RADIO・EVIL TRUTH NOW ON AIR
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「俺は魚のエサになっちゃいないし、Space synthesis systemの発表がいつも正しいわけじゃない。空は降ってこないけれど、ある日、都市の上空からアークは降ってくる。こちらはナイン・シックス・ポイント・ナイン、96.9銀河標準メガヘルツ、RADIO・イービル・トゥルース。この宇宙に無数にまたたく様々な銀河を、たったひとつの価値観に凝り固まらせようとする、Space synthesis systemと言う名の濁流どもを、俺はシンセティック・ストリームと呼び、それに俺は異議をぶちあげ続ける。この宇宙にごまんとある、Space synthesis system外の音楽と言葉を俺はこの星に届けにきた! リクエストはどんなSNSでもかまわない。アークの海賊放送のタグをつけて流してくれ。俺は必ずそれを見ている。それでは、次の俺の登場まで、銀河の果てからきた音楽を楽しんでくれ。いまだシンセティック・ストリームに合流しない銀河の果て、デスメタル星系からやってきた音楽だ!」
アークはヘッドセットマイクのスイッチを切ると、操作盤のボタンを叩く。
この世の地獄で鳴っているんじゃないかと思われる音楽が、水深100メートルを潜水航行するイービル・トゥルース号からケーブルを伝わり海上ブイに届き、海上ブイから空を浮遊するバルーンステーションへと暗号化されて伝達される。この星の様々な場所に散ったバルーンステーションは、イービル・トゥルース号から届くデータをナイン・シックス・ポイント・ナイン96.9銀河標準メガヘルツにのせて、空中へ海賊放送をまきちらす。Space synthesis systemの電波法と放送法、その他あらゆる権力の都合をすべてぶっちぎって、アークの海賊放送は、空を飛んで海を越えてあらゆる都市の上空を通過して、君のもとへ飛んでいく。
「おつアーク」
未来みたいに真っ黒いコーヒーを、アークにさし出してミーマが言う。
「おお。ナイコーヒー。マジで助かる」
アークはミーマからコーヒーを受け取ると、砂糖もミルクもいれずそのままコーヒーを飲む。
「毎度ながら、それ、よく飲めるね」
サディが横で眉を寄せて言った。
「俺はとにかく、なにかにつけて鈍感だからな」
そう言ってアークが、はっはっはっと笑いながらコーヒーをさらに飲む。
「それにしても、最初の一曲がデスメタル星系の音楽というのは、過激過ぎるのでは?」
タッヤが放送モニタ用のヘッドセットを外して、それでもうるさいですね、という表情を浮かべて言った。
「いやいや、こーゆーのはとにかく最初のインパクトだって。一見平和な都市への急降下と主砲発射。SSFに沈められたと思った船が、幽霊なのかTVまでジャックして海賊放送をおっぱじめる。そんでもって、デスメタル星系の過激極まる雄叫びを聞いたら……」
「クソが……」
アークの真横でイービル・トゥルース号を操船しながら、ネガはつぶやく。
「この衝撃は生涯忘れられないだろうぜ」
アークはネガを無視して言いきった。
「ネットがすごいことになってます。ツブヤイター、インデスグラム、マズストドン、論破され王ぴろゆきちゃん寝る、私達に関することばっかりです。ポジティブなものもありますし、ネガティブなものばっかりでもある。ですが、リブツブツもヤヴァイネも万単位で伸びてます」
AXEが海底ケーブルから傍受した、ネットワークトラフィックを確認しながら言った。
「クソが……」
真横でつぶやきながら操船するネガを、アークは再び無視。
「な? やっぱり最初の一撃よ。一発でブッ倒す衝撃がなかったら、この燃え上がりはなかったってことよ」
アークはそう言って、はっはっはっとまた笑う。
「ドマジキチのドぐされ外道がァァァァァっ!」
ビッグウエスト海洋の上空を飛ぶSystem Self-Defense Force SSF支援要撃隊の無線に、またも放送に暴言をのせたということでこってり絞られたヘル・ツゲルの罵声が入り続ける。
「海賊放送電波の発信源はわかっています。隊長、まずは落ち着いてください」
部下の声もむなしく、無線はヘル・ツゲルの罵声と暴言と呪詛に満ち続け、SSF支援要撃隊は海賊放送電波の発信源へ向かって、音速を突破して飛んでいく。




