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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第四部・白薔薇の君

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緊迫情勢

緊迫情勢



「こいつは、情勢じょうせいが悪いな」

 アークが厳しい表情で言った。

「くそが!」

 隣のネガは毒づく。

 シンセティック・ストリーム勢力圏のひとつ手前の銀河、いまだ独立を維持するサウザンアライランズ銀河に来て3日。イービル・トゥルース号はこの銀河を航行し、情報収集を行っていた。

「やはり、System Schutzstaffel艦ばかりですね」

 AXEが三日間かけて集めたレーダーログから、艦影データをつぎつぎ照合しつつ言った。

「シンセティック・ストリーム勢力圏内につながるグラジ・ゲート付近をしれっと航行してみれば、本来どんな船でも利用できるように開放しておくべきグラジ・ゲート付近を、SS艦が囲んでやがる」

 アークが舌打ちをする。

「これはつまり……」

 ぎりり、と歯をむいてサディがうなった。

「とっくの昔に牽制けんせいの範囲を飛び越えた、度をこした威圧行為いあつこういです。あるいは、言葉なき宣戦布告」

 ミーマがけわしい表情でさらに続ける。

「通常、シンセティック・ストリームは建前たてまえだけではありますが、System Self-Defense Force SSFを前面に立てます。いわゆる積極的平和力という欺瞞行為ぎまんこういですが、今回は、Space Synthesis System中枢閣議の私兵、System Schutzstaffelがモロに出張ってきている。これはもう侵略意志があると明確に表明、もはや宣戦布告同然の暴挙的暴虐行為ぼうきょてきぼうぎゃくこういです。Space Synthesis Systemは長らく、明確な侵略行為を行うことなく、複数銀河をじわじわ統合して生み出された圧倒的な同調圧力によって、体内に巣食すく悪性新生物あくせいしんせいぶつ近隣組織きんりんしそしき浸潤しんじゅんするように、次々に手近な銀河を飲み込んできた。それがこんなにも明確な侵略行為に出るというのは……」

 ミーマが首をふる。

「いったい何があった? 俺達はモッキンバード星の海に沈み。モッキンバード領宙域で爆散し、公式記録上は完全に死体だ。タダ・サバイバー銀河に消えて消息不明となった船は、どうせ三番艦とか呼ばれているはずで、三番艦は目立ったおいたをしていない。たかがシンセティック・ストリームのお気に召さない歌詞もない音楽をかけただけで、奴等は発狂するほどアホなのか?」

「あの……、ついこのあいだ一隻、宇宙の墓場に送り込んでいますけど……」

 AXEがアークの言葉に追加情報を叩き込む。

「あれは、キャプテン・パンダと愉快な仲間達号の撃墜げきついマークになるんじゃね?」

 アークがすっとぼけたことを言う。

「あいつらは今頃、宇宙の果ての墓場で端微塵ぱみじんのカスとなって、フリーズドライミートのめでおやすみなさい。寄せて集めてお湯をかけて10億銀河標準年待っても、もう元には戻らない。あの宙域にシンセティック・ストリームの艦は他にいなかった。ということは、グラジ・ゲートの向こうに通信が届かないのだから、奴等が誰にやられたかなんて誰一人わかりゃしない。宇宙ではよくある、宇宙の神秘にとらえられて遭難行方不明扱そうなんゆくえふめいあつかいってのが通常。つまり、あたし達があの艦を沈めたという事実は、シンセティック・ストリームの阿呆あほうタロウのアスホール駄郎の頭にはありゃしないよ」

 さらにデンジャラスな追加情報を、通常の三倍以上に危険なサディがブチ込んでくる。

「シンセティック・ストリームは、正気なのかと疑うくらいにゼニーの使い方が異常です。あんな税率も経理も処理も、何より使いみちがありえない。そのことを考えれば、シンセティック・ストリームが正気ではないと言っていいと私は考えます。ゼニーの使い方がおかしければ、保持ほじしている武力の使い方がおかしいのもうなづける。計算も何もできない頭なのでしょうから、計算外の意味不明理解不能の暴挙に出るのはあり得ると思います」

 タッヤが神がかりの予算管理者として、シンセティック・ストリームに冷たいくちばしを叩き込む。

「いずれにしても、本船にとっては想定外の事態ですね。この船はいざとなったらドンパチできる。ですが、実際にドンパチするかは別の問題。そうですよね?」

 AXEがレーダー盤をでながら言う。

「ドンパチしちゃうと、博打バクチと酒どころではないですなぁ」

 とは艦橋にきているコタヌーン。

「ドンパチすると、機関副長としてはエンジンの寿命がもつか見当がつきません。もっとも通常航行でもありえない出力なんですけど……」

 とはオクタヌーン。

「センソウガオッパジマルト、ロボットノジンケンハドウナルノダ」

 とはイクト・ジュウゾウ。

「もちろん、ドンパチ前提ぜんていってわけじゃねえよ。この船は海賊放送船であって、海賊放送というシノギをやりにきたわけであって……」

 アークが話だした時、艦橋のモニターが点滅。画面に、

「RADIO・Schraiser Rose NOW on AIR」

 の表示と、一輪の白バラが現れる。

「どこかで放送がはじまったぞ。この状況について、きっと何かを話すはずだ」

 アークの言葉を最後に、艦橋での会話が止まる。

 アコースティックギターのんだ音色のアルペジオが、アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋に流れ出す。

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