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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第四部・白薔薇の君

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積極的平和力行使と本物の戦争

積極的平和力行使と本物の戦争

 


 星の海を宇宙最速の速度で切り裂く、赤黒い閃光達!

 極大威力のエネルギー兵器が逆位相ぎゃくいそうのエネルギー領域と衝突しょうとつたがいのエネルギーが相殺消滅そうさいしょうめつする際に発生する、電磁的衝撃波でんじてきしょうげきはが船体と干渉かんしょうして生まれる、雷鳴のような轟音ごうおんが戦時閉鎖された指揮所に満ちる。

 木材によって構成された内装、質素しっそながら気品をただよわせるふるき洋館のような調度品ちょうどひんが、船体を震わす雷鳴に揺れている。

「第3斉射直撃。ZONE使用率現在37%。船体温度上昇中。本船のZONEを持ってしても、艦隊規模の斉射せいしゃにどこまで耐えられるか……」

 金線きんせんで描かれた薔薇紋章入ばらもんしょういりの黒革執事服姿くろかわしつじふくすがたの白髪男性が褐色かっしょくひたいに汗を浮かべ、黒鉄くろがねの機械達がメタルプレートで数字を表示して告げる、残酷ざんこくな現実を報告する。

「無警告での艦隊艦砲斉射! これが専守自衛せんしゅじえい信条しんじょうとするSystem Self-Defense Force SSFをようするSpace Synthesis Systemがすることなのですか!」

 公開チャンネル通信と船体発光信号、そして99.9銀河標準メガヘルツのラジオ放送すべてを使い、Space Synthesis Systemに対して応答を求めるシュライザーローズの絶叫が指揮所に響きわたる。

「応答……。ありません」

 戦時閉鎖されたふるき洋館を思わせる指揮所は、沈黙ちんもくに包まれる。

「シュライザーローズ様……。この船は、非武装ではござません」

 黒鉄製くろがねせいの機械式装置の重厚じゅうこうな金属レバーに手をかけながら、薔薇紋章入ばらもんしょういりの黒革執事服姿の白髪男性が口にする。



「ウテウテウテウテウテウテウテェェェェ!!」

 事実上完全に下着なアンダースコートをこれでもかとみせつけながら、腎臓じんぞうまでが砂糖漬さとうづけになりそうな、モエモエボイスが残酷な命令を甘ったるく連呼れんこする。

 純白と鮮烈せんれつなる赤にいろどられ、ドブラックな壺鉤十字つぼかぎじゅうじかかげられた華美かびな装飾まみれの戦闘指揮所で、大自民統一教会党所属、総合任務担当大臣、ハイワン・ツァオミャオは耳をふさぎたくなっていた。

 どうしてSystem Schutzstaffelの人工知能は、どいつもこいつも耳が病気になりそうな甘々モエモエボイスなのか?

 どうして200%下着丸出しでしかありえないものが、設定上は性的要素のないアンダースコートであって、人工知能は一切の恥じらいを搭載とうさいせずに、それをバンバンこれでもかとみせつけてくるのか? それでもってなんでまた、アンダースコート設定の下着がよーくみえるように、高い位置に立たせてあって、それを私はローアングルから見上げているのか? 

 ツァオミャオの気分がどんどん悪くなっていく。

 目の前では、System Schutzstaffel 主力森羅万象宇宙戦艦キシガ・イフミーオ搭載、大自由神民主主義銀河神民統一砲四連装八基三十二門から放たれる光弾と僚艦からの光弾が収束しゅうそくし赤黒い濁流だくりゅうとなって、星の海に浮遊する白きつぼみを直撃する映像がまたたく。

 それにはもっともっともっと気分が悪くなる。

 積極的平和力行使せっきょくてきへいわりょくこうしとは、こんなにも恐ろしいものなのかと、自分自身の骨身ほねみに知らしめるに充分な、本物の戦争だった。

「これでは……。もう後に引くことはできない……」

 炸裂さくれつする極大威力のビーム兵器が、アンチ・エネルギー・シールドによって相殺そうさいされる際に発生する電磁的衝撃波によって生まれる閃光せんこう。赤黒い光弾がらす不気味な光が、いままで肌身はだみ骨身ほねみに感じたことのない、現実の暴虐ぼうぎゃくと暴力をまざまざとみせつけ心に染み込んでくる。

 ツァオミャオの中で何かがうごめく。

 これが本物の積極的平和力行使なのか……。

 そして私はただそれを、命令として実行しているに過ぎない。

 Space Synthesis System中枢閣が森羅万象全知全能絶対無謬(しんらばんしょうぜんちぜんのうぜったいむびゅう)の総統陛下代理そうとうへいかだいりとして認定にんていした、モエモエボイスの下着丸出しメガネっ娘人工知能の命令に従って……

 こんなことをして、ただで済むはずがない。

 これを失敗したら、私は組織的に死ぬだろう。いいや、知的生命体道的に死ぬことすら考えられる。

 それは誰にだってわかること。だから……

 ツァオミャオの中で冷たい金属のようなものが動き、何かを明確に切り替わるのがわかった。

「殺るとなったら平定する。平定しきれなければ、この光景は怪文書かいぶんしょとなって様々な銀河に出回るでしょう。我々の正当性はすべて瓦解がかいする可能性が考えられる。徹底的に積極的に平和力を行使し、すべてを平定なさい!」

 あらゆることに対して両論併記りょうろんへいきであることを自ら忖度そんたくし、誰一人何一つ自分の意志を発言することのない権畜達けんちくたち。静まり返った華美な戦闘指揮所に、ツァオミャオの高らかな声だけが響き渡る。


 

 古き洋館を思わせる指揮所が、電磁的衝撃が生み出す雷鳴に揺れる。 

「ZONE使用率78%……。船体温度いちじるしく上昇中。次の斉射、もちこたえられません……」

 金線で描かれた薔薇紋章入りの黒革執事服姿の白髪男性が、残酷な現実を告げる。

「戦闘を提案します!」

 同じく金線薔薇紋章入り黒革スーツ姿の者が立ちあがり、その端正たんせいな顔に光る黒い瞳でシュライザーローズの瞳をみつめる。

一矢報いっしむくいたい。ということですか」

 シュライザーローズは、自分をみつめてくる黒い瞳を、紫の瞳でまっすぐにみつめ返してそう言った。

「これではただの犬死いぬじにです。シュライザーローズ号は非武装船ではありません。このままでは次の斉射でZONEがやぶられることはわかりきっています。本船のZONE維持には、すべてのジェネレーター出力を投じていますが、次の斉射ではそれも無意味です。だとしたら、一撃でいい、艦砲射撃にて一矢報いるべきと判断します」

「クートゥ。一矢報いることこそが、私達の行為をすべて無駄にするのです」

 クートゥの燃える黒い瞳を、自身の紫の瞳でまっすぐにみつめ返して、シュライザーローズはそう言った。

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