ってくるような者達に、会ってみたいとは思いませんか?」
シュライザーローズは言った。
「しかし……。海賊というのは……」
ヘイガーがためらう。
「いざとなれば、僕がやります」
クートゥが腰の剣に手をかける。
「いざなれば。そんな瞬間はもう、とっくの昔に過ぎていますよ」
シュライザーローズは笑う。
エアロックのランプが赤から緑に変わり、内部が常圧の呼吸可能な気圧になったことを示す。そして、エアロックがゆっくりと開きはじめる。
開かれたエアロックの先に立っていたのは、巨大な金属の巨人だった。
4銀河標準メートルほどの、両の手に巨大な鉤爪を持つ緑の巨人。そして、背中に巨大な蛮刀と思われるものを背負った蒼い巨人。六本の銃身を束ねた重機関銃を左肩に備える紅き巨人。合計三体が、エアロックの中に立っていた。
「なんと!」
ヘイガーとクートゥは驚愕した。この体格差では、いざとなればどうとか言う話ではない。
「おお! あなたがたは、なかなかに巨大ですね!」
絶句するヘイガーとクートゥ。それを意にかえさずシュライザーローズは純白のローブを揺らしつつ巨人達に手をふる。
だが、三体の巨人は何も言わなかった。
「いや、こちっだ」
巨人の足元から声がする。
「あら?」
シュライザーローズが紫の瞳を巨人の足もとにうつすと……
そこには1.7銀河標準メートルほどもある一羽の鳥と、濃紺のミリタリージャケット姿の男と、銀髪と赤い瞳に漆黒と真紅の薔薇柄和服姿をした少女が立っていた。
「おまねきにあずかり光栄です。海賊放送船イービル・トゥルース号。その予算管理と経理を担当しているタッヤです」
ビシリ! と羽で敬礼のボーズをとる巨大鳥。
「おまねきにあずかり光栄だ。海賊放送船イービル・トゥルース号。船長が席から離れようとしないので、代理代行ということでやってきた、無免許もぐりの航海士、アーク・マーカイザックだ」
濃紺のミリタリージャケットの男が、片手で作った拳銃を天に向ける奇妙な敬礼をする。
「お、おまねきにあずかり、こ、光栄です。海賊放送船イービル・トゥルース号。せ……、せ……、戦闘要員のサディですー」
なぜか頬をほんのり染めながら、片手で作る拳銃を天に向ける和服姿の少女。
それはなんとも奇妙な三人組だった。服装バラバラ (一羽については全裸なのだろうか?)、種族もバラバラ。さすが海賊、と言っていい、自由な風をまとった三人組だった。
「か、かわいい……」
敬礼ポーズをとる1.7銀河標準メートルの巨大な鳥に、シュライザーローズの声が思わずもれる。
「か、かわいい……ですか?」
タッヤの身と心が、シュライザーローズローズの言葉にぐらりと揺れる。
「お茶でございます」
ヘイガーの優雅な動作で、金字で白薔薇が描かれたティーカップが、大宇宙の小さなテーブルに並べられていく。
「お茶請けでございます」
クートゥーがキレッキレッの動作で、お茶菓子を大宇宙の小さなテーブルに並べていく。
「わ、わ、わ、惑星だ!」
銀髪に赤い瞳の少女が、並べられた惑星のようなお茶菓子に目をまるくする。
「マカロッソ。というお菓子で、本船所属星の名産でございます」
黒髪と黒い瞳に褐色の肌をもつクートゥが、銀髪に赤い瞳の少女に説明。真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳が右に左にぐらぐら動いて、少女の頬がぽっと赤くなる。
「お茶にお菓子までとは、ありがたき」
濃紺のミリタリージャケットの男が頭をたれる。
「絶体絶命の危機を救っていただいたのに、この程度の歓待で申し訳ない。お茶は母星では一般的なハーブティでございます。お口にあうといいのですが」
ヘイガーは着席し、ビシリと背筋をのばして言った。
「それでは改めまして、絶体絶命の危機を救っていただいたお礼を」
シュライザーローズ、ヘイガー、クートゥが席を立ち、優雅な礼をした。




