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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第三部・キャプテンパンダと愉快な仲間達号の冒険

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さらば、キャプテン・パンダと愉快な仲間達号

さらば、キャプテン・パンダと愉快な仲間達号




 銀河臣民達ぎんがしんみん血税けつぜい上級銀河神民じょうきゅうぎんがしんみん湯水ゆみずのように使ってつくりあげた、装飾華美そうしょくかびな宇宙戦艦は今やただのスクラップと成り果てた。無惨むざんに破壊され、宇宙空間をただよう艦からは、救難信号きゅうなんしんごうすら発信されてはいなかった。

「System Schutzstaffelどもは、最後までSystem Schutzstaffelとして、艦と一緒に死ぬそうだ」

 イービル・トゥルース号に戻ったアークは、めいいっぱい倒したシートに寝っ転がってそう言った。

 つまりは艦と運命をともにするという、ふるき良き無意味な伝統に全乗組員がしたがうということらしい。

 猫の形をしたふわふわの尻尾を持って、久しぶりに使った武器管制盤をでているサディは、特に何も言わなかった。

「最後の呼びかけをおこないましょう」

 タッヤがアークの言葉を無視して、AXEに視線を投げる。

「公開チャンネルで救護要請きゅうごようせいの意志を確認します」

 AXEが公開チャンネルを開く。

「えーと……」

 ヘッドセットマイクのスイッチをいれもしないアークに、ミーマがとまどいながら自身のヘッドセットマイクのスイッチを入れて話はじめる。

「こちらは、海賊放送船イービル・トゥルース号。戦時航宙法せんじこうちゅうほうしるされた大宇宙知的道義条約だいうちゅうちてきどうぎじょうやくに従い、貴艦に救助要請の有無を問います。我に貴艦を救助する意志あり。貴艦に救助要請の意志はあるか?」

 宇宙空間を漂うねじくれた金属塊となった艦からは、何の応答もなかった。

「繰り返します。こちらは、海賊放送船イービル・トゥルース号。戦時航宙法に記された大宇宙知的道義条約に従い、貴艦に救助要請の有無を問います。我に貴艦を救助する意志あり。貴艦に救助要請の意志はあるか?」

 ミーマの2回目の呼びかけにも何の応答もなし。

「無線設備が死んでいるということは? 発光信号も同時に行います」

 AXEが操作盤を叩く。

「繰り返します。戦時航宙法に記された大宇宙知的道義条約に従って行う最後の呼びかけです。貴艦に救助要請の有無を問います。我に貴艦を救助する意志あり。貴艦に救助要請の意志はあるか?」

 ミーマの呼びかけを発光信号に変換し、イービル・トゥルース号の各所に存在する衝突警告灯しょうとつけいこくとうまたたく。

 公開チャンネルに対する応答なし。スクラップと化した残骸ざんがいからは、光のひとつまたたくこともない。

「なんの応答もないなんて……」

 タッヤが静かに言う。

「本気なんですかね」

 AXEがつぶやき。

「カンチョウダケジャネエンダナ」

 とはイクト・ジュウゾウ。

 そして最後に

「くそがぁ……」

 とネガは毒づいた。

「いいか、これは戦争じゃない。アホウタロウのケツノアナ、アスホール駄郎だろうなSystem Schutzstaffelが胸毛ボーボー暗部の心臓でイキリちらかし、一方的にイチ民間船を一発撃って沈めようとしたら、なぜかやり返されてスコスコにブッ飛ばされたということだ。これは国家対国家の戦争ではない。つまりは戦時航宙法なんか知るかってことだ。だってこれは戦争なんかじゃねえんだからな。好き勝手させてやれ。たとえ生きて帰ったとしても、Space Synthesis System中枢閣から、ブッたまげるくらい高い宇宙戦艦をスクラップにしたって理由で、生きているより辛い責任をなすりつけられて、全員が人とは思えない最後を迎えるだけだ」

 いつになく静かなアークの声を最後に、アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋は静寂せいじゃくに包まれた。

 サディが猫の形をしたフワフワで武器管制盤を撫でるのをやめて、巨大なリヴォルバーカノンを握る。

「もういいよね。アーク?」

 巨大なリヴォルヴァーカノンの引き金に、指をかけたサディが問う。

「やれ。サディ」

 アークは静かにそう言った。

「なにをするつもりなんです!?」

 タッヤの声にアークは答えず、サディは静かに宇宙を漂うスクラップに向けて言う。

「バイバイ。イキリ散らかした責任をとることになったおバカな艦。大宇宙のダークマターへおかえりなさい」

 サディが真っ黒いマニキュアの映えるか細い指で、巨大なリヴォルバーカノンの引き金を引き絞る。

 甲板上に並んだ45口径46銀河標準センチメートル砲三連装砲塔二基が、宇宙空間を漂うじくれ曲がったスクラップに向けて、六列の無慈悲むじひな青い閃光を吐き出す。

 アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋の前面を覆う、ブ厚い硬化テクタイト製窓に青い閃光が満ちる。青い閃光が去った星の海には、もうガラクタのカケラと呼べるほどのものさえ残ってはいなかった。

「なんてことするんですか! なかにはまだ生きている知的生命体だっていたはずです!」

 珍しく冷静さを失ったタッヤが、サディとアークの背中に声を荒げる。

「大宇宙で沈んだ船は、いつかどこかに流れていく。あのまま残しておくと、どこかにあの残骸ざんがいが流れついちまうんだよ。そうなったら、破壊状況から、乗組員が残した言葉から、航海記録から、とにかくいろいろアシがつくんでな。何もわからないようにする必要があるだけだ。他意たいはない」

 アークの言葉に、タッヤが震えだす。

「この船は、海賊放送船じゃないんですかッ!? これじゃあ、降伏せねば皆殺しの宇宙海賊よりひどい! ただの皆殺し戦艦じゃないですか!?」

 タッヤの言葉に、アークがめいいっぱい倒したシートから立ち上がる。

 ゴツ。ゴツ。ゴツ。

 アークの履く鋼鉄芯入こうてつしんいりのブーツの音が、アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋に響く。

 計器類にかこまれたタッヤの席に向かって歩いていくアークを、無言でみつめるAXEとミーマ。

「なあ、タッヤ」

 艦橋左舷側かんきょうさげんがわに存在する計器だらけの世界にアークは立ち、タッヤが座るシートに手をかけて話し出す。


 今からモビルトルーパーGTZに乗って、船の外に出てあたりをちょっと探してこいよ。気が遠くなるようなゆっくとした速度で、宇宙の果てを目指して飛んでいく、カワイイパンダマークが今もくるくる回っているはずだ。パンダーマークの捜索後そうさくごに、この船のケツでも見にいってみれば、宇宙に吹きすさぶ太陽風にたなびくパンダマークの旗まである。

 今はもう違うけれども、ついさっきまでこの船は、偽装ぎそうとは言え一切の武装をしていないタダのイチ民間船、カワイイパンダマークが自慢のキャプテン・パンダと愉快な仲間達号だった。

 確かに偽装ではあったが、キャプテンパンダと愉快な仲間達号は今まで、ただの一発もブッ放してこなかった。まあ、ヤヴァイ取引の時に、地表に降下したキャンディ・アップル・レッドが何発も撃ちはしたが、その時でさえ相手にむかって先に撃ったことはない。理解不能の体当たり攻撃でサディがヤラレちまいそうになった時は、さすがに相手を殺すつもりでサディは撃ったのかもしれないが、どういうわけかあの時は結果的にただの一人も殺してはいない。

 俺たちはいつもいつもイキナリ撃たれる。そのことは仕方がない。なんてったって無許可で空から降ってくるし、権力者様にしてみれば不都合極まる邪悪な真実ってヤツを、権威や権力では制御不能の海賊放送で好き放題話すんだからな。

 そりゃあ、イキナリ撃たれるだろうよ。そのことはよく理解している。だからこの船の最高執行責任者、キャプテン・バンダーロック殿もとにかくズラかれと、いつもいつも大サービスのご英断をくだされるわけだ。

 だがな、今回はどうだった? 俺たちは、イキナリ撃たれるようなことをしたか?

 いいや、していない。偽装とは言え、一切の武装がないタダのイチ民間船が、ぷかりぷかりと星の海を航海していただけだ。追加で言えば、ごくごく一般的な耳ざわりのいい、猫耳少女のラストLIVEをしていただけだ。シンセティック・ストリームの暗部の心臓は、馬鹿でアホウの無能駄郎むのうだろうのケツノアナとか言っていたわけでもない。どういう理由かはまったくもってわからないが、奴らが大変お気に召さない歌詞すらもない曲をかけただけだ。

 それなのに、奴らは撃った。

 いいか、タッヤ。もう一度言うぞ。

 奴らはさしたる理由もなく先に撃った。

 この船がシンセティック・ストリーム勢力圏内ではおたずね者の、海賊放送船イービル・トゥルース号だと、奴らが知っているわけでもなくだ。

 カワイイパンダマークが自慢の、一切武装をしていないイチ民間船を、奴らはなんと撃ちやがったんだ。

 こいつは許されざることだ。権威と権力と暴力の横暴おうぼうだ。そんな蛮行ばんこうを奴らが働いた場所は、どこにも悲鳴が届かない、怖い宇宙の片隅かたすみだったというのが悲劇的に不運だった。

 不運と不幸はいつも突然にやってくる。いつもは大人な態度でずらかってくれるキャプテン・パンダーロック殿の堪忍袋かんにんぶくろがキレた。

 何が起きてもおかしくない、怖い宇宙の片隅かたすみで問答無用で先に撃ったんだ。

 なあ、タッヤ。

 こうなるのは仕方ないとは思わないか?


理屈りくつでは……。そうです……。でも、あまりに……。殺し過ぎです……」

 タッヤはまだ震えながら言う。

「いいか、タッヤ。もしもこの船が、本当にタダのイチ民間船だったらどうなっていた? いまごろ大宇宙のダークマターにかえっていたのは、俺であり、サディであり、AXEであり、ミーマであり、ネガであり、ヌーン夫妻であり、もちろんタッヤ自身もなんだぞ?」

 アークがタッヤに話すことを、誰もが黙って聞いていた。

「そうですけど……。この船はあんなことをしなくたって、どうにでもできる船なんじゃないですか!?」

 タッヤは涙を流しはじめたつぶらな瞳で、アークをにらんでそう言った。

「ロクな考えもなく殺しにくるヤツに、いつもいつも特別大サービスをしてやれるほど、俺たちはシンセティック・ストリームに借りがあるわけじゃない」

 アークは涙を流すタッヤの瞳をみつめてそう言った。

「ぐうう……」

 タッヤはもう何も言わなかった。

 眼の前で起きた残虐非道ざんぎゃくひどうと言っていい現実に、タッヤはただ震えるだけだった。

 アークはタッヤの震える肩に手をそえる。

「ありがとうよ。タッヤ。そういう感覚は、俺とサディにはもうそんなに残っていないのさ。俺とサディにしてみれば、奴らがダークマターにおかえりになられるのは、それはもう当然のむくいってやつだからな。タッヤが思ったことを言ってくれたことが、俺はうれしい。タッヤの意見は正しいよ。言いたいことを言う。それがこの船の流儀ってやつだ。タッヤ、これからもよろしくたのむぞ」

 アークはタッヤの肩から手を離し、自席へと戻っていった。

 涙を浮かべて震えるタッヤと、一部始終を見守っていたAXE、ミーマ、ネガ。

 キャプテン・パンダーロックことパンダ船長は、まっすぐに星の海をみつめて、やはり何も言わなかった。

 珍しく静まり返った艦橋に、

「ぱふぉ」

 といつもの声がする。

「アーク。船長はなんて?」

 サディが武器管制盤を、猫の形をしたふわふわで撫でながら聞く。

「この宙域に用はない。もう行くぞ。船長はそう言った」

 アークが静かにそう告げる。

「くそが……」

 ネガはゆっくりとペダルを踏み込もうとして、ふと足を止めた。

「でも、どこへ?」

 AXEが一言だけ問う。

「売りさばくものはあらかたさばき終わっちゃったし」

 とはミーマ。

 アークがヘッドセットマイクのスイッチをONにする。

「機関長、コタヌーン殿。本船はこれより本宙域を離れ、いま再び海賊放送船として新しい銀河を目指すことになった。珍しく懐はあたたかく、珍しくバチバチにやっちまった後だからな。目的地はここから遠い銀河で、かつ本船の本分でやっていこうやと俺は思う。ということで、奥様と艦橋にきてくれ。どこに向かうか話そうや」

「あー、やっぱりやっちまいましたかぁ。まあ、大事ですから仕方ないなぁ」

 艦橋に響くコタヌーンのいつもの声。

「そうだな。大事だったから仕方ない。それが大人の事情ってやつだ」

 アークはそう言ってヘッドセットマイクのスイッチをOFFにした。

 コタヌーンとオクタヌーンが艦橋の耐圧扉を開けるまで、アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋は、いつにない沈黙へと包まれた。

 ブ厚い硬化テクタイト製窓の先に浮かぶ、かつて宇宙戦艦だったモノは、宇宙にただよちりとなって、果てなき星の海へと消えてく。

 いまひとつの艦の命運が燃え尽きた。そして、残った船もまた以前と同じ船ではなかった。

 船首のカワイイパンダマークは強烈な暴力によってはぎとられ、一片の肉もない不気味なドクロへと変わり果てた。船尾にかわいくはためくパンダ旗は降ろされて、濃紺のうこんを背にしたドクロ旗が大宇宙を吹きすさぶ太陽風に再びたなびくのだろう。

 アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋最奥かんきょうさいおうの艦長席に座る、本日ついに堪忍袋の緒が切れたキャプテン・パンダーロックことパンダ船長は、いま再び静かな思考に入り沈黙している。

 突然の理不尽な暴力の襲来しゅうらいによって、キャプテン・パンダと愉快な仲間達号は無惨むざんな最後をむかえた。

 キャプテン・パンダと愉快な仲間達号の冒険は、こうして最後の幕を降ろしたのだった。

 さらば、キャプテン・パンダと愉快な仲間達号。

 だが、物語は終わりをむかえたわけではない。

 この無限に広がる大宇宙を翔けるのは、ドクロを船首にかかげ、濃紺を背にしたドクロ旗をはためかせる海賊放送船。絶体絶命の財務的破綻の危機から、まさにアンデッドがごとくよみがえった船。

 あらゆる銀河を統一せんとするシンセティック・ストリームに、たった一隻で対抗しうる驚愕驚異きょうがくきょういの宇宙戦艦を、乗組員達は海賊放送船イービル・トゥルース号と呼ぶ。

 イービル・トゥルース号はどこからきたのか?

 イービル・トゥルース号はどこにいくのか?

 イービル・トゥルース号とはなんなのか?

 物語はまだまだ続く。

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