ふたりで浴びる事後のシャワー
ふたりで浴びる事後のシャワー
この船を何回めぐったのかわからない、再利用処理された温水がうみだす豪雨の中に、サディとアークはいた。
「アーク、素敵だったよ」
サディは降り注ぐあたたかい雨の中でそう言った。
「そいつは光栄だ」
アークは降り注ぐあたたかい雨の中でサディに返す。
再利用処理済みの温水がうみだす温かい雨の中で、ふたりはしばし無言でたたずんでいた。数分の時間がゆっくりと流れ、大量に降り注ぐ温水が、ふたりの激しい行為の後にこびりついた残滓を排水溝へと流し去っていく。
ふたりの間にあった今までのいろんなことが、豪雨のように心に飛来しては去っていく。
「アークはね。シンセティック・ストリームから逃げ回るあいだに、いつの間にかおちんたまがちぢみあがって、気がついたらおちんたまがなくなって、度胸までおちんたまと一緒にしぼんで消えてなくなっちゃって、本番の勝負に二度と本気で立てないんじゃないかって思っていたの」
長い沈黙の後にサディが言った。
「そう思われても仕方ない」
アークは返す。
「でもね。今日のアークはあの頃みたいに素敵だった。出会った頃のガチでバチバチだったアークは、ちゃんとまだ生きていたんだね」
サディは言う。
「俺は丸くなったように見えるのかもしれないが、中身はあの頃のままだよ」
アークは返す。
「今日のアークは本当に素敵だった。このあたしが、コイツだ! そう見込んだ男だったよ」
サディは言う。
「ありがとうよ。ところで、サディ。俺にとってはガチでバチバチだった頃から長い時が流れさったわけだが……。今まさに常にガチでバチバチなサディには、おちんたまが生えてきたりはしてないか?」
「はあ?」
真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳のおめめをまんまるにして、サディは言った。
「おちんたまが生えてきたりはしてねえよな。ってことはだ。ガチでバチバチであることと、おちんたまの関係性はねえんじゃねえかって俺は思うんだが……。なあ、サディよ。どう思う?」
「うーん……。そうかもしれないけれど……。シンセティック・ストリームのケツの穴は間違いなく小さいよね?」
「ああ、それは間違いない。邪悪でも何でもない、そいつはむきだしの真実ってやつだ」
アークはそう言って、ブルーナイトメアの操縦席から、エアロック内で稼働している機体洗浄装置のスイッチをOFFにした。
多数の知的生命体の血肉と骨片を浴びた機体をキレイに洗い流す、機体洗浄装置から降り注ぐあたたかい雨が止む。
ぷしゅーー。
艦橋の耐圧扉が開き、アークとサディがアイアンブルーとガンメタルグレイの世界にご帰還。
「おかえりなさい」
鳥獣戯画を描いた着物を大きく衣紋を抜いて着付けて、ばっちりあでやかなうなじをみせつけながら、静かにレーダー盤に視線を落としていたAXEが顔をあげて言った。
「機体の損耗箇所と、使用した弾薬とエネルギーパックの量を後で報告してくださいね。今回は船の経費としてあつかいますので」
とは計器をみつめ続けるタッヤ。
「く、く、く、くそが……」
ついさきほど全力で前進して突入までさせられてしまったネガは、刺突衝角で串刺しにした標的艦から離れてだいぶたつと言うのに、いまだにガタガタと震えている。
「どうでした? 腐った組織の腐った理屈は聞けました?」
ミーマが自席で足をぶらぶらさせながら、静かに問う。
「いや。相変わらず奴等はまったく話が通じない。まったくもって意味がわからん」
そう言ってアークはどかりと自席に座ると、めいいっぱいシートを倒し、ブ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がる星の海をみつめる。
サディはいつもの漆黒と真紅の薔薇柄着物のお袖を揺らして自席に戻ると、久しぶりに自席の前に姿をみせている巨大なリヴォルバーカノンを模した主砲操作桿を、愛おしそうに小さなお手々でなでる。
「ついにこの船も、ガチでバチバチの戦闘艦にもどったんだねえ」
そう言いながら、ブ厚い硬化テクタイト製窓の先に見える主砲をうっとりとみつめるサディ。
「この船は、海・賊・放・送・船」
めいいっぱい倒したシートに身をあずけたまま、アークはサディにむかってそう言った。




