クソ邪魔なマジで不都合な存在
クソ邪魔なマジで不都合な存在
「射線上障害物への第2斉射! 行使! 排除せよ!」
3秒たっても6秒たっても、12秒待っても24秒待っても、いっこうに射線からどかないクソ邪魔で不都合な小惑星に対して、2回目の艦隊斉射が行使される!
秒速29万9792銀河標準キロメートルの速度で襲いかかる幾多の光弾が、崩壊しつつある小惑星に炸裂!
凄まじい閃光がメインモニタを染める!
「政治的公平性を回復できたか!?」
閃光が消えゆくモニタを、ツァオミャオがにらみつける。
シュライザーローズに逃走されてしまったら、この事態を収拾するには、自分自身の手でもってこの銀河を完全平定するしかない。
いまや自分の政治的かつ社会的生命が、この積極的平和力行使の結果にかかっていることに、ツァオミャオの背筋が凍る。
その結果は、レーダー担当のアベガスキー2311にはすでにわかっていた。だが、政治的に公平な両論併記するべき、好材料が一切なかった。だから、ただのイチ権畜である、アベガスキー2311は現実を告げることなく、ただ沈黙を守り続けた。
爆散する小惑星の塵芥が生み出すもやが薄れ、そこにはまだ射程にとらえているはずの白薔薇のつぼみがあるはずだった。
だがしかし……そこに現れたのは……
巨大なドクロだった。
星の海に浮かぶ、巨大なドクロだった。
「これは……」
呆然とする戦闘指揮所のモニターにノイズが走り、濃紺へと染めあげられていく。
「RADIO・EVIL TRUTH! NOW!! ON!!! AIR!!!!」
赤い文字と濃紺を背にしたドクロマークが、キシガ・イフミーオの装飾過度なドブラックな壺鉤十字を掲げるモニターに表示される!
おうおうおうおう。どこかの銀河のはずれ、自分のものでもない宙域で、ずいぶんと好き勝手やるじゃねえか。
俺はそういうのは得意なほうで、実はまったくもって嫌いじゃない。むしろ殴れるのならば、スカッとする奴だったりもする。さらに俺の横では、2回も先に撃たれたんだ、これはもう思う存分殺していいぞと、胸を動悸動悸させている素敵な砲手もイロイロ限界。そういうわけで、あんたが好き勝手にするように、俺も好き勝手にあんたに喧嘩を売りにきたわけだ。
ところがドクロの背中には、とっても可憐な白薔薇のつぼみさんもいるわけで……。
まだ一度もお目にかからず、サシでお話したことすらないが、俺は素晴らしい言葉を口にするこの女性によくしてやりたい。
痛いッ! おい……。いまのはなんだ!? どうして俺を蹴った?
(しばし、もみあい争う物音と、女性の荒らげた声)
なにがなんだかまったくもってわからんが、放送中だぞ! とにかく後にしろって!
(急速に遠ざかっていく、女性の荒らげた声)
……失礼。ナマ放送ゆえに、想定外の事態が起きるのはご愛嬌。まあ、つまりは、こっちの話だ。
白薔薇の君は、口にされる言葉のステキさから察するに、荒ごとがお嫌いと俺は思ったりするわけだ。
そういうわけで、今回は異次元の大奉仕ってやつをしてやるよ。
最初の2斉射は特別大目玉にみてやって、船ではなく宇宙空間を漂うモブオブジェクト、つまりは小惑星に向かって放ったということにしてやろう。流星がごとく流してやる。つまり、なかったことにしてやっていい。
どうだ? 俺はやさしいだろう?
よーく聞けよ。ここで引け。
ここで引くなら、とりあえずのところ、俺はなかったことにしてやっていい。
白薔薇の君についてはわからねえが、俺のところではなかったことにしてやっていい。
大事なことだからもう一回言うぞ。
ここで引け。
カピシ?
「ウテウテウテウテウテウテウテェェェェェェ!!!」
下着度200%な設定上アンダースコートをこれでもかと丸出しながら、中枢神経細胞までがあまあまにされて、グニャグニャクタクタのやたら日持ちのいい砂糖漬け果実にされそうな、モエモエボイスが叫ぶ叫ぶ!
「あんなレトロな未来感の、いまどき艦橋がそびえたつ非合理極まるデザインのポンコツ海賊船ごとき、いますぐ排除して政治的公平性を回復しなさい! 艦隊斉射!」
もはやこの事変に政治的かつ社会的かつ生物学的な生命を賭けてしまったことにいたった、ツァオミャオの迷走する思考が選んだ迷断が、即断即決で炸裂する!
壺にエネルギーを注ぎ込み終えた、艦隊規模の大自由神民主主義銀河神民統一砲が一斉に赤黒い閃光を放ち、星の海に浮かぶドクロへと秒速29万9792銀河標準キロメートルの速度で襲いかかり、星の海を閃光で満たして真っ白い闇へと変える!
だが、華美な戦闘指揮所のモニターには、濃紺を背にしたドクロマークが表示され続けた。
何事もなかったように、星の海にドクロは浮かび続けた。
「度重なる斉射によって、ジェネレーターの過熱が限界領域に近づきつつあります。次の斉射まで、通常の倍の時間が必要となります」
ヤヴァイ状況に耐えきれなくなったキシダイスキー1131の、政治的公平性の不在を指摘されうる、不都合な真実が告げられる。
「こ……、こんな政治的公平性に欠ける事態が……」
ツァオミャオの口から言葉が漏れる。




